日経WEB刊2017/9/8
デジタル通貨、世界の中銀で待望論 日本も研究
2017/9/8 0:30日本経済新聞 電子版
世界の中央銀行 が、 法的な裏付 けを持つデジタル通貨の発行を相次ぎ 検討し始めている 。今の驚異的な速さでビットコインなどの仮想通貨が普及し続けると、 資金決済サービスなどで自国通貨の存在感が低下 し、いずれ金融政策にも影響を及ぼしかねないとの危機感からだ。日本でも日銀や金融界を中心に 「第2の円」ともいえる安全なデジタル通貨 の活用論が広がってきた。
「プーチン大統領はビタリック・ブテリン氏に会い、支持を表明した」。6月2日、ロシアのクレムリン(大統領府)が出した公表文に日銀幹部の目はくぎ付けになった。19歳でビットコインに次ぐ仮想通貨イーサリアムを生んだ起業家のブテリン氏。ロシア中央銀行はイーサリアムの技術を活用したシステム開発を表明済みで、ロシア初の法定デジタル通貨発行へ両氏のタッグが動き出したとの臆測が広がる。
スウェーデン はデジタル通貨「eクローナ」の発行に関する可否を2018年末に判断する。実現すれば銀行口座を持っていない人でも店頭で電子決済が可能になる。
中国 は16年1月にデジタル通貨の発行を検討すると表明。 エストニア は8月、独自のデジタル通貨「エストコイン」を発行する計画を明らかにした。 オランダやカナダ、英国 の中銀も一斉に研究に乗り出している。
デジタル通貨を中銀自ら構想する背景について、日銀はリポートで「金融政策の有効性を守るため」だと指摘する。Suica(スイカ)のような電子マネーは法律で承認され円の価値が裏付けだ。だがビットコインのような仮想通貨は価格変動が大きいうえ流通量の制御ができず、中銀には外貨と同じ。いまは投機目的の購入が大半でも、様々な決済に仮想通貨が用いられるようになれば「金融政策の効果が減殺されうる」(日銀)。
ビットコインの時価総額は8月、820億ドル(約9兆円、分裂したビットコインキャッシュを合算)と年初から5倍に膨らんだ。仮想通貨の主要100通貨では1700億ドル(約19兆円)に達する。安定した価値や流通性など一般受容性と呼ばれる通貨に必須の条件にも乏しいが「いずれ 脅威になる可能性を排除できない 」(日銀幹部)。
中央銀行は無利子で低コストに通貨を発行できるため、それを国債などで運用することで生じる「シニョレッジ」という会計上の通貨発行益を長期間計上できる。仮想通貨の急増で日銀法などを裏付けとした円のシェアが落ちれば、発行益が減って日銀の財務が悪化する懸念もある。
19世紀半ばに通貨の独占発行権を握った世界の中銀。ブロックチェーン(分散台帳)と呼ばれる画期的な技術に支えられた仮想通貨の急成長で「中銀は自らの通貨の利便性を高めるグローバルな競争に巻き込まれつつある」と日銀の初代フィンテックセンター長を務めた岩下直行氏(京大教授)は指摘する。
日本は有数の現金大国で、日銀の通貨発行額は約100兆円だ。その半分近くが日常的な決済ではなくタンス預金に退蔵される。現金はマネーロンダリング(資金洗浄)など不正の温床にもなり、北欧ではキャッシュレス化が推進されている。デジタル通貨は「脱現金」の起爆剤になりうる。
もっともほとんどの中銀は一足飛びで一般に流通するデジタル通貨を考えているわけではない。日本では三菱UFJフィナンシャル・グループの「MUFGコイン」などブロックチェーンを核にしたデジタル通貨の青写真がある。どこでも自由に使えるデジタル円を出せば日銀のデータ処理が膨大なばかりか、民間銀行の業務を圧迫するなどハードルが高い。日銀もまずは金融機関との当座預金のやり取りなどに限りデジタル通貨を導入できないか探る構えだ。6日に日銀が公表した欧州中央銀行(ECB)との共同実験結果ではデジタル通貨でも現行の日銀ネットと同じ速度で決済を処理できたという。
日本取引所グループ(JPX)は昨年のペーパーで証券取引に新技術を使う際、分散台帳の技術を使った第2の円があれば「活用可能性が飛躍的に高まる」と訴えた。決済コストが下がれば企業などにも広く恩恵が及ぶ可能性が出てくる。
「米連邦準備理事会(FRB)はデジタル通貨を導入すべきだ」。5月、イエレンFRB議長の顧問を務めていたアンドリュー・レビン・ダートマス大教授らの発言が話題をさらった。「中銀が法律で決められたことだけをやればいい時代は終わった」。岩下氏は指摘する。国籍を持たない仮想通貨は利便性向上と技術革新を怠った通貨を駆逐しかねない。次に待つのは 中銀が発行するデジタル通貨が基軸通貨の座を競い合う未来かもしれない 。(高見浩輔)
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