ライフキャリア総研★主筆の部屋

ライフキャリア総研★主筆の部屋

2004年03月04日
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類
 私の仕事場には電話を2回線引いてある。1つはFAX専用、もう1つは電話とインターネット兼用で使っている。ADSLなので、電話がかかるとネットが一瞬つながらなくなる不便さはあるが、来週、光ケーブルの工事が終わればそれも解消されるだろう。

 いまにしてみれば贅沢というか、身に余る装備になってしまった。FAXはコピーとの複合機で、月にリース代と保守料で3万円近くかかる。家電店ではコピー、FAX、スキャナーの複合機が4万円以下で手に入るというのに。

 しかし、20代後半から30代前半のバブルの絶頂期のころは、私にとってFAX専用回線はなくてはならないものだったのだ。

 電話は鳴りっ放し、FAXからはジャンジャン書類が送られてくるという毎日。編集部からの原稿の確認や催促、取材を申し込んだ企業などからの返答、こちらからは電話での取材や問い合わせ、そして資料にゲラの受信……。電話もFAXも同時に使える状態じゃないと、仕事が滞ってしまう。2回線を用意する必要に迫られていたのである。

 たった1人しかいない仕事場なのに。いや、だからこそだ。人間は1人、時間は24時間しかない。時間が足りなくて足りなくて、いつも焦っていた。

 気分は「ひとり編集部」。忙しかったけれど、「あれもできる、これもできる、なんでもお任せ!」という全能感のようなもので漲り、ハイな状態だった。

 クライアントは20社を軽く超えていた。いつも10本以上の雑誌や広告の仕事を同時進行で進めていて、おまけに単行本の自著やゴーストライターの仕事も抱えていて、取材に出るときは他の取材先や編集者の連絡先を書き込んだ分厚いシステム手帳を持参し、取材が終わると公衆電話で留守電を確認し、外からメッセージに答えるなんてことを毎日のようにしていた。昼休みの1時間が恨めしく、5時を過ぎても対応してくれる大企業の広報部が有り難かった。

 企業と電話が通じなくなると、いよいよ執筆タイムの幕開け。11時なんて、まだまだ可愛い時間だ。深夜の1時や2時といった時間帯とディープなお付き合いをしていた。「カンテツ」で一睡もせずに夏の強烈な日差しの下、ふらふらと取材に出向いた日もあった。

 思えば、私も「タイム・プワー、マネー・リッチ」で、モーレツに働いた時代があったのだ。すっかり忘れていたけれど。



 遊ぶヒマもないし、恋人なんてものも存在しなかったから、お金はどんどん貯まった。食べて飲むことしか楽しみがなかったので、体重もどんどん増え、ストレスのせいか、ひどいアトピー性皮膚炎に悩まされた。友達と旅行に行くと、「夜中に背中をボリボリかく音が聞こえたよ」といわれたものだ。

 若かったから、できたのだろう。まさに右肩上がりの急カーブの成長期だった。人生にはそういうモーレツな時期があってもいいのかもしれない。

 だからといって、「若い頃の苦労は買ってでもせよ」などと若い人たちにお説教するつもりはない。いまはインターネットや携帯電話という便利なものがあるので、当時よりも数倍効率よく仕事ができる。

 よく言われるように、量的なものよりも質を問われる時代になってきたので、睡眠不足で朦朧とした頭脳では追いつかないし、目先の仕事をこなすのに精一杯で新しい知識が技術を吸収することができなければ、要求水準以下の質しか達成できないだろう。

 恥ずかしい話だが、モーレツに書き飛ばしていた時代は、筆が荒れていたのではないかと思う。粗製濫造のそしりを免れない。凡ミスも多かったし、製品の価格を一桁間違えるといった大ポカもあった。

 ただ、あんなにモーレツに忙しかった時代のほうが、むしろよく勉強していたかもしれない。産業カウンセラーの養成講座には1日も休まずに通ったし、社団法人の事務局の手伝いまでしていた。消耗するだけでなく、キャパシティを広げるという見地からすると、あのモーレツぶりには意味があったのだ。

 それでも、モーレツな時期を無理して続ければ、職業人としての寿命も、人間としての寿命も縮めることになるだろう。

 仕事というのは、他者の期待に応え、その報酬として高い評価を得るところに「やりがい」があるわけだが、その繰り返しのうちに、他者=仕事への依存状態になってしまう危険がある。お酒、買い物、麻薬、セックスと同様、仕事だって楽しくて楽しくてやめられず、アディクションになってしまうのだ。

 仕事中毒を防ぐには、自分の内なる声に耳を傾けることが必要ではないだろうか。

「私はそれを、本当にやりたいのか」
「私はそれを、本当にやるべきなのか」



 モーレツでなくなったいまの私は、自分と相談する時間はたっぷりある。本当にやりたかったこと、本当にやるべきことの輪郭が、だんだん見えてきた。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2004年03月04日 15時12分31秒


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X

Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: