音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

2012年03月15日
XML
シカゴから南部へ、ブルースロックと南部サウンドの出会い


 ポール・バターフィールド(Paul Butterfield)はシカゴ出身のボーカリストにしてブルース・ハープ奏者。白人ブルース、米ブルース・ロックの先駆者とされる。彼のバンド、ポール・バターフィールド・ブルース・バンドは、1965年に、ボブ・ディランの“ロック転向”の演奏のバックを務め(ただしこの演奏にはリーダーのバターフィールドは参加していない)、この年、バンドとしてもデビュー作( 『ザ・ポール・バターフィールド・ブルース・バンド』 )を発表する。その後も名盤として有名な 『イースト・ウェスト』 などを発表するが、相次ぐメンバーの脱退や変更、音楽的方向性の変化などが続き、結局、バンドは1971年に解散してしまう。

 ポール・バターフィールド・ブルース・バンドを解散後、バターフィールドはニューヨーク州ウッドストックに移住し、新バンド“ベター・デイズ”を結成。1973年にその初作 『ベター・デイズ』 を発表する。そして、これに続き同じ年にリリースされたのが、本作『イット・オール・カムズ・バック(It All Comes Back)』であった。

 前作『ベター・デイズ』はブルース・ロックを牽引してきたバターフィールドが辿り着いた一つの境地を示すものであり、音楽史に残る名盤の一つである( 過去記事 を参照)。それと同時に、次なる目標への足がかりとなるものでもあって、その次なる目標が本盤の中心となっていったように思う。それは、シカゴ出身で東海岸へ足場を移した彼が、こんどは南へと向かっていく方向性だった。

 収録曲のうち 「スモール・タウン・トーク」 (オリジナルは ボビー・チャールズのセルフタイトル作 に収録)が聴きどころなどと言われることもあるが、個人的には少し違うように感じる。無論、この曲の出来がよくないと言っているわけではなく、この曲自体はそもそも名曲な上に味わいのある仕上がりだと思う。けれども、アルバム全体の色合いという点では、むしろこの曲は両極の一方に位置するもので、いわば“南部志向”のR&B色の強い側の曲。その対極にあるのは、バターフィールドがデビュー時から積み重ねてきたブルース・ロック的な側面で、本盤ではそこもちゃんと出ている。私見としては、このバランス具合が本盤の真骨頂であって、“南部志向”側に期待し過ぎても、従来のブルース・ロック一色に期待し過ぎても、本盤に関してはその期待は裏切られるように思う。

 とまあ、上のような言い方をすると個別の曲名を挙げづらくはなるのだが、完全に私的好みで気に入った曲を挙げておきたい。

 アルバム冒頭を飾るのは、1.「トゥー・メニー・ドライヴァーズ」という、ブルース側の“バターフィールドらしさ”がよく表現された曲。対して2.「イッツ・ゲッティング・ハーダー・トゥ・サヴァイヴ」や5.「スモール・タウン・トーク」などは、南部色が濃い。面白いのはそういう部分でヴォーカルがポール・バターフィールド自身から交代していたりする点でもある(リードヴォーカルは2.がニューオーリンズの大物ロニー・バロン、5.がジェフ&マリアでも知られるジェフ・マルダーで、共にベター・デイズ結成時のメンバー)。

 さらに興味深いのは、そうしたジャンルの交錯とヴォーカルの交代が重なったタイトル曲の9. 「イット・オール・カムズ・バック」 。ボビー・チャールズ作の、ニューオーリンズ色の強い曲で、ヴォーカルはポール・バターフィールドとジェフ・マルダーの二人。ブルース・ロックに突っ走っていた頃のバターフィールドとは一味も二味も違う、噛めば噛むほど味が出るスルメのような深みが出てきている。ちなみに、本来はこのいい雰囲気でアルバムが締めくくられていたので現行のボーナス曲は(追加曲の出来は悪いわけではないにせよ)、アルバム作品としてはやっぱり蛇足。ジャズなどでよくあるみたいに(といっても誉められたセンスのものではないことが多いが)、途中にボーナス・トラックを入れてくれた方が、肝心の締めくくりの雰囲気を壊さずによっぽどよかったと思うのだけれど。

 あと、文句なしにカッコいい4.「ウィン・オア・ルーズ」や8.「ルイジアナ・フラッド」も触れなければと思うのだけれど…、挙げだすときりがない。もっともっと聴かれてよいであろう、ほぼ捨て曲なしの名盤。



[収録曲]

1. Too Many Drivers
2. It's Getting Harder to Survive
3. If You Live
4. Win or Lose
5. Small Town Talk
6. Take Your Pleasure Where You Find It
7. Poor Boy
8. Louisiana Flood
9. It All Comes Back
10. Keep Lovin’ Me Baby (CDボーナストラック)

1973年リリース。





【Aポイント+メール便送料無料】ポール・バターフィールド Paul Butterfield / It All Comes Back (輸入盤CD)【YDKG-u】







  下記ランキングに参加しています。
  お時間の許す方は、“ぽちっと”クリックで応援をよろしくお願いします!
        ↓           ↓        

にほんブログ村 音楽ブログ ロックへ 人気ブログランキングへ





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2020年08月23日 20時02分03秒
コメント(0) | コメントを書く
[洋ロック・ポップス] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: