HANNAのファンタジー気分

HANNAのファンタジー気分

January 5, 2025
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カテゴリ: 映画と原作
「ロード・オブ・ザ・リング ローハンの戦い」 字幕版を観てきました。貸し切りとまではいかないけど数人しかお客がいないのはちょっと寂しい。
 神山健治が監督というので 数年前から期待していたのです 。その期待がちょっと大きすぎたのか…とてもキレイで真面目な古典的?アニメーションでしたが、すばらしさに息を呑む、というほどでもなかったような。

 まずアニメ自体ですけど、背景の雪峰とかすばらしいんです。最近の技術進歩でしょうね、ほぼ実写な美しさ。人物や馬もリアルを追求していて、顔立ちも体型も動きも、不自然な誇張や簡略化、デフォルメなどがなくほぼ実写。つまりそう、もう実写でいいじゃん、という感じなんです。
 それなのに、どうしても実写に比べて、鎧兜の細かい装飾とか質感とか、馬の筋肉の動きとか、野戦や吹雪の凍てつきぐあい(例えば眉毛に雪がついて凍るとか、濡れて汚れるとか、きっとあるでしょう)は、のっぺりしちゃうんですね。エンディングで出ていたスケッチの方が味がある。かといって3Dの(私にとってはいまだに慣れない妙な)立体感もない。
 あとからパンフレットを読んだら、原案ではアニメに向かないほどキャラクターの「線」が多かった絵を実写のプロデューサーたちからの要請で「最小限に…減らした」のだそうです。いや、間を取ったあげくちょっと中途半端になってません???
 これがディズニーだったら、いくら実写版が次々出ていても、ディズニー独特の顔やデフォルメやリズム感などがあって、ディズニーファンは嬉しい。ジブリだったら平面手書きでも、ああジブリらしくていいなあ、となる。
 ところがこの作品は、ヒロインのヘラ、槌手王ヘルムをはじめ外見が一般的すぎて、いや伝説だから典型的でいいのかもしれませんが、何というか個性がない。誰からも批判を受けないように、原作や実写映画の評判を落とさないように、気を遣ってキャラクターをデザインしましたね?って言いたくなります。


 ストーリーも、原作を大きくふくらませたのですから、思い切ってもっともっと掘り下げたり、オリジナルな展開も入れたらよかったのにと思います。原作リスペクトは大変結構ですが、角笛城に援軍の到着する場面は「二つの塔」とほぼおんなじです。百年以上も前の話なんだから、同じように坂を駆け下るのではなく、もっと何かこう…工夫があってもよかったのでは。
 だって、朝陽を背に援軍を率いてくるなら、物わかりの良い忠義者という以外に特徴のないヒロインの従兄弟くんよりも、そりゃあガンダルフの方が感動的に決まってます。いくら従兄弟くんがヘルム王の兜をかぶっていてもね。

 そのヘルム王も、たった数行の原作の方が鬼気迫っています;

  …白い装束に身を固め、単身城を出ると、まるで雪トロルのようにのっしのっしと敵の野営地に乗り込み、素手でたくさんの人間を殺した。かれが身に寸鉄を帯びなければ、どんな武器もかれを刺すことはできぬと信じられていた。…[中略]…かれは食物が見つからない時には人間を食べたといわれている。  ――トールキン『指輪物語』追補篇 瀬田貞二訳

 アニメのヘルムは、気がふれて怪物化するかな?と思ったら、なんだか心温まる父娘のホームドラマ風になってました。いや、「最強のヘルム王、実は不器用でいい父」でも良いのですが、もっともっと野性的な騎馬民族の英雄だったと私は思いたいのでした。

 これもパンフレットによると、「ロード・オブ・ザ・リング」の終わった後、実写版でこれ以上つくるのはさすがに無理で、じゃあアニメでは?という話になった、ですって!
 実写を目指してつくるからこうなっちゃったんですね。私はアニメという表現形態が好きなので思うんですが、せっかくアニメにするのだから、アニメにしかできない表現や効果をどーんと出してほしかったですね。最近は実写でも夢のようなキャラや場面がつくれてしまうので、難しいですが、だからこそ実写のドキュメントみたいにたんたんと見せるプラス、もうひと味ほしかった。
 たとえばウルフの最期。リアルにあっさりしてました。国の最後の守り手である盾の乙女が、盾を使ってウルフを圧死させる、というアイデアはすごくいいと思いましたが、ここはクライマックスですから、もっとひきのばしてアップにして、首がちょん切れるくらいやっちゃっても…って、スプラッタは嫌いなんですけど、ふと、平家物語の巴御前が敵を「鞍の前輪に押しつけて、ちっとも動かさず、首ねぢ切って捨ててんげり」という壮絶な戦いを思い出したのです。この時代のローハンの内乱は、平家物語ぐらいの迫力があってもいいのじゃないかしら。

 などなど、原作への思い入れというか妄想というか、そういうのが脳内に渦巻きながら観たものですから、すごく辛口の感想になってしまいました。
 いや、普通に面白かったし、各方面へのリスペクトと努力のあとを感じる作品でした。象(ムキマル)がどうやってゴンドールを突破してローハンに現れたのか知らないけど。ダメなウルフの描写がいちばん良かった気もするし、ね。





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Last updated  January 6, 2025 12:00:01 AM
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