敵基地攻撃能力の保有をめぐっては、平和主義を掲げる日本国憲法の下での許容性(特に、専守防衛に徹するという日本の防衛の基本方針に反しないのかという問題)や、安全保障政策としての適切さ(防衛上のコストと効果の問題、近隣諸国をはじめ国際社会に与える印象など)が議論されることが多くあります。そうした問題とともに、国際法の下でどのように評価されるかを考えることも重要です。このコメントでは、武力行使の規制に関わる国際法(jus ad bellum)の観点から、特に自衛権との関係で、敵基地攻撃能力について検討します。
国際法上の自衛権を行使するための要件としては、まず、国連憲章第51条に「武力攻撃が発生した場合(if an armed attack occurs)」と規定されています。この「武力攻撃」の要件については、武力攻撃が現実に発生する前に、その脅威に対して自衛権を発動することが許されるか否かをめぐって、激しい論争があります。武力攻撃の脅威がまだ急迫しておらず時間的余裕が残されている段階での自衛権発動に対しては否定的な立場が有力ですが、急迫した武力攻撃に対する先制的自衛の合法性/違法性については見方が分かれています。