悠久の唄 ~うたの聴けるブログ~

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ゆうとの428

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2005年10月26日
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   18.同棲週間


 私の所属する「徒歩旅行愛好会」は、其の名の通り、元々徒歩旅行を目的としたサークルであった。
然し其の活動内容は、夏休み前半のテニス合宿、後半の国内旅行、秋の温泉旅行、冬休みのスキー合宿、春休みの国内旅行、が主なものだった。
テニス合宿は、7月24日から26日まで軽井沢で行われた。
合宿と言っても、大会に備えての練習と言う様な事では無く、唯遊び気分でテニスをしに行くだけであった。
そして軽井沢から帰って来た時、7月半ばから或る程度予想されていた通り、私の経済情勢は大いに悪化していた。
7月27日の朝、私の財布には千円札1枚しか無かった。
仕送りが振り込まれる銀行の口座にも、利子しか残ってなかった。
其の夜夕食を終えた時、私の所持金の総額は200円であった。


 7月28日、私は文字通り一文無しとなった。
午前10時頃、一度眼を覚ましたが、又寝た。
11時に再び眼が覚めた。
もう眠れなかった。
私はテレビを付けた。
部屋の中は暑くなって来たが、動けば腹が減ると思い、じっとして居る事に決めた。
外へ出ても、何処へも行けなかった。
冷房の有る喫茶店へは勿論行けず、電車にも乗れず、電話さえ掛ける事が出来なかった。
私は布団の上に寝転がり、テレビを眺め続けた。
時計の針は緩慢に、少しずつ時を刻んだ。
午後1時を廻った頃、煙草が終わった。

私は初めて危機感を覚えた。
テレビが3時のワイド・ショー番組を始めた時、階段を上って来る足音が聴こえ、足音が止むと、私の部屋のドアをノックする音が響いた。
「朝日新聞ですけど。
集金に参りました。」
私は息を潜め、黙っていた。

私はじっとして、「早く諦めて帰れ。」と念じた。
もう一度ノックの音がした。
「朝日新聞ですけど…。
鉄兵、居るんでしょ?」
私はやっと、声に凄く聴き覚えの有る事に気付いた。
私は立って、ドアを開けた。
「NHKですけど。
ちゃんと受信料払ってますか…?」
香織は云った。

 「此の部屋も暑いわねぇ。
サテンへでも行きましょうよ。」
香織は手で、顔に風を送りながら云った。
「そうだな。
でも…。」
「でも、どうしたの? 
行きたく無いの?」
「否、行きたい。」
「じゃあ、行きましょう。」
「でも…。」
「何なのよ?」
「…金が無い。」

 「さだひろ」で、注文した「ハンバーグ・ライス・セット」がテーブルに置かれるや否や、私はフォークだけを右手に持ち夢中で食べ始めた。
「本当に、ゆうべから何も食べて無いみたいね。」
香織はアイス・ティーをストローで飲みながら云った。
「其れで若し私が来なかったら、どうする積もりだった理由? 
10円玉も無くて。
誰かが来る迄、あの部屋でじっとしてる積もりだったの? 
ずっと誰も来なかったら、飢え死にだわねぇ…。」
私は口に食べ物を入れた儘、喋り掛けた。
「いいわよ。
食べ終わってからで…。」
空いた皿にフォークを置くと、私は「さだひろ」に来る途中、香織に買って貰ったセブンスターに火を点けた。
「俺は今朝、蓑虫になったんだ…。」
「蓑虫? 
何其れ?」
「自分に『俺は蓑虫だ。』と暗示を掛けた。
そして、じっとしてたんだ。」
「なる程…。
夏の蓑虫ね。」
「本当は君が来て呉れると思ってたのさ。
日曜の中に軽井沢から帰って来るのを君は知ってるし、唯おとといの夜か昨日来ると思ってたから、少し不安になってたけど…。」
美穂とのあの事があった後なので、少なくとも彼女の方からは当分逢いに遣って来ないであろう事は、充分考えられた。
柳沢もフー子も帰省してしまったし、他の金を借りられる知人は皆区外に住んで居るので、其の日の夜迄に香織が顔を見せなければ、此方から飯野荘へ出掛ける積もりであった。
然し私は、香織は急度遣って来ると確信していた。
「昨日来ようと思ってたのよ。
でも急にクラスの娘等が、海へ行こうって云うものだから…、行っちゃったの。
そうと知ってれば、誘いを断わって昨日来たのに…。」

 「ねえ、3時過ぎに食べてるから、未だ余り御腹空いて無いかしら…? 
もう少し遅くに作りましょうか? 
でも何も食べて無かったんだから、もう空いてるかしら?」
部屋の時計は、午後6時半を少し過ぎていた。
「君が食べたい時間に合わせて作れば好い。
買ったのも作るのも、君なんだから。」
「私は何時でも構わないのよ。
貧しいあなたの為に作るんだから。」
「じゃあ、もっと遅く、…8時頃に食べれる位が好いな。」
「そう。
そうするわ。」
香織は「西友」の袋から取り出し掛けた夕食の材料を、袋の中へ戻して、私に寄り添った。
「其れで、お金はいつ入るの?」
「はて…? 
いつかな?」
「ちゃんと見通しは有るんでしょ?」
彼女は私との夏休みの予定の為に、確認して置きたいらしかった。
「仕送りは確か月末だったわよね。」
「8月分の仕送りは、多分来ないと思うな。」
「そうなの? 
じゃあ、バイトするの?」
「俺、バイトはしない主義なんだ。」
「しない主義って、お金が無きゃ仕方無いでしょ。
どうやって生活する積もりなの?」
「どうしよう?」
「呆れた人ね…。」
私は彼女の膝の上に頭を乗せ、横になった。
「まるでヒモね…。」
彼女は云った。
「まるでは、余計だ。」
「私、生活力の無い男って嫌いよ。」
「嫌いで好いから、食べさせて呉れ。」

 「さっき、バイトはしない主義って云ったけど、どう言う事なの?」
テレビを視ながら食卓を囲んだ時、彼女は訊いた。
「バイトはしない事に決めてるんだ。」
「どうして?」
「俺達、卒業すれば厭でも働くんだぜ。
なのに学生の間から、好き好んで働く必要なんて全然無いさ。
しなくて済むのに、わざわざバイトして喜んでる連中は馬鹿だ。」
「又、大人の真似をしてる子供って云いたいの?」
「うん。
其の通りさ。」
「学費なんかの為に、必要でバイトをしてる人だって居るのよ。」
「勿論そんな人々に就いては、語るも恐れ多い事だ。
俺が問題にしてるのは、暇だからバイトしてる連中の事さ。
俺達は、殆どの者が、年を取るに連れて、周りの状況はどんどん悪くなって行くんだぜ。
夢が一つずつ消えて行くみたいに…。
悪くなっていると感じない人間は、何も感じない人間さ。
未だ自分が好い場所に居るものだから、悪い状況を真似てみる事に、快感を覚えるんだ。
何れは自分の周りもそうなる事を、其れが必ず悪い状況である事を、認識出来ない者は馬鹿さ。」
「そうですか…。
女の子に面倒を看て貰いながら云っても、余り説得力が無いわね。」

 其の日から香織は、私の部屋で私と寝起きを供にする様になった。
我々は朝眼を覚ますと、布団の上でセックスをした。
「起き抜けで、よくやる気になるわね。」
「君は厭かい?」
「厭じゃないけど…。」
「イタリア人は朝、セックスをするんだぜ。」
「へえ、そうなの。
ソフィア・ローレンも、そうなのかしら?」
「勿論そうさ。
だから、いつも眼の下に膜作ってる顔をしてるじゃない。」
彼女が作って呉れた朝食は、トーストと目玉焼きと、レタスとキャベツの刻んだのであった。
私は珈琲を煎れた。
彼女は紅茶の方が好きだったが、朝は私と一緒に珈琲を飲んだ。
朝食を済ませると、我々は又セックスをした。
彼女は、ガラス・テーブルの上の皿とコーヒーカップを片付けると、部屋の掃除を始めた。
「部屋に居ると、埃を吸っちゃうわよ。」
と彼女は云い、私はお金を貰って外へ出ると、パチンコ屋へ行った。
午前中のパチンコ屋は、客が疎らであった。
暫くすると、掃除を終えた彼女も遣って来て、二人でパチンコをした。
パチンコ屋を出ると、我々は西友へ行き、彼女は夕食の材料や日用品を買った。
三栄荘に戻ると、部屋の気温は既に、可なり高くなっていた。
私は又彼女の身体を求めようとしたが、肌を近付けただけで汗が出て来そうなので、中止した。
我々は部屋を出て、中野駅の方向へ歩いて行き、ブロードウェイの2階で遅い昼食を食べた。
「映画でも観ましょうか? 
部屋に帰っても暑いし。」
「俺は止めとくよ。
君に此れ以上金を使わせるのは、忍び無い。」
我々は丸井へ行き、涼しい店内をブラついた後、インテリア売場のソファーの上に長い時間坐って居て、店員に厭な顔をされた。
夕方部屋に帰ると、彼女は夕食の準備を始めた。
食べ終えると、彼女は食器を洗ってから、オレンジ・ペコを煎れた。
私も一緒に飲みながら、二人でテレビを視た。
午後11時頃、我々は「神田川」を唄いながら銭湯へ行き、帰りに缶ビールを買った。
そして夜の遊戯を充分に楽しんでから、眠りに就いた。


                            〈一八、同棲週間〉





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Last updated  2007年02月16日 00時07分48秒
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