SF拡張の原理

SF拡張の原理

2009.08.24
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カテゴリ: SF

モレルの発明第2版

いやはや驚いた。これが1940年の作品とは! ラテンアメリカの幻想小説(マジックリアリズムって呼ばれる作品群)って、マルケスを筆頭に、幻想文体でねちねち日常生活を描写するだけの退屈で冗長なものというイメージがあったのだが、こんなに面白い小説もあったのね。しかも書かれた年代が戦前で、作者がボルヘスの盟友カサーレスっていうんだから(超短編しかないボルヘスと違って、ちゃんと中篇以上の長さがあるから量的に物足りないということもない)、おみそれしました。ていうか、中南米文学って逆に最初のボルヘル・カサーレスで頂点を極めてたあと、戦後どんどん文学かぶれして劣化してるんじゃないかとすら思った(あんまり読んでないから無責任な感想だが)。
で、本作だが、話は中南米のある島を舞台に、脱走した被告人の男の一人称で話が進む。この男が島の図書館を見つけ、ここに住む奇妙な人々を眼にする。男は住人に見つからないように気をつけながら監視を続けるが、この住人たちは大雨の日に外で踊っていたり、かと思うとしばらく全くもぬけの殻になったりと、どうも行動がおかしい。男は住人のうちのある超然とした女に一目ぼれし、この女に胸中を打ち明けようと悩むが、モレルという男がこの女に近づくのを見て激しい嫉妬に駆られる。語り手が二人の動きを注視していると、ある夜モレルが行った演説の内容から、モレルの発明した恐るべき機械の存在が明らかになる。そしてこの人々の恐るべき正体も・・・。
SFメタミステリ、メタフィクションの実質を持つ作品なので(こう指摘するだけでも十分なネタバレ)これ以上のネタは割れないが、最近の同種テーマ(VRもの)のSFのように、深く突っ込まずさらっと流してしまうのではなく、徹底的に存在論、実像と虚像・鏡像、自己と他者、虚構と現実の関係について哲学的に突っ込み、なおかつそれが作品全体の叙述トリック的な「信頼できない語り手」のスタイル(ただし昨今のミステリのごとく、いかなるトリックであったのかが終盤で明確に説明されることはない)と密接に結合して、読みこめば読みこむほど強烈な妄想をかきたてる幻視力の高い作品に仕上がっている。最近でいうならクリストファー・プリーストのテーマ性(とくにドリームマシン、魔法、extremesなど)と共通するが、作品構造がシンプルなSFガジェット一本の上に成り立っている分、理解しやすく、よりテーマ性が伝わりやすくなっていると思う。イーガンの脳SFや「順列都市」あたりとも、テーマ性でつながりがある。
ラテンアメリカ文学、あきらめずに読み続けてきてよかった! ついに本当に好みの作家を見つけた。さっそくスペイン語原書の未訳短編集を注文いたしやした。





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Last updated  2009.08.24 19:23:09


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