【不眠症カフェ】 Insomnia Cafe

【不眠症カフェ】 Insomnia Cafe

2015.11.16
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パリのイスラムテロリストによる惨殺事件
世界が震撼しているが
実は、私は、似たような経験をしている

私は、ベトナム戦争時、
当時の南ベトナムの首府サイゴン(現在のホーチミン)に駐在中
いろいろな危険に遭遇したが
今思えば、よく、生きて帰れたものだと思う

その中で
今回のパリのテロと似た経験は
サイゴン市内のあるナイトクラブに入ろうとした時
共産ゲリラが仕掛けたプラスティック時限爆弾で
そのナイトクラブが吹っ飛んだことだ

その顛末について書いた過去ログがあるので
復刻してみることにする


   ―――― 過去ログ ――――

2007/12/14
【復刻日記】 死のシンデレラ・タイム・【カーヒュー】


「カーヒュー」という言葉がある。
「curfew」 フランス語である

ネットで調べてみよう
○ 外出禁止令(時間帯)、
○ 門限、
○ 日暮れの鐘
○ 戦争などの緊急事態に出される夜間外出禁止令
○ 未成年の深夜外出禁止法令、
○ あるいはその時間帯
○ その時間を告げる鐘やチャイムの音、
○ 夕暮れに鳴る鐘の音

語源はフランス語の 【covrefeu】である

これは、「cover fire」 の意味で、
暖炉などの火を消えないように灰を被せる、
いわゆる「置き火」らしい。

私の駐在時のサイゴンは、夜12時から朝の6時まで、
完全な夜間外出禁止令(カーヒュー)が布かれていた。

このサイゴンの場合は、単なるcurfewというより、
下記の様に表現した方が適当かと思う。

○ a wartime curfew 戦時下夜間禁止令 とか 
○ military curfew 軍事的夜間禁止令

この外出禁止令に背いて夜間外出をするとどういうことになるか?
夜のサイゴンには、各所に、検問をする軍隊・憲兵・警官などがいる。
一応、推何(すいか)(何者だ?というような問いかけ)はするのだが
運が悪ければそのまま射殺されてしまう。
夜中の急病人などはどうするのだろうと、よく考えたものだけれど。

当時、日本人医師が二人出向していたサイゴン病院の医師の話では、
夜間、カーヒューの時間に撃たれ、
腹部に数十発の銃弾を撃ち込まれた患者が運び込まれたことがあるという。

歓楽街に遊びに出るのはいいが、こんな事情で、
残念ながら、サイゴンではそれも12時までだ。
いや、12時には自宅に帰宅していなければ
射殺される恐れがあるのだ

~~~~~~~~~


ここまで書いてきて、私のブログのBBSをのぞいてみたら
bikeikoさん(その後、変名して今は Kelly さん)が、
「いきなり射殺されるのでは、恐ろしくて外出できませんね」
と書いているが、
「外出できない」では無くて
「外出してはいけない!」のだ(笑)

以前書いたように、夜間にはヴィエトコン(共産ゲリラ)が跋扈していたり、
極端な例では大部隊でサイゴンを攻めてきたり
(いわゆるテット攻勢といわれている)と言う状況だったから、
夜間外出禁止令をやぶって夜間外出して居るものは
即、共産側の【敵】と見なされるのだ。
curfew というのは戒厳令の一種なのだ。
まさに、五木寛之の著書の題名ではないが、「戒厳令の夜」ということになる。

だから12時をすぎれば、軍隊のトラックや戦車以外は、
それこそ猫の子一匹通らない静寂となる。

~~~~~~~~~


当時の夜遊び友達の一人に、サイゴンのある日本レストランの経営者がいた。
彼は宿舎に麻雀に来て、麻雀が終わったら、その後、ナイトクラブに行く。
私は、そのナイトクラブ行きに、よくつきあった。

サイゴンのナイトクラブは、大手のものが数軒あった。
最大手はカティナ通りにあった【マキシム】である

銀座通りのような【カティナ通り】
これはフランス植民地時代のフランス風呼び名で、
ヴィエトナム名では【トゥー・ドォー】
自由という名の通りだ。

もっと正確に言うと、
【トゥー・ドォー】とうのは、サイゴン訛りの、南ヴィエトナム訛りの呼び名で、
ハノイの正統ヴィエトナム語でこれを呼べば【トゥー・ゾォー】と発音しなければいけない。
(一応うんちくを披露しておこう)


この【マキシム】は正統派で、サイゴンで一番格式高い。
ショーも豪華。
真っ暗な中に、アオザイを着たヴィエトナム美人のホステスが一杯いて、
私達がテーブルにつくとママさん(中国風にタイパンと呼ぶ)が応対してくれて
指名のホステスを聞いてくれる。
ホステスは大抵番号で呼ばれていて
例えば「15番」という風に番号で指名する。

ヴィエトナムでは、少なくとも当時のヴィエトナムでは、
ナイトクラブにおいては
少なくとも表面的には、とてもお行儀のよい世界だった。
言い換えれば、疑似恋愛の過程が必要な世界で
その過程を通れば、自由恋愛の世界も開ける(笑)

その疑似恋愛の過程に於いては
ホステスが隣に座っても、お話をするか、ダンスをするかぐらい。
ステージではヴィエトナム流行歌の歌手が、
すすり泣くような哀しげな叙情的なヴィエトナムの曲を歌う。

そんなうちに、そろそろ11時も過ぎて、カーヒューが近づくと
われわれにとってのシンデレラ・タイム、帰宅時間となる。
普通ならそこで慌てて帰る所なのだが、
このレストラン経営者はやっかいな性格の人で、
最後の最後まで粘るのだ。
ホステスや従業員が帰る時になってもまだ飲みたがる。
結局12時まであと十数分という時になって、やっと車に乗る。
「おい!あと10分しかないよ!頼むよ!」
必死で声をかける
彼自身もさすがに真剣になった夜の無人のサイゴンの街を爆走する。
手に汗を握る境地だ。
私の宿舎に着くのが12時ちょうど、だったりする。
そこから彼はさらに自宅へ戻らなければいけないのだ。
キキ~~!!とタイヤをきしませながら彼の車が消え去る。

後年、私はインドネシアのジャカルタで彼と再会した。
毎晩あんな事を繰り返しても、何とか射殺されずに生き延びていたらしい。
しかし、悪い癖は直っていなくて、ジャカルタでも真夜中までつきあわされてしまった。

~~~~~~~~~

私自身が死にかけたことも数回ほどある。
その一つだが・・・。

ある晩、私は借りたバイクに乗って繁華街に出かけバーで飲んでいる内に
夜間外出禁止令の時間になりそうなので帰宅しようとした。

宿舎近くにさしかかったところにロータリーがあって、
したたかに酔っていた私は、ロータリーの縁にあたってしまった。
ロータリーというのは丸い円形の形をした交差点を時計回りに、
または逆回りにまわるもので、もともとは西洋で馬車が交差点ですれ違うために発明された形式。
だから、ゆっくり侵入して、他の車と歩調を合わせながら今度は自分の道へ脱出してゆくようになっている。
英国などではこのロータリー(これは米国風な呼び方で、英国では round about と呼ばれるが)が多い。

私はスロー・ダウンしなければいけないロータリーに、
スピードを落とさずに侵入したばかりに、ロータリーの縁石にぶつかり、
そのまま空中を飛んでロータリーの向こうに飛び込んでしまった。
映画「大脱走」のスティーヴ・マクィーン、みたいなものか?(笑)
だが、違うところは
その飛び込んだ先が大変な所だったことだった。

そこは、米軍のバスやトラックの基地で、
その廻りには鉄条網が張り巡らされていて、
頭上には通常、監視兵がいた。
私はその鉄条網に飛び込んでしまって、
全身鉄条網に切り裂かれてしまった。
幸運にもその時には監視兵がいなかった。

その頃、バイクに爆弾を積んだ女性が米軍基地に突入する
いわゆる「ホンダ・ガール」という今で言う自爆テロがあって、
その時の状況なら私が「ホンダ・ガール」と見なされて射殺されても仕方がない所だった。
本多ボーイでもいいのだが(笑)
タイヤが空転して、ガソリンタンクからガソリンがこぼれているバイクを引き起こして、
全身、鉄条網で切り裂かれて、血まみれで宿舎に戻った。

翌朝サイゴン病院に行って日本人医師に治療を頼んだが、
元獣医のこの医者は「そんなもの傷のうちに入らない」といって傷口を縫合してくれなかった。
だから今も私の身体にはいまでも鉄条網の傷跡が残っている。
ハッキリわかるのは左腕の大きな傷口だけだけれど。

これ以降、私は車の運転をあきらめて、長い間車を運転しなかった。

~~~~~~~~~


【死にかけた話】はいくらでもあるんだけれど、
今日はもう一つ「死に損なった」話をしよう。


ある時、私はある仲のよかった日本人エンジニアと一緒に
ヴィエトナムの有名歌手が出演する、サイゴン市内のあるクラブへ歌を聴きに行こうとしていた。
そのクラブは、サイゴンの目抜きの、カティナ通りにあった。
サイゴン河の川岸でタクシーを降りて、そこから、私たちはクラブの方へ歩いて行った。
もう少しでクラブという所で、私達の前を小麦色の脚をしたミニスカートの美少女が横切った。
当時はミニスカート全盛の時代だったし、暑い気候のサイゴンではなおさらだった。
ミニスカートをはく少女というのは、フランス系の女学校のお嬢さんか、バーガールが多かった。

そのミニスカートの魅力的なお嬢さんはすぐ近くのバーに入っていった。
彼女はバーガールらしい。
それなら、サイゴンティーさえおごればお話相手になってくれるはずだ。
サイゴンティーは、所場代なのだ。
私達は以心伝心、二人でそのバーに飛び込んだ。

彼女にサイゴンティーをおごって、会話を交わしていると、
突然、大音響と共に足の底から突き上げるような振動が走った。
私が握っている缶ビールが波打つほどのものすごい衝撃だった。
瞬間、何が起こったのかわからなかったが
しばらくして、外が騒がしくなった。
出てみると、入るはずだったあのクラブから煙が出ている。

近づいてみると、そのクラブの建物は、中身を抜いたマッチ箱のようになっていた。
窓ガラスもすべて破れ、壁も歪んでいる。

道路には人間の身体やバラバラの手足が散乱している。
ゲリラの仕掛けたプラスティック時限爆弾が爆発したらしい。

ものすごいサイレンの音を響かせながら
米軍の憲兵のジープが何台も現場に飛び込んできた。
昔、テレビでラット・パトロールという
第二次世界大戦のアフリカの砂漠を舞台に、
ジープでドイツ軍を攪乱する米国の部隊の活躍を描いたものがあった。
そのテレビ映画に登場するジープと同形のものが
このサイゴンの米国MP(陸軍憲兵)に使用されていた。
後部座席に回転する機関砲座を備えたジープである。

このジープにMPが人間、または、屍体を片っ端から放り込んで、
すぐ近くのフランスのパスツール病院に向けて突っ走っていった。

われわれが、ぼんやりして、野次馬の群れに入っていると
突然、警官が数人現れた。
彼らはなにやら大声で叫ぶと、空に向けて一斉に拳銃を乱射しはじめた

私は、その理由をすぐ理解した
共産ゲリラは時限爆弾をしかけ、
爆発した現場を見ようと集まる野次馬めがけて二次攻撃をかけるという。
警官はそれを防ごうと群衆を威嚇しているのだ。
近くにいた人間が殴られたり、つかまえられたりしている。

必死で群衆の中を逃げた。
ここで捕まるわけには行かない。
化なり離れた通りまで出て
ようやく空いたタクシーをつかまえると、
宿舎向けて全速力で走ってもらった。

宿舎に帰って、二人でビールを飲みながらも、
しばらく二人は無言だった。
あの時、あのバーガールにひかれて、
あのバーに立ち寄っていなければ、
私達はあのクラブの爆発に巻き込まれていた訳だ。

負傷ですんだか? それとも運悪く【即死】していたか?
それはわからない。
人間の運命とはわからないものだとしみじみ思った。
それに本件もまた(笑)、支店長に明かすわけにはゆかない。
自己責任としておこう。

この重い暗い秘密を背負ったまま(笑)、
私はまた毎夜、夜のサイゴンのバー街に出かけた。






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最終更新日  2015.11.16 22:06:21
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