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カテゴリ: 映画の話
21世紀の地球は、格差とコミュニケーション不全に満ち、世界は狭くなりながら、いつまでも終わらない悲劇を繰り返す。

すべては「バベル」というタイトルが如実に示しているとおり。

モロッコの砂漠で始まり、東京の夜景で終わるこの映画が描き出している現実は、見ようによっては語られ尽くしたテーマともいえるでしょう。

濃淡のある様々なつながりで絡まりあいながら、遠く離れたそれぞれの国で、運命にもがく人間たち。

これを、神の視点から俯瞰して捉えるような描き方をされていると、観ているこちらも「無知な大衆を啓蒙してやるぞ」という“上から目線”を感じて、私などはちょっとしらけてしまうのですが…

監督の視線は、対象に親身に寄り添い、同じ目線で登場人物の人生を追っているように感じられました。
観ていて心地よい映画ではない。けれど、この監督は、人間に、そして世界に、絶望していない。
嘆くだけでは何も生まれないという信念が、伝わってくる作品だと感じました。

説明するのが難しい、“まずは観て、感じてみて”としか言いようのない映画でもあります。




その一方で、映画が終わった後も、いつまでも心に残って消えないのは、もっと小さな、ささやかな…
そばにいる人と分かりあいたい、心を通わせたい、と痛切に願う、人々の思いが伝わる場面の数々でした。

中でも、菊池凛子演じる聾者の少女は、忘れがたい存在感。
彼女の慟哭は、私の心の柔らかい部分を確実に捉え、大きくゆさぶりました。
映画の終わりに、監督自身の献辞がテロップでインサートされるのですが、そこに書かれた一文の意味が、ずっしり響きました。

すばらしい映画を観た、という実感と共に、映画館を後にした夜でした。

【こちらはブリューゲルの描いた“バベルの塔”】


(今日からしばらく更新をお休みします。また、再開できるのを私も楽しみにしています。)





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最終更新日  2007.05.21 14:15:54
コメント(4) | コメントを書く


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※コメントに関するよくある質問は、 こちら をご確認ください。


偶然ですが  
まろ0301  さん
 職員室の外で待っていた生徒に質問されました。
 「バベルってなんですか?」
 「バベル」を見てきたそうです。「旧約聖書」のバベルの塔の話をして、掲載されていますブリューゲルの「バベルの塔」の話もしました。
 一生懸命、「こんなんで、こんなになって、それから」と話してくれましたが、結論としては「イマイチ分からんかった」でした。
 でも、あんなに熱心に語ってくれたので、彼女たちの心には何かが残ったようでした。
 見てみたいと思っています。

 再開なさる日を楽しみにしております。 (2007.05.21 22:00:15)

再開を心待ちに  
エヌ さん
 初めて書き込ませていただきます。いつも読ませていただいては、暖かい気持ちにさせていただいています。お礼を言わねばと思いながら、失礼していました。
 本や映画、食べ物の感想はいつも的確で、私も観てみたい、読んでみたい、食べてみたいと思わせられます。ありがとうございました。
 しばらくサリィさんの文章が読めないのは寂しいですが、再開を心待ちにしていますので、どうぞよろしくお願いいたします。 (2007.05.21 23:34:59)

Re:偶然ですが(05/21)  
サリィ斉藤  さん
まろ0301さん

> 職員室の外で待っていた生徒に質問されました。
> 「バベルってなんですか?」

自分でも持て余し気味な自我を、誰かに丸ごと受け入れて包んでほしくなる、根源的な寂しさ…高校生にとっては、論理的に理解することは難しくても、どこかで「ピン」と来るものがあったのではないでしょうか。
おかげさまで、またブログに帰ってくることが出来ました。またぼちぼち、お付き合いのほどよろしくお願いします! (2007.06.01 15:14:52)

Re:再開を心待ちに(05/21)  
サリィ斉藤  さん
エヌさん

> 初めて書き込ませていただきます。いつも読ませていただいては、暖かい気持ちにさせていただいています。お礼を言わねばと思いながら、失礼していました。

コメントありがとうございます。そして、私のつたない文章(謙遜ではなく、本当に自分でももどかしく思うことが多いのです)に、いつも過分なお褒めの言葉をいただき、恐縮するやらうれしいやら…です。
また、温かい励ましのコメント、とてもうれしかったです。幸い、またこのブログに戻って来られましたので、今後ともよろしくお願いいたしますね。 (2007.06.01 15:16:46)

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