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2005年11月10日
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案の定、噂は瞬く間にエスメラルダ内部に広まり、尾ひれの付いた武勇伝となって若手DJの間でもてはやされていました。
結局は普段から憎まれていたヒロシが原因を作ったことになってしまい、ロニーが犠牲になって暴れるハメになってしまったというようなストーリーがまことしやかに語られていました。

委員長としても今更そんな噂話に出張っていって、本当はこうだったとか、ヒロシがどうの委員長がどうのとか話す気にもならず、どうせ噂なんていい加減なものだからそのうちに飽きてくるだろうと思っていました。
正直なところ手は出さなくて良かったと思っていました。
もしあそこで本当に乱闘になっていたとしたら、菊○店長や、エスメラルダのメンバー達にも余計な面倒をかけさせていただろうし、やはり暴力沙汰は評判の良いものではありません。

昇ちゃんには正直に全てをあるがままに話しましたが、彼も顔に似合わず短気なところがありましたから、「こうなったら金○グループが東京で仕事できないようにしてやる」などと委員長の気持ちを察してくれたようでした。

「俺達が今までやってきたことの裏返しだから、金ちゃんだけが悪いわけじゃないよ」

素直に思ったとおりのことを昇ちゃんに伝えた委員長ですが、その金ちゃんにしてもいずれは渋○みたいな陰険なヤツの罠にはまっていくであろうことは目に見えていました。

そんな風に考えるようになった自分にも驚きましたが、ディスコというものへの執着がこれほど薄れてしまっている自分にも気が付きました。
これから先何をすれば良いのか、どこに行けば良いのか、先の見えない委員長はこの時、ただ生活のために目先にあるディスコのDJを続けているだけの自分をようやく冷静に知ることになったのでした。

マジックを辞めてしばらくは何も手に付かずただぼんやりとした数日を過ごしました。
そして革ジャンのポケットから出てきた一枚の紙切れ、そこに書かれた電話番号が委員長を更なる空虚な世界へと誘ったのでした。

受話器の向こうは懐かしい隠微な声がはしゃいでいました。

「ずっと待ってたんだぜ。でも嬉しい」

「会おうか?」

「今さぁ、私、渋谷で遊んでんだよね」

昔のままのミキを演じるミキ。
落ちこんだ日々が続く委員長の心は情けないほどに誰かの慰めを期待していました。
とことんドロップアウトして修羅場を見てきた彼女なら、ひょっとして今の自分のこの気持ちを解ってくれるのではないかという、自分勝手な思い込みから彼女に電話した委員長でした。

そしてそこに現れたミキは年齢とかけ離れたティーンエージャーのファッションに身を包み、まるで少女のような素振りで委員長に語りかけてきたのです。
まるで年齢を逆行していくかのように振舞う彼女は、委員長が偶然六本木で再会した時に抱いた印象と同じく、過去の暗い思い出と共にどんよりとしたムードが漂っていました。

「○○ちゃん、久しぶりね」

何年かぶりで間近に見る彼女の笑顔は、その人生と年齢を如実に映し出していました。
たぶん彼女の目に映った委員長もそれなりの顔をしているのだろうなと思い、やはり時代を遡ることもやり直すこともできない虚しさがつのりました。

そしてこの匂いは昔どこかで確かに触れたことのある感触でした。

そんな空虚な気持ちで半ば無気力な委員長は、ミキに誘われるまま渋谷のキャンディ・キャンディというディスコに行きました。
そこには六本木で彼女と一緒だった大学生の彼氏が来ていて、ここであらためてミキは委員長を彼に紹介したのです。

何年も前の彼女との出来事が鮮明に蘇り、この時初めてこのミキという女が少し理解できたような気がしました。
たぶん彼女は、こんな男と女の駆け引きの世界にしか自分の「生」を感じることができないのでしょう。たとえ他人がどう思おうと、誰が傷つこうと、そのゲームの中にしか自分を見出すことができないのではないかと思えたのでした。
たぶん彼女にとっての現実とはこのゲームの中でしかなく、それ以外の全ては陽炎のようなもので、昨日も無ければ明日もなく、今ここで繰り広げられようとしている男と女のマインド・ゲーム以外のところに存在する彼女自身も単なる抜け殻なのでしょう。
皮肉なもので、今ようやく彼女のことを理解できた委員長は既にゲームオーバーしたギャラリーにしか過ぎず、今更リセットしてプレーヤーを演じる情熱も感性も失っていました。
そしてこの時、委員長が感じていた彼女の発散する独特の匂いが、委員長の遠い記憶からひとつの感触を蘇らせました。
それは委員長がその昔、新宿のQ&Bというディスコで出会ったアリスという年増のヨーパンと関わった時の手触りと同質のものであったことに気が付いたのでした。

自分の存在、自分の生をまっとうできる唯一の瞬間がそこにしかなく、心が生きていることを実感できるたったひとつの場所をこの男と女の情念の世界に見出したとも言える彼女たちは、その充実した時間を自分の思いのまま費やすということにおいては、ただ凡庸と毎日の生活に流されている委員長たちよりはよっぽど幸せなのかもしれません。

どうやら学生風の彼氏は年上のミキのゲームの中にズッポリと沈み込んでいる様子で、その姿は数年前にミキの作り出した舞台で踊らされていた委員長そのものでした。
二人の男の間に挟まれて嬉しそうに少女を演じるミキの大きな瞳は、その昔委員長が彼女と揉めるたびに味わった、まるで人の心の奥底を覗きこむような醒めた冷たい視線を送り込んできます。

「酒、飲まないんですか?」

精一杯背伸びをして委員長に対抗してくる青年はグラスのウィスキーを呷ります。

「ボクは酒飲みなんですが、人間、先に酔っ払った方が勝ちだと思ってますから」

ミキがじろりと委員長の顔を覗き込みます。

「どお?こんな感じなんだけど、可愛いでしょ?」

彼女が委員長に何を言わせたいのか、そして彼女は何を演じたいのか、そんな考えが浮かぶ委員長の返答は無言でしかありません。
そんなところへこの店のDJの○場君が委員長に挨拶にやってきました。
そう、ここもエスメラルダのハコ、そして彼もエスメラルダの社員です。
彼はこのつい最近までヒロシとギャラのことで揉めていたので、気になった委員長は彼に率直な客観的アドバイスを二言三言しました。

この頃のエスメラルダのソロバンは完全にヒロシが仕切っており、金を稼ぐことに異常なまでに執着していたヤツらしい強引なやり方がしばしばDJ達との衝突を起こしていました。
ただ、それも云ってみれば社長の昇ちゃんや委員長のスケープゴートになっていたわけで、悪役を一手に引き受けたヒロシはエスメラルダの番頭とも言えるべき存在でもありました。
それでも委員長は自分の経験も含め、この先この業界でメシを食っていくのなら自分というものをしっかり持って、小さなことでも有耶無耶にせずはっきりとモノを言っていかねばならないなどというようなことを説教したりしました。
そんな偉そうなことを云える立場ではなかった委員長ですが、自分がだらしなかった分だけ反対に、後輩にはしっかりと進んで欲しかったという気持ちからでした。

そんな委員長の自己満足的なお世話なノーガキがひと通り終わったところで、ミキが委員長をチークダンスに誘ってきました。
彼女の小さな肩を抱いた時、自分にはもうこのゲームに参加する意思がまったく無いことをはっきり悟った委員長でした。

「ねぇ、今夜これからどうするの」

もう昔のようにはお互い遊べないんだよ。言葉にはできませんが彼女と会ったことを悔やむ委員長でした。

「さっきの○○ちゃん、カッコ良かったよ」

そう言われても心はどんどん醒めていくばかりの委員長。
と、ここで「I LOVE TOKYO」がかかりました。
出来すぎだろ、いくらなんでもそれはって思われるかもしれませんが、正真正銘の実話です。(神様からの危険信号その1だったのかなぁ)

「I LOVE TOKYO~」思わず口ずさんでしまった委員長。

ミキが体をグッと押し付けてきました。

「歌ってよ、もっと」(完全に入ってますね)「お願い、歌ってよ」

ごめん、もうオレはプレーヤーじゃないんだ。

まったくの期待はずれの再会でしたが、自分から会おうと誘った手前このまま一人で帰るわけにも行かず、仕方なく委員長はもう一軒だけ付き合うことにしてミキと彼氏を赤坂のシンデレラに連れて行くことにしました。
赤坂シンデレラには同じ釜の飯を食った仲のリトがいます。
リトもすでにエスメラルダからは外れて独自の人生を歩き出していました。
そんな旧友に会えばまた慰めにもなるだろうという気軽な気持ちから、委員長は二人を伴って赤坂TBS前のシンデレラへ入って行ったのです。





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最終更新日  2005年11月10日 06時54分01秒
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