SF拡張の原理

SF拡張の原理

2010.10.31
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カテゴリ: ミステリ


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カルロス・ルイス・サフォン「風の影(上下)」集英社文庫 - 俺 URL

風の影読了。終盤で俄然面白くなって評価を上げた。最後まで読まないと分からないね。9点。
現在パートのストーリーと過去パートのストーリーを重ね合わせた着想の勝利。作中作的な位置づけの過去パート(フリアンとペネロペの悲恋とそれに起因する破滅と復讐の物語)が、その謎を解き明かす現在パートの「ぼく」の教訓になり、成長の鍵となっている。そして、最後にフリアンと「ぼく」の物語が現実に重なり合い、「ぼく」が救われて幸福になることで、フリアンも代償的に救われ、生きる元気を取り戻すという流れが秀逸。顔のない男=フリアンであり、自分の本を燃やしている男がフリアン自身であったという真相は十分に衝撃的だったが、この真相をより切なくしているのは、ペネロペが最初の時点で死んでいたことを全く知らないままフリアンが10数年も生き続けていたためだ。ペネロペと会うために費やされた俺の人生は全て無駄だった、意味がなかったと認識したときのフリアンの絶望感とその後の自暴自棄な自己抹消衝動は同情できるし、胸に迫る。したがってフランコ独裁の象徴的存在とも言える、歩く狂気・凶器とも言うべき無差別復讐鬼フメロとの死闘へ向けての終盤の怒濤の展開はサスペンス満点だし、ベアトリスをかばおうとして凶弾に撃たれ生死の境をさまよった「ぼく」の復活と再出発へのエンディングが很も感動的になる。凡庸な作家なら近親*相*姦ネタを出した時点で満足してあとは雑に展開させてしまいそうなところを、この作家は単なる一要素にしかせず、その後にもそれ以上の衝撃を畳み掛けるように繰り出してくるのだ。正直やや退屈な感のあった上巻に比べて、終盤のネタや展開の密度の濃さは圧巻だ。後半の印象を高めるべく計算された前半のゆったりさだったのかとすら思われる。更にはスペイン内乱とその後の圧制時代という時代の暗い影も内容にシンクロしており、この重層性が文学的深みを加えている。
本作のシリーズを書き継ぐ予定らしいが、この水準を維持するなら勝手ながら「スペインのゴダード」と称するに値する力量だと思う。
本作にテクニック的に学ぶべき点は多い。
1、ストーリーラインは1つよりも2つ重ねたほうがいい。
2、主要人物は二面性を持たせたほうが魅力的になる。
3、主要人物は不幸や危難に陥っているほうが共感やサスペンスを生みやすい。
4、個人・家族の人間関係、人間間の情念(愛情、憎しみ、復讐)を表面上のテーマ(謎解き、ミッションクリア、闘争など)に重ね合わせたほうがよい。特に、中心に恋愛要素は入れたほうがよい。

6、最も強大な敵(本作ではフメロ)は絶えず脅威として登場しつつ、クライマックスにおいて主人公と対決し、最大の危難をもたらさなければならない。
7、主人公は、終盤において生命の危機に陥ると物語が面白くなる。ただし、主人公の命は助かるほうがよい。主人公が絶命する場合には、そうすべきテーマ上の必然性があるべきだ。
これらの要素の多くはクーンツも挙げているが、本書はこれら全てを満たしていて、なるほど確かに物語の面白さに基本法則というのはあるらしいと分かる。
他の本を読みながらもう少し調査分析を進めてみたい。
ところで可能世界論的にもこの作品の面白さは説明できる。人間関係が複雑なんだけど、その各々の思い描いている世界の食い違いが錯綜しているがゆえに面白い。互いに騙しあっているために、様々な人間が無駄なことに人生を費やしたり死んだりしている。こう見ると「人物の関係の変化が面白い」というよりも、それらの人間を介して「衝突する諸世界の関係の変化が面白い」のだといえる。
つまり、
8、主要人物の主観世界および客観世界は、全て互いに食い違っていなければならない。そして、互いにその食い違いを利用して騙しあわなければならない。
という法則も立てられるのだ。むしろ、これが一番大事だと思う。





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Last updated  2010.10.31 14:34:14
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