ライフキャリア総研★主筆の部屋

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2006年01月23日
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 これもまた、ある映像作家から聞いた話。

「一人っ子政策」をとる中国の現状を描くドキュメンタリーの一場面。二人目を妊娠したことを隠していた村娘が、無理やり役人に病院へ連れて行かれて、強制的に堕胎させられる、その顛末をカメラが捉えた。

 当の役人は、「ここまで徹底的に一人っ子政策を実施しています」という自己宣伝のつもりでカメラを入れたらしいが、人権思想の行き渡った自由主義国家で暮らす私たち日本人には衝撃的過ぎるシーンだ。

 テレビで放映された後、映像作家はある視聴者からの手紙を見せられた。そこにはこう書かれていた。

「私はあんな残酷な国に生まれなくてよかったと思いました」

 映像作家は猛烈に反省したという。自分は中国政府のやり方を告発するためにあのドキュメンタリーを撮ったわけではない。あの作品では「人間が描けていない」と。

 ああいうことをしてしまうのも人間。それを見ているあなたと同じ人間だ。

 映像作家があのドキュメンタリーを通じて言いたかったのはそういうことなのに、見る人には伝わらなかった。それは、自分の表現能力が至らなかったからだと反省したのである。

 その言葉を聞いて「すごい人だなあ」と私は思った。



 誰だって、そんな悲惨さを自分で背負いたくないものだ。ましてや、愛する人にそんな思いをさせたくない。平和で安穏とした場に家族とともにいながらにして、遠くの国で起きている悲惨な出来事の「高見の見物」ができる幸せを素直に喜びたいと思うのも人情である。

 悲惨な現実に直面している人々に対する「共感能力がない」という批判はきびしすぎるだろう。

 告発調のドキュメンタリーを作る人々は、義憤にかられて告発し、見る人の問題意識を呼び起こそうと考えているのだろうが、その意図に反し、「自分でなくてよかった」という反応を引き出してしまう。結局は他人事である。

 一方、そこに人間が描かれていれば、殺す側も殺される側も同じ人間であり、自分はどちら側にも立ち得るのだという、肌に粟がたつような生々しい共感を引き出す。見ている人は「人間の業」の深さを思い知らされ、震撼するだろう。

 人間を描くというのは、大変な仕事だが、意味のある仕事だ。





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最終更新日  2006年01月23日 10時59分30秒
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