SF拡張の原理

SF拡張の原理

2009.10.10
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10/9

返されなかった青春 ジョヴァンニ・パピーニ ★★★
ある男の娘に1年の年齢を貸した女が、年をとってから逆に「借年齢生活」に入ってしまう話。アイデアは面白いが特にひねりもなく、普通のショートショートになっている。
自分を失った男 ジョヴァンニ・パピーニ ★★★
仮面舞踏会に行き、倒れて「自分を失った」男が自分を捜し求める話。なくした「自分」というのが何なのか明記されないまま話が進み、最後に遺失物取扱所に届けられた自分を取り戻す。アイデアはシュールで面白いが、オチにひねりが足りない。
禁じられた音楽 アルド・パラッツェスキ ★★
あるアパートの住人が夜毎奇妙な音楽を奏でるというだけの話で、なぜこれが「幻想」短編として紹介されているのかいまいち不明。話もつまらない。
「人生」という名の家 アルベルト・サヴィニオ ★★★★

巡礼 マッシモ・ボンテンペッリ ★★★1/2
ある孤独な男がいきなり現れた巡礼の一団に加わり、一夜の幻想を見る話。日常と幻想との自然な融和ぶりが見事。オチにはもうひとひねりほしかったところ。
ゴキブリの海 トンマーゾ・ランドルフィ ★★★★
「月ノ石」などの邦訳がある作者の作品で、前から読みたいと思っていた。奇想度ではダントツ。父と子の確執が一応のメインテーマだが、それを素材に展開される妄想世界の徹底した強烈さがすさまじい。ゴキブリの海へ向かって航海する船上で女を奪い合う息子と蛆虫の闘争劇、といちおう要約は出来るものの、要約することに意味はあまりない。とにかく次々と繰り出されるシュールでグロテスクな言語遊戯世界のイメージの強烈さが凄すぎる。これは俄然、「月ノ石」ほかも読みたくなってきた。
コロンブレ ディーノ・ブッツァーティ 既読、省略。
魔法の上着 ディーノ・ブッツァーティ ★★★
ブッツァーティの短編の大半は、シンプルな奇想に常套的な物語展開を持った、ショートショートのお手本といえる。その分、個人的にはやや物足りないのだが。本編もその例に漏れず、ポケットから大金が出てくると同じ金額の犯罪が起こる衣服を買った男の話で、無難にきれいにまとまったショートショート。
壮麗館 アルベルト・モラヴィア ★★★★1/2
リアリズム作家という印象だったモラヴィアが本編のようなシュールなホラーを書いていたのがまずは驚き。しかも出来がいい。婚礼式典で客が吊り上げられ料理されてしまうというブラックな奇想が、抜群のリアルな文体で描かれるのだからたまらない。傑作。
パパーロ アルベルト・モラヴィア ★★★1/2
正体不明の「パパーロ」という商品をめぐるブラックな風刺小説。一種の経済SFとしても読める。途中までは抜群に面白いのだが、オチがやや投げやりなのが残念。

カルヴィーノがリアリズムからアンチリアリズムに転向する前後の作品だそうだが、つまらなかった。阿根廷蟻という蟻が引っ越し先の村で大量に発生し跋扈しているという話だが、人物設定などが平凡で興味をもてないし、基本的にリアリズムの文体で書かれているため、物語に抑揚がなく、退屈で、オチらしいオチもない。せっかくの面白くなりそうな着想が、リアリズムによって台無しになっている。この作者はリアリズムを捨てて正解だったといえるだろう。
猿の女房 ジョヴァンニ・アルピーノ ★★★1/2
3人目の妻に猿を娶るという大馬鹿設定を普通に淡々と描写しているのが面白い。奇抜な設定以外は基本的にリアリズム文体で書かれているのだが、カルヴィーノと違って簡潔だから退屈せず、あっさりしたオチが逆に新しく感じる。
娘は魔女 ジョヴァンニ・アルピーノ ★★★1/2
「言ったことを本当にする」能力をもつ娘に手を焼く母親の話。かっちりまとまった秀作。娘が自らの妊娠を語るオチが怖い。

ケンタウロスの生態(性態)をインチキ生物学交えて語る話で、そこそこ面白いが、馬をレイプして回るオチがやや漫画っぽ過ぎるか。この作者は短編集を借りてきたので本書のあとに読む予定。
虚偽の王国 ジョルジョ・マンガネッリ ★★★★
母親の死に直面し、さまざまな妄想を打ち立てて抵抗する男の一人語りが次第にエスカレートして、ある王朝の国王と反逆者を兼ねる自己を妄想するにいたり、ついにはすべての登場人物と展開を思いのままに操る神として君臨し、最後は胡蝶の夢の不安に陥る話。要約するとこうなるが、この作品に関しては、題名に表れているとおり、「主観圧勝」を主張するメタフィクション的フィクション論となっている作品スタイルそのものが重要であり、ストーリー自体はどうでもよい。中で出てくる刑事裁判の全当事者を自己が兼ねる話は俺がちょうど思いついて書こうと思っていたネタ。似たようなことを考えるやつがいるなあと思った。
ある鰯の自伝 ルイージ・マレルバ ★★★1/2
ある男が鰯になる夢をとことん理詰めにリアルに追求した結果、缶詰になった自己=鰯が現実の商店に並んでいると主張するに至る話。リアリスティックな文体で語られる「およげたいやきくん」のような話だが、簡潔でしまった文体と明快なオチがなかなかいい。
リゲーア ジュセッペ・トマージ・ディ・ランペドゥーサ ★★★
ある古代ギリシア学者がセイレーンとの過去の恋物語を打ち明け、海に消える話。ストレートなファンタジーをリアリズムのスタイルで語っているのが新鮮だが、やや冗長なのと、オチがストレートすぎる気がする。
***
以上、他の作品も読んでみたいと思ったのはアルベルト・サヴィニオ、トンマーゾ・ランドルフィ、アルベルト・モラヴィア、ジョルジョ・マンガネッリの4名。

<イタリア幻想文学史 抜粋>
1861 イタリア国家統一。
スカピリアトゥーラ派の作家たちが幻想小説を試みる。タルケッティが幻想短編を書く。
20世紀。
1908 ヴォーチェ創刊。パピーニが幻想的短編を多数書く。
1909 マリネッティが「未来派運動」を提唱。機械文明を礼賛し、帝国主義的拡張主義を支持。
未来派の詩人たちがシンタクス破壊、動詞を原型で使い、擬声語を導入。
パラッツェスキが未来派に同調し、ユーモア・風刺作品を書く。のち離反。
1915以後、キリコの弟アルベルト・サヴィニオが形而上学派の影響を受けた超現実短編をヴォーチェに発表。
1926 ボンテンペッリが「900」創刊、前衛運動を試みる。魔術的リアリズムを提唱。
1930年代 反ファシズム運動とともにネオリアリズムが若手作家に広まる。ランドルフィ、モラヴィア、ブッツァーティら。
モラヴィアはリアリストだが、風刺作品は幻想的。「ロボット」「パラダイス」など。
ランドルフィはヴィットーニ、パヴェーゼのようなリアリストと交流しつつも、意識下の世界へ下降するような作品を書き、イタリア最大の幻想作家と呼ばれる。
ブッツァーティは新聞連載のショートショートが多数。人生の不条理をペシミスティックに描く。「タタール人の砂漠」など。
戦後、ファシズム終了によりネオリアリズムも終了。カルヴィーノ、アルピーノ、レーヴィは幻想作家に転換。
アルピーノはリアルな作風を維持しつつ、60年代に風刺幻想小説を発表。
レーヴィは記録文学から出発し60年代に幻想作家に。カルヴィーノも普通小説から転向。
1963以後、ネオリアリズムの死を宣言し、新前衛派が起こる。雑誌「ヴェッリ」中心に活動。ガッダをリスペクト。ヌーヴォーロマンの影響。マレルバは穏健派でンガネッリはマンガネッリはより前衛的。
以上は北イタリアの動向。南イタリアではランペドゥーザらがいる。ランペドゥーザは南イタリアの地中海的風土に立脚して独自の幻想小説をいくつか書いた。
他に注目すべき幻想小説家として。デルフィーニ、ボナヴィーリも必読。





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Last updated  2009.10.10 12:48:29
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