悠久の唄 ~うたの聴けるブログ~

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ゆうとの428

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2005年10月29日
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   22. 金縛りについて


 「ねえ、行ってみ為さいよ。
無くて元々なんだから、好いじゃない。」
「厭だよ…。」
香織は銀行へ行って、一応口座を確かめてみるべきだと云った。
「君は、そろそろ仕送りが有る頃だと思って銀行へ行き、未だ入ってなかったと言う経験が無いのかい? 
あれは惨めだぜ…。
一番最悪なのが、有ると思い込んで金額ボタンを押して、残高不足の表示が出た時さ。
後ろに順番待ちの人が居て、其れを見られたりしたら、何とも云えぬ気分を味わう事になるんだ。

明細票の残高の処をチラッと視ると、周りの人に覗き見されるのを恐れて、直ぐにくしゃくしゃに丸めるんだ。
仕送りが未だ来てなかった、と言う落胆が顔に出ない様、態と表情を造って銀行を出て行く時の、あのやる瀬なさと云ったら…。」
私と香織は中野通りの舗道を、中野駅へ向かって歩いていた。
「じゃあ、私が行って来て挙げるから、カードを貸し為さい。」
早稲田通りとの交差点の角に在る第一勧銀の手前で、彼女は云った。
私は暗証番号を告げ、キャッシュ・カードを差し出した。
彼女はカードを受け取ると、銀行の中のキャッシュ・サービス・コーナーへ入って行った。
私は舗道で煙草を吸いながら待っていた。
彼女がボタンを押している後姿が見えたが、直ぐに眼を逸らして車道の方を視た。
やがて彼女は出て来た。
彼女は少し残念そうな顔をしながら、「はい。」と私に明細票を渡した。

そう云うと、私は明細票を視ない儘、手の中でくしゃっと丸めて路の上に捨てた。
「あら、駄目よ。
こんな処に捨てちゃあ…。」
香織は私の捨てた紙屑を拾い上げた。
「どうして中を見ないの?」

私は黙って歩き出した。
彼女は走って私の前に廻り、面白がる様に私の顔の前へ、皺になった明細票を突き付けた。
私が其れを手で払い除けようとした一瞬、紙の右下の辺に、先頭を1にした六桁程度の数字が見えた気がした。
私は彼女から紙を奪うと、取扱残高に眼を落とした。
彼女は笑い出していた。
「流石…、役者を目指してるだけの事は有るな…。」
「良かったわね。
矢っ張り、優しい親御さんだったじゃない…。」
私の経済は回復を見た。

 蒸し暑い夜だった。
私の部屋には、私の他に香織と世樹子とヒロシが居た。
「でも、幽霊って本当に居るのかしら…?」
其の夜は三栄荘で焼肉パーティーを行った。
「俺はね、脳生理学の進歩は何れ人間の思考のメカニズムを完全に解明すると思う…。」
食事の後、部屋の電気を暗くして、皆で知っている怪談を1つずつ話し合った。
「心の仕組みが暴かれると思うんだ…。」
怪談が終わった後も、部屋には未だ恐怖の余韻が残っていた。
「そして幽霊と宗教は、此の世から姿を消すのさ…。」
時計の針は、午前1時を指していた。
「脳細胞理論だけが、信仰の対象となるだろう…。」
私は云った。
「幽霊は居ないって事…?」
「居ないだろうな。
急度…。
でも、居て呉れる事をいつも願ってる。
若し幽霊が此の世に実存するなら、其れは素晴らしいロマンだ。
そう思わないかい…? 
幽霊が居て呉れる事に因って、他の様々な神秘、怪奇現象、…ロマンを信じ始める事が出来るんだぜ。」
「でも矢っ張り、怖いよな…。」
「怖い…? 
どうしてさ? 
俺は生まれて此の方、幽霊に取り殺されたと言う新聞記事を読んだ事は無いぜ。
多分、彼等は何もしないんだよ…。」
「じゃあ、金縛りは…?」
「金縛りか…。
其れは、どうも本当みたいだな…。
身近な奴が沢山なってるもの…。」
「金縛りは本当よ…。
私の友達にも、よくなってた娘が居るわ…。」
「柳沢は、なった事が有るって云ってたぜ…。」
「俺のクラスに柴山って奴が居てさ、そいつは中学の頃から高校の終わりまで頻繁に金縛りに逢ってるんだ…。
初めて其れに繋った時、彼は未だ金縛りと言うものを知らず、唯愕いたらしい…。
柴山が2度目に逢った時の話が面白いんだ…。」

── 柴山は其の夜、いつもの様に布団の中で上を向いて寝て居た。
浅い眠りに就いて暫くした時、柴山は突然眼を覚ました。
「又だ…。」
前の時と同じ様に、身体が全く動かなかった。
そして布団が、異常に重かった。
まるで膝の辺りに、何かが乗って居る感じだった。
「重い…。
脚の上に何か乗ってる…。」
柴山は布団の上を視た。
「…!」
布団の上には、老婆が坐って此方を視ていた。
柴山は至上の恐怖を味わった。
然し身体が動かないので、唯眼を固く閉じて耐えて居た。 ──

 「怪談より余っ程迫力が有るわね…。」
「金縛りに逢ってる間は、必ず幽霊を視る事が出来るらしいな…。
でも金縛りになれる者ってのは決まってるみたいで、同じ者許が何度もなるんだ…。
俺は柴山とか、金縛りに逢った経験をしてる奴等が羨ましい…。」
「鉄兵君は逢った事無いの…?」
「ああ…。
残念で仕方無いが、無い…。」
「好いじゃない、無い方が…。」
「どうして…? 
幽霊が視れるかも知れないんだぜ…?」
「金縛りってのは、一体何なんだろうな…?」
「心霊現象じゃないの…?」
「実は俺、金縛りに就いては、興味が有って色々と研究したんだが、体験してる奴等が皆臆病で、中には絶対眼を開けない奴とか居て、情報が不足気味なんだ…。
大体解ってるのは、先ず眠る時にしかならない事だな…。」
「其れは、当たり前なんじゃないの…?」
「大事な特徴さ…。
脳が完全に覚醒してる時間には金縛りにならないって事は…。
布団に入って眠り掛けた時や、一度眠ってしまって再び眼が覚めた時に繋るんだ…。
そして、上を向いて眠った時に繋り易い…。
後、疲れた日の夜に繋り易いらしい…。
見える物については、大体人間で、白いボーッとした物ってのも多いみたいだ…。
柴山は、部屋の中を人形が走って行って壁に消えたり、部屋に有る椅子が、くるっと廻ったりした事が有ると云ってた…。
繋る年齢は、13歳から18歳位迄で、20歳を過ぎると余り繋らないらしい…。」
「其れで、研究の結論は出たの…?」
「まあね…。
勿論、此れは俺の推測なんだが、一度眠りに就いてから、突然、脳の或る部分だけが覚醒するのではないかと思う。
身体は未だ眠ってるのに、脳だけが眼を覚ますのさ。
だから、手足が動かないんだ。
そして其の時、幻覚を視るのさ…。」
「幽霊は幻覚だって云うの…?」
「ああ…。
恐らく間違い無いだろう…。
金縛りは夢では無い…。
幻覚なのさ。」

 8月9日の夜、私は香織と世樹子の二人と一緒に、サン・プラのロビーに居た。
「鉄兵君、明日帰るの?」
「うん。」
「じゃあ、香織ちゃん御見送りに行くんでしょう? 
二人で確り別れを惜しんでね。」
「私、行かないわよ。」
「あら。
其れは冷たいんじゃない…?」
「明日はエキストラのバイトが有るの。
世樹子も知ってるでしょ…?」
「あ、そっか…。
でも鉄兵君、可哀相ね…。
一人で帰るの…?」
「うん。誰にも見送られず、一人寂しく広島へ帰るのさ…。」
「…可哀相。香織ちゃん、バイトなんて休んじゃい為さいよ。」
「もう行くって云っちゃったから、休めないわよ。
そんなに可哀相って思うなら、世樹子が見送りに行って挙げれば…?」
「そうね…。
私、行って挙げても好いわよ。」
「おお。
是非、そうして貰いたいな…。」
「鉄兵君が私なんかで良ければ、本当に行っても好いわよ。」
「でも、一人で帰るって言うのは、嘘よ。」
「あら、そうなの? 
鉄兵君。」
「…そう言えば、川元が一緒に帰ろうって云ってたかな…?」
「川元君に指定席券まで頼んであるのよ。」
「なぁんだ…。
じゃあ、私が行く必要も無いわね…。」

 8月10日、私は川元と博多行きの新幹線に乗った。
新横浜駅を通過した頃、川元は既に眠り始めた。
私はウォークマンを聴きながら、窓の景色を眺めていた。
(東京の水は結構俺に合ってるみたいだな…。
始まりの4ヶ月は、先ず先ずの出来映えって処か…。)
私は前期の東京生活に満足を感じていた。
香織と、美穂と、みゆきの事を考えていた。
(…お前は創造家では無かったのか?)
突然、意識の奥から、微かな問い掛けが聴こえた。
(お前は価値有るものを創造出来たのか…? 
お前が満足しているのは、俗な女性関係だけではないのか? 
4ヶ月の間、お前は何をした? 
自己完成への努力をしていたと、云えるのか? 
お前の本当の望みは…。)
(俺に期待するなよ…。)
私は意識の奥の声を遮った。
(俺に期待なんかしないで呉れよ。
もう少し遊ばせて呉れよ。
その内、ゆっくり始めるさ…。
でも、多分…、価値有るものなど、創れはしない…。)


                          〈二二、金縛りについて〉





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Last updated  2007年02月20日 01時08分38秒
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