提供元:HealthDay News
公開日:2018/06/04
英国の研究グループが、風邪に効く候補物質を開発したと発表した。 ヒトの細胞を用いた実験で、この物質によって風邪の原因となるライノウイルスの複製を阻害し、ウイルスがヒトの細胞を支配するのを防ぐことに成功したという。この研究は「Nature Chemistry」5月14日オンライン版に掲載された。
研究を率いた英インペリアル・カレッジ・ロンドンのEd Tate氏は、「風邪は多くの人にとってただ不都合なだけのものだが、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの疾患のある人にとっては重篤な合併症を引き起こすこともある」と述べ、「このような薬剤は、感染初期に投与すれば極めて有益であると考えられ、われわれは薬剤がすばやく肺に到達するように吸入剤の開発に取り組んでいる」と付け加えている。
風邪を引き起こすウイルスには何百種類もの変異株が存在し、急速に進化して薬剤への耐性を獲得するため、その全てに対して完全な免疫を得ることやワクチンを接種することはほぼ不可能である。そのため現在、風邪に効く特効薬はない。そこで代わりに、鼻づまり、喉の痛み、発熱などの症状の緩和に重点を置いた対症療法が行われていると、研究者らは説明している。
しかし、風邪の原因となるウイルスは全てN-ミリストイルトランスフェラーゼと呼ばれるヒト細胞内の酵素に頼って自らを複製している。ウイルスはこの酵素を利用して脂質修飾(N-ミリストイル化)されたタンパク質を乗っ取り、DNAを保護する外殻を形成する。今回開発された物質(IMP-1088)はこのN-ミリストイル化を阻害してウイルスの複製を防止するもので、「抵抗不可能な」風邪の治療薬として有望なものであると研究グループは考えている。さらに、ポリオ、口蹄疫などの近縁ウイルスに対しても有効な可能性があるという。
以前には、ヒトの細胞に作用するように作られた物質で毒性が認められたものもあるが、研究者らによればIMP-1088はヒトの細胞に対して安全であると考えられるという。ただし、この結果を裏付けるにはさらに研究を重ねる必要があるとTate氏は述べており、「この薬剤の作用機序から、有害な副作用の危険性を最小限に抑えるには、原因が異なる類縁疾患ではなく、確実に風邪のウイルスに対してこの薬を使用する必要がある」と指摘している。
研究グループは動物実験の後にヒトを対象とする試験に進む予定だが、動物で認められた結果は必ずしもヒトで再現できない場合がある。
[2018年5月18日/HealthDayNews]Copyright (c) 2018 HealthDay. All rights reserved.
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Mousnier A, et al. Nat Chem. 2018 May 14. [Epub ahead of print]
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