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カテゴリ: 着物の話
先日、ポルトガル旅行の折に着物を着たことは、 過日のブログ で書きました。

お優しいブログ仲間の皆さまからは、色々とお褒めのコメントを頂戴してとてもうれしかったのですが、実際に写真を見せた家族や友人からの評価は散々でした。

曰く
「地味すぎ!」
「こんなの外国人には絶対ウケないよ」
「もっと“いかにもキモノ”っていう感じのはなかったの?」

・・・はいはい、わかってますわかってます(涙)

元々の買い物マニアな私なら、これを機に着物や帯を新調していてもおかしくないのですが。なぜか?今回限りはブレーキが働いたのでした。


「だって、無い袖は振れないもの」
と言い返したところ・・・

よっぽど私の着物姿が気に入らなかったのか?祖母の遺した着物を一通り見ていけ、という話になりました。



ちょっと虫干しの季節には早いけれど、祖母の手元からそのまま母に渡った桐箪笥から、続々と取り出される着物、帯、小物の数々。

祖母がいつも着ていた小紋の単衣が出てきたときは、
「あぁ、おばあちゃん!」
と、思わず胸に抱きしめたくなりました。

抽斗には、祖母の婚礼衣裳や、嫁入り前に着ていたらしき中振袖まであります。
見ていて楽しいのは、やはりこのあたりのもの。

今の感覚で見ても、驚くほど斬新で艶やかな意匠。
実際に自分が着ることは出来なくても、広げて眺めるだけで時間を忘れました。


戦争の黒い影が全てを覆ってしまう前の、一瞬のきらめきがこの国を満たしていた時代。

戦中・戦後、お米や野菜に変わることがなければ、祖母の遺したアンティークもこれだけでは収まらなかっただろうと思います。
どうしてもどうしても、失いたくなかった大事な着物だけが、何か大切な思い出と共に、祖母の手元で守られたのでしょう。
でも、その思い入れが何だったのか、もう私たちには知る術もなく・・・

虎は死して皮を残す。


大好きだった祖母の、「女の一生」を辿るような思いで作業を続け、すべての着物を元通りしまい終えた時には、母と二人してぐったり疲れていたのでした。



田辺聖子著「 田辺写真館が見た“昭和” 」は、図書館で見つけてきた一冊。

NHKドラマ「芋たこなんきん」のファンだった私にとって、おせいさんが所蔵する写真を解説する形で、自らの子ども時代、戦前・戦中の暮らしを述懐するこのエッセイ集は、大変楽しく読むことが出来ました。

田辺写真館が見た“昭和”

お父ちゃんだ!ツンツンだ!ばあばあ婆ちゃんだ!と、登場する田辺家の人々を見ては、他人の家族なのに、なぜか懐かしく(笑)

それぞれの章の冒頭に紹介されている川柳も味わい深くて、くり返しページを繰りたくなる本でした。
白黒なのが(当然だけれど)残念ですが、お見合い写真や婚礼写真、記念日の写真の着物姿が美しいです。(ちょうど谷崎の「細雪」の時代の女性たちです)

「日本は、敗戦の日に生まれたのではなく、それ以前から厚みのある庶民文化がすこやかに機能していて、いろんな文化の花を咲かせていたことを、若い人たちに知ってほしい。
戦前も、ハイカラで、贅沢で、それぞれの境遇に応じて、人々は人生を楽しんでいたことを知ってほしい。」

という、著者の末尾の一文を、祖母の若かりし頃を飾ったであろう、艶やかな着物を思い浮かべながら、しみじみと読みました。





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最終更新日  2007.05.15 18:42:30
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生かす道は?  
お祖母さまのせっかくの着物、生かす道はないでしょうか?帯に仕立てるとか、2枚の着物を上手に組み合わせて1枚の着物にするとか、いろいろ手はあると思いますが。洗い張りと仕立て代がかさむのが難ではあります。
終戦後もお米に代えずに持っていらっしゃったのなら、値打ちのあるお着物ではないでしょうか。
お金をかけないなら、えもん掛で部屋の中につるしておくだけでもインテリアとして楽しいです。 (2007.05.15 20:58:30)

美輪さんも  
まろ0301  さん
 昔のもの、古臭いものと切って捨てないでじっくり眺めてみると、大正、昭和初期のものには驚くほど繊細で素晴らしいものが沢山あります、とおっしゃっているのは美輪明宏さんでしたか・・。

 桂米朝師匠の『質屋蔵』という落語があるのですが、その中で、貧乏所帯の中で女将さんが苦労の末に着物を手に入れるのですが余儀ない事情によって手放さねばならなくなって、着物に怨念がこもって・・・というところがあります。
 微に入り細にわたる心理描写。女の人の着物に寄せる想いが伝わってくる作品です。  (2007.05.16 19:55:26)

Re:生かす道は?(05/15)  
サリィ斉藤  さん
935うさちゃんさん

>お祖母さまのせっかくの着物、生かす道はないでしょうか?

色々とご教示、ありがとうございました。参考になります。
帯ならすぐに使えますから、私の手持ちの着物とあわせて活用出来たらと思っています。
また、一度にはムリですが、今の感覚で見ても十分素敵な着物、お金に余裕があるときに少しずつ悉皆屋さんに相談して、裄出しを試みたいものです。せっかくですものね。

黒留袖や婚礼衣裳は、アンティークの専門店やコレクターの方にお譲りするのも、いっそ大事にしてもらえていいのかしら・・・とも、考えるのですけどね。 (2007.05.16 21:21:29)

Re:美輪さんも(05/15)  
サリィ斉藤  さん
まろ0301さん

> 昔のもの、古臭いものと切って捨てないでじっくり眺めてみると、大正、昭和初期のものには驚くほど繊細で素晴らしいものが沢山あります、とおっしゃっているのは美輪明宏さんでしたか・・。

その趣旨の発言を色々なところでなさっていますよね。
百花繚乱の文化が咲き誇っていたのに、それを戦争がすべて汚い色に塗りつぶしていった・・・とも。

(その一方で、戦前の日本はいいことばっかりじゃなかった、貧富の差も無知ゆえの差別もひどかったことも忘れてはいけない、と言っているのは永六輔さんでしたか)

米朝師匠の『質屋蔵』。聞いて見たいです!
おかみさんのキャラクターが活きる噺は、同性ゆえか、聞いていてすごく肩入れしてしまいます。 (2007.05.16 21:24:40)

残念ではあっても  
1go1ex さん
私は、母の着物をどうにか着ていますが、お祖母様の着物で、そのうえサリィさんが「腕長族」とあっては、なかなか厳しいのでしょうね。
丈は、おはしょりを出さずに着るという方法がありますが、裄は、どの程度よぶんに縫い込まれているかですね…。
昔は反物の幅自体が狭かったとも聞きます。

着たくても着られない、残念な想いをするにしても、桐のたんすに大事にしまってあるお祖母様の着物の数々を、生前の姿をしのびながら見たり触ったりするひとときは、やっぱり心のぬくもる時間だろうなあと想像しました。 (2007.05.17 21:18:35)

Re:残念ではあっても(05/15)  
サリィ斉藤  さん
1go1exさん

>私は、母の着物をどうにか着ていますが、お祖母様の着物で、そのうえサリィさんが「腕長族」とあっては、なかなか厳しいのでしょうね。

本当は着てあげるのが一番なのだとわかってはいるのですが、腕を縮めるわけにもいかず…辛いところですね。
半世紀以上の時を経て残ったものですから、その価値を本当にわかってくれる方の元へお譲りするという手もあるかもしれません。

>着たくても着られない、残念な想いをするにしても、桐のたんすに大事にしまってあるお祖母様の着物の数々を、生前の姿をしのびながら見たり触ったりするひとときは、やっぱり心のぬくもる時間だろうなあと想像しました。

私の思いを代弁していただいたようです。私はおばあちゃんっ子だったので、胸の辺りがちくちくするくらい、懐かしさに満ちたひとときでした。
(2007.05.17 23:34:48)

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