写真日経2021/7/20
2021年7月19日 20:02 (2021年7月20日 5:39更新)
日本経済新聞WEB版
第4のコロナ薬、抗体カクテル療法承認 重症化抑制期待
厚生労働省は19日、中外製薬の新型コロナウイルス向け治療薬「抗体カクテル療法」の製造販売を特例承認した。国内のコロナ治療薬は4つ目。重症化リスクがある軽症、中等症の患者に使う。臨床試験(治験)では入院や死亡のリスクが7割減ったとされ、重症化抑制が期待される。軽症者用の薬は初めて。変異ウイルスが広がる中、ワクチン接種に続く新たな「武器」となる。
「カシリビマブ」「イムデビマブ」と呼ぶ2種類の抗体を1回点滴する。ウイルス表面に結合して増殖を抑える。対象は持病や肥満などの重症化リスクがあり、酸素投与を要しない症状の患者となる。添付文書ではインド型(デルタ型)などの変異ウイルスにも効果があることが示唆されるとの見解を示した。
20日から各地の医療機関に配送を始める。
高流量の酸素や人工呼吸器を必要とする症状まで進んだ患者は使用によって悪化したとの報告がある。治験では発症8日目以降の使用の有効性を確認しておらず、発症後速やかな投与を求める。成人のほか、体重40キログラム以上の小児にも使える。
田村憲久厚生労働相は承認後、記者団に「大きな前進だ」と述べた。「重症化のリスクがある方が対象で、基本的には入院患者に投与する」と説明した。
重症化を抑えることで医療現場の負担軽減にもつながる。
治験では肥満や高血圧など重症化リスクが高い患者に1回点滴し、入院または死亡のリスクが約7割減った。英オックスフォード大学などによる約1万人を対象にした研究では、抗体がない入院患者の死亡リスクが投与によって2割下がり、入院期間も約4日短縮された。
島根大の浦野健教授は「これまでの薬は基本的に重症患者向けだった。軽度から中等症に投与できる薬が承認されれば治療の幅が広がる」と評価する。新型コロナの医療費は原則公費負担で、今回も無料で使えるようにする。政府は中外製薬と2021年分の供給契約を結んでいる。国が買い上げて供与する。
米バイオ企業のリジェネロン・ファーマシューティカルズが作った新薬で中外の親会社、スイス・ロシュが開発に協力した。トランプ前米大統領も感染時、特別に投与を受けた。その後、米国食品医薬品局(FDA)が20年11月に緊急使用許可を出し、使われている。
中外は6月の申請時、海外で先行する医薬品の審査を簡素化する「特例承認」を希望した。中外は国内での治験や販売を担当する。海外で生産する。
国内では抗ウイルス薬「レムデシビル」(米ギリアド・サイエンシズ)、抗炎症薬「デキサメタゾン」(日医工など)、リウマチ薬「バリシチニブ」(米イーライ・リリー)の3種類がコロナ治療薬として転用されている。
レムデシビルは複数の研究で死亡率低下が報告される一方、世界保健機関(WHO)の治験で死亡率の低下などにほぼ効果がなかった。WHOは「入院患者への投与は勧められない」とする。
日本の診療ガイドラインは「重症例で効果が期待できない可能性が高い」と記載する。中等症には効果が見込まれるとして21年1月、肺炎症状のある患者に使えるように対象が拡大された。
バリシチニブは3月、米国やシンガポール、日本など8カ国の国際共同治験の結果で、人工呼吸器を装着した患者にレムデシビルと併用すると回復までの期間が10日間となり、偽薬とレムデシビルを使う場合の18日間より短くなった。デキサメタゾンは重症患者の死亡率を下げるとされる。
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