SF拡張の原理

SF拡張の原理

2009.07.23
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倉橋由美子「パルタイ・雑人撲滅週間」倉橋由美子全作品第1巻

「雑人撲滅週間」★★★★★
明治大学新聞に掲載された最初期作だそうだが、間違いなくこれが最高作。というか、今までに読んだ日本人作家の短編SFの中でもダントツの最高オールタイムベスト。天才としかいえない。筒井のスラップスティック小説ひとまとめにしても到底かなわないぐらい完璧なギャグ・ホラーSF。殺人官がうろつきまわり、市の衛生課員が新法制定により「雑人」を撲殺して回るという話だが、単なるドタバタSFではなく、とにかく登場人物の思考や行動の異常さ、デタラメさ、不条理さが徹底していて、あまりの異質感に読んでいて眩暈と哄笑が同時に押し寄せてきて、愉快でたまらない。俺はこんな小説が書きたかったのだ。あまりの才能のすごさに強烈な嫉妬すら感じた。思わずスキャナーで読み込んでOCRでテキストにしちゃった。何しろ文庫本には未収録。またSF方面でも本作はほとんど無視されている。こんなすごい作品を見過ごしているなんて日本のSF界のレベルが知れるというものだ。
「パルタイ」★★★
これは出世作だそうだが、この作者の作品にしては創造性に乏しく、題材も陳腐で今ひとつ。少なくともこの本に入っている作品の中では最も平凡。この程度の作品を出世作にしてしまったという時点で、当時の日本の文学界のレベルが知れる。
パルタイなる団体に恋人に誘われるまま入ろうとした女が、違和感を感じて、脱退する決意をするというだけの話。結果的に、党活動や左翼運動への風刺になっているという外見のわかりやすさゆえに評価されたのだろうが、そのこと自体で当時の思想界や文壇のレベルの低さがすぐにわかってしまう。倉橋が他の作品や解説の中で散々蔑視しているのも仕方がないと感じる。
「貝のなか」★★★★1/2
作者によると「パルタイの二匹目の泥鰌を狙ったが、似ても似つかないものになってしまった」と卑下しているが、どう見てもパルタイよりも百倍面白い。「貝」というのは(女性器を暗示する)女子寮のことで、男の目のない寮内で粘膜を共有しながらどろどろの人間関係(含同性愛)にひたる寮生たちへの生理的嫌悪感を、「パルタイ」テーマと絡めて描いている。とにかくこの猥雑さへの嫌悪感の描写がすばらしい。「スジコ」「タラコ」「イクラ」といったふざけたネーミングも最高。

寮の集金係が、同居する食費滞納の大食漢のせいによる財政危機で無能呼ばわりされ、悪戦苦闘の挙句、同居人を殺害してしまい、「非人」としてリンチされるという話自体はよくあるカフカ的不条理劇であるが、真人間には尻尾が生えているだの人物の発言や行動の異常さなど、全編に横溢する異質感がたまらない。文体のおかげで魅力が5割増しになっている作品。
「蛇」★★★★★
これもすごい。衝撃度で「雑人撲滅週間」にやや劣るとしても、「ある日目覚めたら口の中に巨大な蛇が入ってきた」という不条理状況から出発し、ひたすら予想の斜め上にばかりいく異常な展開を繰り返し、異質な世界像をじっくりと書き込んでいる。比較的長めの作品であることもあって、異様なリアリティがある。7メートルもある蛇が胃の中に収まって生きている、交際相手の女がその蛇に飲み込まれてしまうなど、現実の物理法則など知ったことかとばかり、想像力の赴くまま好き放題に書きまくっている奔放さが楽しく、こっけいである。そして唖然とする見事なオチ。もう何も言うことはない。
「婚約」★★★★1/2
カフカをモデルとしたKという人物が見知らぬ女に婚約を申し込まれてこれを受け入れ、同居するプロレスごっこ仲間のマックス・ブロートに勝手に作品を投稿され、父親に存在否定に近い邪険な扱いを受け続け、最後には結核で入院し、親友ミレナの手で嘱託殺人による実質的自殺を遂げるまでの顛末を、倉橋流の超現実的ギャグ文体で描いた作品。カフカが本当に情けない人間に描かれていて笑えるし、面白い。
「密告」★★★1/2
作者によるとジャン・ジュネの文体に影響を受けた作品だそうだが、道理で他の作品よりも読みにくく面白くないと思った。肌に粘りつくような粘着質の文体で気持ちの悪い情景描写が執拗に繰り返され、登場人物たちが殺伐とした同性愛や暴力に走りまくる。この世界の中に語り手を密告者として投入し、最終的に自分自身を密告してしまうという安部公房的不条理モチーフをテーマにした作品で、このテーマ部分のみは非常に面白い。ただ、やはり文体に溺れ過ぎて、テーマの切れ味がそれに埋没してしまっている感があって今ひとつだと思う。
「囚人」★★★★
作者によれば「雑人撲滅週間」を発展的に吸収した作品なのだそうだが、正直言って「雑人撲滅週間」のほうが断然上だと思う。本作はやや「不条理もののジャンル文法」にのっとりすぎていて展開に意外性がなく、インパクトで劣る。とはいえ、比べる相手が悪いのであって、本作単独で見るなら、不条理ものの定石に従ってそつなくまとまった秀作ではある。ある男がいきなり逮捕・処刑され、内臓をひたすら鳥に食われ続けるという話。内臓を食われても頭蓋が陥没しても生き続けていなければならないという設定になっているのでまさに地獄そのものであるが、最終的には情を通じた女に内臓をひたすら食われ続けるというオチになる。きれいだがややまとまりがよすぎるかもしれない。とはいえ、終盤に明らかになる超巨大都市の強烈なイメージひとつとっても、やはり作者が只者でないことを感じさせる。
「死んだ眼」★★★1/2
学生運動で失明し入院している女学生の視点から、個人の意思を離れて暴走する集団の愚行に流されたままになる人々への違和感をつづった作品。「パルタイ」同様ややひねりに乏しく、他の作品に比べるとインパクトに乏しい。ただ、超現実的な部分がなく、内容がわかりやすい分、当時の文壇の連中には比較的受けがよかったのではないかと想像される。



などで読めますが・・・「パルタイ」と「囚人」だけじゃ、この作者の本当のすごさは伝わらないよなあ・・・。





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Last updated  2009.07.23 05:09:38
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