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サリィ斉藤

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カテゴリ: 本の話
実家に帰ると、いつもより読書のペースが上がるような気がします。


これが、待ち時間の長い病院の検査予約などが加わると、さらに
「次から次へ本が読める」
という状況が生まれます。

そんな訳で、連休より一足早く通院のために帰省した間は、ずいぶん読書が捗りました。

いつ中断されるかわからない、細切れの時間の読書のために選ぶのは、肩の凝らないエッセイ集、そうでなければエスプリの効いた短編集。

最近、私が読んだ本は、そういう理由で(偶然にもすべて女流作家の)短編集となりました。

停電の夜に



インド系米国人の美女によるデビュー短編集。出版当時(2000年)とても話題になっていて、ずっと読みそびれていた本。
収められた9編は、アメリカ、あるいはインドが舞台で、いずれもインド系の人々を登場人物に描かれています。

抑制の効いた、それでいてごまかしのない精密な描写で描き出される、人々の心の襞。
“最後の一行の着地”が、とにかくどれも見事。
「突然現れてほとんど名人である」と、山本夏彦が向田邦子を評して放った言葉を思い出しました。

中でも、本のタイトルになった「停電の夜に」の余韻は、殊更に味わい深かったです。

原書は、別の作品(「病気の通訳」)が表題作になっているのですが、それを変更し、なおかつ原題「A Temporary Matter(臨時の措置)」を「停電の夜に」という、イマジネーションが膨らむ美しい題名にした、訳者・編集者のセンスに拍手を送りたいです。

表紙(新潮クレストブックス)の写真は、色とりどりの香辛料。
小説の中に時折出てくる、インドの人々が作る料理の描写が、行間からスパイシーな香りが漂ってくるようで、とっても美味しそうなのも印象的でした。


あなたに不利な証拠として /ローリー・リン・ドラモンド




ルイジアナ州バトンルージュの警察署を舞台に、そこで働く5人の女性警官を主人公とした全10篇の物語が収められています。

作者は、実際に市警の警官だった経験があり、5年の勤務後に交通事故が原因で辞職。
この短編集が完成するまでには12年がかかったのだそうです。

ソリッドな文体で、日々過酷な現実と向き合いながら生きる女性達の日常が描かれます。
印象的なのは、匂い、手触り、味…五感の様々な描写が鮮やかに伝わってくること。


銃と寄り添いながら生きる(生きざるを得ない)アメリカ人の生活、というものの空気感が非常によく伝わってきて、その点でも考えさせられました。


ジョゼと虎と魚たち /田辺聖子



これは何度も読み返している一冊。
自分のボキャブラリーに無い言葉、という点では外国語にも等しい、やわらかな大阪ことばの響きが、その都度もの珍しく、やがて心に滲みます。

文庫のカバーに書かれている紹介文には
「さまざまな愛と別れを描いて、素敵に胸おどる短篇」
という言葉が躍っていますが、田辺聖子の人間観察の眼は、こんな砂糖でまぶしたような表現はそぐわない、一種残酷ささえ帯びた深み、鋭さを持っていると思います。

決して一つの色だけでは表せない、心の多面性の不可思議。
きれいごとだけでは生きていけない、人間の弱さと表裏一体の強さ。

若い頃には厭わしかったそれらの真実に、いつの間にか寛容になっている自分にも気づかされ…
人生の日々を重ねるほど、味わい深くなる、読むごとに新たな発見のある本です。





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最終更新日  2007.05.16 22:43:29
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