カレンダー
カテゴリ
キーワードサーチ
とある夜,運行遅延で列車が運転中止となり,栃木某所の途中駅で降ろされてしまう。
途方に暮れてベンチへ座ろうとすると,真新しいベンチの看板に「"五十歩一歩"名物かりんとう,おかげさまで事業存続!」と書かれている。
ふーん,と思ってそこへどっかと座る。そう言えば聞いてなかったと山下達郎さんのラジオのアーカイブを聞き出す。
その中でハッピーハッピーグリーティングが流れ,その後で達郎さんがこんな話があったと語り出す。
親戚に小さな和菓子屋を営む家があるという。名物はかりんとうで地元で親しまれてきたが,営んでいた老夫婦が揃って亡くなってしまう。手伝いだして数年しか経っていない息子夫婦が受け継いだが,どうにも上手くいかない。
最初は味が変わったとケチをつけられたという。客足は遠のき売上は激減してしまう。分量こそレシピ通りだったものの,その日ごとの微調整が上手くいっていなかったのが原因だった。だが常連中の常連だった江戸っ子のような1人の老人が辛抱強く通ってくれて,味を見続けてくれた。ここで経験を積み,どうにかコツをつかんだ頃に新たな問題が浮上する。
それは築100年を超えるという建物の老朽化だった。修繕には数千万を要するというのだ。しかし客足が戻らない和菓子屋である。見通しが立たない。諦めかけたところ,たまたまツアーの合間に立ち寄った達郎さんが一計を案じる。
達郎さんの知り合いに林業と書道教室を営む気前のいい男性がいて,間伐した材を余らせていてちょうど困っていたことを思い出し連絡をしたところ,その親戚夫婦の話に感涙した男性は無料で材を譲るので使って欲しいと言った。その材木の中には本来なら大黒柱にも使える立派な木も気前よく混ざっていたという。
その甲斐もあって,和菓子屋は修復されリニューアルオープン。事業存続も決まった。その後すぐに夫婦の結婚記念日がやってきた。それは婦人の誕生日でもあった。そこへ林業の男性が尋ねてきて,かりんとうを買い込んだ上で一筆残して帰って行ったという。
そこに書かれていたのは"五十歩一歩"。男性の座右の銘らしく,曰く「五十歩百歩の苦労はそのうち1歩にしか感じなくなる。その気づきにくいような努力をひたすらに続けよ」という意味らしい。
翌月,かりんとうのラッピングが変わった。そこには五十歩一歩という文字が輝きを放ちながら立派に書かれていた。その月,かりんとうは先代の倍になるほどの売上を残したという。
PR