May 17, 2013
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カテゴリ: 読書日記
わずか50万人ほどの在日韓国人・朝鮮人に対する排外主義が高まっているこんにちの日本。かつては、こうした排外主義者といえば暴力団による偽装右翼がほとんどだった。

しかし新大久保や川崎や京都や札幌で暴れているレイシストを観察すると、低学歴のワーキングプアが多いように見える。いまや日本人の2割を超えたという年収200万円以下の人々がどうなっているのかを知りたいと思い、著者の経歴(慶応大学経済学部出身)のため眉につばをつけながら読んでみたのがこの本。

実例を豊富にあげた読みやすい本作りになっている。5章までは、ワーキングプア、貧困家庭、名ばかりの正社員、闇職系若者、貧乏老人にそれぞれ1章ずつがさかれていて、200人以上のアンケートや取材に基づく「証言」がこう言ってはなんだがおもしろい。事実は小説より奇なりというのは「貧乏ブログ」などで知っていたが、この本の「証言」はその手のものの上をいく。そして、当人の「自己責任」に還元してしまうにはあまりに多くの不運や不幸が現代ニッポンにも満ちあふれていることにおどろく。

完全失業率と刑法犯罪認知件数の関連を示すグラフなど、いくつか興味深い統計も提示されている。

最後の第6章「貧困は本当に自己責任なのか?」では、ワーキングプア増加の原因を「再チャレンジ不可能な社会」にあるとし、「最低賃金の引き上げこそが生産性を高め抜本的な改善になる」と提起している。

「同一労働同一賃金」の主張は正しいが、この分析と「対策」はいかにも皮相だ。フェアレディZを乗り回している著者の「お里」が知れる。たとえば賃金の地域間格差については本書でも「改善されるべき事柄」のひとつとして取り上げられているが、これは経済学的にはナンセンスだ。工場地帯を分散するのは経済効率を損なうし、賃金格差・所得格差があるからこそ地方にコールセンターが誘致できる。格差こそが労働機会の創出につながるのだ。

首都圏では家賃などの生活コストが高いので、時給が高くても可処分所得は少ない。地方はその逆だ。貧乏ブログでいつも1位になっているアラフォーの女性は、埼玉から札幌に移住し、ブログの内容を信じるなら月収10万円だが3万円のアパートに住み毎月3万円の貯金に成功している。一日10ドル以上の可処分所得は、地球規模で見ればプアラーではない。

日本に限らず高度に発達した資本主義国の問題は、既得権益を維持しようとする勢力が政治権力も手中にしていることにあると思う。医薬品のネット販売を規制した厚生労働省を見よ。電力会社もそうだがこうした「独占」を規制(日本では規制緩和)することが起業のインセンティブを生む。

内閣府の統計などを見ても、小規模自営業の平均年収は200万円台であり、さまざまなリスクを勘案するとワーキングプアよりもはるかに劣悪な環境におかれている。それ以前に、子どもをスポイルする日本の伝統的な教育によって起業しようという意欲を持つ人は少なく、ホリエモンのように成功すると妬まれて微罪で収監される。



この本で知った、サイレントテロという言葉がある。サイレントテロとは、格差社会の勝ち組に対抗するために「消費しない、子どもを作らない、働かない」を合い言葉に、社会に対して消極的な「自爆テロ」を決行しようというものだ。

クルマを持たず、結婚せず、酒やタバコをやらず、海外旅行にも興味をもたない現在のワーキングプアの多くは、無意識の「サイレントテロリスト」といえるかもしれない。それはそれでいいが、どうせなら、家やクルマは自分で作るとか、電気を節約するだけでなく発電するとか、野菜くらいは自分で作るとか、徹底して社会から自立していく方向が目指されるべきだ。

国滅びて山河ありという。国家と国民は基本的に対立的利害関係にある。マルクス主義がレーニンの「国家と革命」の段階までは目指していた「国家の廃絶」こそが「貧困」を廃絶する最適解であるということを、マルクス=レーニン主義者でさえ忘却しているように見える。





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最終更新日  May 19, 2013 01:12:13 AM
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