Que sera, sera

April 14, 2024
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カテゴリ: 映画のはなし
映画『オッペンハイマー』、実は先週の日曜日にムスメと見てきました。

クリストファー・ノーラン監督 『オッペンハイマー』
https://www.oppenheimermovie.jp/#modal

感想をひと言で言うと、日本人ならこの映画を絶対に見るべき!

ですが、とても難解です。





「原爆の父」として知られる科学者の伝記的映画であったため世界公開前に日本国内で物議を醸し、国内では一旦公開中止となったものの、アカデミー賞7部門で受賞を果たし、とうとう3月29日に日本公開となりました。

​「広島・長崎の描写が一切ない」ということから原爆投下礼賛とまではいかずとも肯定のストーリーなのではないかとの懸念もあったようですが、私は、ノーラン監督は明らかに反核兵器、反戦争の立場であり、「当時原爆は生まれざるを得なかったが、日本に落とされる必要は本当にあったのだろうか?」と考えているような印象を受けました。このように日本への原爆投下の正当性に疑問を投げかけるような映画が米国で高く評価されたということは大きな驚きです。


・・・とまぁ、いろいろわかったように書きましたが。

まぁとにかく、前評判通り、わかりにくい映画です。



そういう意味では、私はある程度この映画の時代背景の知識があってよかったと思っています。

話がちょっと逸れますが、ときどき「三角関数なんか大人になって使ったことがないから勉強するのはムダ」などという論争が起きたりするじゃないですか。この映画に関して言うと、私は「学生時代に量子力学と素粒子論を勉強していて本当によかった」と実感しました。なぜなら、量子力学には絶対に欠かせないような超一流の現代物理学者の名前が映画の中でぞろぞろ出てくるからです(ちなみに、量子力学の中身は全く必要ありません)。

そして不勉強ながら私は全く知らなかったのですが、オッペンハイマー自身もまた当時の超一流の物理学者だったのです。あの、今では誰もが知っている”ブラックホール”の存在を世界で初めて理論的に予言したのがオッペンハイマーでした。そして第二次世界大戦後、プリンストン高等研究所の所長となって、ノーベル賞級の日本人理論物理学者、湯川秀樹、朝永振一郎、南部陽一郎などを招聘して育てたのでした。

実は私はこの映画を見るまでは、オッペンハイマーという人は自己顕示欲がとても強く名誉にこだわる人物で、物理学でなかなか頭角を現せなかったから”原子爆弾の開発者”という名誉がほしくて暴走したマッドサイエンティスト、という印象を持っていました。おそらく、大方の人たちは多かれ少なかれそのようなイメージを持っていたのではないかと思うのですが。

これは私の勝手な想像なのですが、クリストファー・ノーラン監督は、この映画によって、オッペンハイマーについてのさまざまな先入観や後世に作られ勝手に一人歩きしている誤った不名誉なイメージを払拭したい、という狙いがあったような気がしてなりません。

彼は鬼畜でも悪魔でもマッドサイエンティストでもない、非常に優秀な物理学者だということ以外は、本当に一介のごくふつうの人間で、ただただ時代が彼に原爆を作らせただけなのだ、ということを描きたかったのではないかと。

そして、原子爆弾は当時最高峰の頭脳をもつ”超賢い”科学者たちが集まって理論と技術の粋を使って作り上げたものではあったけれども、その科学者当人たちもまた欲望や羨望、嫉妬といった人間らしい感情に支配され大きく翻弄され、この地獄の猛火をコントロールすることはできなかったということを訴えているように感じました。一旦開けられたパンドラの箱を元に戻すのは極めて難しい、人類にその覚悟はできているのか?と問われている気がしました。

実はこの映画を見る前に、たまたま、とある雑誌の解説記事を読んでいたのですが、これを読んでいたからこそこの難解な映画を楽しむことができたと思います。オッペンハイマーという人物を端的に非常にわかりやすく解説した記事です。

日経サイエンス 2024年5月号
『特集:オッペンハイマー その知られざる素顔』
https://www.nikkei-science.com/202405_078.html

映画「オッペンハイマー」を見に行かれる方は、その前に、ぜひ雑誌を手に取って全文を読むことをお勧めします(ただ、この記事自体もちょっと小難しいかもしれませんが・・・)。


この映画の最後のシーンには、「アインシュタインという人は何をした人なのか?どういう人なのか?」という知識が深く関係しています。アインシュタインにまつわる知る人ぞ知るいろいろなエピソードを知らないと、最後のシーンはとても難解です・・・これを「教養」として観客に求めるのはとても酷な気もするのですが。

でももし知らなかったとしても、謎は謎のまま余韻が残る不思議な映画です。





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Last updated  April 14, 2024 11:35:25 AM
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