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2016年01月08日

ベンチャーや中小企業にも大チャンスとなる「人工知能」ビジネス

ドリームゲート事務局では毎月多数のベンチャーを取材していますが、最近「人工知能」というキーワードが頻繁に出てくるようになりました。しかし、日本のビジネス界隈ではあまりなじみのない人工知能。漫画やアニメの中だけ、あるいは研究者の世界だけの話と思ってないでしょうか。

しかし、欧米では人工知能を積極的にビジネスに活用する動きがあります。日本はこの分野で20年以上遅れていると指摘する専門家もいます。しかし、ITビジネスの世界においては、これから10年は人工知能がメインストリームになると言われています。





そこで今回は日本ではまだまだ少ない人工知能ベンチャーや研究者・技術者の方からヒアリングした内容をもとに、ベンチャーや中小企業にとっても大きなビジネスチャンスとなりえる「人工知能」について解説したいと思います。

人工知能が急に騒がれだした理由

人工知能の研究の歴史は意外と古く、1940年代に人間の脳を模倣させたニューラルネットワークという技術が登場したことから始まり、1950年代には「AI」という言葉も生まれました。

しかし、その後あまり大きな進展が見られなかったため、長らく数学の研究分野の1つという扱いでした。ニュースになった事と言えば、1997年にIBMのスパコン「デープブルー」が当時のチェス世界王者に初めて勝利したことや、日本では将棋用人工頭脳ソフト・ponanza(ポナンザ)がプロ棋士と対局した電王戦で勝利した事くらいでしょう。

しかし、最近の人工知能について語られる際に必ずと言っていいほど登場する「Deep Learning(ディープ・ラーニング)」という概念が登場してから、人工知能の活用が一気に加速したといわれています。実はこのDeep Learning自体は、従来のニューラルネットワークを何層か積み重ねた技術で、基礎は1950年代には既にありました。それがなかなか進展しなかった理由は、大量のデータそのものを分析する仕組みがうまくいかなかったためと言われています。しかし、近年のコンピューターの計算力が飛躍的に向上したことで、手軽に大量のデータ分析を行えるようになったという背景があります。

Deep Learningは、最初だけ正解を人間が判別してあげれば機械が自動的に学習し(トレーニングデータのみあれば、最初の教師役すら必要無いというのが大元の理論にはありますが)、またデータ量も数万件があれば実用的なレベルの分析精度・学習効果を得られる手法ということで、人工知能のブレークスルーといわれるようになりました。

2012年にはGoogleが「猫の画像を自動認識できることに成功した」と発表しました。従来の人工知能の理論では、猫の特徴を人間が教師役となり細かく定義しなければいけませんでしたが、Googleが行った事は、最初だけ猫の特徴を教えてあげると、あとはコンピューターが大量の画像から自動的に学習して、猫を判別することに成功したというものです。人間であれば様々な動物の写真の中から、色や形がバラバラでも猫の画像だけを選別するのは容易ですが、これと同じことをコンピューターが達成したというのは画期的な出来事でした。

他にも、手書きの文字から誰が書いたかを高精度で判別するシステムも登場しました。これは5万文字の手書き文字の筆跡から学習して、だれが書いた文字かを判別するというものです。これも人間であれば、普段から見慣れている人の字をみれば、だいたい誰の字か類推することは容易ですが、コンピューターでも同じことが出来るというのは画期的なことです。

人工知能的アプローチはビジネスにどのように転用できるのか?

それでは、人工知能的なアプローチはビジネスにどう生かせるのでしょうか?

Deep Learningは特徴の抽出までやってくれることがメリットです。つまりデータさえ用意できれば、あとはコンピューターが自動的に学習をしてくれます。この学習に使うソフトウェアはオープンソースなどで盛んに研究・開発されているので、それらを使うことでシステム開発費用も安価に抑えられます。






1. 顧客から問合せのあった質問の意図を分析して、過去に似たような質問と回答がなかったかをリアルタイムで探して表示してくれる、カスタマーセンター用サポートシステム

2. 顧客と対話式で質疑応答がリアルタイムで出来る受付システム

3. 事件や訴訟の内容から、過去の参考判例などを探してまとめてくれるリーガルサポートシステム

4. 未発売の楽曲から、過去のヒット曲と似た系統の新曲を探して、ヒット曲候補として推薦してくれるシステム

例えば、コールセンター用FAQ検索システムというのは、既にいろいろなサービス・ソリューションが出ている分野ですが、いまいちヒットした製品・サービスが出ていませんでした。その大きな理由は、蓄積されているFAQを検索する精度が、キーワードマッチレベルではなかなか実用的な精度にならないという課題があります。お客様からの問い合わせ内容も、含まれる単語の揺らぎがもとで、類義語などがマッチしないという事もあります。また、そもそも質問の意図をくみ取って最適な回答を探し出すという仕組み自体がキーワドマッチでは限界があります。そこで類義語を自動的にグルーピングし、文脈も解析したうえで、最適解を探し出すというのは、まさに人工知能的なアプローチになります。

既にそうした取り組みは国内でもはじまっています。みずほ銀行のコールセンターがIBMのスーパーコンピュータ「Watson」の人工知能を導入するそうです。…参考記事

これは、問い合わせをしてきた顧客とオペレーターの会話をWatsonが分析し、回答のヒントをオペレーターの端末にリアルタイム表示するというものだそうです。

ちなみに、2番目の人工知能を活用した対話式受付システムは、シャノンラボというベンチャーが実用化しています。…参考:介護AGENT

上記のページから詳細が見られますが、かわいらしい女の子のキャラクターに話しかけると(つまり音声認識)、音声で返答してくれるというものです。費用も単語数に応じた従量課金制ですが、月額300円〜2000円と、とてもリーズナブルです。導入についてはJava Scriptを一行追加するだけですので、受付用Webページに組み込んでiPadなどを置いておけば、簡単に人工知能な受付システムが完成します。

なお、3番目のリーガルサービスと4番目のヒット曲推薦システムは、アメリカのベンチャーが実際に進めているサービスだ。これまで弁護士や音楽プロデューサーが行っていた仕事をコンピューターが肩代わりするというものだが、大量のデータから最適なものを見つけ出すという事に特化して考えれば、その応用範囲は膨大になります。未発売の小説や脚本、漫画の原稿からヒット作候補を探すなんてサービスが出来たらすごいですよね。

人工知能を活用するには「割り切り」が重要

さきほど人工知能ベンチャーの事例として紹介したシャノンラボの田中社長にインタビューしたところ、人工知能を活用するには「割り切り」が重要ということです。

例えば、人工知能が過去のデータをもとに未発売局からヒット曲候補を探し出せたしても、なぜそれがヒットするかまでは分析できません。それは人間でも同様でしょう。ヒット曲になる理屈が完全にわかれば、その人はいくらでもヒット曲を生み出せる事になりますが、ヒットの要因そのものが、プロモーションの仕方から時代背景、その時の流行、文化による違いも大きいはずです。変数が多すぎて人間が理解するのは困難でしょう。

そのため、あくまでヒットするかどうかは過去のデータから統計的に類推したにすぎないということで、それ以上の意味や法則を求めるのはナンセンス、というわけです。






冒頭で紹介した将棋用人工頭脳ソフト・ponanza(ポナンザ)も、序盤は過去の記譜から、局面によって勝率の高い記譜と同じように打っていき、終盤になると「詰める」ために全ての打ち手を探索して最適手を探し出す、という2段構えのアプローチをとっているそうです。

なぜそのようなアプローチをすると強いのかはわからないそうですが、プロ棋士の思考もそうなっているのかもしれません。とにかく、そうしたアプローチをすることが有効だということさえわかれば、あとはコンピューターの計算力の勝負ということです。

広告配信は人工知能で勝負する世界に

人工知能的なアプローチが最も進んでいるのが、広告配信システムの世界です。DSP、リターゲティングというキーワードを聞いた事がある方も多いでしょう。2014年8月にはフリークアウトというDSPベンチャーが上場しました。

DSPは複数の広告ネットワークに対して、横断的にバナー広告などを出稿できるシステムやサービスを総称した言葉です。 リスティング広告などに比べて手間がかかっていたバナー広告の運用を効率化できることから、大手広告主や広告代理店を中心に、2011年ごろから広まり始めました。あらかじめバナー広告の内容と応札価格、出稿量(何回クリックされたら停止するとか)を登録しておけば、あとはシステム同士で自動的に広告枠を買ったり売ったりするというものです。

リターゲティングというのは、指定広告主のサイトに訪問したことにあるユーザーを追跡して、他のサイトに居る時でも、指定した広告ばかりが表示されるというものです。例えば、何が無く新築マンションのサイトを見てしまった後、しばらくどこのサイトに行っても同じマンションの広告ばかり出てくるような経験はありませんか? あれがリターゲティング広告と呼ばれるものです。

さて、ここまで来ると、次は広告の効率的な配信がテーマになります。バナー広告はクリックしてもらわなければ一円にもなりません。そこで大量に集められたデータを機械学習し、最もクリックされやすい広告配信ルールを見つけられたとしたら、どうでしょうか?

儲かりますよね。そのルールは100パターンかもしれないし、100万パターンかもしれません。100パターンなら人間がなんとか理解して管理できそうですが、100万ともなると、もう手がつけられないと思います。しかし、結果として広告がたくさんクリックされれば良しと割り切ってしまえば、パターンそのものに意味を求める必要はないわけです。

こうしたアドテクはモバイルの世界ではさらに苛烈になってくるでしょう。性別や年代、職業などの個人情報はもちろん、アプリの利用履歴、位置情報なども貴重で有効なデータです。

欧米では人工知能ベンチャーの買収や研究所設立が加速






日本ではまだ人工知能ベンチャーに大規模な投資をした、あるいは日本企業が人工知能ベンチャーを買収されたというニュースを聞きません。

しかし、欧米ではそうした動きは加速しています。

2014年1月にイギリスの人工知能系ベンチャーDeepMind社を5億ドルでGoogleが買収しました。

また、Facebook社は2013年末にニューヨーク大学のYann LeCun教授を雇用し、人工知能研究所を設立しました。この研究所は本社のあるカリフォルニアと、ロンドン、ニューヨーク大学のすぐ隣の3カ所に拠点を設けているそうです。さらに2015年1月にはカルフォリニアのスタートアップ企業であるwit.aiを買収した。(買収額は非公開だが、wit.ai自体は設立1年半という若いベンチャーで、シード投資で300万ドルを調達していた)

中国の検索大手Baiduも約3億ドルを投じて、2014年5月にシリコンバレーに人工知能研究所を開設しました。

2014年3月には、テスラモーターズの創業者イーロン・マスク氏がFacebook創業者のマーク・ザッカーバーグ氏らとともに、ヒトの大脳新皮質の機能をコンピュータのプログラムに変換することを目指しているベンチャーVicariousに対し、4000万ドルを出資しています。

IBMはすでに人工知能Watson(ワトソン)でビジネスを広げています。2014年10月にはソフトバンクと日本語版Watson(ワトソン)を共同研究すると発表しました。IBMはさらに10億ドル、2000人規模の専門部署を設置するそうです。…参考記事

そしてAppleは、2011年10月にiPhoneへSiriを搭載しました。音声を自動認識して回答するという、まさに人工知能なサービスです。Siriはもともと2007年12月に設立されたベンチャー企業でしたが、世界最大の研究機関の1つ「SRIインターナショナル」からスピンアウトした企業で、アメリカ国防高等研究計画局(DARPA)から1億5000万ドルもの助成を受けていました。米国の国策ベンチャーの1つという訳ですが、それをAppleは2010年に2億ドル前後で買収したと報道されています。

このように欧米では官民問わず、巨額の資金が動いているのが人工知能の世界です。

転じて日本ではまだそうした動きはみえません。そもそも日本では数学や統計の専門家が育っていない現状もあります。アメリカでは金融系からのニーズで数学者や統計の専門家が育ったという背景もありますが、逆を言えば人材もマーケットもまだまだ未開拓といって良い日本には、巨大なビジネスチャンスが眠っているとも捉えられます。是非挑戦してみてはいかがでしょうか。

posted by jun at 15:47| Comment(0) | TrackBack(0) | AI
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