夢のようだね

ニセモノ [ 玉置浩二 ]

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ニセモノ 』十一曲目、「夢のようだね」です。

アコギの重ね録りにちょっとシンセで「ホワンホワン」と厚みを増すくらいで、ごくごくシンプルなアレンジのバラードです。「 大切な時間 」「 星になりたい 」「 愛を伝えて 」の系譜上にあるひたすらにやさしくあたたかい曲といえるでしょう。こういう曲にハズレはありません、というか安全地帯玉置浩二にハズレは一曲もないというのが当ブログの趣旨ですから当たり前なんですけども。ここでは一回聴いただけでいい曲だと思い、その後聴き続けても飽きることなくいい曲だと思い続けられる、という意味ですね。

あたたかいガットギターの音でアルペジオ、すぐに歌が入ります。

ふたりで寄り添って星をみる夜は夢のようだね。
ふたりで手を取り合って風を感じる朝も夢のようだね。

……え?それだけ?

それだけなんです。

短い曲なんです。小品なんです。それだけに内容が、冷静に考えれば「え?それだけ?」で終わってしまう……にしても「それだけ」すぎます。なんという潔さ!松井さんがかつて試みた手法、物語を書こうとするんでなくて、瞬間瞬間の切り取られた感情をそのまま歌詞にするという手法を、玉置さんがここにおいて完成した感すらあります。

「それだけ?」に思えるのは、歌詞カードを眺めて冷静に考えてしまったからであって、音楽というのはそうやって歌詞カードに書かれたものだけでその内容の豊富であるか貧弱であるかを判断するものではありません。事実、歌詞カードを見る前は内容の貧しい曲だなんて感じなかったのですから。

試みに考えてみましょう。仮にこの曲が「夢のようだね」でなくて「別荘地の夜と朝ときみ」などというタイトルがついていたとします。暖炉が燃える、薪がパキパキいう、顔は熱いけども背中はちょっとヒンヤリします。ぼくはギターを手に取ってすこし爪弾く、するときみがお茶と菓子をもって暖炉にやってくる。こんなのどう?とぼくはちょっとだけ昔を思い出すような歌を歌って聴かせる。きみの笑顔がこぼれる。ああ、わかってくれたんだ、じゃあこんなのどう?きみは顔をすこし赤らめたり、一瞬だけ神妙な顔になったり、少しの間遠くを見つめたりする。いろいろあったね、たいへんだったね、でも幸せだね。……暖炉がだいぶ熱くなってきたなあ、ちょっと外に出てみようか、今日は星がきれいなんじゃないかな。うわ結構冷えるね寒い寒い、ねえ早く入ろうよ?せっかく出てきたんだからちょっとは星みようよ。冬の夜空は一等星が多くて豪華だよ、そう、あのボヤっとしたのがプレアデス、昴、いくつ星が見える?えーとひとつふたつ……七つ……もうわかんない……寒いのと視線を一緒にする必要があるのとで、いつのまにか顔と顔が近づいて、すっかり密着状態、あたためあう格好になっている……うーむ、くどい!(笑)。こういう世界は決して嫌いではないしノリノリで書いてもみますが、こんな冗長な歌詞は嫌です。ここまで書かないと情景が想像できないのかとイライラします。だから、「ふたりで寄り添って星をみる夜は夢のようだね」で十分なのでした。むしろ場面設定を完全に省いた「夢のようだね」という感情表現だけから上のようなシーンを想像するほうがいいし、それが松井さんの意図していたこと、玉置さんが完成させたこと、そしてわたしの骨身にしみ込んだものであるわけです。

そしてこの、簡潔な感情表現から場面や物語を想像するという精神作用に身を任せる感覚を自分でモニタリングしていくと(ミャンマー仏教の瞑想に近いです)、「こうやって」「そうやって」の美しさが、自分の期待するすべてを満たしてくれていることに気がつきます。「こう」とか「そう」とかは指示語にすぎませんから、何がどうなっているのかはもちろん全然わからないんですが、不思議にぜんぶわかってしまうような気がするわけです。ログハウス、暖炉にギター、満天の星、そして霧の中の朝、鳥のさえずり、風と葉擦れの音、緑の匂い、恋人のあたたかさ、やわらかさ、すべてがこの「こう」「そう」から思われてくるのです。これは「別荘地の夜と朝ときみ」などというクソ曲では味わえない感覚です(笑)。だって、「こう」「そう」からすべてがジワーっと自分の中から出てくるんですよ。これは歌詞に場面と物語がすでに書かれていたら起こらないことです。ああそう、わかった、で終わりです。歌詞の役割は「伝えること」ではなく、「ジワッと出させること」だ、そしてその「ジワッと出させる」のが音楽の醍醐味だと松井さんも玉置さんもよくわかっていた、あるいはそういう境地を発見して極めたということになるでしょう。音楽には大きく「鑑賞」と「表現」という二つの楽しみ方があるわけなのですが、「鑑賞」をインプット、「表現」をアウトプットと単純に考えているうちは、この境地は決してわかりません。「積極的鑑賞」とでもいうべき、この「ジワッと出てくる」感覚を自覚することによる楽しみは、音楽家に限らずおそらく芸術家ならだれでも意図していることではあるのでしょう。それなくしてはゴッホの『ひまわり』は単に不気味な絵なのですが、『ひまわり』を見たときにジワッと出てくるもの、不安、怒り、憎悪、哀れみ……といった自分の内面まで自覚することで、はじめて『ひまわり』の価値(の一部)がわかるのでしょう。

つまり、この「夢のようだね」は「え?それだけ?」と思われるような内容の貧しい歌などでは全くなく、積極的鑑賞の作用を引き起こすとんでもない豊かなトリガーをもった曲だということができます。もちろん、「え?それだけ?」はわたくしが勝手に思ったことであって、はじめから誰もそんなこと思っていなかったんでしょうけども(笑)。わたくしも歌詞カードをみて内容を紹介しようと思うまでは「え?それだけ?」なんて思っていなかったわけですから、無意識にこの曲のもつ豊かさを感じていたわけです。このマッチポンプじみた小芝居文章で、その魅力をはじめて言語化することができました。思えば、「大切な時間」も「星になりたい」も「愛を伝えて」もそうだったのでしょう。とんだ無理解で、しょうもない妄想を書き散らして文字数を増やしまくっていただけの気がして、ちょっと背筋が寒くなってきました(笑)。これはどうしようもありません、何年もかけて安全地帯・玉置浩二の曲を全部記事にすると決めたのですから、どうしたって昔には気づいていなかったことに気づいてゆくという過程はあるものです。

ちょっと昔の調子でもう少し書いてみますと、このギターの音、めちゃくちゃ生々しいです。どうやって録音したのってくらい、まるで自分が弾いて筐体の振動を感じているかのような錯覚に襲われます。かつては玉置さんの声の生々しさ、耳元で歌われているような感覚に驚くだけでしたが、このギターもとんでもない音であるということにいままた驚かされています。最近は大き目のDTM用モニタースピーカーで聴くのが常なのですが、胸に音圧が来るんですよ……。2000年当時はふつうのオーディオで聴いていましたからそれが違うのかな?と怪しみ、いまちょっと手元のバブルラジカセ(PanasonicのDT80)で再生してみました。うーん、やっぱりギターの生々しさがすこし弱いです。よかった私の感覚は当時もそんなに鈍くなかった!と胸をなでおろしたのですが、しかし同時にスピーカーが片方ビビりが入っていることに気が付いてしまいました(笑)。ありゃりゃ……これはリング交換かもだな……疑わなければよかった!後のカーニバル。

さて、 前回の記事 で今年は終わりにするつもりだったのですが、もう一つ書いてみました。ことしは40くらい書けたと思っていたのですが、もしかして連絡を除くと39なんじゃないのか?と思えてきまして、うわー気持ちよくないなもう一つ書いておきたいと書くに至った次第です。で、いま数えてみたらもう40書いてました(笑)。そんなわけで、2023年は41記事、お世話になりました。今度こそ年内最後の記事です。これからモチ米を浸すとか天ぷらや上生菓子を買いに行くとかの年越し作業に入ります。みなさまもどうぞよいお年を。

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posted by toba2016 at 10:25| Comment(2) | TrackBack(0) | ニセモノ
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安全地帯・玉置浩二の音楽を語るブログ、管理人のトバです。安全地帯・玉置浩二の音楽こそが至高!と信じ続けて四十年くらい経ちました。よくそんなに信じられるものだと、自分でも驚きです。

2023年12月31日

この記事へのコメント
リング交換しました。スピーカーめちゃくちゃいいですよこれ。思えば35年くらい前のモノですかね?
Posted by トバ at 2024年01月08日 11:55
PanasonicのDT80、持ってたかも知れません。(笑)

物持ちいいですね〜〜。
Posted by ちゃちゃ丸 at 2024年01月08日 08:48
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