ナイチンゲールの世界 (20)
昨日の記述に対し、病院の環境改善の費用はどこから出たのかという、御質問を戴きました。
昨日記したことの外にも、お金のかかる改革は』ありました。食堂から2階に患者用の食事を上げるリフト風の装置の建設(エレヴェーターはまだありません)がそれです。そして最も多額の費用を要したのが、看護婦の待遇改善のための、給与の引き上げでした。
女性の仕事の中でも、最も卑しい仕事の1つと蔑まれている看護の仕事は、実は病人や怪我人の命を救うための、非常に大切な仕事です。「ここに来る患者は、どうせ助からないのだから…」と言った投げやりな態度で、手抜きばかりするのは許さない。
フローレンスは、看護婦達にこう厳命しました。そして施設長の彼女自身が、率先して働くと共に、病院の理事長に対して、無給の奉仕活動をしている教会関係者を除く、看護婦給与の改善を願い出たのです。
慈善院の付属病院ですから、病院経営は寄付で成り立っています。フローレンスを施設長に推薦したハーバート夫人も理事を務めていたのですが、こうした上流階級の名士の口添えで、寄付を集めるのです。
実は、病室に取り付けた、看護婦を呼ぶための紐を引くとベルが鳴る装置や、2階に食事を運ぶためのリフトなどなどは、フローレンスが自分のポケットマネーから出していたのです。彼女の父が生活費として、叔母を介して送ってくれたお金です。そこは英国でも指折りの大地主です。金銭に対する感覚が我々とも違ウのですね。わずかな額と思っている金額で、かなりのことが出来るのです。
それでも、看護婦の給与を大幅に引き上げるには無理があります。大きな病院だけに、看護婦も多いからです。こちらはハーバート夫人の出番でした。彼女は、自分や夫の知己に幅ひろく声をかけ、十分な資金を、病院のために確保してくれたのです。
一国二国民と呼ばれるほど、上流階級と庶民の階級格差の激しいイギリスですが、ここではイギリスの上流階級のいわば善い面が、奔流のように積みあがったのです。
フローレンスは、会計係や理事達の反対に会っても、決してへこたれず、何度も足を運んでは、諄々とその必要性を説き、遂には説得してしまう力量の持ち主でした。理事達は、フローレンスに対し、「背が高く細身であるが、鉄の心臓を持った女性」と、評していました。 続く
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