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2005年11月22日
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それでも夏の気配を感じさせるこの匂いは、またしても懲りずに道楽者へ甘い誘惑を運び込んできます。
ぼちぼち長袖から半袖に衣替えが始まり、肌を露出する人達に出会うたび夏の訪れに胸がときめき、憂鬱な心の中にも少しだけ生暖かい風が吹き抜けていきます。

1981年夏の初め、相変わらずのボヘミアン生活が続く委員長は思いがけない女性から電話を貰い戸惑いましたが、これも関わった以上はどこかで終わらせなければならない精算業務とあきらめ、赤坂シンデレラの正面にあったピザハットで会う約束をしました。
その相手とは、例のリト君を苦しめている「嫌がらせ事件」、今で云うストーカーの容疑者でもある女性でした。
原宿で張り込みまでした委員長の努力の甲斐もなく、結局は犯人も判らぬまま日が経っていましたが、相変わらず週に一度から二度の割合で無言電話は続いており、この頃ではリト君も慣れてしまったのか、さほど恐れなくなっていました。
もちろん限りなくクロに近い彼女とはもう会っていないようでしたし、無言電話以上の行為にエスカレートする様子もなく、次第に影の薄くなっていった嫌がらせでもありました。

なんで彼女が委員長と会うことを望んだのか知る由もありませんが、どうせなら彼女の壊れた心をいくらかでも矯正して、こんなつまらないことを一刻も早くやめさせることができればと想い、会うことにした委員長でした。

時間通りやってきた彼女は委員長に会うなり、明るい表情でハワイのお土産と称するTシャツをプレゼントしてくれました。


「どう?相変わらずリトのところ、嫌がらせ続いているの?」

「ああ、無言電話らしいんだけど週に1~2度はあるみたい」

「私の方はあれっきり止まったようだけど、それにしても困ったわね」

一体何のために委員長に会いに来たのかよく分かりませんでしたが、とにかくこの娘も寂しいことだけは確かなようでした。
何だかオカルトじみていますが、この頃の委員長は相当に精神的に落ち込んではいましたが、直感だけは以前にも増して冴えていて、時には回りの人間が驚くほど心の動きを掴めたりすることがありました。

彼女の場合も同様で、彼女が委員長に聞かせてくれたハワイの楽しい話もどこか感情移入のない虚ろな話でしかなく、ハワイではしゃぐ友達に混じってお土産を買う相手もいない彼女の寂しい姿が委員長の心の中に浮かんできて、この娘の人生の疎外感が何となく伝わってきました。

「ところであなたは何の仕事してるの?」

委員長の問いかけに何故か勢い良く反応した彼女は、堰を切ったように職場の話をとり止めもなく話し出したのでした。
彼女は大型病院の看護婦で拘束時間も長くキツイ仕事であることや、病院内の複雑な人間関係、時には医師と看護婦の不倫の話や患者さんとの過ちの話など、それはそれはこと細かに説明してくれました。
ここで委員長は彼女がこのストーカー行為の犯人であることを確信したのでした。
まず、無言電話の掛かってくる時間が時には早朝であったり、深夜であったり、昼間であったり、極めて不規則であったことがひとつの疑問でしたが、彼女の勤務状況ならば手が空きさえすればいつでもできることです。


人の生命を預かる職業に就こうと云うくらいの人間ですから、たぶん元々は心の優しい向学心の高い娘なのでしょう。そんな純な気持ちが現実との軋轢の中で生まれた矛盾を消化できずに、それすらも自身で背負い込んでしまった結果がこんなつまらない嫌がらせ行為に走った理由かも知れません。
しかし、よりによってディスコDJ、しかもフィリピン人と付き合うなんてまるでストレスを増幅させるような行為です。いや、現実逃避が強かったからこそ非現実的なものを求めたのかも知れません。(ってあんたは精神分析医か)
もちろん実際のところは彼女自身しか分かるはずもありませんが、委員長の頭に閃いた直感はこんな感じでした。
とり止めもなく話す彼女の話を辛抱強く聞き役に回って受け止めてあげた委員長は、ひととおり彼女の話が終わったところで言ってあげました。

「あなたはこんなところでつまらない人生を送る娘じゃないよ。だから今までのことはもうすっぱり忘れて普通の女の子としてやり直した方が良いよ」


そして声も出さずに小さく頷いて席を立ちました。

「Tシャツのお礼にお店に招待しようかなと思ってたんだけど、止めとくよ。こんなとこに出入りしないでもっと健康的なことをした方が良いと思うよ、じゃあ」

委員長の言葉の意味を理解してくれたかどうかは分かりませんが、ピザハットを出たところで彼女とは別れました。

その夜、委員長はリトのアパートに行ってことの顛末を報告しました。
リトは、彼女が何故委員長に会いにきたのか、更にTシャツまで買ってきたのか訝しげでしたが、そんなことは委員長ですら本当のところは分かりません。
ただ、これでこの嫌がらせは終わるであろうことを断言した委員長でした。

ところがそこでまた電話が鳴り、リトが恐る恐る出るとなんと相手は男性で、過去にリトとつきあって遊ばれた女の代理だと言って怨みつらみをぶつけているようでした。
いつもの委員長ならここですかさず怒鳴りあげて、反対にやり込めてしまうところですが、どうも彼女が作った別の因縁に思えてしまい、リトから受話器を取ると落ち着いた口調で諭すように話しかけました。

「男と女の付き合いは他人が口を挟むことじゃないよ。それに姿も見せずに一方的に嫌がらせをするのは卑怯なんじゃないの。もしその女の子がリトに腹を立てているのなら、こんな形で代理人なんか立てないで本人が会ってきちんと納得のいくように話をすれば良いんじゃないの」

こちらが穏やかに話したせいか相手も拍子抜けしたようで、ゴチャゴチャと屁理屈を並べていましたが、「なんならボクが間に立って話を聞くから会って話そうか?」という委員長の問いかけに「じゃあ後で電話する」と言って電話を切りました。
この男がどういうつもりで電話をしてきたのか、その代理を頼んだ彼女とどういう関係なのかは全くわかりませんが、少なくともこのリトという人物に関わった出来事だけが、その彼女のまわりの対人関係で唯一の繋がりのように思えました。
被害者になりきることで周囲との関係を保っていたというところでしょうか。
漠然とした委員長の直感でしたが、そんな解釈をしてリトに説明しました。
この日を境にイタズラ電話も収まり、ようやくこの事件も解決をみることになりました。(メデタシ、メデタシ)

人生を面白可笑しく生きてきた委員長たち道楽者はみな、それなりの道楽のツケが回ってきているわけで、自分がしてきたことの精算はやはり自分自身でつけていかなくてはいけません。あらためてそんな風に思えた委員長は、赤坂にアパートを借りて住むことを決意しました。とは言っても先立つものもないし、以前ほど使えるお金の余裕もありません。そこで後輩のユウジを巻き込んで安いアパートを二人で借りることにしました。
それは赤坂での夏の始まり、26歳の誕生日を迎えたころでした。





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最終更新日  2005年11月22日 06時44分25秒
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