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ご事情あっての、特別な通販。大好きな作品揃い、この機会に!と、嫁ぎ先は決めてある~
2013年06月28日
月宮零時さんの、『眼鏡屋と探偵』を読みました。好みとかフェチとか人それぞれですが、度を越すと厄介だったりします…眼鏡好きが高じて高級眼鏡店に勤める主人公は、好みの眼鏡と見るや速攻手を出し、とっ替えひっ替えしています。ある日フィッティングに訪れた客は、端整過ぎて個性がないくらいだったのに、ところが、行きつけのゲイバーで再会した彼は、違う眼鏡と違う服装でまるで別人でした。彼が、実は浮気調査中の探偵だと知って、ますます興味津々な眼鏡屋ですが、そんな時、知り合いの美青年が殺害されるという事件が起ります…主人公の眼鏡屋の、その眼鏡好きたるや、そりゃぁ並じゃありません。近眼だろうと乱視だろうと老眼だろうと、とにかくオイシイ眼鏡男子なら大喜び。魅力的な眼鏡の前には、諸手を挙げて降参~♪な眼鏡屋なので、一人の男を一途に想うなんてタイプとは真逆です。そんな眼鏡屋の前に現れた探偵は、眼鏡を替えると別人になってしまう、特異な男でした。今まで誰にも見破られた事がなく、無個性な探偵は「faceless-man」と呼ばれていたくらいなのですが、ところが眼鏡屋はあっさり彼だと判ってしまいます。それもこれも、眼鏡愛のなせる業なのですが…美青年殺人事件の真相は、探偵が以前係わった事件の逆恨みによるものでした。残忍で執拗な犯人は、でも、眼鏡屋の眼鏡愛によってあっさり看破されてしまうのですが、このオソルベキ才能は、新たな人相学…かも?まぁ、眼鏡をしていなきゃ全く意味がないし、第一どんなに良い眼鏡でも、女はハナから論外みたいだし…やっぱり、度を越したフェチでしかないんですけど…探偵は、‘faceless’というだけでなく、個人的基本の一切が不明です。親兄弟、身寄りが全くなく、そもそも‘誰なのか’全く判りません。人間として誰もが当り前に持っているはずの情報が、何らかの事柄により不明になってしまったのか、あるいは誰かの意思より消されてしまったのか、謎です。特定の誰かではなく、眼鏡を替える事で別個性と化してしまう、素顔の全く判らない「faceless-man」は、彼が探偵である為に身に備えた技なのか、それとも彼の空白の幼年期にそうならざるを得ない事があったのか、あるいは…探偵にしてみれば、どんなに眼鏡を替えようと、どんなに外面を変化させようと、いとも容易く自分を認識してしまう眼鏡屋が、不思議だったでしょう。初めて探偵個人を認識して、探偵自身そのものに関心を持って接してきた眼鏡屋の存在が、彼の中で特別となるのは早かっただろうと思います。そして、探偵自身が自分自身というものを、改めて認識させられたかもしれません。探偵として優秀過ぎて、彼も周囲も「faceless-man」である事を利用して、彼自身に意味を感じなくなっていたような気がするので。もしかしたら、探偵は眼鏡屋と出逢った事で、自分の人間としての基本を探し始めるのではないか…と思ってしまいました。自分が誰なのか、親はどういう人なのか、近親はいるのか、誰よりも知りたいはずです。ひょっとして、眼鏡を替えただけで別人になれるという事は、その様々な顔の中に本来の彼自身の顔があって、それに気付いた誰かによって…たとえば親とそっくりだったとか、生き別れの兄弟がいたとか…彼の身元が判明するって事もあるかもしれません…物語は深刻な展開は一切無く、眼鏡屋の眼鏡フェチが手掛かりとなって事件の真相を突き止め、多少の流血はあるものの、眼鏡屋は目出度くオイシイ眼鏡GET!な結末となります。オイシイ眼鏡の前にはミジンコほどの貞操もない眼鏡屋ですが、眼鏡を替えただけで別人になれる探偵の魅力は、尽きる事がありません。眼鏡屋にとって、無限の魅力を備えたこれ以上ない存在…つまり最愛の人となるわけです。とはいえ…そもそも、オイシイ眼鏡に対する多情さが災いして犯人に誤解されたのだし、そう簡単に性癖が変るとも思えないし、また違うオイシイ眼鏡は別腹でしょうけど…高級眼鏡ばかり扱い、フィッティングは個室で、担当店員は指名制なんてマニアックな眼鏡店を開いたオーナーと、その各種美形揃いの店員たち。馴染みのゲイバーの、ナニヤラの神様(笑)を信奉するママと、そして、探偵事務所を訪ねてくる、ちょいと渋い刑事。脇に登場する面々も個性的で、これだけで終るには惜しくてなりません。たとえば、眼鏡屋と探偵の事件簿や、眼鏡店の個室やゲイバーのアレコレとかを背景に、探偵の自分探しとか、ぜひ読みたいものです。続編、お願いできませんかね… 『眼鏡屋と探偵』 2009年4月 ガッシュ文庫 月宮 零時 * 砧 菜々
2009年05月19日
年明けから忙しかったのがようやく一段落着いて、改めて冬コミ新刊を賞味し直しています。もちろん、今までもチョコチョコ読み続けてきて、大方読了したのですけど、特に気に留まった小説を落ち着いて読み直しているのです。その中から、去年から引き続き個人的フェア真っ最中の、月宮零時さんの作品を…『秘密の庭に猫とふたり』 2007年12月 Lotus Eater『私の猫と花の庭』の番外編。成長盛りのスズナが、一生懸命に自分の可能性を大きく伸ばして、皐月と一緒に歩いていこう!と頑張ってる物語です。で、言い換えると、そんなスズナが可愛くて可愛くてならない皐月さんと、そんなスズにゃんにちょっかいを出したくてならない鏑木と、すっかりスズにゃんを弟みたいに思ってる司の、猫愛玩本でもあります…スズナが皐月の庭の片隅を借りて、野菜やハーブを育て始めた‘私と猫の家庭菜園’。スズナと司の直接対決となった、‘目玉焼きのないしょ話’。KABURAGUI新メニュー選定での、ちょっとしたスズナの経験、‘ペパーミントの秘密’。そして、スズナと皐月の離れ難い想いを描いた‘秘密の庭に猫とふたり’の、全4話が収録されています。手入れが行き届いた美しい庭の中で、スズナはのびのびと過ごし、いろいろなものを豊かに吸収して、そしてスズナらしく自由に表現しています。スズナの活き活きとした可愛らしさがふんだんに描かれていて、こういう素直で元気な男の子が身近に居たら毎日が明るくて賑やかで楽しくて、そして堪らないだろうなぁ!と理解できるので、所構わずスズナを押し倒してる皐月の情動にも寛大になってしまいます…抜け目ない商売人である鏑木が、もう素敵に胡散臭くて、スズナと鏑木のバトルシーンは楽しくてなりません。決してキレイなお人形さんではない司の様子、そしてあの鏑木と付き合っていけるだけのモノも判り、だから皐月との関係に司はそうとう苦しんだだろうと改めて感じました。加えてKAGURAGUIに勤める、さすがオーナーのお眼鏡に叶ったユニークな従業員たちも魅力的で、これからもっともっと様々な物語が始まりそうなわくわくとしたものがありました…美しい庭の四季を舞台に、デザインの才能を伸ばし始めたスズナの成長と、それを見守り自分自身も変化していく皐月の姿と、そしてKAGURAGUIの面々を交えた物語を、長編でたっぷりとお願いしたくてなりません…『プライマリ・プラクティス 雨の中 咲く花は』 2007年11月 Lotus Eater由緒あるらしい城下町に暮らす、仲の良い高校生5人の物語‘プライマリ・プラクティス’の第二話です。前作で‘物静かな猫…それもとびきり高級な’と表現された少年と、5人のリーダー格の‘冷静沈着な黒縁黒眼鏡の似合うインテリ’な少年の物語です…物静かで、人交わりが不得手な少年には秘密があって、それは人恋しさを顕わにできないゆえの、とても淋しく切ないものでした。高校の美術教師に拾われた事から始まった、お互いの秘密を守る為の‘雨の水曜日’は、いつもさりげなく見守っているリーダー格の少年のお蔭で、いつしか間遠になっていたのですが、彼の家に初めて招かれ、そのあまりにも自分とは違う立派で温かな家庭に萎縮してしまいます。そして雨の中逃げ帰り、孤独に苛まれた少年が縋ったのは、あの美術教師でした…あの美術教師とは、月宮さんの同人誌でお馴染みの風変わりな店‘neuron’の、風変わりな常連の一人です。どうやら、ただの美少年専門の好き者ではなく、実は何やら物語が秘められているようなのですが、懸命に少年の行方を追った冷静沈着な少年と、そして美術教師のストッパーである保険医(同じく‘neuron’常連)の登場で、それは明らかにされません。この、‘neuron’に入り浸る大人たちの物語も、ぜひお願いしたいところです…淋しい少年は、ようやく暖かい存在を得て、その幸福に縋りついたところです。暖かい人の心に育まれて、改めて彼らしくのびのびと暮らしていってくれたら嬉しいです。それにしても黒縁眼鏡くん…キミの冷静沈着で見事な男っぷり、決して高校生には思えないんだけど…それは、由緒正しい御家のご嫡男ゆえと理解して、一人ぽっちで淋しかった猫を思いっ切り愛し抜いて下さい…月宮さんですが、冬コミ直前に16、7年一緒に暮らした愛猫が虹の橋を渡ってしまったそうです。この喪失感は、私にも経験がある事ですが、結局は自分自身で吹っ切っていかないと同じ所に留まってしまうものです。どうか、 何とか大切な思い出として昇華されるよう、お祈りしています…
2008年02月17日
土曜日に所用あって出掛けるのに、また月宮零時さんの同人誌を持って行きました。片道40分くらい地下鉄に乗りながら、すっかり没頭して読み耽ってしまいました…『リトル・プレイヤ』 2004年10月 Lotus Eater16歳の高校生と、36歳のサラリーマンの物語。最初の「祈る人」では、二人だけの世界の中に君臨する少年と、彼に縋りつくように傅く中年男という、閉塞的なものを感じさせました。まだ二人の間に恋はなくて、でも関係だけはあって、少年の視点で語られる為に索漠としたものばかり伝わってきます。痩せぎすで風采の上らない男は、少年の前ではおどおどとして見えて、二人の関係は夜の一時だけに秘められたものとして封じるのだろうと思ったのですが、続く「信仰」で二人して外へ出ようとしたのは男の方からでした。あまり気の利いた風でもないので、てっきり面白みのない平凡な街中に紛れるようにして、デートごっこを密かに愉しむくらいがせいぜいだろうと思ったのに、ところが、むしろ自分のテリトリーに少年を誘き寄せようとしたかのような、強かな一面を感じさせました。結果として、少年から「オレだけに欲情してればいいんだよっ!」という言葉を得ているのだし…そもそもの二人の出逢いは、「レクイエム」で語られます。それは、少年の不幸な出来事から派生したもので、だから少年は恋から始める事ができなかったのは当然だと思います。縋りついた藁に縋ってみたのは、その時の心の傷と、それから日頃隠し持っていた孤独からだったでしょう。男は、ひょっとしたら一目惚れだったのかもしれない…だから、柄にもなく身体を張って少年を助けたのかもしれない…その挙句、付け入るように関係を持ってしまうのも、理屈とか理性とか以前の本性に突き動かされたせいでしょう。そんな風に始まった二人なので、どこか痛々しい部分や愚かしいものがあって、切なくもあるし滑稽でもあります…最後の「小さな祈り」で、二人は少年の17歳の誕生日を祝います。ケータリングやテイクアウトのご馳走でテーブルの上を埋めて、丸いケーキにロウソクを立てて、どこか誕生日ごっこを楽しんでるような紛い物めいたところがありながら、でも二人なりの真実にも辿りつつあって、不思議な幸福感が潜められていました。時間は永遠ではなくて、不変なものは何もなくて、そういう事をちゃんと二人が知っているから、今が愛おしいという事に二人は気付いたのでしょう。つい、男を三木眞一郎さんで変換してしまって、だから余計に強かな内面を想像してしまったんだろうとも思うのですが…「ボンクラ」とか、「鶏ガラみたいな」とか、「パッとしない見てくれ」だの、情け容赦の無い形容ばかり出てくるのだけど…あくまでも、少年視点なので…でも、エゴン・シーレの描く男に似ているらしいので、あながち外れでもないかと…男が少年を連れて行く‘neuron’という店と、その常連の風変わりな面々が面白いのです。屈強そうなマスターと、その恋人らしい雰囲気のある青年、オネエ言葉のバーテンが賑やかしく、長髪を後で括った着物姿の男や、乾涸びそうな人形師や、一癖も二癖もある「風変わりな人の吹き溜まり」となっているこの店を舞台にして、そうとう面白い物語がいくつもあるように思えます。是非、読んでみたいのですけど…『プライマリ・プラクティス 心の特等席』 2003年11月 Lotus Eater二卵性双生児の兄弟が、自分の気持ちに気付いて、相手に気付かれまいと懸命になって、でもその想いは一緒だったという物語。単なる兄弟以上の、‘双子’という関係なので、その心の繋がりはやはり濃密なものがあるのでしょう。あとがきからすると、月宮さんご自身が双子なのか、それとも近しい存在であるのか、このテーマには並々ならぬ想いをお持ちのようです。正直なところ、私には良く解らない部分があるのですよね、兄弟って。私には弟が二人居るのだけど、三人とも些か人間の情的にドライなものがあって、しかも相当勝手者揃いなので、離れていて程良い関係なのです。だから、こういう細やかで濃密な想い合う兄と弟という関係は、どうしてもファンタジー以上に遠い感覚で…兄弟モノというカテゴリは、BLの中でも重要な部類ではないかと思うのですけど、やはり血縁という永遠に離れられない理由が、お互いの執着に強さや遣る瀬無さを深めて、それが魅力となっているのでしょう。それが妄執となったり怨念めいてきたりすると正直辛いので、兄弟モノをつい敬遠してしまうのですけどね…この物語では、元はひとつの処に在ったのに離れ離れになって、心に擦れ違いが起きてしまった兄と弟が、自分自身の気持ちをちゃんと解って、そして相手の気持ちも解るまでの様子が細やかに描かれています。お互いがお互いの為の‘特等席’だったと解って、また「一緒」になれた喜びが素直に伝わってきて、その初々しさや愛おしさが良いなぁと思いました。また、彼らを取巻く少年たちにも物語があるようで、それはこのシリーズの今後の愉しみです。そして、生徒をモデルにスカウトしてる、些かアブナイ美術教師が出てくるのですけど、これが何と‘neuron’の常連で、しかも保険医が噂のストッパーだと解って、大喜びしてしまいました。ますます、‘neuron’の物語が読みたくてなりません!月宮零時さんの物語は、本当にどれも丁寧で細やかで、そして読後に嬉しい余韻があって良いのです。商業誌的にはまだ2冊のようですが、これからますます楽しみな作家さんだと思います。さて、次はどの作品を読もうかな…夏コミの獲物は、まだ有るのです。一気に読んでしまうのが惜しくて、1冊ずつゆっくり味わわせて戴いている途中です…
2007年10月08日
『私と猫と花の庭』がとっても良かったので、月宮零時さんの作品をもっと読んでみたくて…そこで、夏コミの折にスペースへ伺って、「全部、下さい♪」をやりました。こういう時、「大人で良かったな~」「自分で(ささやかでも)稼いでで良かったな~」と、実感するんですけど…久しぶりの旅行にどの本を持って行こうか迷って、そして何冊か決めた内に、月宮さんの同人誌から2冊を入れました。鬱陶しくまだ夏が居座ってるような東京より、カラリとした函館の空の下で読んでみたいと思ったので…実際には、せっかちに飛行機の中から読み始めてしまったけれど…『モンパルナスの夕暮れ』 2005年10月 Lotus Eater主人公は、大学入学の為に上京してアパートを探したもの、既にのめぼしい物件はなく、結局、築20余年のボロアパート‘メゾン・ド・エトワール’に住まう事になります。6畳一間にささやかな水回りが付いただけの部屋で、お風呂は共同という今時の若者なら敬遠間違いなしの条件ながら、ちょっと風変わりな大家さんに気に入られ家賃をまけてもらったり、慎ましく自炊しながら、のんびりゆったりと日々を楽しんでいます。秋が深まったある朝、自分の布団の中に隣室の男が何故か眠っていました。主人公はびっくりして、でも一向に目覚めない男に困りつつも、あまり近所とゴタゴタしたくないと思った主人公は、男が目覚めるのを待ちます。そして、主人公と隣室の男とのご近所付き合いが始まりました…主人公はおっとりとした素朴な青年で、また隣室の男も穏やかで、どこか似たもの同士の二人がゆっくりと時間を掛けて恋を育んでいく物語でした。地方から一人出てきて、ちょっと淋しさも覚えていた主人公と、志してパリへ留学したものの挫折して、帰国して日々淡々と生きてきた男とが出逢って、お互いの温もりにふんわりと包まれた優しい時間を過ごすうちに、少しずつ少しずつ恋が降り積もっていく様子に、読んでいるこちらの心までほっこりしてきます。粗末なアパートの1室で卓袱台をはさんで座って、ご飯とお味噌汁と佃煮と浅漬けの朝ご飯を食べている情景の、慎ましやかでありながら、何て心豊かな事か…18歳と34歳の恋は、素朴で純で、微笑ましいのです。ちょっとじれったさも感じるのですが、お互いの心が判ってからはさすがパリ帰りの34歳、大人のフランス語口座を仕掛けるのですけど…でも、やっぱりどこかユーモラスです。そして、窓の外に吊るしたオレンヂが、オシャレな小道具だなぁと思いました…主人公が、男に向かって懸命に言った「ここが山本さんのパリですよ」の意味は、まだ自覚していなかった恋の告白でした。そして主人公が言い募ったパリの地名は、男が今も遠く憧れているかもしれないものが、実際はもう目の前に存在しているのだと、教えたと思います。それは、男の本来の夢とは大きく違うとはいえ、でも、案外近しいものだったと気付かせた事でしょう…キンピラやスキヤキの匂いがするモンパルナスの夕暮れは、とっても幸福なのです…『冬の星座』 2006年3月 Lotus Eater小学6年生の冬、課題で毎夜の星座を記録する事になった少年たちが、やがて成長して、そして恋に手が届くまでの物語です。少年たちは同い年とはいえ、本人の性格や家庭環境など様々あって、その内面的成長もそれぞれです。そのライムラグに密かに傷ついたり、そんな相手の気持ちが判らなくて焦れたり、少年たちの初々しい心が丁寧に綴られています…一人は子供らしくまっすぐに育っている少年で、もう一人は既に崩壊した家で孤独に居る少年です。そして、彼らの良き仲間である少年が加わって、3人の男の子が夜ごと冬の星座を眺めた日々は、大切な記憶になりました。離れ離れになって、そして高校生になった3人は再会するのですが、そこでちょっとした事件が起こり、3人は自分と友人の‘今’と向き合う事になります。主人公が一番何も知らず、ストレートな性格もこの場合災いして、一人焦れるはめにはなるのですが、最後はちゃんと恋に辿り着いて、良かったなぁと思いました。もう一人の少年は、その最初から恋心を抱いている分、その後の辛さも主人公以上には違いないのですが、私はちょっと単純で、スポーツに熱中していた分、恋愛面には疎そうな主人公の方に、少々思い入れて読んでしまいました。主人公は弓道部に所属しており、まだまだ初心者ながらその本質に気付き始める様子が、ちょうど彼自身の心の成長を表し、清々しいのです…しんと冷え切った冬の空に、冴え冴えと光ったオリオンは、少年たちの心に様々なものを残しました。同じ瞬間の空気を呼吸した記憶は、決して消えるようなものではなく、年月を経ても色褪せる事はありませんでした。結晶のように胸に抱き続けた記憶は、今度は恋となって改めて二人の少年に抱かれました。そして、もう一人の少年は…彼には、一体どんな物語があるのでしょう?気になって仕方ありません…
2007年09月24日
『私と猫と花の庭』 月宮 零時 * みろく ことこ 2007年5月 ガッシュ文庫ある日の事、電車の中で画家は自分を見つめる視線に気付き、ふと振り返ってみると16、7の少年と目が合います。少年は、驚きのあまり目をまん丸に見開いて固まってしまっていて、気の毒に思った画家は何もなかったように振るまい、その後どんなに視線を感じても、気付かない振りを続けていました。やがて、駅から自宅へ続く夜道で、画家は自分の後ろに続く小さな足音に気付きます。足音は、初めのうちは短い距離だったのに、日に日にその距離は伸びて、画家の所有する小高い山の麓まで追ってくるようになりました。そこからは、山の上に立つ画家の自宅へと続く階段が伸びているだけです。そして、とうとう足音は、その階段を上ってくるようになりました。足音がずっと自分を追ってくる事に、秘かな愉しみを覚えていた画家は、その少年を自慢の庭に招き入れるのでした…画家は、自宅の庭を丹念に手入れし、季節毎に美しい花々を咲かせ、そしてその庭と花を描き続けてきました。浮世離れた住いに独りで暮らし、あまり人交わりを好まぬような画家が、何故かその初めから少年を受け入れ、そして少年もすっかり画家と庭に馴染み、夏休みともなれば日がな一日庭で過ごすようになります。やがて、画家と少年は、庭の片隅で一時を共にするようになるのですが…それでもまだ、それぞれに秘密を抱えていたのでした…おそらく30台であろう画家の落ち着いた一人称で語られるこの物語は、静かな庭に訪れた活き活きとした存在が、凍っていた心を動かし、固まっていた時間を動かし、そして新たな季節を迎える様子を描いています。ちょっと加味されたミステリアスな風味がまた効果的で、その真相にはほろ苦さも切なさもあって、なかなか味わい深いものがありました。正直、ここまで読ませてくれる作品だとは思っていなかった事を、白状しておきます…少年をその最初から猫に例えている画家には、元々愛玩する嗜好がありました。それはなかなか自己完結なもので、その為にかつて画家は苦いめにもあったのですが…ところが、少年はおとなしく庭で丸まって満足しているだけの猫ではありませんでした。だから、画家も少年自身と向き合い、お互いがお互いの気持ちを探り気付き深めていく事になり、画家にとっても少年にとっても唯一無二の存在となっていったのだと思います。かつての画家は、愛情の対象を自分の絵の中に留める事で十分満足だったと思うのですが、今は少年を描かずにはおれないものの、既に他者の目に触れさせたくない気持ちを抱いてしまっています。嫉妬を知った画家は、もう自己完結など出来るわけがありません。そして少年の寝顔に見蕩れながら、画家はもう筆を手にする間すら惜しくなっているのです…イラストのみろくことこさんの描く少年は、本当に可愛らしく、実は小学生くらいにしか見えません。だから、タイトルの風情に惹かれていたものの、この表紙の雰囲気ではショタだろうなぁと覚悟しつつ読んでみた…というのが、偽らざるところです。だから、みろくさんには大変申し訳ないし、私はこのイラストで十分愉しんだ事も事実なのですが、やはり今回のイラストでは、ショタを苦手とする読み手は、手にする以前に敬遠してしまうのではないかと懸念するのです。正直に言ってしまうと、それがとても惜しくてなりません。この作品のイラストが、たとえば北畠あけ乃さんあたりであったなら、もっともっと注目されているのではないかと思うと…本当に、みろくことこさん、ごめんなさい…『キミは無邪気な同居人』 若月 京子 * 佐々 成美 2007年5月 プリズム文庫そもそもショタがどーにもこーにも駄目だった私を篭絡したのは、言うまでもなく佐々さんのイラストだったわけで、だからこの作品も私にとってハードルは低かったです。BLは、もう既にたいていの職業や身分や種族や属性や…まぁナンでもカンでも貪欲に取り入れちゃったような気がするのですが…とうとう‘座敷童子’の登場です!さすがに、あらすじで‘座敷童子’と知った時は、「すげーっ!?」と思いましたよ。でも、たとえば…築30年の一戸建てを借りてみたら、その家にはずっと住み着いてた猫が居て、懐いてくれたので同居する事にした…と思えば、それほど意外でもない…か…泣かず飛ばずの漫画家に、座敷童子は幸運をもたらします。でもそれは魔法とか神通力とか人外の能力によるものではなく、独り暮らしだったのが同居人を得て日々に張りが出たからだし、一番身近な読者を得た事で漫画の質が向上していったからだし、つまりとても人間らしい部分にさりげなくもたらされたものでした。座敷童子も、それまではただそれとなく人間の様子を見やるだけだったのに、たまたま漫画家の祖先の血の影響で思いがけず具体的に接触できる事になり、初々しい好奇心を抱き、やがて無邪気に人間くさくなっていきます。言ってしまえば、別にたいした事件があるわけでなく、心情的にドラマチックなわけでもなく、淡々と普通に日々が過ぎていくだけのような物語です。でも、この穏やかでささやかな普通の日々の様子…一緒に昼寝したり、すっかり風呂好きになったり、お菓子が大好きになったり、近所のマーケットに買い物へ行ったり、公園でワンコを触ったり、お客さんにお茶を入れるようになったり…が、何とも微笑ましく幸せなのです。そして、締め切り目前の漫画家を手伝って、ベタ塗りしたりトーン貼りする座敷童子なんて、ちょっと堪らない…やっぱり、座敷童子という突拍子の無さを緩和してくれているのは、佐々さんの美麗で愛らしいイラストです。最初の、おずおずと障子の影から部屋の中を覗く様子の、なんて可愛い事!二人で出掛けた旅館で、頭にタオルをのせて温泉に喜んでいる様子の、なんて可愛い事!だから、ベタ塗りトーン貼りも、この座敷童子らしいちんまりした姿で、着物に襷掛け(後ろは大きい蝶々結び)して挑んでくれてたら、もう悶絶モノなんですけどね…残念ながら、そういうシーンはありません。でもそのあたり、出入りする編集やアシストたちへのカムフラージュに高校生くらいの姿に変身していて、座敷童子の美少年っぷりも愉しめるようになっています。そして、実はその姿に漫画家がくらりときて、BLらしくなるというワケなんです…私はもっぱら犬ばかりで、猫と暮らした事はありませんが、やっぱりこういう無垢で愛らしい存在と同居する悦びって、どんな生き物でも同じなんじゃないかなぁと思います。日々成長して、知恵がついたりずるくもなったり、笑ったり泣いたり怒ったり、そんな些細な事の愉しさって、一度知ってしまうともう無しでは居られません。だから、ずっと一緒に居られるかもしれない座敷童子って、良いなぁ~って羨ましくなりました。漫画家は、もしかしたら座敷童子がある日突然いなくなってしまうかもしれないという不安も、ちゃんと心の中に持っているので、鈍感で傲慢な同居人にはならないでしょう。だから、この二人の同居生活が、ずっと幸せに続くと良いなぁと思います…
2007年05月31日
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