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顔の間近でいきなり絶叫されたらそれが生身の人間でも怖いだろう。想像しただけで怖い。なのに、「このホテル、開かずの間があるね。」 な、な、何て事おっしゃるのですかっっ「客を入れない部屋。三階で、この絶叫する女性が出るとこ。うん、三階。」一人頷いている。 なんで判るのさ???スタッフを見るとまた固まっていた。 「そ、その通りです」と K が言った。「イヤです、もう」K が E にしがみつき、E はアタクシにしがみつき、アタクシは震える手で一生懸命メモを書き続けていた。ケリーがまだ顔をしかめている。「ベッドの下?なんだろう。ベッドの下って?」「気が違ってるのかな。強気の客が叫ぶのやめろ!って怒鳴ったりすると今度は部屋の隅でしくしく泣いたりするね。」「気味悪い人だ。ぼさぼさの白髪まじりのブロンドで」ひっ、と E がまたアタクシの腕にしがみついた。「目が真っ赤に充血してて。ちょっと待って!」ケリーが声を荒げた。「あたし三階だった!」 そういえば隣室がうるさいからと六階に移されたと言っていた。 まさか。頭皮がざわざわする。「でもあたしが聞いたのはカンカン鉄を叩くみたいな金属音だったよ。あぁ。やだ。やだ。あれだね。」K が上ずった声で説明した。「3○○号と3○○号、出来る限り入れません。」今度はケリーがアタクシの反対の腕をぐっと掴んだ。「隣。」 ひっ。K が続ける。私、一度だけお客様が入っててびっくりした事があるんです。大きな会議が二つもあって、この町小さいですし、ホテル室全部埋まってて困ってたお客様がいらして、早番の新米のスタッフが入れちゃったんです。夜中になって大騒ぎになりました。大声で泣き叫びながらそのお客様、廊下に飛び出て、近くの部屋全部叩いて助けてくれって起こして、過呼吸になって救急車呼んで、大変だったんです。びっくりしました。私当番でした。その晩、そのお客様が寝ようとしたらベッドの下からカチカチ変な金属音がしたらしいです。なんだろうって、起きて、下を覗いたらベッドの下、あの、「彼女」が目の前に顔を突きつけてきて 「ぎゃーーーーっ」て叫んだ、って言うんです。 ア、アタクシ、もう結構ですので、勘弁してください......だがまだまだ続く、古城ホテルの心霊ツアー。「ぎゃーーーーっ」...- - -続くあるいは、目次
2009.06.29
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同じ様な大理石の踊り場と、絨毯の広間に出た。日本式で言うと三階、【C】=コンファレンス(会議室)レベルだ。メザニン同様、左右に廊下が延びている。だが今度は比較的明るい。左の廊下の照明が点いたまま。正面には大きな革張りの椅子が二つ。左側に電話ボックスが二つ。あの電話ボックス。旧式のボックスが取り付けられた時、きっと白黒映画に出てくる様な、受話器が二つに分かれた電話だったのだろう。そして右の暗闇の先は、アタクシが怖い思いをしたエレベーター・ホール。しばらくの間、消えたシャンデリアの下でケリーの言葉を聞いていた。右手が攣るほどメモを書いた。「まず左」と明るい廊下を示した。「ここも子供がいるけど女の子。」「うわっ!」と E がアタクシに飛びついた。大丈夫?「確かに、お、女の子です」とやはりガクガク震えている。あら~、可愛い子だし、迷子なだけだよ、怖くないよ、誰かを探してこの廊下を走るでしょ。「ひぃぃぃ」と E が歯を食いしばる。栗色の、巻き毛。と言いながらずらりと並んだドアの一つに向かった。「そうなの?」とアタクシにしがみついている E に聞くと、コクコクコクコク。この子も、客が心配してフロントに問い合わせが来るらしい。ケリーがドアの前に立っていた。あの子、時々このドアの取っ手をガチャガチャ鳴らすでしょ。何ここ?会議室?マズイねここ、と眉を寄せた。 ...マズイ?今「怖くないよ」って言わなかった?「ご覧になりますか?」と K が鍵を取り出した。青髭に出てくる様な、腕輪サイズのキーリングに鍵がジャラジャラついている。彼女が鍵を探している間にやっと iphone が再始動した。あー良かった。初めてのフリーズだったのでちょっと冷や汗をかいていたが無事らしい。すかさずカメラのアプリを起き上げた。扉の向こうは普通の会議室。R が電気を点ける前、レース・カーテンの向こうに群青色の空が見えた。女の子は怖くないけど、この会議室、苦情が来るでしょ、この隣、調理場だね。見ると両開きの扉がある。「そうです、この会議室用の特別ケータリング用調理場です」あんまり使ってないでしょ。でも日暮れに食器やらお鍋やらを壁に投げつける様な凄い音がして苦情がくるのね。マズイよ。マズイよここ。それを聞くと同時にシャッターを押した。その瞬間、K がまたヘタッとしゃがんでしまった。「黒い影って思い当たらない?」とケリーが R に聞いている。なんだ「黒い影」って。得体の知れない恐ろしさに脊髄が冷たくなった。「あぁ。怖いね。怖いよ。出よう」とケリーが出て行くのでそそくさと後に続いた。逃げるように踊り場に戻った。 黒い影って何?こ、怖いよ。何なの?スタッフが三人ともそわそわ顔を見合わせていた。私たち、この廊下苦手なんです、今晩 ○○室の係なんだけど、って言うと皆「あぁ、一緒に行ってあげるよ」ってお互いサポートするんです、それほど怖いんです、だから夜も電気消さないんです。食器を投げる現象を調べに行っても毎回鍵が頑丈に掛かった真っ暗な調理室で食器は動いてないし、会議の前日のセットアップをしてると誰かに見られてる気がするし、照明が点いてるのに、時々黒い大きな影が...K が言葉を切った頃にはアタクシまた鳥肌だらけだった。全身鳥肌。脚にまで鳥肌が立っているのが判る。「でもやっぱり一番怖いのはあの絶叫する女性だね。」そんな真剣な顔で、こんな古城の薄暗闇で言ってほしくない。そして、ケリーの次の言葉で逃げ出したくなった。そして思い出しては一週間ほど眠れなくなった。- - -続くあるいは、目次
2009.06.28
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K がうずくまっていた。なぜ判るんですか。やっと絞り出した様な声を出す。ホテルの怪談を知っているスタッフが同行していると、どうしても視線や僅かな動作やらで無意識に「現場」をしめしてしまうのかも知れない。そう思いつき、気をつけて観察していたがアタクシには探知できない。だがケリーがそれらを読み取っている可能性は否定できない。仮に彼女が身ぶり言語を読み取る訓練を積んだ達人だとする。それで説明できるだろうか。本当に彼女が言うように、この非常階段の下にはひび割れた床があるのだろうか。ふー、とケリーが溜め息をついた。ただ落ちたんじゃないね。押されたか、取っ組み合いだったか、誰かに落とされてるね。しゃがんでいた K がへたり、と座ってしまった。「他に何か?」と目を大きく見開いて聞く。ずっとずっと昔だね、とケリーが付け足した。「あの自殺の若い男性は最近だけど、この非常階段の人は、百年...は経ってないけど、もしかしてこのホテルの建設中?そうだね、まだ工事中。で、床がひび割れてるのは彼の身体の衝撃じゃなくて、持ってた工具箱かなんか、鉄製の重い物。」 なんで?なんでそんな事まで判るの...?今のとこそんだけ、と目を伏せた。K と E が顔を見合わせている。「いいですか?あたし達が知ってる話。」アタクシはさっきから一心不乱にメモを取っていたペンを握り直した。(余談だが、このメモを訳しながら書いている。)K は、「その通りです、全部」と言う。「全部合ってます」ババババッと鳥肌が立った。同時に、R が驚きの声をあげた。「ボク知らなかった!」R はひびがあるのは知っていたし、それが落下事件らしいとも先輩に聞いた。けれど新入りをからかっているんだろう、程度に思っていたらしい。それが事実であり、大昔で、工事中だったなんて初耳だと言う。「押されて落ちたなんて、あんまりだ」と眉をしかめた。「オフィスに当時の新聞記事が保存されているから後で見せてあげる」と K が立ち上がった。「建設中のホテルの写真も一緒に掲載されてるから。」鳥肌が治まらない。一致する点が細かすぎるし多すぎる気がする。イヤな疑問が浮かぶ。本当に霊視しているのか。それともテレパシーで、K や E など、生きている人間から読み取っているのか。後で思い返すと自分で鼻を鳴らしてしまうほど非現実的な質問だ。ここはあんた達が言う花嫁さんと、それからあの小さな男の子と。それだけかな。このメザニン・フロアは他にたいした事ないね、と言うケリーにスタッフは頷いていた。メザニンの特等ラウンジを幾度か使った。だがそれはエレベーターの正面にあり、こんな奥まったところからは見えない。メザニンには他にレストランがあるが、そこには何も出ないらしい。「でも上のボール・ルーム、出るでしょ」と付け足した。ぞっとする。舞踏室の幽霊なんて強烈だ。会いたくない。広い広い暗闇に逃げ惑う自分の姿を想像して震え上がった。「ひびの入った床、覗いてみます?それとも後にします?」と K が聞いた。非常階段のひびを見て、それからまたこの踊り場に戻ろう、と言う事になった。色々な階段を上ったり下がったり、思わぬ運動だ。まず非常階段から下を覗いた。確かに、真ん中の正方形に不自然なひび割れがあった。この写真を撮った後、非常階段を下りた。そこでひび割れた床のアップ写真を撮ろうとしたら iphone がフリーズした。これってマズイ?いや、気のせいだ。気のせい。そうに違いない。メザニンの踊り場に戻ると、恐る恐る「花嫁」の階段を上った。ここを上がると彼女が使った公衆電話があるはずだ。そして上り詰めたところで、ケリーが恐ろしい事を言った。このフロア、一杯いるね。- - -続くあるいは、目次
2009.06.28
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E が両肘を抱いてがくがく震えていた。気付くと、薄暗闇の中、アタクシ達は寄り添うように身体をくっ付けていた。さっき会ったばかりなのに。予想以上に怖い。もう沢山だ、と目を瞑りたかった。同時に、始まったばかりの冒険にどきどきわくわくしていた。そんなアタクシ達に目もくれずケリーはツカツカツカ、と大理石の踊り場に続くちょっとした広間に進み、「あそこだね」と近くの戸口を指差した。白い踊り場を背に立つと左右に薄暗い廊下が延びている。ケリーは右よりの戸口を指差している。よく見ると非常階段らしい。赤い表示ランプが点いている。つい数秒前「花嫁の亡霊が立っている」と言われた踊り場に背を向けていると、背中に冷気が吹き付ける気がする。気がするだけだ、と自分に言い聞かせていると背後で「...ひっ」と気味悪い声がした。- - -続くあるいは、目次
2009.06.27
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そして、ケリーが躊躇なく向かったのは奥の、白い大理石の階段だった。白いドレスの人はあっちだよ、と言う。 こわいよ...ロビーから上がる階段はあっちにもこっちにもあった。さすが古城だ。どっしりと広い階段もあれば、両隅にも細い大理石の階段がある。昔、着飾った貴婦人がドレスの裾を引きずりながらしゃなりしゃなりと通ったのだろう。よく見るとうまくロココ風に偽装した防火ドアもあちらこちらにあり、それらを開くと非常階段があるらしい。実際、ロビーを見渡しただけでは階段がいくつ続いているのか容易には判らない。ずっと続いている会議は近くの大学で開催されていた為、ケリーもアタクシもラウンジと自室と前記の特等ラウンジ以外、この広い広いホテルをほとんど知らなかった。最終日にだけ、人数を絞っての専門会議がホテルで行われる予定だったが、それはまだ翌日に控えていた。階段の下で立ち止まった。「まずいかな。逃げるみたいに上がってっちゃったよ。」 えぇっ!?今?今?「見えなかった?」 ぶんぶんぶんぶんっ。見えましぇん。見たいのか見たくないのかも判りましぇん。どういう姿なんですか?と K が聞いた。「だから長い白いドレス。リボンも白い。白くて長い手袋。」手袋?舞踏会にしていくみたいな?かちかちかちかちかち。変な音が耳についた。見ると E の歯が鳴る音だった。大丈夫?ヤメとく?「大丈夫です。でも怖いんです。どうして判るんですか?どうしてこの階段だって判るんです?」 ケリー、今、「まずいかな」って言わなかった?大丈夫、とケリーはゆっくりと階段を上り始めた。「でも、このロビーの階段に出るとか、メザニンの柵越しにロビーを見下ろしてるとか、それはメインじゃないのね、この人の場合」スタッフ K+E+R:コクコクコクコク!「頭に浮かんだ事そのまま言うけど、焦ってる。間に合わない。電話がなんとか。走って下りた。落ちた。」K+E+R: 「落ちたのは、この階段じゃなくって、もう一つ上からで、今向かってる踊り場で死んだ?そうね?」K+E+R: 「でも、もう一つ上って階段続いてないじゃない?おかしいな。ハズレかな。」ケリーの言う通り、そのロビーからの階段はそのまま上に続かなかった。階段を上りきると同じく奇麗な白い大理石の踊り場に出た。よく見ると、その広い広い踊り場のずっと奥に隠れる様に、ぐっと狭くなった階段が続いていた。あー、ここねぇ、とケリーが頷く。 ...こ、ここって...?まさか...?「俯いてる。ん?違う?変な俯き方してる。ここで会うと怖いのねー。」彼女の事はこれくらいでいい?あんた達の聞いてる話とどう?合うみたい?と溜め息をつくケリーにスタッフが答えた。私たちは彼女の事「花嫁さん」って呼んでるんです、結婚式の当日に亡くなられて、上の舞踏室で式を挙げる準備をしていて、忘れ物の事でコンファレンス・レベルの隅の、このすぐ上の公衆電話を使って、そのままこの階段を下りてこようとしたところ落ちて首を折ってしまわれたんです。当時の新聞記事もあるんです。 ぞくっ...白いドレス+白いリボン =「花嫁さん」とは、想像していなかっただけにギョッとした。怪談なら当然白っぽいドレスの女性でしょ、程度にしか思っていなかった。「変な俯き方」とは折れてしまった首なのだろうか。アタクシ達は、彼女が「落ちた」と言われている階段をおっかなびっくり見上げていた。彼女が死んでしまったのは、今 R が立っているあたりなのだろうか。大理石の床をまじまじと見てしまう。「ここだけじゃないね、階段を落ちて人が死んだの。落ちて、痕がついてる、今でもその痕が見えるとこあるでしょ、床が割れてるね、この近くね、違う階段だけど」 こ、こわっ。そんな訳ないでしょ、なんで床が割れるのよ、ねぇ?とスタッフ三人を見ると また固まってた。 こわいよー...- - -続くあるいは、目次
2009.06.23
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チェックイン直後、ちょっと首を傾げる事があった。小さなスーツケースをころころ引っ張りながらエレベーターに乗ると、同時に乗ったおじさんが「君どのフロア?」とボタン・パネルの前で指を構えた。えっと、六階です、有り難うございます。「オッケー♪」ぽち。「あれ?」ぽち。ぽち。「あれれ?」アタクシだけ、フロアのボタンが作動しない。見るとエレベーターのボタンは上から[8][7][6]【5】【4】【3】【2】【C】【M】【☆L】となっていた。【☆L】から【5】のボタンは点灯しており、その上の[6][7][8]は消えていた。その消えているボタンは押しても作動しないのだ。一瞬戸惑ったが、「特等フロアなのでカード・アクセスです」と言われたのを思い出した。案の定、カードを差し込むと[6]から【6】になった。おじさんが「ヒュー♪」と口を鳴らす。違うお兄さんに「君だけスペシャルなんだね!」 なんて言われてしまう。納得いかない。エレベーターにカード・アクセス装置があれば客室フロア全部そうするのが普通だろう。だがこのホテルは【☆L】から【5】はカード無しで行けてしまうらしい。初めてだ。こんなとこで変に差を付けなくても良さそうなものだ。セキュリティーは客全員同じく大切じゃないのか。 コチラのホテルでは一般的に【☆L】=ロビーの上が【M】=メザニン(中二階)で、レストランやら舞踏室などはだいたいここだ。このホテルの場合、前記の 特等ラウンジもこのメザニンにある。 ちょっと大きなホテルだとその上が【C】=コンファレンス(会議室)レベルになっている事が多い。会議室や宴会用広間などがある。ある晩、遅くまでラウンジで雑談していた。そして深夜二時頃、遂にスタミナ負けして退散する事にした。一人六階に向かうエレベーターの中、箱の現在地の表示ランプをぼんやり眺めていると【M】を素通りし、次の【C】でなぜか ポーン...と扉が開いた。開く扉の先の空間が見えたとたん、思わず後ずさりした。真っ暗。省エネかなんだか知らないが真っ暗なコンファレンス・フロアなんて初めて見た。気味悪い。もちろん、誰も乗ってこない。扉がなかなか閉まらないので、ぽち、と【6】のボタンを再度押してみる。閉まらない。閉まらない。じっと待つ。暗闇の中から、下のメザニンのレストランからだろうか、微かにピアノが聞こえる。まだ閉まらない。めったに押す事のない【><】(閉める)のボタンも押してみる。ぽち。ぽち。閉まらない。その時、広間の向こうの暗闇で「サワッ...」と布ずれの音がした。いや、気のせいかもしれない。見ない方がいいのかも、と思いながら【><】を連打した。だがやはり目を凝らして暗闇を覗いてしまった。[ EXIT ]サインの赤い光と窓からの僅かな明かり。高い天井に届きそうな優雅なカーテンが一カ所だけ「サワッ...」と動いた。いや、気がしただけだ。きっと。 エレベーターの故障だったらどうしよう、と思ったとたんにドアが「スーーーーッ」と閉まり、【2】、【3】、【4】、と上がって行った。難なく六階に到着し、当時「古風でお洒落だな♪」としか思っていなかった例の煙の香りのする廊下を通り、時差で起きているはずのムーミンに電話した頃にはもうあの暗闇から感じた視線は忘れかけていた。そして最後の晩、夜の古城ツアー直前、アタクシが心配していたのはあの真っ暗なコンファレンス・フロアの事だった。あれ苦手だな。今からあの暗闇に向かうんだ、と思うと背筋が寒くなった。「行くよ」と言われ、まずロビーを横切り、メザニンに向かう階段を上った。- - -続くあるいは、目次
2009.06.22
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あまりにもずばりずばり言い当てるので「ホテル中ご案内させてください、霊視お願いします」とスタッフに頼み込まれてしまったという。従業員の間に伝わる怪談と照らし合わせてみたいらしい。 いいんですか?そんな事して。 九時にフロントね。すっぽかしたら殺す とケリーに言われつつ別れた。その場でもっと聞きたかったが、前からD君と約束していた夕食の時間だった。食後、レストランからホテルへ戻る道中、D君までイヤな事を言う。「このホテル、風水が最悪だね」 ...へ?そっ、そうなの?どうして?大通りが川に突き当たるT字路にホテルがそびえたっている。このT字路に面する「路冲殺」と言う形が災いを呼ぶとされているらしい。D君は背が高く、おおらかさが大きな体に似合う人だ。占いごとに詳しいなんて初耳。いや、突拍子もなく意外。それも、珍しく眉をひそめて「風水が最悪」だなんて。ケリーとの話は何も言ってないのに。つくづく城を見上げる様に、並んでホテルに向かって歩いた。そしてロビーを横切ると、ケリーがフロントで待っていた。スタッフとにこにこおしゃべりしている。にこにこそわそわ不思議な雰囲気だ。 はーい。待たせちゃった?「もうすぐ出発だよ。Eちゃんが控え室に着替えに行ったからちょっと待ってるだけ」すると制服姿の勤務中スタッフも一人一緒に来るという。二人残るフロントとくじ引きで決めたそうだ。「も~、わくわくしちゃって、一日中待ち遠しかったんです!」と彼女K。おまけにベルホップのR君も。なので E, K, R とスタッフが合計三人。思ったより大騒ぎだ。 わぉ。いいの?叱られない?上司にバレたらアタクシが会議の設備の案内をお願いした事にでもしたらいいね。ね?悪さをする時、前々から言い訳を練っておくのはアタクシの悪い癖だ。悪ガキ歴=年齢。「それよりあんた」とケリーが複雑な表情で「今このロビーであんたがにっこり挨拶した紳士だけどさ」と聞いてきた。 ん?帽子の人?ちょっと素敵だよね、今時帽子に指をちょっと添えて会釈なんてさ。 フロントもベルも、居合わせたスタッフが四人とも固まってしまった。 え?え?思わず後ろを振り返ってさっきまでいた帽子の男性の姿を探してしまう。ロビーで数回すれ違った事のある人だ。目が合うと無言で帽子をちょっと触るので、こちらもにっこりしてしまう。 なんなの、え?「ほらねー 」とケリーがニヤニヤしている。「帽子って、どんな帽子?」 フェ、フェドラ帽。グレーのスーツかな? なんなんだってば!!!K:このホテルで一番有名な幽霊です。R:「グレーの紳士」って名前まであって。凄いや。ボク見た事ありません。まだ四ヶ月目だけど。だからあんたにも一緒に来てもらいたかったの!と楽しそうに背中をバンバン叩かれた。なんだか凄~~~~く行きたくなくなった...- - -続くあるいは、目次
2009.06.21
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ケリーはフロントのスタッフとあの煙の話をした後、他にも幽霊出るでしょ、と声をひそめたらしい。 1・自殺したらしい悲しそうな若い男性 「初日にロビーに一歩踏み込んだ時から若い男の人が見えてるのよ。いるでしょ。悲しそうな人。スーツ着て。」フロント・スタッフ、顔面蒼白でただコクコク頷く。「自殺でしょ。それも結構最近。」 コクコクコクコクコク。「ここにいるべきじゃなかったとか来るべきじゃなかったとか。何の事かあたし判んないけど。」 コクコクコクコク! 2・白く裾の長いドレスの女性 「で、長いドレスの人。白いリボンの、白いドレス。出るのはロビーと、あっちの大理石の階段と、ひとつ上の階でしょ。」 コクコクコクコク! 「メザニン(中二階)のギャラリーからロビーを覗くのね。」 コクコクコク。「時々血だらけ。」 コクコクコク。 3・いたずらっぽい小さな男の子 「五歳か六歳かな?小さないたずらっこがいるね。」 コクコクコク。「主にメザニン・フロアだけどロビーにも来るしエレベーターのボタン、届くの全部押しちゃったり」 コクコクコク! 「メザニンのカーテンに隠れるのが好きで、クスクス笑って」 コク!コクコクコクコク! 「時々お客の子供と遊んで、その子達の親が心配してフロントに聞きに来るでしょ。あのメザニンの子の親はどこですか、って。」 コクコクコク! 一々ずばり言い当ててしまったらしい。だが、やはりこれだけを聞いていたら、あー、どれもありがちだなー、それにどうせコールドリーディングか何かでしょ、と密やかに冷笑していただろう。実際最初の数日は あ~、幽霊ね、はいはい。 と軽くあしらっていたので、こう詳しく聞くのは最後の晩だった。もっとはやくちゃんと聞いとくんだった!と後悔したが、後に「実は聞かずにいて正解だった」と深く深く思い知る事になる。「あたしね、時々見えたりするんだけどね、こんなの初めてよ、言葉とか情報とかが頭に浮かんでくるのよ、でもね」そこで言葉を切り眉を寄せた。でも?でも何?「今までの話の現象では困ってないでしょ、って聞いちゃった。」「現象では」って何?「は」って?知りたくない様な。ワクワクしちゃう様な。「これ聞いても今晩一緒に付き合ってくれる?」コクコクコクコク。スタッフが特別に案内させてくれ、と頼まれたホテル探検ツアーの事だ。じゃあ、と続けた彼女の言葉に鳥肌が立った。「一番困ってるのは顔に近づいていきなり絶叫する女性でしょ。」 やっぱり行くのヤメた、なんて言ったら怒る?- - -続くあるいは、目次
2009.06.20
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「隣の部屋がうるさい」と申し出たところ、即座豪華な特等フロアに移されたケリーはご機嫌だった。次の日フロントで「新しいお部屋、いかがですか?」と聞かれ、大満足だと伝えたらしい。だが、「廊下が随分煙いけど、禁煙フロアじゃないのね」と軽く付け足したのがいけなかったらしい。フロントの女性が三人とも肩をすくめて真っ青になった。そして明らかに怯えた顔を見合わせてしまった。「すぐピンと来ちゃってさ。だって他の三人の幽霊の事もあったし」とケリーが溜め息をついた。 え。煙って、あの廊下の煙 ?「そうそう。」 エ、エレベーター降りて、み、右に行ったとこ...?「そうそうそう。タバコじゃないんだよね。ちょっとさ、インセンスっぽくてさ」 げ。まさか、ほんのりフローラルなパイプ・タバコみたいな...?「あ~、そうそう。ちょうどそんな。」年がら年中、他の客もそう言うらしい。 え~ん... こ、こわいよ...そのパイプ・タバコの煙は、ホテルの謎の一つなのだそう。「数日置きにあのフロアの客から苦情が出るんだって。廊下が凄く煙いからどうにかしろって。」エレベーターはカードロックだし、その一部屋しか客が入っておらず、他の人が廊下でタバコを吸っているはずがないのに、という夜もあるらしい。そしてスタッフが駆けつけると何の匂いもしない。おまけに必ず夜だけ。「それが何度も何度も何度もなんですよ」ってスタッフが声をひそめて言うのよ、とケリーの暗い声。そこでつい、例の三人の 妖怪人間じゃなくて 霊の事を口にしてしまったという。「ところでさ。今晩付き合ってくれない?」 い、いや~な予感。「ホテルのスタッフに頼まれちゃったんだ。夜の城内ツアーだって。」 ひっ。- - -続くあるいは、目次
2009.06.19
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出た。やっぱり。二日目の朝に暗い顔で「三人はいるのよ」と言うケリーを最初は あっそ。はいはい。と軽くあしらっていた。だって1・自殺したらしい悲しそうな若い男性2・白く裾の長いドレスの女性3・いたずらっぽい小さな男の子だなんて。ありきたり過ぎて バカにしてませんかゴルァ?とニヤニヤしてしまいそうだった。そう言えば夜中、一人エレベーターに乗っている時、押してもいない真っ暗なフロアでいきなりドアが「ポーン...」と開いてギョッとしたけれど。気になると言えば些細な事で、部屋に帰る途中毎晩廊下に漂うパイプ・タバコの煙が時々目に沁みる程濃く、それが廊下から部屋に入ってこない様、ドアの下の隙間にバスタオルを折り畳んで当てた事だったり。そんな小さな出来事に悩むまでもなく、大いに満足だった。 だがそれはとんでもない大間違いだった。- - -続くあるいは、目次- - -序編だったなんて。「1」 「2」
2009.06.18
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