2019/8/22 2:00日本経済新聞 電子版・写真
請求権協定、覆す韓国 締結から半世紀で対立
国際法・ルールと日本
2019/8/22 2:00日本経済新聞 電子版・記事
元徴用工訴訟問題や日本の対韓輸出管理の強化を受け、日韓関係が戦後最悪の状況にある。21日の日韓外相会談ではいずれも平行線に終わった。戦前の植民地支配に関し1965年に結んだ協定を巡り対立しているからだ。日韓は協定を結んで国交を正常化した65年以降、未来志向の関係を目指してきたが、韓国が国内の司法判断で協定に反する行動をとっている。
安倍晋三首相は6日の広島市内の記者会見で「韓国が国交正常化の基盤となった国際条約を破っている」と主張した。念頭にあるのは65年に締結した日韓請求権協定だ。
協定は1条で韓国への5億ドルの経済支援(無償3億ドル、有償2億ドル)、2条で請求権問題の「完全かつ最終的」な解決、3条で紛争時の協議や仲裁を規定する。戦時中に過酷な労働に従事した朝鮮半島出身者への賠償は協定で解決した、というのが日本政府の立場だ。
2018年、韓国大法院(最高裁)判決がこの確認を覆した。日本企業に元徴用工への賠償を命じたからだ。
韓国でも現在の文在寅(ムン・ジェイン)政権より前の歴代政権は日本と同じ認識を示していた。05年の盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権は元徴用工問題は協定の対象に含まれるとの見解を表明した。5億ドルの支援で日本との戦後処理は終了し、個人の賠償は韓国政府が責任を持つという意味だ。
日本外務省は7月、戦時中に動員された個人の請求について1965年の交渉時に韓国側が「国内措置として必要な範囲で取る」と答えていたとする記録を公表した。個人の請求権は残るが協定で救済しないと決めたため、韓国政府が対処するという確認だった。
2018年判決はこの前提を越え、1世紀以上前の植民地支配を理由にした。1910年の日韓併合条約で日本が韓国を支配したことの是非だ。
日本は敗戦後、51年に米国など48カ国とサンフランシスコ講和条約を結び、大半の国と戦後処理を終えた。フィリピンなど一部の国には個別に決めた賠償額を支払った。同条約で日本は朝鮮の独立を承認し、請求権などの問題は日韓の2国間で解決することになった。
65年の佐藤栄作政権と韓国の朴正熙政権で日韓基本条約と日韓請求権協定を締結した。交渉では日本による植民地支配の位置づけが問題になった。19年の国際連盟規約や28年の不戦条約の流れをくみ、いまの国際法では植民地支配や侵略戦争は違法だ。だが10年の日韓併合時は国際法にそうした規定がなかった。
日本は当時の国際法「万国公法」を根拠に植民地化を有効と強調し、韓国は「不法な支配」と訴えた。歩み寄るため65年の日韓基本条約は植民地支配前の条約について「もはや無効」と明記した。日本は「日韓併合条約は有効だったが日韓基本条約を結んだ時点で無効」、韓国は「日韓併合条約は締結時から無効」とそれぞれ国内で説明できる。「外交の知恵」と評される決着だった。
それから半世紀以上を経て韓国大法院は「植民地支配は不法」と判断を示した。不法なので日本企業への請求権がある、という判決だ。日本の主張と対立し、日韓で維持してきた国際法の枠組みも覆す内容だ。
神戸大の木村幹教授は「韓国大法院の判決は個人の賠償請求権を認め『パンドラの箱』を開けてしまった」と話す。「日本は中国やフィリピンなどとも戦争に関わる賠償問題を国家間の条約で一括解決した。論理を認めれば他国との戦後処理にも影響することが確実だ」と指摘する。(随時掲載)
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