Accel

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February 18, 2013
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 日が、平原の向こうに落ちていこうとしている・・・
 どこからともなく漂ってくる甘い香りに鼻をヒクヒクさせながら、茶色の髪の少年は、再度辺りを見回した。
 もう少し南に、なにか建造物が見える。
 あそこまで歩けば、もしかして身を隠して横になる事ができるかもしれない。


 茶色の髪を持つ少年は、セルヴィシュテ。
 15歳となったばかりであった。
 ついこのあいだまで、皮でできた鎧を身につけていたが、焼けてしまった。
 その下に着ていた茶色の服も、あちこち焼けて穴さえ開いていた。
 少年、セルヴィシュテは、やや後ろを歩く相方に目をやった・・・




 ずっとこうやって、一緒に歩いてきた少年、ラトセィス。
 なにが、と言われればうまく説明できないが、不思議な、引き寄せられる感覚を、ずっとこのラトセィスに感じていた。

 つい先ほど、このハザの王家の者である、といきなりラトセィスから告白を受け、セルヴィシュテ自身についても、この少年はかなり考えをめぐらしていた。
 いきなり父親が教えてくれた、自分の出生の秘密・・・
 ハザのお姫様の、子供だ、ということ・・・・

 そういえば、お母さんの国は、どこにあるんだろう・・・


 セルヴィシュテは、腰の布に触れた。
 この行動も、もはや癖となりつつある。


 「いい匂いだねえ」
 セルヴィシュテは、勤めて明るい声をだした。

「この時期はプーフですね・・」

 一度、言葉を切ると、帽子に触れながら言葉を続けた。
「黄色の果物です。
 どこかでその木を栽培しているのでしょう・・・」
 二人は、少しだけ西を見ていたが・・・


 さて、茶色の髪の少年の目星どおり、小さな村らしき影が見えてきた。
「ラトス、どこかの家に泊まれるといいね」
 セルヴィシュテは、少し足を速めた。


 村は、本当にこぢんまりとしており、少年達は、老夫婦の家に泊めてもらっていた。
 若い者が珍しいらしく、ぜひうちにと、何件からも声がかかった。
 セルヴィシュテは一番年をとっている夫婦の家に泊めてもらうこととしたのだった。

 老夫婦は、あまり色々聞いては来ず、まるで自分の子供のように少年達を可愛がり、自分達が使っていたと思われる暖かい毛布を提供までしてくれた。
 が、少年は、年老いた老人の体を案じ、逆に老人達の体を揉んでやったりするのであった。

 老人達は比較的早く眠りにつき、少年達は小さな蝋燭を前に向き合って、ぼんやりとしていた。
 考えて見れば、こうやって、何という訳でもないが、向き合っているなんて、今まであったかどうか・・・

 「・・・・」
 セルヴィシュテは、向かいのラトセィスをちらりと見た。
 なんだか、ひどくはかなげに見える・・・
 今にも、はたりと、消えていきそうだった・・・

「ラトス・・・
 どこか、苦しいのか・・・?」
 セルヴィシュテは、ちょっとドキマキして聞いてみた。
 なんだか、切ない思いがこみ上げていた。
「いいえ」
 ラトセィスの声が、短く応える・・・

 ラトセィスは、床に転がって頬杖していたのを解き、ぺたんと横になった。
「ただ、苦しいと言えば、こころ、ですかね・・・」
 横を向いて転がったラトセィスの頭部を見ながら、セルヴィシュテも床に横になった。

「こころ・・・?」
 セルヴィシュテは天井を見ながらつぶやいた。

「あの、黒い髪の方が・・・
 何度も私に言ってくださいました。
 真実を見つめなさい、と。」

 一旦ラトセィスの言葉が途切れ・・・
 少しだけ静かな夜の音のみとなった。
「・・・
 最初は意味が判りませんでしたが・・・
 私は、真実からずっと、目をそむけていたのです・・・・
 私の仕えた者が間違っていた、という事に・・・・」

 ラトセィスの声が・・・震えていた・・・。
 セルヴィシュテは、胸が熱くなって、体を半分起すと、少しラトセィスににじり寄った。

「だけど、だけど、ラトスは、そうする以外考えられなかったんだろう?」
「・・・そうですよ」
 あっさりと、ラトセィスは答えた。皮の帽子を顔に被せていた・・・。


「ただ一つしか見えなかったのです。
 そうするしかないと思っていました。
 でも、間違っていると・・・気が付いてはいました・・・
 他の道があることは、本当は・・・・気が付いていたんです・・・
 それに気が付かないふりをして、進んでしまったのです・・・」
 ラトセィスの肩が小刻みに震えていた・・・

「ラトス・・・」
 セルヴィシュテは、言葉が詰まってしまった。
 目を硬く閉じると、また床に横になった・・・・
 左脇の蝋燭が見える・・・

「お、俺も、かも・・・・」
 なにげなく・・・そう、言ってみた。
 セルヴィシュテは、両手を頭の下に当てて、ぼんやりと言った。
「俺もさ・・・
 よく見えないままに、ここまで来たんだ・・・
 それしかないと思ってさ・・・・
 でも、もしかして、誰かを傷つけているのかな・・・・」

 ラトセィスが、向こうで、ごろりと寝返りを打つのを感じた。
「・・・セルヴィシュテは、本当に、ハザは初めてなのですか・・・・」
 聞かれたセルヴィシュテは、どうしたものかと、頭を廻らした。
 このラトスと同じく、ハザの血を引く者だと・・・教えていいものだろうか・・・・


「・・・本当かどうかはわからないけど・・・
 俺ってさ、ハザから、来たらしい・・・」
 と、ラトセィスが、音を立てて起き上がった!
「・・・!?」
 ラトセィスが、ものすごい勢いでこちらを見据えている!
 セルヴィシュテも、思わず、起き上がって、相方と向き合った!

「・・・お、俺も、今まで、言わなくて、悪かったよ・・・
 ただ、親父との約束だったんだ、他には言わないって・・・」
 ラトセィスは、しばらくセルヴィシュテを見つめていたが、少し、顔を俯けた・・・。


「・・・だから、こっちに、俺の親が、いるかも、しれないと、思っていたんだ・・・
 なんだか、でも、だんだんどうでもよくなってきたけれど?
 それよりさ、ラトスが、なんかを探しているっているって、すごく感じていたんだ・・・
 だから、俺はいつも俺の目的を探していたけど、お前の目的の事もも、探していたつもりだよ・・・」

 と、ラトセィスは、顔を背けてしまった。
「・・・・どうしてですか・・・・」


 しん・・・
 急に、闇が濃く感じた・・・
 ラトセィスの横顔が、ひどく切なく見えた・・・

「どうして?って・・・」
 セルヴィシュテは、なぜか心臓がチクチクと痛む気がした。
 ラトセィスと、こうして、旅の目的について・・・
 根を詰めて話した事がなかった。
 今まで、前に進むのに夢中すぎたのだ・・・
 いや、話そうと思えばいつでも話せた。
 でも、話の核心に触れることができないから、話せなかったのだ・・・・。

 今、その核心に触れてしまっている以上・・・・
 どんどんこうやって、話の中身が濃くなっていくのが避けられないことに、セルヴィシュテは恐れを感じてきた・・・。


「そ、そうだな・・・・
 やっぱ、なんだろうな・・・
 俺がなにかを探しているのが、必死だったように、お前にも、なにか必死なものがあるのを、感じたからかな・・・」
 セルヴィシュテは、ちょっと床を指で突きながら言った。
「それに、いつも、ラトスは、辛そうで寂しそうだったからかな・・・」

 すっかり後ろを向いてしまったラトセィスに、もうかける言葉が見つからず・・・・
 セルヴィシュテは、耳元を掻いて、どうしたものかと何度か頭を捻った。
「俺、一緒に探すよ・・・
 ラトスがみつけたいものを・・・・
 お前が大事なものなんだろう?
 俺のみつけたいものはさ、俺は、自分の中では、もう一区切りできたんだ・・・
 俺がさ、どういう生い立ちかなんて、もうどうでもいいんだよ。
 俺には優しいお父さんがいてさ、あっちに戻ればまたいつものように暮らせるんだ・・・」


 セルヴィシュテは、ゆっくり床に転がった。
「・・・ラトスは、大事な妹を、みつけたいんだろう・・・
 みつけようぜ・・・
 そして、なんだかっていう、悪いやつも、やっつけちゃおう・・・
 どうにかなるさ・・・」

「セルヴィシュテは・・・」
 ラトセィスが、夜風に溶け入りそうな声で言ってきた。
「あなたは、判っていないのです、あいつの恐ろしいちからが・・・・」

 セルヴィシュテは、茶色の瞳を開けて、天井を睨んだ。
「どんなに恐ろしくても・・・
 ラトス、どれほどに恐ろしくても、なによりも恐ろしいものがあるんだ。
 知っているか・・・」

 ラトセィスがちらりとセルヴィシュテの方を見たのを感じた。
 セルヴィシュテは、そのままの姿勢で、毅然と言った。
「・・・それは、諦めることだよ、ラトス。
 信じるものと、恐れるものは、俺ら人間が決めていくんだ・・・
 だから、お前が最初に信じたものは、それはそれで正しいんだ。
 だけど、それを正しくないと思って、違うものをみつめていく、それも、正しいんだ。
 恐れるものは、俺ら人間が恐れているものであって・・・
 だから、それに打ち勝つのも、俺らなんだよ・・・
 諦めたら、勝てないだろ」

 セルヴィシュテは、体を起し・・・
 ラトセィスとしっかり向き合った。

「こころが負けたら、負けだ!
 信じて進む!
 そうだろう!?」


 二人の少年は・・・
 数秒、熱い視線を合わせた。

 しばらくすると・・・
 ラトセィスは小さく頷いた。
 セルヴィシュテも、微笑んで頷いた。


 ひたすらに・・・・
 見えぬものを追って、探って、ここまで来た。
 見えてきた。
 みつけるべきもの。


 そう、己のつまらない人生の隠された部分など、些細なことである。
 事実はもう既に伝えられてある。

 これまでに、感じたことのない、つながり・・・
 うまく説明できない、この繋がり・・・

 だけど、このことにも、なんの説明などいらない・・・
 この、つながりを、感じる、ラトス。

 ラトスが求めるものなら、俺も求めるとも・・・・

 そして、ラトスが立ち向かうというなら!俺も立ち向かう!

seru-rato05.jpg




 われらのかみ
 みつめたまえ
 われらのこのいくべきすがたを
 われらのかみ
 あたえたまえ
 われらのいくべきみちを

 われらのかみ
 みちびきたまえ
 われらのいくべきみらいを

 いくひさしく
 われらをみつめ
 あたえ
 みちびきたもう
 われらのかみ

 いつから
 われらのてんじょうから
 おすがたをかくされたか

 なるべきすがたはみえず
 みちもみえず
 みらいもみえぬ

 かみよ
 われらのぬしよ
 ふたたびわれらのまえに




   いや、みつける・・・・・・


 ほろり・・・・

 ちいさく・・・・

 だれかの声が・・・・

 つぶやいた・・・ 



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Last updated  February 19, 2013 12:21:16 AM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
風とケーナ @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) 月夜見猫さま、こんばんは♪ いつも本当に…
オスン6757 @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) おはようございます。 いつもありがとう…

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