SF拡張の原理

SF拡張の原理

2009.10.18
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人間のなりをしていながら人間になりきれない、超人的に鋭敏な嗅覚をもち、その嗅覚によって世界観と己の欲望体系を構築して行く男の一代記である。彼に翻弄され、かかわった欲深い人間たちは、次々と滑稽な最期を遂げて行く。一貫した嗅覚の論理によって生き、成長にするにつれ、次第に彼の欲望と生活様式はグロテスクなまでに人間離れしてゆく。究極の理想の匂いを手に入れるため、遂には連続殺人事件に手を染め、あっさりと逮捕されながらも、作り上げた究極の香水の力によって処刑をたやすく逃れる。しかし、人間界ですべてを実現できる力を手に入れながらも、自分は人間たちに憎悪しか覚えないし、人間たちも自分ではなく匂いを愛しているに過ぎないことを痛感した彼は、さいごのその香水の力を使って、あっけない最期を遂げる。
まずその一貫した人間に対するシニカルな視線に基づいた、淡々とポイントを突く、ユーモラスな語り口がすばらしい。この見事な文体を用いながら、超人的な嗅覚という一種の「超能力」を異化要素として導入し、そこから極めて首尾一貫した論理によって人間世界を異化し、客体化する(異質な論理によってセカンダリー・ユニバースを外挿する)その手管は、(幻想小説の衣を綢っているにもかかわらず)SF的なセンスオブワンダーすら感じさせるほどに強靭であり、とてもこれが処女長編であるとは思えないほど巧みさである。とりわけ、「人間の感情や愛情など、嗅覚による化学的な記号操作によって簡単に左右される条件反射のようなものに過ぎない」という、そのシニカルな人間観と、カミュの「異邦人」を思わせる主人公のピカレスクを貫いた最期がたまらなく素敵。これは紛れもなく傑作。
10/10点





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Last updated  2009.10.19 03:15:18
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