ライフキャリア総研★主筆の部屋

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2003年01月12日
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 そんなときは、ただ「結果」のみを求めている食事だけれども、時間と気持にゆとりのあるとき、私たちは食事に結果だけを求めるのではなく、プロセスの楽しさを要求している。

 結果だけの食事は給食やエサに近い。それは、文化的な生活から程遠いものだ。胃袋は満杯になっても、心は満たされない。

「まるでロールプレイングゲームを見ているみたいで楽しかったよ」と、タクちゃんは言った。
「それも、バグだらけのね。自分で修復できなくて、あたふた、あたふたしていて、おかしかったね」と、私。

 バンドの練習の帰り道、彼の愛車で家まで送ってもらう途中、近所にあるモ○スーン・カフェへ寄り道したのだった。彼のクレジットカードが使える深夜営業のガソリンスタンドを求めて環七から甲州街道、環八へとさまよい、荻窪近辺までドライブして戻ってきたというトホホな前置きがあったりして。

 で、スタンドで缶ジュースを飲んだら、「お腹が冷えちゃったから、どこかで温かいものを飲んで行きたいなあ」とタクちゃん。「旧山手通りへ出れば、両側にカフェがずらっと並んでいるよ」と私。

 前から一度入ってみたかったモ○スーン・カフェは、タイやマレーシアのビーチリゾート風の造りで、非日常なワクワク感を発信している。内部は天井まで吹き抜けになっており、真ん中にはディズニーランドのお化け屋敷みたいなシャンデリア。オレンジやグリーンといった色ガラスになっていて、いかにも遊園地風だ。

 空中回廊のような構造になった二階席へ案内された。すぐ近くにシャンデリアが見え、一階席と厨房を見下ろせる。大きな炎をあげて中華鍋をあやつるさまが見え、映画のチャイナタウンのセットみたいだ。

 フロア係も厨房もスタッフは全て若い男性。新しいお客が入ってくると、全員で「いらっしゃいませ!」と威勢よく唱和する。足音を立てずに中空を飛ぶような感じで厨房と一階、二階を行ったり来たり。元気いっぱいで微笑ましいと見るか、なんだか落ち着かないなと見るかはその人次第だが。

 お腹のすきはそれほどでもなかったので、生春巻きを1本ずつと、海老トースト一皿を注文した。ドライバーはプーアール茶で、私はハートランドビール。

 すぐに生春巻きと飲み物が運ばれてきて、乾杯!ガス欠ギリギリのスリル満点ドライブの後、ようやく人心地ついたって感じだった。

 タクちゃんが今夜家族のために作った晩御飯の話などをほろ酔い加減で聞きつつ、海老トーストはどうしたかなあ、遅いなあと思っていると、ハプニングが始まった。注文した覚えのないサラダが運ばれてきて、係は疾風のように去っていった。おいおい、頼んでいないよと別の係に言って下げてもらったら、ほどなくして、次はレッドカレーが運ばれてきた。これも違う。

 どうなってるんだかね。観察してみると、注文は二階、一階それぞれにセットされている端末機に入力しているようだった。恐らくテーブルのコード番号を入力し間違えたのだろう。サラダとカレーが来なくて焦れている客がどこかにいるはずだ。

 ようやく海老トーストが到着。海老のすり身がたっぷり載っていて、バターの味が効いている。揚げたては、じつにウマイ。辛いソースもうれしい。なかなかいいぞと機嫌を直した。おかわりにグラスワインね。

 ……遅い!ワインを注ぐだけで、何分かかっているんだ。ちょっと怒りながら待っていると、「お代わりはいかがですか」と、別の係が近寄ってきた。「いま、白ワインをオーダーして待っているところなんですよ」。「失礼しました、すぐにお持ちします」

 私の不機嫌指数が70に達する一歩手前でワインが到着し、続いて、「生春巻きです」の声。おいおい、またかよ。二度も違うものを持ってきたさっきの男性だった。「もう生春巻きは来て食べちゃいましたよ」。「先ほどはこちらの手違いで申し訳ありませんでした。どうぞこちらも召し上がってください」。つまりはお詫びのサービスか。

 でもね、だったら別のものが欲しかったなあ。ま、いいや。ありがたく頂戴しよう……。

「うれしいけど、おかげで余分に飲み物が欲しくなっちゃうよね」。

 あっという間にワインが空になってしまい、お代わりを注文した。またしても、遅い!その間にタクちゃんがトイレへ行き、場所を訊くついでにワインを催促してくれたようだった。

 しかし、タクちゃんが戻ってくるのはワインよりも早かった。どうなっているんだろう。

 不機嫌指数が80に達するころ、「コーヒーはお代わり自由ですので、いますぐお持ちしますね」の声。タクちゃんはプーアール茶の次にコーヒーを頼んで飲み終えたところだった。

「いますぐ」っていうのは、彼らの時計で何分を意味するのだろうか。「もういいよ」と、帰ることにした。

「お代わりのコーヒーをすぐにお持ちできなくてすみません」の声とともに、勘定書きが届けられた。見ると、案の定、注文していないサラダトレッドカレーの分が入っていた。しかも、グラスワインは合計2杯だったはずなのに、3杯。「お代わりはいかがですか」のあのやりとりのときに1杯余分にカウントしたのだろう。間違いを指摘して、改めさせた。

 つまるところ、私たちのテーブルで何が起こっているのか、そのプロセスを一から全て把握していた係は誰1人存在しなかったというわけだ。

 私たちは何なんだ。彼らのメシのタネか、ネギしょってきたカモか。威勢の良いあいさつや、丁寧な言葉遣い、腰の低さで「もてなしの心」を取り繕ったつもりだろうが、そんな化けの皮はすぐに剥がれるぞ。

 私の不機嫌指数はレッドゾーンに達し、針が振り切れる寸前であったが、「できの悪いロールプレイングゲームみたいだね」という先のタクちゃんの言葉のおかげで、微笑みを取り戻すことができた。

 一階フロアを見下ろし、スタッフの動きを観察していると、まるで機械仕掛けの人形みたいだった。命令(オーダー)がなければ、マニュアルがなければ、自ら考えて動くことのできない人形。

 彼らは何のために働いているのだろうか。客の一人ひとりが違う目的や嗜好を持っていることを、彼らは何とも思っていないのだろう。私たちを喜ばせることは、彼らの働く動機ややりがいには全くつながっていない。

 結局のところ、子どもだましだ。いい大人がこんなところへ来て、貴重なお金を落としてはいけない。

 実はこの店にしようと決める前、以前に立ち寄ったことのある店にしようかと私は提案したのだったが、「一度入った店じゃ面白くないよ」とタクちゃんが言ったのだった。彼は正しい。正し過ぎる。

 二度、三度と足を運びたくなるような店は実に少ないということだ。なんだか寂しいなあ。





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最終更新日  2003年01月13日 12時11分12秒


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