評 言語論理の持つ循環的構造や相対性を、論理学の言葉を用いながら、スピノザの公理や掛詞的な言葉遊びを通じて表現した思弁小説。言葉の不思議さを一つの小宇宙として表現できており、これが物語といえるかどうかは別として、少なくとも傑作である。 ●The history of the decline and fall of the Galactic Empire★★★1/2 起 銀河帝国は墓地の跡地にある学校のような帝国ないし帝国のような学校であり、給食のメニューで闘争し滅亡を早めたといわれる。臣民には骨格を持つ者と持たぬ者があり、骨格を持つ者は自己の出身地の夜にのみ動き、骨格を持たぬ者はピアノを弾く。校庭にはときどき旧銀河帝国が出没する。異なる時間が接しているのか時間のずれた別個の並行宇宙なのかそれともそれ以外の二重存在あるいは単なる幻だったりするのかは分らない。皇帝の座は階段の上にあり、そこでは幼帝の霊がよく遊んでいる(怪奇)。 承 銀河帝国は極めて広大で、超空間通路で網目状に覆われ、これをつかむことで銀河帝国を持ち歩くのが超空間航法だ。超光速航法は年々進歩する。最近人口が爆発的に増えた。幼帝の霊たちが超空間通路で柄杓をあさり空白を注ぎ込む(地勢)。銀河帝国はオタク商品あるいは単なる世間の人としての属性も場当たり的に持つ。予約不可ですぐに完売、初回特典入手困難、無許可撮影禁止。銀河帝国趣味はきもいから銀河帝国たちが陰口を聞く(巷間)。銀河帝国は人でもある。偽物は髭が黒い、酔って踊子に手を出す。幼帝が家に戻ると銀河帝国一家が荼毘に付されており幼帝は仇討ちを望む。銀河帝国は必ず滅びるのだ(人倫)。銀河帝国は貴重品でもある。謎でもある。被害者でもある(怪盗)。銀河帝国は全人口が全人口の倍はあり、何度でも甦る等等(質疑)。銀河帝国は戦艦のようなそうでないような存在でもある。つまり、銀河帝国は銀河帝国で銀河帝国に乗って銀河帝国を救いに行く的な存在である(大戦)。 転 銀河帝国は学生服のボタン、友達、部活の名称、その他もろもろだ。文脈から分ったり分らなかったりする(卒業)。銀河帝国は呪いの手紙あるいは箱、犬、ゴミ、アレルギー性の食べ物、などである(残余)。 結 いよいよ銀河帝国に決着がつく。二人の幼帝が相撃ちで滅びる(終局)。 評 例によって「銀河帝国」の語を様々な語と置換して遊ぶ言語実験ギャグ小説。面白いけど普通半分ぐらいでやめるよね、という感想もいつもと同じだ。 <二次創作> 同じようなもの(語義の入れ換えごっこ)はいくらでも書けると思うので今更やらない。というか夢日記でしょっちゅうやっている。そもそもただのレトリックであって、大々的にテーマにするようなものでもあるまい。もっとも、文体実験は面白いので他にもいろいろ思いつく。たとえば、びっこを引く時間というアイデアを思いついた。普通の物語のように進行するのだがところどころで文章が反転し、ある時点まで戻って別の歴史を刻みだす。これを繰り返してバラバラの物語が展開するというもの。 ●ガベージコレクション★★★1/2 これは羽山亨という友人が書いた遺書についての物語だ。遺書といっても時間の逆行が可能であるか、換言すれば可逆な計算が可能であるかについての彼の仕事だ。彼はチェスの王手から過去に遡ることによってその問題を把握しようとする。時間が進むにつれて、計算が進むにつれて、通常はゴミ情報が放棄されその分エントロピーが増大する。このゴミ情報をゴミではないものとして捨てずに記録すればいい。情報をこちら側と向こう側で互いに互いを不必要なものとすることでこの過程は成り立ちうる。そして向こう側では時間が逆に流れるはずだ。羽山はチェス盤を真逆に戻そうとする女の姿を見、そして女を消したという。その女は向こう側の俺たちなのか。羽山の研究が遺書だというのはこの意味だ、俺たちと彼女たちは一瞬接触しそして時間の逆方向に遠ざかって行くのだから──という熱力学、情報理論の観点から時間逆行の可能性を探った思弁小説。ハードすぎて一般性には欠けるが、力作だ。