今、僕は、転校生の魔法使い少女と、
山奥の湖で白鳥ボートに乗っている。
正確には、僕が魔法で白鳥ボートに変身させられ、
転校生の魔法使い少女が、漕いでいる状態だ。
帰り道の駄菓子屋で、
アイス一本で釣られ、連れてこられたんだ。
湖の周囲には人影も人家もなく、
水面は薄暗く、危険な雰囲気を漂わせていた。
もちろん地元の有名なデートコースではない。
「この湖はカルデラ湖で、
湖の直下では、マグマが滾(たぎ)ってるの」
カルデラ湖?
そんな地元民の僕も知らない事を、
なんでこの子は知ってるんだ?
「マグマが滾(たぎ)ってるって、大丈夫なの?」
「個人差はあるけど、まあ大丈夫よ」
「えっ?なに個人差って?
噴火の直撃を受けて大丈夫な個人差って何?」
「恐い?」
「恐いよ!」
「帰る?」
「帰りたい!」
「私を置いて?」
「・・・・」
「私1人じゃ寂しいよ」
この状況で帰れる男子が、
世の中にどれだけいるだろうか?
湖を見渡すとやはり、カルデラ火山ぽい・・・
大丈夫と言われても・・・やっぱ、ちょっと怖い。
僕が恐がってる間も、
ボートは湖の沖へとゆっくりと進んでいた。
魔法使いの少女がボートを漕ぐと、
彼女のお尻の柔らかさと、ふとももの躍動が、
白鳥ボートの僕に伝わってきた。
白鳥ボートじゃなかったら、
大変な事になっていただろう。
「H」
彼女は言った。
僕の気持は筒抜けらしい。
「今日はね、君の中の魔物を呼び覚ます為に来たの」
「僕の中の魔物?」
「そう」
彼女は頷くと、白鳥ボートの上でお尻の揺らした。
すりすりと・・・ふわふわと・・・
もう・・・・僕の身体は・・・・
燃え上がるんじゃないかと思うほど、熱くなった。
彼女は、燃え上がりそうな僕の中で、小声で何かを唱えた。
すると僕の背中から湯気の様なものが出た気がした。
「これは!」
背後を見ると、湯気が徐々に具現化し、
巨大な魔物が現れた。
突然の魔物の出現に、
時空は淀み、空気が震えた。
魔物は、今にも都市文明を、
破壊してしまいそうな圧迫感を周囲に放っていた。
「こんなものが・・・・
僕の中の、こんなものが暴れまわったら・・・
僕の人生はおしまいだ」
僕の戸惑いと驚きと叫びによって、
僕にかかっていた魔法は解け、
僕は人の姿に戻ってしまった。
「しまった!僕は泳げないんだ!」
慌てる僕の身体を、彼女は冷静に抱き寄せた。
背後を見ると、僕と同じく泳げないらしい魔物は、
助けの手など差し出されず、手をバタつかせながら、
カルデラ湖の底へと沈んで行った。
「あっ・・・僕の魔物が・・・」
魔物のくせに・・ちょっと間抜け。
「あれが、あなたの中に潜んでいた魔物」
彼女の胸に顔を埋める僕に少女は言った。
湖に沈んだ僕の中の魔物・・・・僕の心を大きな喪失感が襲った。
でも今はそんな事、どうでもよかった。
だって、彼女の胸がすごく優しく柔らかく、
そしていい香りがした。
せっかく彼女の胸に、顔を埋める口実があるんだ。
心の喪失感なんかにかまってる場合じゃない。
「あの魔物は、いずれあなたの元に戻ってくる。
その時までにあなたは、
あの魔物を使いこなせるだけの男に、
なってなきゃダメだよ。」
と、転校生の少女は、
僕の耳元でとっても面倒な事を呟いた。
おしまい
↓押してくれると、いと嬉。(*^o^*)
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