音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

2010年08月16日
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前編 中編 からの続き)

 ここまでジョン・レノンのアルバム『イマジン』の収録曲を1曲ずつ順に見てきた。一般的なイメージとは違って、本盤の収録曲のテーマは実に雑多で、悪く言えばまとまりがないことが分かっていただけたのではないかと思う。では、このアルバム『イマジン』は、“ごた混ぜ”の、1枚のアルバムとして完成された名盤とは言えないのだろうか。答えは否である。以下のことを考えるにつけ、まとまりのない1枚などとたやすくは言えない。

 このアルバム1枚を通して聴いた後で、何かアルバム全体としての一つの意図のようなものを感じずにはいられない。同じジョンによる別の名盤『ジョンの魂』とちがって、本作『イマジン』は、どこか歌がストレートに響いてこない気がする。具体的に言うと、何となしにオブラートに包まれているような、もしくは、どこかしら“すりガラスの向こうで鳴っている音楽”のような印象を受けるのだ。この“すりガラスの向こうの感覚”は、きっと本盤全体のコンセプトであって、きっとジョンは(そしてプロデュースのフィル・スペクターは)それを意図的にやっていたのだろう。

 1.「イマジン」の平和へのメッセージは天の彼方から聞こえてくる声のように響く。5.「兵隊になりたくない」のようなストレートな詞は、目前の声ではなくどこか遠いところ、もしくは別世界からの声であるかのように聞こえる。私的な色合いの強い3.「ジェラス・ガイ」や10.「オー・ヨーコ」のような曲が比較的ストレートに聞こえてきて、アルバム全体の中でいいアクセントになってはいるが、それでもなお、これらの曲もどこかしらまっすぐな声というよりは浮遊感、地声というよりは心の中から出てきた声という響きを残している。

 以上のように、各曲を単独で考えるのはなく、アルバム全体で通して音に着目して聴くと、その“すりガラスの向こうの感覚”が作り手側の意図的な効果によるものだったのではないかという気がしてくる。確かにジョンの作品でこういうヴォーカルの響き方がするという傾向は他の盤にもある。けれど、この『イマジン』ではとりわけそれが意図的になされているように思われる。

 作者であるジョン・レノンがこんなことまで想像しながら聴き手に聴かれることを意識していたかどうかはわからない(だからといってリマスター盤=筆者未聴=でこれを変えてしまったとしたならば、それは問題かもしれない)。しかし、上で述べたように考えることで、多様な、必ずしも一貫性のない主題の各曲がこの1枚に共存している理由もよく分かるだろう。言い換えれば、この“すりガラスの向こう感”というサウンド・コンセプトがあったからこそ、平和や反戦を志向する曲、元バンド・メンバーへの中傷ともとれる曲、ラヴ・ソングといった異なる曲群がまとまり得たのであって、バラバラの“ごた混ぜ”アルバムにならなかった理由であろう。それらバラバラに見える多様な曲群を敢えて1枚の中に放り込み、見事にまとめて見せたのは、結局、ジョン・レノンというアーティストの力量であり、才能であったということになるのではないか。



[収録曲]

1. Imagine
2. Crippled Inside
3. Jealous Guy
4. It's So Hard
5. I Don't Want to Be a Soldier
6. Give Me Some Truth
7. Oh My Love
8. How Do You Sleep?
9. How?
10. Oh Yoko!

1971年リリース。


関連過去記事リンク:

ジョン・レノン 『イマジン』 ~前編~  へ

ジョン・レノン 『イマジン』 ~中編~  へ






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Last updated  2010年08月16日 07時40分54秒
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