音楽雑記帳+ クラシック・ジャズ・吹奏楽

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bunakishike

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2007年07月16日
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カテゴリ: クラシック音楽


 NAXOSの日本作曲家選輯の新譜。全作品とも世界初録音です。前作の安倍作品集はベストセラーを記録しました。ところが売れたは良いのですが、長らく品切れが続いており私も未だ入手できていません。そうするうちに次の作品である、須賀田作品集がリリースされました。一言で行って、色々な作風を持ったカメレオン的な作曲家と言えると思います。ただし、それらは意識的に用いられた段階で、まだ彼の作風の中に完全に溶け込んでいるところまでいっていないように思います。もう少し長生きしていればそれらの作曲家の作風を完全に融合した作品が出来たのではと

思うと、早逝が惜しまれます。

 ブックレッットには例によって、片山杜秀氏の詳細を極めた究めた解説が載っています。 『須賀田礒太郎(1907-1952)は1930年から1940年にかけて日本の重要な管弦楽作曲家として、とくに日本放送協会と密接な関係を築きながら活躍しました。しかし、なくなってからは省みられることもなく、演奏されることも近年まで殆どなかった。今回のCDはSP時代を通じ初めての作品集となります。

■須賀田礒太郎の半生とこの録音が生まれたいきさつ

 祖父は生糸の取引で財をなし、それを受け継いだ父は定職を持たず、いわゆる自由人として過ごした。須賀田は父の気質を受け継ぎ、文化芸術全般について、取り分け美術を愛好した。関東学院に入学すると、学校で盛んだった西洋音楽に影響され、作曲家を志すこととなる。

 関東大震災後、家はまだ安泰であったが、須賀田は結核にかかり、進学や通常の仕事に就くことは断念しなければならなかった。このため、残されたのは作曲だけになってしまった。学校を中退した翌年の1928年に多少の外出が出来るようになると、山田耕筰、信時潔に私的に師事する。しかし、彼らの出す課題が今更のように感じ、菅原明朗の弟子になる。菅原はドビュッシー、ラベル、ストラビンスキーなどを教えた。

 しかし、これらの作曲家にはない、音楽を論理的に構築する事に関心を持ち、ドイツ音楽を学ぶため、1933年マーラーの弟子で東京音楽学校のの教授クラウス・プリングスハイムに師事する。この結果、須賀田はバッハ、ベートーベン、ヒンデミットを学んだ。とはいえ、フランスやロシアの音楽を捨てたわけではなく、ドイツ音楽、さらには雅楽を織り交ぜた彼の作風へと昇華していったのだった。
 須賀田の音楽が長い間忘れ去られていたのは、孤高の人だったというだけでなく、疎開先の栃木県田沼に住み続けていたため、中央の楽壇に忘れられた存在になってしまったことにも原因がある。

 今回の作品集が生まれたのも、1999年に遺族が田沼にある蔵から楽譜を発掘し、神奈川フィルが2002年から隔年で3回彼の作品を小松一彦の指揮で演奏したからことから始まった。』

■「画家マチス」を下敷きにした「交響的序曲」

 最初は交響的序曲。この曲と次の「双龍交遊之舞」は皇紀2600年の奉祝曲です。例のブリテンの「シンフォニア・ダ・レクイエム」やシュトラウスの「皇紀2600年祝典音楽」もこのときの委嘱作品の一部です。この曲はヒンデミットの「画家マチス」第1楽章を下敷きにした曲(片山杜秀氏)です。冒頭の靜けさから、日本の軍楽的な旋律が続きます。ほぼ半分を過ぎたところで快適なアレグロに移ります。ブリテン、ヤナーチェック、バルトークなどの音楽も感じられます。明晰でスマートですが、躍動感に溢れ力強い音楽です。特に弦が高音域で奏される旋律はヒンデミットを思い起こさせるには十分です。ショスタコービッチ風のごつごつした旋律もあり色々な物が混じり合った曲と言えます。14分頃からのフィナーレは、共産主義の音楽が入り交じりあまりいただけません。

■日本的なムードが色濃く漂う「双龍交遊之舞」 

 次の双龍交遊之舞は曲は「序」、「破」、「急」の3つからなり、日本的なムードが色濃く出ています。 第1曲の冒頭フルートの音型はラベルの「マ・メール・ロワ」を感じさせます。そこに和太鼓が絡み、弦に日本的な旋律が出てきます。

 「急」では2分30秒付近のファゴットによる旋律が「鶯の詩」を連想させ、5分くらいの所では「ペトルーシュカ」第4場の「熊を連れた農夫」の引用が聞こえます。

■ストラビンスキー好きには堪えられない「生命の律動」

 バレエ「生命の律動」はストラビンスキーの「3大バレエ」のカット・アンド・ペーストと日本的なメロディーやリズムとを混合した特異なつぎはぎ(片山杜秀氏)というべき作品で、ストラビンスキーへの一種のオマージュとも受け取られる音楽です。日本的な旋律も時折聴かれますが、ストラビンスキーと違和感なく収まっているところが、作曲者の腕の冴えを感じさせます。それに躍動的なリズムがとても心地よいです。ストラビンスキーの「3大バレエ」をよくご存じの方々にはとってはきっと気に入る音楽と思います。

  第1曲は「春の祭典」第2部冒頭の「乙女たちの神秘的な集い」のホルンの旋律から派生した音型がホルンのミュートで奏されます。最初は「春の祭典」第2部冒頭の音楽のムードが続きますが、その後は「ペトルーシュカ」の終結部のホルンの2度の下降音型が頻発します。その後もこれらの音楽があっちこっちに出てきます。時折「火の鳥」風のクラリネットのトリルも聞かれます。

 第2曲終結部での「春の祭典」第2部の弦のピチカートのリズムから「ペトルーシュカ」第4場の祭りの場面でのリズムに代わって、そのリズムに乗って日本的な旋律が金管に出てくるところは爽快です。

 また、終曲のプレスト・カプリチオーゾでのトロンボーンのグリッサンドと野蛮な踊りはデュカの「魔法使いの弟子」の様な楽しい音楽で、映画音楽でも聞いている気分にさせてくれます。

■エキゾチクな「東洋の舞姫」

 最後の「東洋の舞姫」はエキゾチックなムードが色濃い作品です。ここでの作曲家のモデルは、ストラビンスキーではなくリムスキー=コルサコフ、イッポリトフ=イワーノフ、ケテルビーなのでした。(片山杜秀氏)この曲は東洋組曲「砂漠の情景」の第4曲で1941年の作品。アラビヤ風のムードが支配しますが、主題が時にジンタ調になるのが時代を反映していると思います。

 小松一彦指揮の神奈川フィルの演奏は明快でダイナミックな音楽を繰り広げ、単なる紹介以上の資料を提供してくれたと思います。

 ということで、その当時のことを考えると、このようにモダンな作風を持っていたことに驚愕してしまいます。日本人らしい?じめじめしたところがあまりなく、聞いていてとても楽しいです。是非多くの方々にお聞きいただきたいアルバムだと思います。

須賀田礒太郎 管弦楽曲集 (NAXOS 8.570319J)

1.交響的序曲作品6(1939)
2.双龍交遊之舞作品8(1940)
 序(神秘的に、かつ高貴に)
 破(重く、かつ速く)
 急(優雅に)
3.バレエ音楽「生命の律動」作品25(1950)
 Misterioso
 Andante-Moderato scherzando
 Lent-Presto capriccioso
4.東洋の舞姫(東洋組曲「砂漠の情景」作品10より)(1941)

2006年6月かながわアートホールで録音







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Last updated  2007年07月16日 21時47分54秒
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