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2005年10月31日
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スポンサーである株式会社タートルに掛かってくる電話がどうもただ事ではなく、回数も日に日に増えていったのです。
事務所の借賃の換わりに電話番と事務を代行することが約束でしたから、タートルに掛かってくる電話は全て伝言など受けてFさんかSさんに連絡しなければなりません。
前にも言ったように当時はポケベルですから、受けた当人が連絡をしてこなければどうやっても連絡のつけようがありません。
そのうち頻繁にかけてくる先方も段々態度が荒くなってきます。

「てめぇ、名前なんて云うんだ?いつまで待たせんだ、このヤロー!」

てな口調になってくると、事務お手伝いのMちゃんはさすがに怖くなって近くにいる委員長やヒロシに電話を変わります。

「逃げ隠れしてねぇで電話よこすように云え!」

「ほんとにそこにいねぇんだな?今から行って確かめるぞ、こらぁ」


そんな内容をFさんに伝えると逆にこめかみをぴくぴくさせて、「今朝も極○の奴ら数人がウチに乗り込んできやがったから蹴り倒してやった」とか云い出す始末です。
さすがに委員長もこれはちょいとやばいんじゃないかと昇ちゃんに相談しました。

「なんかさ、手形割とかやってるらしいんだけど、ちょっとやばいかもな」

昇ちゃんも同様に感じていたようです。

二人の心配が現実のものとなるのも時間の問題でした。
ビルのオーナーから事務所の閉鎖が言い渡され、即刻退去を求められました。
もともと家賃など払っていたわけでもないし、出て行けといわれたところで居座るほどの執着もありません。
そしてこのあたりが大変要領の良い委員長は、早速中村マーちゃんにトラックを借りてこさせ事務所のカウンターだの事務机だのをしっかり持ち出しました。
ついでにリースのコーヒーメーカー・セットなども積み込んだ一行は、すばやく手配した引越し先の原宿まで手際よく運び出したのでした。(まるで夜逃げだよね)
この頃すでにFさんもSさんもほとんど顔を出さなくなっていましたから、御両名に代わって備品は持ち出し、お預かりしておきましたというような言い訳で通すつもりでした。

どうもドタバタ劇には慣れっこになってしまったのか、こういう土壇場で指揮官のようなテキパキとした動きは委員長自身驚くほどの手際のよさで、数名の若手DJ達を使ってさっさと引越しを完了させてしまいました。

しかしこの事務所開設の経緯って、今にして思えば「企業舎弟」ってやつですか。
結局、この飯倉の事務所閉鎖以降FさんにもSさんにも会うことはありませんでした。

エスメラルダが原宿に移ってから数ヶ月が過ぎたある日、委員長と昇ちゃんは歌舞伎町のトゥモローエースで坊主頭に左手小指にグルグル捲きの包帯も痛々しいFさんと偶然再会したのでした。本当に偶然のことでしたが、初めて委員長たちがFさんと会ったのもこの店でした。
家具の持ち出しで多少後ろめたい二人はドキドキしながら挨拶すると、「最後まで面倒見れなくてごめんな。オレもこんなになっちゃたからさぁ」そういって包帯に捲かれた左手小指を上げるFさんでした。

「君達には何か迷惑はかからなかったか」



「人生には辛いこともあるけど、君たちはまだ若いから頑張って成功してくれよ」

相変わらず明るいノリのFさんでした。

昇ちゃんや委員長にとっては心強いスポンサーを失ったことになりましたが、いずれは別の道を行くことは解りきっていたことでしたし、長くは続かないであろうこともよくわかっていた二人でもありました。
それでもこの出会いは、ガムシャラに突き進むしかなかったエスメラルダの船出に加速をつけることのできた幸運なチャンスだったと今でも思っています。
とかく見栄が重要なポイントとなるこの業界にあって、エスメラルダ設立のハッタリは売名行為という面からは大変インパクトのある滑り出しでした。
もしこれが原宿の小さな事務所からのスタートであったなら、これほどの短期間で人材集めからハコ取りまで多角的には進まなかったことでしょう。

すべては結果論かもしれませんが、意図せず意識せず、偶然の出会いから生まれたこの成り行きが委員長と昇ちゃんの人生の流れを変えたといっても過言ではないでしょう。
まさに人との出会いが人生を織り成していくということを身を持って理解した出来事でもありました。

飯倉の事務所を出て、今度こそ正真正銘自分達の力で借りた新しいエスメラルダ本部は、原宿の竹下通りを抜けてちょっと奥に入ったところにある二階建てのモルタルアパートでした。
小さな企画会社やデザイン工房などがオフィスとして使っているような6畳一間のこじんまりとした部屋には、あの飯倉の事務所から勝手に持ち出してきた豪華な応接セットやカウンターが置かれ、このちぐはぐな感じがまさにエスメラルダに相応しい雰囲気を醸し出していました。
それでもメンバーはみな一様に落ち着いたというか、自分たちらしい場所に収まった心地よさか和気藹々と再出発を祝ったのでした。

株式会社エスメラルダの事務所が原宿に移り、スーツにネクタイはとっとと辞めて革ジャンスタイルになった委員長は、ヒロシやホリと共に事務所の電話番なども務めたりしておりました。この頃にはハコ取り店舗も相当な数に昇り、それに伴ってエスメラルダ所属の新人DJもやたらと数が増え始め、委員長の知らない顔も随分とおりました。元々会社経営なんてできるタイプではありませんから、会社ゴッコもネクタイを外した途端にヒロシ任せになってしまい、委員長はただ先輩ヅラして事務所でグダグダしているだけでした。(道楽者の本性が現れましたね)

この頃のエスメラルダはサム岡田を筆頭に大学生のアルバイトDJみたいなやつらも結構いて、人生を博打にしてしまったようなアホな奴らはなぜかこういったやつらのグループとは相性が悪く、ともすればいがみ合いになったりもしました。
その昔ジュリーや委員長がみつぐ氏とかと折り合いが悪かったように、いつの時代も学歴組と落ちこぼれ組みたいな対立がどこにでもあったわけです。
(どのみち皆ろくでもないゴミ野郎だったんですけどね)
そしてマネージャー役のヒロシの傲慢さとも対立したりしていたので、知らぬ間に派閥のような群れが出来上がってしまいました。
西武線沿線で田無のジュリーを中心にまとまった、花見、サム岡田、ヒロシ、そして見習いの多くがヒロシの下に付きました。
更に中央線沿線高円寺亀屋マンションを中心として、シンジ、ユウジ、ヤスオ、コジャ、加えてニック・グループという感じの色分けが自然と出来上がっていきました。

当然委員長の周りに寄ってきた連中はアホの王道を行くような連中ばかりでしたから、委員長が漫画や週刊誌で聞きかじった屁理屈をこねくりまわしたりすると、みな押し黙って聞き入り、やっぱりロニーさんは凄いとか尊敬されたりしておりました。
何が凄いんだかよくわかりませんが、昔から委員長の言動は人を左右してしまうようで、本人すら意味の判らない単なる受け売りでも人になんらかの影響を与えてしまうという少々危ない才能があったのかもしれません。(イエスの箱舟かぁ?)

ともかくいい加減な世界の中で、更に落ちこぼれて集まってきたような奴らの知能レベルがどの程度だったかは大方想像が付くと思いますが、本人が望んだわけでもないのいつの間にか皆に持ち上げられて兄貴分のような存在になってしまった委員長でした。

持って生まれた才能か、親に感謝すべき特性とも云える「勘の良さ」だけは確かにあったように思えます。それと、水商売を長くやっていると幅広いバカ野郎を嫌というほど見てきていますから、アホな奴がアホなことをするとどういうことになるかくらいは大抵見当が付くので、アドバイスが的確だったという点も後輩に慕われた理由かも知れません。
特にDJなどというお調子者の代表選手のような仕事をしていると必ず女性関係ではトラブルを起こしがちですから、根本的なセオリー(なんじゃそりゃ)とか生き延びる術とかを伝授したり、あるいは筋の方々とのお付き合いの仕方とかを教えていくうちに実際にトラブルに巻き込まれたヤツの尻拭いなどもさせられるようになってしまった委員長でした。
そんな自慢にもならないバカのバカ話がいつのまにか武勇伝になり、更に尾ひれが付き、加えてダンサーだのバンドだのと過去の経歴がハッタリになって、自分では知らないうちに偶像のようなものが生まれてしまったようでした。(やれやれ)





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最終更新日  2005年10月31日 07時05分57秒
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