悠久の唄 ~うたの聴けるブログ~

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ゆうとの428

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2005年10月26日
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   17. 御対面事件


 「鉄兵…。」
香織の声で私は眼を覚ました。
「其処は暑いから、布団の方で寝れば?」
「…、うん…。」
「彼女、帰っちゃったわよ。」
「…え? 
ああ…、そう…。」
私は起き上がった。

「…まあね。」
私は煙草に手を伸ばし、一本銜えた。
「寝ないの?」
「うん。
此れから寝ると、汗を掻きそうだ。」
私の部屋は朝日がまともに差し込んだ。
「はい、此れ…。」
香織が差し出した紙切れを、私は受け取った。
其れには説子の字で、昨夜の御礼とお詫びが書かれていた。
「あなたを起こそうとしたんだけど、彼女が起こすのは悪いって云うものだから…。」
説子は眼を覚ますと、頭が痛いと云ったが、バイトが有るので失礼するわと告げ、私に手紙を書いて帰って行ったそうだった。

彼女も大変だな。
お早う、ノブちゃん。」
「あ…、お早う御座います…。
ゆうべは布団を取っちゃって御免なさい。」
ノブは香織の横で、相変わらず微笑みを浮かべて居た。

唯…。」
「どうせ私は客じゃ無いわよ。
でも私はノブの好意で布団に入れて貰ったの。
あなたも頼んで、入れて貰えば良かったのに…。」
「頼もうとしたんだけど、二人共グーグー寝てたからさ…。」
ノブはうっすらと頬を赤らめた。
そして私は腹が減ったと云った。
「そうでしょうね。
ゆうべは御苦労様だったもの。」
時計を視ると、9時15分であった。
「赤いサクランボ」へ行こうと言う事になったが、ノブは自分はいいから二人で行って来て欲しいと云った。
「どうして? 
三人で行こうぜ。」
「そうよ。
ノブ、行きましょう。」
ノブは我々に遠慮しているのか、自分は部屋で待って居ると重ねて云った。
私と香織の二人でモーニングを食べに出掛けた。
「ノブったら、何遠慮してるのかしら…?」
「でもノブちゃんてさ、始終にこにこしてるね。」
「そう…?」
「元々そう言う顔なのかな?」
「どう言う意味? 
彼女に失礼じゃない?」

 「あなた高校時代、バスケット部だったんですって? 
栗本さんだっけ? 
彼女から聴いたわよ。」
私と香織は「赤いサクランボ」を出て、三栄荘に向かっていた。
「彼女も途中まで、バスケ部に居たんですってね。」
「ああ。
彼女は膝を悪くしてね。
其れで辞めたんだ。」
「まあ、そうなの…。」
空は雲一つ無く、よく晴れていた。
昼から又暑くなりそうだった。
「でも驚いたわ。
あなたって、スポーツ・マンだったのね。」
「あれ? 
そうは見えなかったかい?」
「だって不健康な生活許、してるじゃない。」
「運動神経は良い方なんだぜ。」
我々が三栄荘の門の前迄来た時、中から一人の女性が出て来た。
「あ、鉄兵…。」
其の女が私の名を呼んだ。
美穂だった。
私は愕き、一瞬彼女が何故此処に居るのか解らなかったが、直ぐに思い出した。
其の日は、美穂と鎌倉へ行く約束の日だった。
香織は私の側から2、3歩離れた。
「あら、お友達?」
香織が私に訊いた。
「ああ…、大学のサークルの…。」
私は云った。
正に青天の霹靂であった。

 其の光景に私は、何とも云い難い違和感を感じていた。
美穂と香織が、向かい合って坐って居た。
ノブは香織の隣で、黙って様子を見詰めていた。
其れは私が曾て、想像した事の無い光景だった。
「あの…、香織さん…、でしょ?」
美穂が云った。
「ええ。
名前を知ってて呉れて、有り難う。」
「…どう致しまして。」
「其方らの名前を、未だ伺ってなかったわね。」
「ああ…。
同じサークルの富田さん…。」
私は美穂を紹介した。
「初めまして…。
学校はどちら?」
「学生に見えるかしら?」
「あら、御免なさい。
てっきり…。
じゃあもう、お仕事を…?」
「いいえ。
一応学生は学生だけど、代々木の東京観光専門学校。」
「ああ…。
専門学校なの…。」
陳腐だと、私は思った。
私は殆ど口を開かずに、煙草を吸って居た。
「とにかく、私は出直すわ…。
変な時に、来ちゃったみたいだから…。」
美穂はそう云って、立ち上がろうとした。
「あら、帰る事ないわよ。
用事が有って来たんでしょう?」
「ええ、まあ…。
でも…。」
「帰るべきなのは私達の方だわ。
あなたはどうぞ、居て頂戴。」
私は黙っていた。
「さあノブ、帰るわよ。」
香織は立ち上がった。
「あ…、はい。」
ノブは慌てて自分のバックを手にした。
香織はさっさとドアへ歩いて行き、ノブも後を追う様にして、二人は出て行った。
美穂も立ち上がると、廊下へ出て、階段を下りて行く香織達に声を掛けた。
「あの…、御免なさいね。」
「あら、どうして謝るの? 
謝られる筋合いなんて無いわ。」
香織は振り返ると、きっとした調子でそう云った。
二人は三栄荘を出て行った。

 「彼女を怒らせちゃったみたいね…。」
部屋へ入り直してから、美穂は云った。
「御免なさい。
お取り込み中、失礼して…。」
「否。
当然だが、悪いのは俺だ。」
漸く私は口を開いた。
「そうよ。
一体どう言う事? 
確かに約束したわよねぇ。」
急に眼を強張らせ、私を睨む様にしながら彼女は云った。
「ああ。
約束した。」
私は、約束をすっかり忘れていた自分を恨んだ。
(まるで、三流ドラマだな…)
香織の言葉も、普段の格調は感じられず、唯の厭味だったと私は思った。
「さてと…、どうする…?」
美穂は、坐って窓の外を見詰めながら云った。
「お天気は申し分無いんだけど…。
鉄兵ももう、シラけちゃったみたいね…。」
彼女の口調は何処か淋しそうだった。
私は何も答えずに、洗面用具を持って部屋を出た。
1階の台所で、顔を洗い次に髭を剃った。
歯を磨いて部屋へ戻ると、トレーナーとジャージを脱ぎ、プル・オーバーのシャツとファーラーのスラックスに着替えた。
美穂は未だ窓の外を視ていた。
「さあ、行こうぜ。」
私は云った。
「…行くって、何処へ…?」
彼女は振り返った。
「鎌倉に決まってんじゃん。」
「行っても好いの?」
「君が行きたくなくなったのなら、仕方無いけど…。」
美穂は立ち上がった。
「さあ、行きましょう。」

 「でも今朝は驚いたわ…。」
鎌倉の帰りに、電車の中で美穂は云った。
「ノックしたら、知らない女の子が出て来るじゃない。
一瞬、部屋を間違えたのかと思ったわよ。」

── ノブは美穂に
「彼は朝食を食べに出掛けたけど、もう直ぐ帰って来ると思います。
どうぞ部屋に入って待って居て下さい。
私は其の、彼の友達の友達で、偶然今、留守番をしているだけだから…。」
と、云った。
美穂は
「いえ、いいんです。
又来ます。」
と云って、理由の解らない儘に外へ出たのだった。 ──

「だけど、ノブちゃんだっけ? 
彼女はとても感じの好い娘だったわ…。
…香織さんと違って。」
電車は次第に東京に近付いて行った。
私は「若し、私と言う人間が存在しない世界で、香織と美穂が知り合ったとしたら、二人は友達になれただろうか?」と言う事を、考えていた。
然し直ぐに、考えるのを止めた。
(俺が居ないのなら、彼女等が友達になれたかどうかなんて、俺には関係の無い事だ…。)
「君はテニスには、行かないんだって?」
翌日からは、サークルのテニス合宿だった。
「うん。
友達との旅行と、重なっちゃったの。」
「何処へ行くんだい?」
「北海道。
好いでしょう。」
私は朝の埋め合わせを考えて、二人だけで何処かへ旅行しようと云った。
「本当? 
嬉しいわ。
でも無理してるんじゃない?」
「無理なんかしてるものか。
遠い処へ行こうって云っただろう。
何処へ行くかは、君が北海道から帰って来る迄に考えて置くよ。」
「うん。
楽しみにしてるわ。」
電車は品川に到着した。


                           〈一七、御対面事件〉





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Last updated  2007年02月15日 00時58分42秒
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文章  
夜朱鷺 焔  さん
とても、現実的な文章でびっくりしました。すごいです。
あ、それからボクのサイト「ポエムHOMURA」来てもらえてうれしいです。 (2005年10月26日 08時11分47秒)

大変貴重なコメントを、  
ゆうとの428  さん
どうもありがとうございます。。
現実的・・・。。そう、シロウトですから、リアリズムだけが生命線だと思って書きました。。 (2005年10月26日 13時48分04秒)

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