【不眠症カフェ】 Insomnia Cafe

【不眠症カフェ】 Insomnia Cafe

2006.02.17
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カラオケの中の定番、「神田川」。

私は、この歌をまだ、上手く歌えないけれど、想い出を【復刻日記】で読んでみよう。


          □□□□□□□     



【復刻日記】

ある日記を読んでたら、フォークの「神田川」の話題が書いてあった。
歌詞の内容が、私の大学生時代をほうふつとさせるもので、なつかしかった。
しかし、この世界は、本当に「むかしむかし」の物語だから、今の大学生の生活とはずいぶんちがう。



上京した時は、関東平野の関東ロームの黒い腐植土にびっくりして、何となく暗い気持ちになった。
私の実家は大阪でも神戸側で、花崗岩の六甲山地の地層の影響で土地が白っぽい。
土地の色が、これほどちがうと、結構心理的にインパクトがあった。

大阪育ちの私には東京の食べ物の味が濃い味なのにもちょっとおどろいた。
まず受験の時に二・三日だけ下宿した家で出してくれた店屋物の親子丼ぶりの味が濃かったのに驚いた。

学食や生協で食べた東京風のうどんにもビックリした。
大阪のうどんは昆布出汁で色はほとんど付いていないのに、東京のうどんはたまりというのか、真っ黒だった。
箸でちょっとかきあげると、まっ黄色い卵の黄身と白いうどんがポワ~ンと浮き上がってきた。
味も濃くてなじめなかった。
讃岐うどん全盛の今の東京で、こういう古典的・伝統的なうどんは健在なのだろうか?
この伝統的な正統派東京うどんも、この頃のあまりの冷遇ぶりにすねて、もっと濃い味になっているのではないかと心配である。

下宿にしろ、アパートにしろ、賄い付きでなかったから外食するか? 自炊するしかない。

今は、飯屋スタイルのファミレスがあったり、家庭料理という看板で、みんな、なんの抵抗もなく入っている。
しかし昔の飯屋はわびしく貧しく汚いところが多かった。
肉体労働者が主な顧客だったと思う。

外食も自炊も、どちらも侘びしく孤独で恥の多い作業である。
外食という作業はまず、食べるものを決定しなければいけない。
次に食べる店を決定しなければいけない。
この順序が反対である方が普通かな?

学食や生協で食べるのが学生としての本分かも知れないが、すでに昼食をたべているのだから、夕食もそこでというのもナニかと思う。
それに大学をいったん離れると、どこかで食べなければいけない。
蕎麦やうどんでは腹が持たない。
カレーライスばかりも飽きる。
だから栄養のバランスのとれた定食のある一膳飯屋に行くことが多かった。
しかし、この一膳飯屋に一人で入るということは、一日の内で一番恥多きプロセスで、これは苦痛だった。

高校時代はもちろん外食などしなかった。
一家揃ってレストランに行くことはあったが、それは家庭の団らんの洗練版・豪華版にすぎない。
高校時代に下校途中にわざわざ駅前まで行ってたこ焼きの屋台によって密かに食べたたこ焼きはまさに美味だったが、たこ焼きというものは暗がりの中で、何らかの後ろめたい理由があって、舌をやけどしながら、フーフーと急いで食べる場合だけがうまいのだが、余裕充分な状況で明るい場所で、ちょっと冷えかけのものを食べてもそんなにうまいものでもない。
後ろ暗い時間に後ろ暗い状況でたこ焼きを食べろ!
この日記の読者だけに伝える、私からの「たこ焼き賞味の極意」である。
忘れないように頼む!

つまり、今までひとりで外食したこともない私にとって、当時の労働者階級の濃い世界の殿堂のような一膳飯屋の汚れた暖簾をくぐるという行為にはとてつもない勇気が要った。
暖簾の前を二三回言ったり来たりして呼吸を整えた後、最後に左右を見回して、友達や知り合い・親戚・関係者・教職者・警察関係者などがいないか、一瞬のうちに判断してから暖簾をくぐる。
矛盾するようだが一人の場合はまだいい。
だれか友人・知人と一緒に歩いていて、分かれる前にこんな一膳飯屋の前を通る時には、こんな店は全然知らないし、まして店の中でワリバシで「レバニラ炒め定食大盛り+白飯お代わり」などを食したこともない・・・という態度でそのいきつけの店を裏切りながら通り過ぎることになる。
心なしか、店の中からおばさんが「見栄っ張りだね~と、こちらを軽蔑した目つきで見ているような気がする。

なんとかその「自宅が東京」という特権階級の友人をまいてから、まだ用心して本屋で立ち読みをしたりして時間をつぶして、万が一にも彼がもどってくる事は無いという時間帯に突入したら、おもむろに定食屋に確信を持って進むのである。
食べ終わって、また暖簾をサッとくぐって町に飛び込み、またなにごともなかったという表情で町を歩く。

アパートに付く前に一般住宅の前を通る。
家々からは幸せの黄色い電灯がついている。
彼らは全員卑怯にも、一膳飯屋忍び入りの苦行など無しに美味な夕食を楽しく、さんざめきながら食しているのだ。
本当にこの世の中には神も仏もないものだと思う。

こんな高貴な孤独に耐えている私の胸に響く歌があった。
ミルバやザ・ピーナッツが歌っていた「ウナセラ・ディ・トーキョウ」である。

       ―――― ◇ ――――
♪ 悲しいことも 無いのにどうして 忘れたのかしら
ウナセラ・ディ・トーキョウ
あ~あ

(途中省略)

♪ あの人はもう 忘れたのかしら とても悲しい
♪ 街はいつでも 後ろ姿の しあわせばかり
ウナセラ・ディ・トーキョウ
あ~あ
       ―――― ◇ ――――

本当にこの時間、魔の夕食時に、私とすれ違う人達はみな、自宅で家族と共に夕食を囲むという、しあわせそうな後ろ姿ばかりである。
一瞬、背中をかきむしってやりたい気持ちになった。

            ~~~~~

アパートで自炊というのも侘びしい。
佐藤春夫の詩に「秋刀魚」というものがある。
妻に逃げられた男が一人わびしく七輪で秋刀魚を焼く。
これは極度にわびしい。
私はもちろん結婚をしていないので妻に逃げられてはいなかったが・・・。

一膳飯屋苦行とどちらがわびしいかは計量化してみないと、数値化してみないと正確にはわからないが、わびしさの性格が違うようだ。


ともかく、当時の学生の持っている文明の利器と言えば平均して下記の「四種の神器」だったと思う
○ ラジオ
○ 卓上蛍光灯スタンド
○ 電気コタツ または 石油ストーブ
○ 電気炊飯器
当時は電気冷蔵庫を持っている学生なんていなかった。なんともシンプル極まる生活である。
ただし私は、この上に二種の神器を隠し持っていた。

○ テナーサックス
○ 赤井のテープレコーダー 16インチスピーカー付き

モダンジャズの同好会に入っていたので、これはどうしても必要だったのだ。

自炊の話にもどるが、学生は料理の仕方なんて知らないのだから、肉野菜炒めが定番となる。
これは当時のすべての学生の普遍的な真実だったと思う。

この肉野菜の部分について、野菜はそのままでいいのだが、肉については注記した方がいいかも知れない。
肉は高いからその代わりに、魚肉ソーセージがピンチヒッターとして登場する。
さらに実情を究めると、実はピンチヒッターでは無くて、魚肉ソーセージの方がレギュラーなのだ。
肉の方がピンチヒッターで恥ずかしそうにベンチにいることになる。
「この財政状況だと私の出番は無さそうね」と、自分から二軍に行ってしまうこともある。
こうなるともう呼び戻せないから魚肉ソーセージがレギュラーとして定着する。

この頃はコンビニでこの昔なつかしいレギュラーを散見する。
しかしもう、レギュラーの座は張れないで、いつもは二軍だが、監督の温情で久しぶりに一軍ベンチに入った超ベテランと言った風情だ。
だれも本当は大活躍を期待していないんだけれど、年に一二度ぐらいは一軍にあげてやらないと隠れファンがうるさいと言うことかも知れない。

飲み物はせいぜいお茶だが、ぜいたくな学生は牛乳の配達を受けていた。
私も堂々のぜいたく学生で、牛乳+新聞の配達という豪華版だった。
しかし暑い夏などはジュースとなる。
「渡辺のジュースの素」という当時の大ヒット商品があって、これは毒々しいオレンジ色の謎の粉体で、これを水に溶かして飲むと、味も毒々しいが、無理に考えると「これもジュースの一種である」という実感が出てくる。

自炊を共同でやることは、アパートの住人同士が友人になったら可能となる。
どうせほとんどの住民が同じ大学だし、金もないので夜はすることもなく退屈で、誰かの部屋に集まっては夜遅く、あるいは朝までダベル事になる。

親しくなりすぎるとお互いいたずらもしてしまう。
特に私なんか、いたずらが生き甲斐だったから、ある時、真面目な男のパンツを脱がしたことがある。
その男は大男で運動神経は皆無だったけれど、ものすごく力持ちの男だったが、ある拍子でふざけているうちに、ついついみんなで彼を押さえつけてパンツを脱がした。
彼の裸の下半身はある理由でトップ・シークレットというか聖域だったようで、彼は激怒した。
手元の木刀で私を本気で殴った。
彼とちがって運動神経の固まりとも言える私は?サッと邪悪な木刀を避けたが、部屋の扉は運動神経が無かったのか、木刀に直撃されて深い傷を負ってしまった
卒業してそのアパートを出る時には、どうしてわかったのか? 家主の奥さんにひどく叱られた上に高い補修費を支払わされた。

トイレ・台所(と言っても流しとガス台があるだけ)は共同。
もちろん風呂なんて無い。
だから近くの銭湯に通うことになる。
これは、一膳飯屋の「がまの油タラタラ」状態とは全然ちがう。
アパートの友人達と一緒に湯屋に出かけるのは楽しい。
       ―――― ◇ ――――
♪ 貴方は もう忘れたかしら
赤い手拭い マフラーにして
二人で行った 横丁の風呂屋
(中略)
小さな石鹸 カタカタ鳴った
(中略)
窓の下には 神田川
三畳一間の 小さな下宿
       ―――― ◇ ――――
私達の石けんもカタカタ鳴ったが、可愛い女子学生はいなかった。

後に知ったのだが、偶然なことに、この私が通った風呂屋は「安兵衛風呂」といって、この「神田川」のモデルとなった、と言うか作者が通った風呂屋だったのだ。


            ~~~~~

いや、ひとりけしからんやつがいた。
私の高校からの親友で一緒に進学したのだが、入学して半年するともうガールフレンドが出来た。
同じ大学のある運動同好会で知り合ったらしい。
この男は女の姉妹がいないくて男の中で育っているヤツだからとても無骨なヤツで、女性に対する好奇心が凶器のように肥大しているやつで、女性の気持ちなどわからない男だから、絶対モテないだろうと・・・油断していた私が悪かった。
その女の子はとても小柄だがとても可愛いのである。
愛し合っているらしい二人のかもし出す雰囲気がとても醜い。

おまけに大学近くのアパートで「半同棲という大罪」を犯しているようなのだ。
ついに、こーゆー間違ったことをしているカップルには断じて意見をして、仲を裂かなければいけないという義憤に駆られて、ある夜、級友と共に彼のアパートを急襲した。
神田川沿いの道の行き止まりの木造アパート、その二階に彼の部屋があった。
入ってみるとやはり彼女がそこにいた。

可愛い女性と面と向かってみると、一瞬で私の義憤は霧散したばかりか、彼女から「彼女の級友に可愛い女性はいないのか?」という重要情報を聞き出そうという偵察モードに入ってしまった。
私には臨機応変という才能があるのをその時始めて知った。

偵察モードの一端として部屋の窓を開けてみたら、真っ暗な闇の中から、神田川のちょっと汚れた流れの臭いが漂ってきた。





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最終更新日  2006.02.17 08:15:14
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