SF拡張の原理

SF拡張の原理

2012.04.13
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カテゴリ: SF
【送料無料】後藤さんのこと

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●後藤さんのこと★★★1/2
様々な一般名詞の意味を兼ねる「後藤さん」という固有名詞のような一般名詞について、スチャラカ真面目な考察を展開する言語実験ギャグ小説。タイムマシンで遡って自分を殺そうとする存在に始まり、囚人のジレンマ、量子力学、光の3原色、蛇、質量とエネルギーなど様々な議論に使われる基本概念と似た存在でもあるらしきこの謎の存在について、ときどき「後藤さん」という固有名詞的な人物の意味も顔を出しながらの摩訶不思議な世界が現出する。面白いがちょっとくどい感じもする。普通は半分ぐらいでやめるよね。個人的な好みよりちょっとおちゃらけ過ぎているのも微妙。むしろ一般名詞と固有名詞の関係性などについてもうちょっとシリアスな議論をしたほうが面白かったと思う。
●さかしま★★★★
ある官庁からウルと呼ばれる領域に調査分析のため送り込まれ帰還した存在への語りかけのスタイルで、読者の住む宇宙とは異なる物理・論理法則の支配するメタ宇宙についての宇宙論が展開される。マクロな揺らぎだのマイクロ凍結領域だの、すべてを反転させたような架空概念から構築される異常な宇宙像が過剰なまでに論理的に語られていており、くだらなさと難解さが絶妙にマッチして楽しい。
●考速★★★★
起 草稿はここで途切れている。
承 目覚めると佐倉の声が聞こえる。奴は(1)2通り以上の意味に解釈できるひらがなの羅列、を板書しながら、あるいは、(2)左下に文字を付け足すことによって文字や文の意味を変化させて行く練習をさせながら、定義と公理と定理と系の関係について、エチカの神の存在証明が循環論法として自己完結しながらも一個の公理となっていることについて、語り続ける。
転 彼は様々の論点に矢継ぎ早に触れ続ける。思考より速い速度で考えられるか。無理だ。ならどうして思考が可能なのか。あるいは面積が同じなのに周の長さが無限となる図形について。すべての量子が光速で動いており、ただ歪んだ軌道を動いているために遠くから見たら遅く見えるだけだというシュレディンガーの異端解釈。夜の間も脳は活動しており、電力消費の有無と思考は関係がないということ。神の存在証明は平面図には表せないから文字で表すしかないということ。

評 言語論理の持つ循環的構造や相対性を、論理学の言葉を用いながら、スピノザの公理や掛詞的な言葉遊びを通じて表現した思弁小説。言葉の不思議さを一つの小宇宙として表現できており、これが物語といえるかどうかは別として、少なくとも傑作である。
●The history of the decline and fall of the Galactic Empire★★★1/2
起 銀河帝国は墓地の跡地にある学校のような帝国ないし帝国のような学校であり、給食のメニューで闘争し滅亡を早めたといわれる。臣民には骨格を持つ者と持たぬ者があり、骨格を持つ者は自己の出身地の夜にのみ動き、骨格を持たぬ者はピアノを弾く。校庭にはときどき旧銀河帝国が出没する。異なる時間が接しているのか時間のずれた別個の並行宇宙なのかそれともそれ以外の二重存在あるいは単なる幻だったりするのかは分らない。皇帝の座は階段の上にあり、そこでは幼帝の霊がよく遊んでいる(怪奇)。
承 銀河帝国は極めて広大で、超空間通路で網目状に覆われ、これをつかむことで銀河帝国を持ち歩くのが超空間航法だ。超光速航法は年々進歩する。最近人口が爆発的に増えた。幼帝の霊たちが超空間通路で柄杓をあさり空白を注ぎ込む(地勢)。銀河帝国はオタク商品あるいは単なる世間の人としての属性も場当たり的に持つ。予約不可ですぐに完売、初回特典入手困難、無許可撮影禁止。銀河帝国趣味はきもいから銀河帝国たちが陰口を聞く(巷間)。銀河帝国は人でもある。偽物は髭が黒い、酔って踊子に手を出す。幼帝が家に戻ると銀河帝国一家が荼毘に付されており幼帝は仇討ちを望む。銀河帝国は必ず滅びるのだ(人倫)。銀河帝国は貴重品でもある。謎でもある。被害者でもある(怪盗)。銀河帝国は全人口が全人口の倍はあり、何度でも甦る等等(質疑)。銀河帝国は戦艦のようなそうでないような存在でもある。つまり、銀河帝国は銀河帝国で銀河帝国に乗って銀河帝国を救いに行く的な存在である(大戦)。
転 銀河帝国は学生服のボタン、友達、部活の名称、その他もろもろだ。文脈から分ったり分らなかったりする(卒業)。銀河帝国は呪いの手紙あるいは箱、犬、ゴミ、アレルギー性の食べ物、などである(残余)。
結 いよいよ銀河帝国に決着がつく。二人の幼帝が相撃ちで滅びる(終局)。
評 例によって「銀河帝国」の語を様々な語と置換して遊ぶ言語実験ギャグ小説。面白いけど普通半分ぐらいでやめるよね、という感想もいつもと同じだ。
<二次創作>
同じようなもの(語義の入れ換えごっこ)はいくらでも書けると思うので今更やらない。というか夢日記でしょっちゅうやっている。そもそもただのレトリックであって、大々的にテーマにするようなものでもあるまい。もっとも、文体実験は面白いので他にもいろいろ思いつく。たとえば、びっこを引く時間というアイデアを思いついた。普通の物語のように進行するのだがところどころで文章が反転し、ある時点まで戻って別の歴史を刻みだす。これを繰り返してバラバラの物語が展開するというもの。
●ガベージコレクション★★★1/2
これは羽山亨という友人が書いた遺書についての物語だ。遺書といっても時間の逆行が可能であるか、換言すれば可逆な計算が可能であるかについての彼の仕事だ。彼はチェスの王手から過去に遡ることによってその問題を把握しようとする。時間が進むにつれて、計算が進むにつれて、通常はゴミ情報が放棄されその分エントロピーが増大する。このゴミ情報をゴミではないものとして捨てずに記録すればいい。情報をこちら側と向こう側で互いに互いを不必要なものとすることでこの過程は成り立ちうる。そして向こう側では時間が逆に流れるはずだ。羽山はチェス盤を真逆に戻そうとする女の姿を見、そして女を消したという。その女は向こう側の俺たちなのか。羽山の研究が遺書だというのはこの意味だ、俺たちと彼女たちは一瞬接触しそして時間の逆方向に遠ざかって行くのだから──という熱力学、情報理論の観点から時間逆行の可能性を探った思弁小説。ハードすぎて一般性には欠けるが、力作だ。

球面の上を時間を逆行しながら溝を掘り続ける男(「私」→最終章では「男」)が他の2人の登場人物、少年及び少女と偶然に出会いながら時間の原初へと遡り続けて行く話。登場人物はこの3人のほか、天使と豚。天使は天球を作ったり回したり壊したりする存在で、階層秩序を做している。世界は球体であり、3人の人物は直交する三本の輪を回っているのだが、視点人物だけが時間を逆行している。その原因なり動機は記されていない。この世界は3次元であるのだが3人の人物はただ輪に沿った「階段」をを一定速度で進むだけであり、4次元目の時間を順行する(登る)か逆行する(下る)かの2つの選択肢しかないようである。また、地面を掘ることは可能らしく、この地面を掘るという行為は、天使が失敗作の天球の皮を剥がして行く作業と一体(動作主と道具)の関係にあるのかもしれない。この球体世界を時間発生後に動かしている力はインペトゥムと呼ばれる。この概念は誰が発見したというのでもなく、少女と時間を逆行する男の間で無限ループでやり取りされている。そして、時間を順行して行けば真の時間のある世界に入ることができると少女は信じているが、男はそのような概念を持たないか少なくとも疑っているらしく只管時間の原初を求めて逆行し続ける。少女は男が物語の中で忘れられずにいられる視点を見つけられればいいのにと願う。始原に達して自分の存在もろとも消える前に。──ほぼ要約するとこのようになる。作中に示唆があるとおり、球面を直角に交叉する3つの輪に沿って3人の人生が交叉する世界があるとしたら、という世界原理改変に基づいて導かれた物語世界を舞台とする作品である。この舞台世界を暗喩の如く用いて(完全な暗喩ではなく、暗喩的に転用して着想に利用している程度にとどまるが)時空を支配する原理についての思弁的議論を登場人物たちに行わせている。3人の人物の繰り広げる図式的な物語は、人間の出会いと別れの象徴物語にもなっている。環境対立性と葛藤性の物語を中心に、対立性は弱いながらも人的物語性も含んでおり、本書収録作の中では最も物語性(対立的新奇性)と思弁性(美的新奇性)のバランスのよく取れた佳作である。本作品の持つ思弁性と物語性の結合をより推し進めたのが例えば「道化師の蝶」であるし、本作後半の時間逆行のメッセージのループのアイデアは最近SFマガジン掲載になった短編でも再利用されていることからも分るとおり、本作は最近の円城の作風推移の原点ともいうべき内容になっている。
●目次INDEX★★★★
円城塔が魔法使いにして少年であり、自分が登場する本が自分自身を読む話を書く、という話。巻末付録のミニ本。目次自体が本文であり、目次のみで物語が成立するという人を食ったメタフィクションである。ウリポ的実験作だが書かれている内容も物語として面白く、傑作である。最後に円城ならぬ「炎上」するのが嗤える。





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Last updated  2012.04.13 13:26:03


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