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ユリウス・アザル(1997-)というドイツのピアニストのドイツ・グラモフォンからのデビューアルバムを聴く。ドメニコ・スクリャービンとスカルラッティを並べたアルバムで、何か意図があるのだろうが、ごちゃごちゃと並べられているという印象。ディストリビューターによると、『2人の作曲家を過去、現在、未来の時空を旅する旅行者に見立て、スクリャービンのソナタの終楽章(葬送行進曲)の 「Quasi niente」部分をプログラムのオープニングとクロージングに位置し、曲間をつなぐ自作の間奏曲(TRANSITION)を2曲収録』とのこと演奏はとても柔らかく、スクリャービンは夢心地で聴いてしまった。参考までに第1番のソナタをアムランとアシュケナージの演奏で聴いた。アムランの演奏はぎすぎすしていて、とても同じ曲とは思えなかった。思えば昔のアムランは今とは違ってそういう芸風だったことを思い出した。アシュケナージは普通の演奏で特に違和感はないが、アムランやアザールに比べると遅すぎる。なので、この曲に関してはアザールの演奏がぴったりくる。スカルラッティのソナタもロ短調K87は宗教的で瞑想的な気分に浸ることが出来た。スカルラッティのソナタでそのような気分になるなんて、思ってもみなかった。ヘ短調K.466も遅めのテンポで同じような気分になる。ハ短調K.58はバッハのように響くが、響きは暖かい。テンポの速いハ短調K.56はさすがにそういう気分にはならないが、ここでもタッチが柔らかく、フレーズが滑らかに流れていく。自作の「TRANSITION」は2曲あるが、Ⅱはスクリャービンの「12の練習曲」の第11番のモチーフを使っている。他のどのピアニストとも違う個性的なピアニストで、今後どのように成長していくか、とても楽しみだ。なおグラモフォンのステージ+というサイトで、アリス・沙良・オットとのクラブでのライブの模様を観ることが出来る。ただし、ログインするか、未登録の方は登録が必要だ。アルバムの中の曲も弾いているので、どういうピアニストか知りたい向きは、無料なのでご覧になっては如何だろう。Julius Asal:Scriabin.Scarllati(DGG 4865283)24bit96kHz Flac1.スクリャービン:PROLOGUE(ピアノ・ソナタ第1番ヘ短調Op.6より第4楽章:Funebre)2. D.スカルラッティ:鍵盤のためのソナタ ヘ短調K.4663. スクリャービン:24の前奏曲Op.11より第20番ハ短調D.スカルラッティ:4. 鍵盤のためのソナタ ハ短調K.565. 鍵盤のためのソナタ ハ短調K.586.スクリャービン:ピアノ・ソナタ第1番ヘ短調(第1楽章:Allegro con fuoco/第2楽章:Adagio/第3楽章:Presto/第4楽章:Funebre)10. D.スカルラッティ:鍵盤のためのソナタ ヘ短調K.23811.アザル:TRANSITION Iスクリャービン:12. 12の練習曲Op.8 より第11番変ロ短調13. 24の前奏曲Op.11より第21番変ロ長調14. D.スカルラッティ:鍵盤のためのソナタ変ロ長調K.54415. スクリャービン:5つの前奏曲Op.16より第4番変ホ短調16. アザル:TRANSITION IIスクリャービン:17. 24の前奏曲Op.11より第14番変ホ短調18. 5つの前奏曲Op.16より第1番ロ長調19. 24の前奏曲Op.11より第6番ロ短調20. D.スカルラッティ:鍵盤のためのソナタ ロ短調K.8721. スクリャービン:EPILOGUE(ピアノ・ソナタ第1番ヘ短調Op.6 より第4楽章:Funebre)ユリウス・アザル(ピアノ)録音 2023年4月17-19日、ベルリン、テルデックス・スタジオ
2024年05月30日
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ピアノの連弾を集めた「Passage Secret」(秘密の通路)というアルバムを聴く。アルファからのリリースだが、eclassicalでまだ半額セールが行われているので、購入してしまった。ロシア出身のリュドミラ・ベルリンスカヤと、フランス出身のアルトゥール・アンセルの夫婦によるピアノ連弾。彼らはメロディアを中心に8枚のデュオとソロを録音していたが、今回は初めてアルファからリリースすることになった。ロシアを含むヨーロッパで活躍していて、2015年にはリュドミラ・ベルリンスカヤが東京春音楽祭の「リヒテルに捧ぐ」シリーズに出演したそうだ。プログラムは彼らが録音していないオール・フランス・プログラムで、ビゼー、ドビュッシー、フォーレ、ラヴェル、オベールという子供向けに作られた曲の組み合わせ。全て管弦楽に編曲されているビゼーの「子供の遊び」、オベールの「イマージュの一葉」は筆者は初めて聞いた。もともと筆者が連弾を購入する機会は殆どない。理由はソロで有名なピアニストにしか興味がないからだ。最近、ラフマニノフを集めたダニール・トリフォノフとセルゲイ・ババヤンのアルバム(未聴)を購入したのが、その稀な機会だった。今回の演奏者はどちらも聴いたことのないピアニスト。結構癖があり、両者の個性のぶつかり合いも楽しめる。おそらくベルリンスカヤが主導権を握っているのだろう。概ねテンポが速く、時に乱暴に聞こえることもある。全般に表現が若干硬いのも、不満の一つ。なので、ゆっくりした曲よりは、速く技巧的な曲のほうが精彩がある。ビゼーの「子供の遊び」は12曲からなり1分から2分程度の曲の組曲。フランスの香気漂う楽し気な曲集で、ビゼーの天才ぶりが窺える。「馬飛び」や「ギャロップ」などの速い曲が精彩がある。また、第9曲「目隠し鬼ごっこ」は遅めのテンポで、しゃれたアゴーギクが鬼ごっこの雰囲気を感じさせ悪くない。第11曲「ままごと」も表情豊かに演奏されている。ドビュッシーの「小組曲」は、あまり期待しなかったが、なかなか面白かった。フレージングが角ばっていて、思わぬところでアゴーギクを効かせていて、この曲の優しいイメージとはちょっと違う。両者の積極的なアプローチで、さらさらと音が流れていくのではなく、引っかかる音楽なのがいい。特に第1曲「小舟にて」が刺激的だ。フォーレの「ドリー」は速めのテンポで、アゴーギクを効かせたアグレッシブな演奏。第2、第4、第6は突っかかるようなテンポで、勢いがあるというか少し攻撃的な演奏。普通の温い音楽に比べると面白いことは確かだが、ちょっと乱暴すぎやしないかと思ってしまう。この中では「スペインの舞曲」が活気のある演奏で悪くない。また第5曲「優しさ」は参考までに聞いたラベック姉妹(DECCA)の演奏よりも何と1分も速い。4分弱の曲でこれほど違うと曲の雰囲気がまるで違ってしまう。この演奏だけを聴いているとそれほど違和感はないのだが、しみじみとした情感はまるで感じられない。ラヴェルの「マ・メール・ロワ」も全体的に速めのテンポで、細かいニュアンスはあまり聴かれないが、もたれないのはいいところだろう。独特なアゴーギクも異彩を放っている。第2曲「親指小僧」のようなテンポが速い曲や第3曲「女王の陶器人形レドロネット」のエンディングのアチェレランドなどは、なかなかスリリングだ。ダニエル=フランソワ=エスプリ・オベール(1782 - 1871)はオペラで活躍したブルターニュ出身の作曲家だそうだ。「イマージュの一葉」はテンポは多分普通。spotifyで聞けるアレッサンドロ・ファジュオーリ 、 オリヴィエ・シャウズ (Grand Piano)の演奏のテンポとはあまり違わない。なので?他の曲で感じられる違和感はなく、落ち着いて聞くことが出来る。地味ではあるが、フランスのエスプリを感じさせる佳曲だ。気に入ったのは第3曲の「セレナーデ」。フランス人の気まぐれな気分が表れているようだ。第5曲「ぬいぐるみの熊の踊り」は副題が「茶目っ気があり重々しい」となっていて、突然強打が出て来て、なかなか楽しめる。録音は透明で潤いのあるサウンドで、ダイナミックスも申し分ない。ということで、知らない曲がてんこ盛りで、気の向いたときに耳を傾けるのに相応しいアルバムだろう。youtubeどこかの家の一室での演奏。幻想的なライティングの映像が美しく、ベルリンスカヤの楽し気な表情が窺える。Ludmila Berlinskaya, Arthur Ancelle :Passage Secret(Alpha ALPHA1024)24bit 96kHz Flac1.Bizet: Jeux d'enfants, Op.22 (1871) 13. Debussy: Petite Suite,L65 (1886-89) 17. Fauré: Dolly Suite, Op. 5623. Ravel: Ma Mère l'Oye,M.60 (1908-10)28. Aubert, L: Feuille d’images(1930) Ludmila Berlinskaya, Arthur Ancelle(Piano Four Hands)Recorded in April 2022 at Salle Colonne (Paris)
2024年05月28日
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古野光昭フルノーツのコンサートを観に行った。このコンサートは以前お伝えしたように、ギターの渡辺香津美が長期療養のため、箏奏者のLEOに変更になっていた。ところが会場に行ったら、なんとリーダーの古野が体調不良のため出演できなくなったとのこと。代演に彼の弟子の坂井紅介が出ることになったが、リーダーがいなくなってしまって、どうなるかと思った。コンサートの二日前に同じ会場で学校行事のコンサートがあり普通に出演していたので、急に体調が悪くなったのだろう。コンサートはその時に古野がピアノと演ったジブリの「君をのせて」の映像を最初に上映し、その後演奏に入った。MCは川嶋が担当したが、手慣れたもので問題なかった。坂井は、コンサート当日の午前に到着したようだ。まあ、ジャズの場合にはよほど込み入った曲でない限り、簡単な打ち合わせでことが済むので、それが幸いした。川嶋も初めて会った人と演奏できるのは、ジャズだけだと言っていた。坂井のベースはアンプを通しているがなかなかいい音で、ソロもそつなくこなしていた。何曲かフリーの曲もあったが全く問題なかった。川嶋いわく、ジョー・ヘンダーソンのバンドにいた人だと紹介していたのも納得。プログラムはスタンダードを中心に、Leoの選曲した曲も交えて楽しませてくれた。1曲目はフルノーツの本来のベース、テナー、ドラムスの編成で、コンサートでは、いつもやる「Yesterdy」。川嶋の骨太のテナーが曲と若干ミスマッチの気はするし、あまり熱の入っていないような気がした。2曲目はピアソラの「オブリビオン」。普通はリリカルなテーマを生かした抒情的な演奏なのだが、今回の演奏は骨太でかなり変わっている。川嶋は途中まではフルートで、このフルートが以前聞いたときよりも表現力が大幅に向上して説得力が増していたのは収穫。目立っていたのは大坂昌彦のドラムス。最初出てきた時に革靴でスーツをびしっと着たどこかのビジネスマンのような風体で、びっくりしてしまった。プレイは普通のドラマーとはかなり違う。普通だとスネアドラム、シンバル、バスドラという感じだが、大坂はシンバルはあまり使わずタムタムを多用していた。それからリムショットも多用していた。とにかく引き出しが多く、音楽の幅が広がったような感じだった。大坂のプレイをいつ聞いたか忘れてしまったが、こういうプレイは独特のものだろう。バンドネオンで楽器をたたいて音を出すことがあるが、ドラムスでも似たような音を出していてびっくり。この曲の後半、マーチ風なリズムに乘ってテナーが咆哮する場面は、ぞくぞくする瞬間だった。3曲目はスペシャルゲストの山下洋輔が登場し、題名は不明だがモンク風の曲を演奏した。山下はプレイが丸くなって、力強さもあまり感じられない。さすがに年を感じさせる。4曲目は川嶋も加わってエリントンの「In A Sentimental Moo」。川嶋の、豪壮でありながらブルージーな演奏にしびれる。エンディングのカデンツァは圧巻。山下もさすがのバッキング。前半最後の曲は、箏のLeoが登場した。曲はリチャード・ロジャースの「私のお気に入り」。Leoの好きな曲らしい。最初は箏に合わせて、さらさらと進む。アンプを通しているとはいえ、箏の音が鋭くクリアだったのは意外だった。箏とテナーがテーマをユニゾンすることが多い。いざソロになると、川嶋がフリーキーなトーンを連発して盛り上げ、エンディングはカオス状態になっていた。山下と川嶋がいればこうなるのも想像がつくが、Leoも面食らったことだろう。後半の最初はLeoの推薦した「さくらさくら」。曲が曲だけに神妙な演奏で、山下のソロがあった。2曲目は山下のソロで多分、即興。お決まりの進行だったが、音の切れがいまいち。3曲目はラヴェルの「ボレロ」。川嶋はフルートからテナー持ち替え。大坂が最後までステディーなリズムを刻み、山下や川島のソロが入り、最後は山下の肘うちも入り白熱した演奏だった。4曲目はLeoの選曲による「6段の調べ」。曲の進行は他の曲と同じだが、箏のソロも入りなかなか新鮮だった。最後は童謡「七つの子」。なかなか味のある演奏で、童謡を得意にしている?山下や川嶋ならではの演奏だろう。アンコールは川嶋の提案で「俳句」の5-7-5のリズムを使った即興。さすがによく分かったメンバーの演奏なので爆笑のうちに終演した。ということで、最初からトラブル続き立ったが、実力者たちの楽しいコンサートで、聴きに行って良かった。キャンセルを受け付けていたようだが、キャンセルした人は惜しいことをしたと思う。古野光昭フルノーツ with 山下洋輔・LEO前半1.レノン=マッカ-トニー:Yesterday2.ピアソラ:オブリビオン3.曲目不詳4.エリントン:In A Sentimentl Mood5.リチャード・ロジャーズ:私のお気に入り後半1.日本古謡 さくらさくら2.山下ピアノ・ソロ3.ラヴェル:ボレロ4.八橋検校:筝曲「6段の調べ」5.童謡「七つの子」アンコール俳句のリズムによる即興川嶋哲郎(fi,ts)大坂昌彦(ds)坂井紅介(b)guest:山下洋輔(p)Leo(箏)2024年5月25日キャラホール・都南公民館大ホール 1階8列30番で鑑賞
2024年05月26日
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ロリンズの有名なヴィレッジヴァンガードでのライブのコンプリート盤がBlueNoteからハイレゾ化されたので早速入手した。もともとはケヴィン・グレイのマスタリングによるBlue Noteの「Tone Poet Vinyl」のシリーズの一つとしてリリースされたもの。その一環としてCDとハイレゾもリリースされたということらしい。今回の売りは初めて7.5ipsのマスターテープからマスタリングされたものであることだ。以前のものはマスターからコピーされたテープなどからマスタリングされたもので、その差は歴然としている。もともと評価の高い録音ではあるが、ここまで違うと評価もだいぶ変わってくるように思う。CDでは最初は1枚、後に2枚組となってリリースされていた。手持ちのコンプリート盤のCD(1999)を見ると、曲目数は変わっていないが、曲順は若干変わっているようだ。録音が失敗したという昼のギグ4曲も含まれている。また午後のギグでの録音は1枚目のCDのトップの「A Night In Tunisia」のみがクレジットされていて、残りの3曲は特にクレジットされていない。今回は残りの3曲も午後のギグと明記されているのは良かった。前述のCDを24bit、192kHzにリッピングしものと今回のハイレゾを比較してみた。全く別ものと言ってもいいほど、違いは大きい。CDもかなりいいのだが、ハイレゾに比べると埃っぽく、詰まったような音に聞こえる。また音の透明度、立ち上がりともハイレゾが優れている。なので、ロリンズのテナーの艶のあるサウンドと、いつもの豪放なプレイとは異なる鬼気迫るような演奏が聴き手に迫ってくる迫力は半端ない。エルヴィンのドラムもCDでは詰まり気味で、ハイレゾの鮮烈な音とはだいぶ違うとはだいぶ落ちる。ただ、鮮明過ぎて、シンバルがうるさく聞こえるが、この方が実演に近いのだろう。夜に比べると昼の音はやや落ちるかもしれないが、ヴァンゲルダーの言うような失敗テイクとは思はなかった。それがマスタリングのためなのかどうかは分からない。昼の部のドラムスのピート・ラロッカは録音当時デビューしたてだが、なかなか頑張っている。ベースはウイルビー・ウエアより昼のドナルド・ベイリーのほうがよく聞こえる。ということで、この演奏に親しんでいる方にこそお勧めしたいアルバムだ。Sonny Rollins:A Night at The Village Vangurd Complete Masters(Blue Note 6512251)24bit 96kHz Flac1.Sonny Rollins:Introduction 12.Burton Lane, Edgar "Yip" Harburg:Old Devil Moon3.Sigmund Romberg:Softly as in a morning sunrise (from The New Moon)4.Sonny Rollins:Striver's Row5.Sonny Rollins:Sonnymoon For Two6.Dizzy Gillespie, Frank Paparelli:A Night In Tunisia7.Vernon Duke, Ira Gershwin:I Can't Get Started8.Dizzy Gillespie, Frank Paparelli:A Night In Tunisia9.Cole Albert Porter:I've Got You Under My Skin10.Sigmund Romberg:Softly as in a morning sunrise (from The New Moon)11.Cole Albert Porter:What Is This Thing Called Love12.Jerome Kern:All the things you are (from Very Warm for May)13.Sonny Rollins:Introduction 214.Dizzy Gillespie:Woody 'n' You15.Miles Davis:Four16.Gene de Paul:I'll Remember April17.Ted Koehler, Harold Arlen:Get Happy18.Ted Koehler, Harold Arlen:Get HappySonny Rollins(ts)Wilbur Ware(b)Elvin Jones(ds)Donald Bailey(b track 3,6,9); Pete La Roca(track 3,6,9)Recorded November 3, 1957 at The Village Vangurd,NYC
2024年05月24日
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以前から気になっていたディーリアスの「ハッサン」の劇付随音楽の全曲を聴く。期待していたわけではないが、これがことのほか面白い。もしかしたら、ディーリアスの最高傑作かもしれない。ディーリアスの音楽は美しいが退屈なところや微温的なところがあり、好悪が分かれると思う。筆者はディーリアスの演奏はビーチャームやバルビローリの演奏で親しんでいた。全体にムーディで親しみやすいが、つまらない曲も多く、規模の大きい曲でも箱庭的な世界だと思っていた。今回の「ハッサン」も「間奏曲」と「セレナーデ」をビーチャムの管弦楽編曲版で聞いていた。ところが全曲版は予想とはまるで違っていて、短い曲が多いが、コミカルな曲が多く退屈しない。重々しい音楽の場面でも、どことなくユーモラスだ。オリエンタル趣味の音楽はストラヴィンスキーやリムスキー=コルサコフを思い出させるところもあり、物語と一体になっていて、音だけでもとても楽しい。編成はナレーター、混声合唱、管弦楽で、弦は3,3,2,2,1、管は一本ずつ(ホルンのみ2本)で、打楽器とピアノ、ハープが加わるという小編成。ナレーターがキングズ・イングリッシュで物語を格調高く進行し、演技も交えて盛り上げている。その存在が曲の印象を大きく変え、ナレーターの重要性を感じた。音楽を聴いていると、古い映画を観ているような気分になる。出番は少ないが、所々に入る合唱も悪くない。ディストリビューターによると、『「ハッサン」は、ジェームズ・エルロイ・フレッカーの詩「サマルカンドへの黄金の旅」に基づいた音楽付き戯曲で、1923年9月20日にロンドンで初演され、281回の上演回数を誇り、ディーリアスのキャリアにおける最大の成功作となった。この作品は、カリフと恋多き菓子職人ハッサン、そして若い恋人ペルバネとラフィの物語が交錯する二重構造を持つ。フレッカーの詩は、19世紀の英訳や当時の人種的、階級的な考え方に基づいており、専制的な東洋の宮廷とその残酷なまでの蛮行が描かれています。』とのこと。ジェイミー・フィリップス指揮のブリテン・シンフォニアは響きが透明でディーリアスの埃っぽいところがなく、大変聴きやすく、音楽も立派に聞こえる。彼は20歳の時にハレ管弦楽団のアシスタントコンダクターとなり以後、イギリスやヨーロッパか吉のメジャーオケと共演して実績を積んでいる。生年は確認できなかったが、おそらく今年32歳くらいだと思う。写真を見ると、少し剥げかかっている。他人事ながら心配だ。ジェイミー・フィリップス ディーリアス: 劇付随音楽 《ハッサン》(全曲) (Chandos CHAN20296)24bit 96kHz Flac) ゼブ・ソアネス(ナレーション)ブリテン・シンフォニア・ヴォイシズブリテン・シンフォニアジェイミー・フィリップス(指揮)録音 ライヴ:2022年11月11日、サフロン・ホール(エセックス、イギリス)
2024年05月22日
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壺阪健登というジャズ・ピアニストのデビュー・アルバムを聴く。慶大卒業後にバークリー音楽院を首席で卒業、コロナ禍のために日本に帰国後、小曽根真が主宰する若手音楽家の育成プロジェクト「From Ozone till Dawn」に籍を置くという経歴だ。このデビューアルバムは小曽根のプロデュースでユニバーサルからのリリース。なので、いつものpresto musicからダウンロードした。一聴カプースチンを思わせるような作品とサウンドが聞こえてくる。また、プーランクやサティのフランス印象派の音楽のテイストも感じられる。全曲壺阪のオリジナルで、平易でメロディックな曲が多い。前半やたらと強打する場面が多く、そこまでガンガン弾かなくてもと思ってしまう。途中のバラード「Ballad in A-Flat Major」から彼の良さが発揮されている。「暮らす喜び」はフランス風のコミカルなテイストを持つ曲。子供がいたずらでピアノを弾いているような面白さがある。録音は重くダークなサウンド。悪くはないがオフマイクで、ジャズの録音というよりはクラシックに近い音作りだろう。また、エッジが丸く、壺阪の繊細な音楽には合っていないように感じる。録音は所沢市民文化センターのマーキーホールというところ。大ホールは行ったことがあるが、中ホールは行ったことがない。写真を見ると、内部が円筒型で座席がぐるりとステージを取り囲んでいるという、日本では珍しい構造だろう。ということで、デビューアルバムとしての水準は高いと思うが、クラシックに片足を突っ込んだような状態で、ジャズとしてはいまいち。いずれにせよ、才能があることは確かなので、今後どのように成長していくのか楽しみなピアニストだ。壺阪健登:When I Sing(Decca 6533752)24bit 96kH z Flac1. When I Sing2. With Time3. こどもの樹4. Departure5. Ballad in A-Flat Major6. 暮らす喜び7. Prelude No. 1 in E Major8. Kirari9. さいなら Adios壷阪健登(p)録音 2024年1月24日、25日 所沢市民文化センター ミューズ マーキーホール
2024年05月20日
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フランスの作曲家フローラン・シュミットの黙劇「サロメの悲劇」付随音楽をルティノグル指揮フランクフルト放送交響楽団の演奏で聴く。フランス人指揮者が録音することが多いと思うが、ドイツの楽団にアルメニア人の指揮者というのも変わった組み合わせだ。フローラン・シュミットといえば吹奏楽業界では「ディオニソスの祭り」で有名だが、クラシック界ではあまり知られていないと思う。ただ、この曲何故か吹奏楽用に森田一浩が編曲したセレクションがあり、結構演奏されているようだ。まあ、日本の吹奏楽業界に特有の現象だろが、吹奏楽に編曲されて、原曲も広まることは悪いことではない。筆者も「サロメの悲劇」の名前は知っていたが、曲を聴いたのはこれが初めて。因みにストラヴィンスキーに献呈されているそうだ。サロメと聞くとR・シュトラウスのオペラを思い出すが、あちらがオスカー・ワイルドの戯曲を基にしているのたいし、同年にパリ初演が行われたリヒャルト・シュトラウスの楽劇『サロメ』はオスカー・ワイルドの戯曲に基づいているが、シュミットの作品はロベール・デュミエールの詩に基づく2幕7場の黙劇。『新約聖書』の「サロメ」や『旧約聖書』の「ソドムとゴモラ」のエピソードが取り混ぜられ、神の怒りによる天変地異で幕を閉じるというもの。(wiki)R・シュトラウスのオペラに比べると規模が小さく、こじんまりまとまっている感じで、オリエンタルムードこそ感じられるものの凄惨さは感じられないところがフランス音楽らしい。アラン・アルティノグル(1975-)の名前は知らなかったが、コンサートやオペラで世界的に高い評価を得ているアルメニア系フランス人とのこと。「サロメの悲劇」は1907年のオリジナル版を使っている。編成はFl&Picc、Cl、Ob、Eh、Fg、Tp、2Hr、2Tbと打楽器3名、弦五部とハープというもの。弦のみ30人以上に増員しているそうだ。ジュリアン・マスモンデ指揮アンサンブル・レザパッシュ が同じ版を使っているが、彼らは22名で音はかなり細身だ。ただ、小回りが利いている。それに対しアルティノグルの演奏は恰幅こそいいものの、少し鈍重に感じてしまう。また、殺伐とした雰囲気はマスモンデ盤のほうがよく出ている。曲はフランスの香りがする音楽で、メロディックで親しみやすいが、ちんまりとまとまっていて、最後もあっさり終ってしまうのが物足りない。また、例えば第11曲の「Tres Lent」後半の急速調の上下降する細かいフレーズなどに「ディオニソスの祭り」を感じさせる。第12曲「AIeaの歌」ではソプラノが加わっている。遠くから聞こえてくるような感じで、気になったので、マスモンデ盤もチェックしたが同じような感じだった。おそらく遠くから聞こえるように指定されているのかもしれない。フランクフルト放送交響楽団は上手いが、もう少し軽くても良かった。最後にチェロをフィーチャーした「エレジー」という曲が入っている。原曲はチェロとピアノのために書かれているが2011年に作曲者自身がチェロと管弦楽に編曲している。哀しみを湛えたチェロが美しく、バックも濃厚で色彩豊か。後半の劇的な盛り上がり方も半端でない。フィリップ・シュテムラーはヤルヴィのフランツ・シュミットの交響曲全集でもフィーチャーされていた。フランクフルトの首席だろうか、朗々としたサウンドで好演。アルティノグル フローラン・シュミット:劇付随音楽「サロメの悲劇」(Alpha ALPHA941)24bit 48kHz Flacフローラン・シュミット(1870-1958):1.劇付随音楽『サロメの悲劇』 Op. 50(1907年オリジナル版)23. 悲歌 Op. 24(チェロと管弦楽版)アンバー・ブライド(s track19)フィリップ・シュテムラー(vc track23)フランクフルト放送交響楽団アラン・アルティノグル(指揮)録音:2021年1月22(サロメの悲劇)、2022年6月23フランクフルト放送ゼンデザール
2024年05月18日
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オーストラリアのジャズ・ヴォーカリストであるキンバ・グリフィスの近作を聴く。今回はプライベートでもパートナーであるライアン・グリフィスとのデュオ。彼らの4枚目のスタジオアルバムだそうだ。ミュージカルなどの古いスタンダードを集めたアルバムで、これが実に素晴らしいでき。深夜にブランデーでもなめながら聴くのに最適な音楽だろう。インティメイトな雰囲気の温かみのある音楽が何とも心地よい。今回はキンバの外連味のないヴォーカルも素晴らしいが、ライアンのギターに惹かれた。殆どがスローテンポの曲で正統的なアプローチだが、音楽の説得力が半端ない。彼らの実力が相当のものであることが分かる。「Body And Soul」や「Early Autumn」などのヴォーカリーズも実に美しい。特に「Early Autumn」はヴォーカル版では、かなり上位にくる演奏だろう。少しテンポの速い「What'll I Do」はギターにエコーを効かせてムード満点だ。最後のアップテンポの「What A Little Moonlight Can Do」(月光のいたずら)ではトラペットの物まねまで飛び出して、軽快に終わる。ロケーションはオーストラリアのヴィクトリア州にあるパーク・オーチャード・スタジオ。小ぶりながらアットホームな雰囲気のスタジオで、見るからに暖かい音が取れそうなスタジオだ。今回はほぼ全曲がブースやオーバーダブを使わずにライブで録音されたとのこと。実際の音も歪みのない暖かいサウンドで、今回のアルバムに相応しい雰囲気を醸し出している。特にギターがいい音で録れているのが嬉しい。ということで、ジャズ・ヴォーカル好きの方々には是非聞いて頂きたい逸品として絶対のお勧め!Kimba Griffith & Ryan Griffith:Turn Up The Quiet 24bit 48kHz Flac1.Tommy Wolf;Fran Landesman:Spring Can Really Hang You Up the Most2.Paul Williams:Love Dance3.Richard Rodgers;Oscar Hammerstein II:It Might As Well Be Spring4.Rafael Hernández:Silencio5.Irving Berlin:Let's Face The Music And Dance6.Johnny Green;Edward Heyman;Robert Sour;Frank Eyton:Body And Soul7.Irving Berlin:What'll I Do8.Guy Wood;Robert Mellin. :My One And Only Love9.Sammy Fain;Lew Brown:That Old Feeling10.Ralph Burns;Woody Herman;Johnny Mercer:Early Autumn11.Harry Warren;Mack Gordon:This Is Always12.Harry M. Woods:What A Little Moonlight Can DoKimba Griffith(vo)Ryan Griffith(g)Recorded at Park Orchards Studio,Melbourne, Australia
2024年05月16日
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ラトル=LSOのコールス版によるブルックナー・シリーズの第3弾交響曲第7番を聴く。先に第4番を聴いていたが、配列が独特で、違う版の楽章やら、断片など一切合切集めていたので、聴くのが煩雑で、あまり集中して聴けていなかった。今回はそういうことがないため、余計なことを考えなくて済む。ブックレットによると、コールス版は、ブルックナー自身が演奏で何度も耳にした「初版」を中心資料として、ブルックナーの手稿譜などに基づいて構成されているとのこと。きびきびしたテンポと透明なサウンド、厚ぼったくならないハーモニーなど、現在の筆者の好みにあった演奏だ。あざとい表現もなく、余計なことを考えなくて済む。普通だと、ここぞというところで、ためを作ったりするものだが、それもあまり感じられない。なので、素っ気ない演奏かというと、そういう感じでもない。流れが渋滞するところもないので、精神衛生上良い。艶やかな弦、濁りのない透明なサウンドの金管などいうところがない。コールス版を使ったことで普通のハースやノヴァーク版とどう違うかは分からないが、おやと思うところは少しある。第2楽章のテュッティになる前の管の進行が少しぎこちなくなるところが一番大きいだろうか。第2楽章のクライマックスではティンパニとシンバルは使われているがトライアングルが使われているかは分からなかった。ロンドン交響楽団は特に突出するパートも見当たらず、良く揃っている。第2楽章のコーダのワーグナー・チューバとホルンのハーモニーも素晴らしい。ということで、強烈に主張する演奏ではないかもしれないが、水準は高く、版の違いがあるにしても、楽しめる演奏であることは間違いない。Bruckner: Symphony No. 7 in E Major Version 1881-83; Cohrs A07(LSO Live LSO0887)24bit 192kHz Flac1 I. Allegro moderato2 II. Adagio. Sehr feierlich und langsam - Moderato3 III. Scherzo. Sehr schnell - Trio. Etwas langsamer - Scherzo da capo4 IV. Finale. Bewegt; doch nicht schnell London Symphony OrchestrSir Simon RattleRecorded live in DSD 256fs on 18 September & 1 December 2022 in the Barbican Hall, London
2024年05月14日
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イタリア生まれでイギリスで活躍しているジェルマナ・ステラ・ラ・ソルサという長ったらしい名前の歌手のリーダーアルバム「Primary Colours」(原色)を聴く。ラ・ソルサは2021年に33 Jazz Recordsからデビュー・アルバム『Vapour』(2021)をリリースしている。バックはハモンドオルガンのサム・リーク、ドラムのジェイ・デイヴィス、ギターのトム・オーレンドルフで、ギター以外は前回の録音のメンバー。3者の実力が揃っていて、トリオとしての水準は高いと聴いた。全曲彼女の作曲で「色」に因んだ曲が集められているが、あまりメロディックではなく、それほど優れているとは思わなかった。ヴォーカルは透明な声とスキャットを駆使しているが、あまりジャズを感じさせない。それに絶叫型で、繰り返し聴いていると鼻につく。オルガントリオでは、ジェイ・デイヴィスのドラムスの活きのいいドラミングが目立っていた。ハモンドオルガンは通常だとアーシーなテイストが強いものだが、サム・リークはその匂いは少なく、ニュートラルなテイスト。ギターのトム・オーレンドルフはバッキングではあまり表に出てこないが、ソロはフレージングが滑らかで立派。特に「Primary Colours」での長いソロは清新な気分が感じられた。ゲストにオーストラリアのハープ奏者、テラ・ミントンが「Blue」と「White」で加わる。「Blue」は柔らかなタッチのボサノバで、ハモンドオルガンはお休み。ハープが入ることで雰囲気がガラッと変わるのが面白い。「White」はハープとのデュオで、2分弱のスキャットが繰り広げられる。のどかな気分が感じられ悪くない。最後の「Refraction」はドラムスとスキャットのデュオで、お遊びのトラックのため、あまり面白くない。演奏時間が30分余りで、いまいちの出来だったのが残念。youtubeGermana Stella La Sorsa:Primary Colours(33 Jazz 33JAZZ299)16bit 44.1kHz Flac1.Black2.Yellow3.Blue4.Red5.White6.Primary Colours7.RefractionGermana Stella La Sorsa(vo)Sam Leak(Hammond Organ)Tom Ollendorf(g)Jay Davis(ds)Tara Minton (harp tracks 3 and 5)Recorded in May 2023
2024年05月12日
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以前から気になっていたラファエル・ピションのシューベルトにまつわるコンセプトアルバム「私の夢」をeclassicalから入手。シューベルトの心の闇を知ることが出来る好企画だろう。心がざわざわするような劇的な表現満載で、大変刺激的なアルバムだ。それが、これでもかと続くので、少しやりすぎ感はある。プログラムの順番をもう少し考えてもらえば少しは、平静に聴けるかもしれない。ウエーバーのオペラからのアリアが2曲演奏されている。実に切れ味鋭い演奏で、この二つのオペラは録音も少なく、是非全曲の録音をお願いしたいほどだ。ピグマリオンのざらざらとしたサウンドがアルバムコンセプトに相応しい。合唱は生き生きして、いつもながらのすばらしさが味わえる。「アルフォンソとエストレッラ」からの「狩りへ」の鮮烈な響き、「ラザロ」からの「やさしく静かに('Sanft und still')」も柔らかなハーモニーどちらも素晴らしい。シューマンも2曲演奏されている。女声のための6つのロマンス第1 集より「人魚」は無伴奏女声合唱のための曲。3分ほどだが清澄な響きが美しい。「ファウストからの情景」第3部のアリア「ここは見晴らしがよく」はドゥグーの格調高いバリトン独唱とぴたりと寄り添うピグマリオンのバックが静かな感動を呼ぶ。独唱陣も充実している。ステファヌ・ドゥグーの深みのある声、ユディット・ファの清純な歌唱もいい。「アヴェ・マリア」はハープのみの伴奏で、ザビーヌ・ドゥヴィエルの清純な声とベストマッチ。ただ、普通の演奏のように流れるようなフレーズでないところは、何か理由があるのだろう。未完成は速めのテンポだが、弦の荒々しい刻みなど、アルバムコンセプトに相応しいシューベルトの心の深淵をうかがわせる、彫の深い劇的な演奏だ。音楽評論家の故宇野巧芳流に言えば「切れば血の出るような」演奏が聴ける。あまり話題になっていないかもしれないが、これは最近の演奏の中でも出色の演奏だろう。最後の「神はわたしの羊飼い」は合唱とハープの演奏。天井から降り注ぐような合唱が実に清々しい。生々しい録音も、アルバム・コンセプトに相応しい。タイトルの「Mein Traum(私の夢)」とは、フランツ・シューベルトの兄フェルディナント・シューベルト(1794-1859)がフランツが1822年7月3日に書いた文章につけたタイトルで、その全文がブックレットに掲載されている。それによると、フランツは父と仲が悪く、若くして家を出たが、、母親の死を契機として再会し、和解したということが書かれている。シューベルトの生涯は全く知らなかったので、複雑な家庭の事情が彼の音楽にも反映されていることを知り興味深かった。ということで、知らない曲が多いがどれも興味深く、考え抜かれた選曲と優れた演奏で、楽しく聴くことが出来た。ラファエル・ピション/私の夢(Harmonia Mundi HMM905345)24bit 96kHz Flac1. シューベルト (1797-1828):レチタティーヴォとアリア「私はどこに・・・力ある者よ、塵の中に ('Wo bin ich… O konnt' ich')」(「ラザロ」D 689 第2幕より)2. 合唱「狩りへ'Zur jagd'」(「アルフォンソとエストレッラ」D 732 第1幕より)3. レチタティーヴォ&アリア「'O sing mir Vater… Der Jager'」(「アルフォンソとエストレッラ」D 732 第2 幕より)4. シューベルト/リスト編曲によるオーケストラ版:影法師(「白鳥の歌」D 957より)5. シューベルト:交響曲第7番 ロ短調「 未完成」D 759より第1楽章Allegro moderato6. カール・マリア・フォン・ヴェーバー (1786-1826):「おお!海の上に浮かぶのはなんと心地よいことか'O wie wogt essich schon auf der Flut'」(オベロン、第2 幕より)7. シューベルト:交響曲第7 番 ロ短調 「未完成」D759より第2 楽章Andante con moto8. R.シューマン(1810-1856):人魚Meerfey op.69-5(女声のための6 つのロマンス第1 集より)9. ヴェーバー:レチタティーヴォ&アリア"どこに隠れよう・・・そして、私は復讐の力に身を捧げる"(抜粋) (歌劇『オイリアンテ』より)10. シューベルト:序奏~アルフォンソとエストレッラ D732 第3 幕より11. シューベルト/ブラームス編:タルタロスの群れ D58312. シューベルト:アヴェ・マリア(エレンの歌 第3 番) D839, op.52, no.613. シューベルト:合唱「やさしく静かに('Sanft und still')」~「ラザロ」D 689 第2幕14. R.シューマン:アリア"ここは見晴らしがよく('Hier ist die Aussicht frei')" 「ゲーテのファウストからの情景」WoO 3より第3部第5場15. シューベルト:「神はわたしの羊飼い」D 706ステファヌ・ドゥグー(Br track 1, 3, 4, 9, 11, 14)ユディト・ファ(s track3, 6)ザビーヌ・ドゥヴィエル(s track 12)ラファエル・ピション(指揮)ピグマリオン(合唱、管弦楽)録音 2020年12月,フィルハーモニー・ド・パリ
2024年05月10日
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ローレンス・フィールズ(1983-)というセントルイス生まれのピアニストのデビュー・アルバムを聴く。最初の「Parachute」のイントロのカデンツァからしてキレキレで、若い頃のチック・コリアを思い出させるような、才能のひらめきを感じさせるピアニストだ。40歳過ぎでからのリーダーアルバムは、遅すぎるように思うが、ジョー・ロヴァーノ、クリス・ポッターなど有名ミュージシャンとの共演も数多くあるようだ。透明で肉厚のサウンドで、打鍵は強力だ。個人的には音符の音数が少し多すぎるように感じられる。ベースは東京都出身でシアトル育ちの中村恭士、ドラムスはコーリー・フォンヴィルという布陣で、彼らのプレイも強力で、トリオとしてのスケールが大きく、水準はかなり高い。フィールズとフォンヴィルはクリスチャン・スコットの「AXIOM」に参加していた。最初の「Parachute」や次の「New Season Blues」からリズムが際立ち、一貫して力強く進む曲が多い。ただ、それが続くとやや単調に感じてしまうのが惜しい。華麗なカデンツァから始まる「Moving On」はミディアムテンポのクールなテーマがいい。途中からテンポを速め、ピアノのアドリブがもたらす熱狂は実に見事だ。「L.B.F.」のようなゆったりとした曲も透明な叙情を感じさせ悪くない。タイトルチューンの「To The Surface」はドラムが暴れまくり、負けじとピアノがダイナミックなソロを展開する力感溢れる演奏。テンポの速い「Yasorey」は重戦車が驀進しているような趣の重量級のサウンドが聞かれる。残念ながら、この曲もフェイドアウトしてしまうところが惜しい。なお、タイトルの「Yasorey」は「Yasushi」と「Corey」を半分ずつ繋げた造語。スタンダードの「I Fall In Love Too Easily」は透明感があり悪くないが、ブラシの音が少しうるさい。2分に満たない「Sketches」はフェイドイン・フェイドアウトの曲で、メロディーらしきものは聞こえない。無駄なトラックのような気がした。最後の「The Lookout 」はリズミックで軽妙な表情を見せる。録音はジャズに相応しく前面に出るものだが、少し騒々しく、聴き疲れしてしまう。ということで、力強い打鍵と創造的な閃きを持つピアニストを擁する重量級のトリオとして、注目していきたい。Lawrence Fields:To The Surface(Rhythmnflow Records 8001)24bit96kHz FlacLawrence Fields:1.Parachute2.New Season Blues3.Moving On4.L.B.F.5.To the Surface 6.Yasorey7.Vision8.Jule Styne:I Fall In Love Too Easily9.Sketches10.The Lookout Lawrence Fields(p)Yasushi Nakamura(b)Corey Fonville(ds)
2024年05月08日
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2022年のヴァン・クライバーンコンクールで史上最年少の18歳で優勝した韓国のイム・ユンチャンのデッカ第一弾のショパンの練習曲集を聴く。難曲を難曲と感じさせない技巧の見事さと、流れのスムーズさ、抒情的な曲での美しいカンタービレなど、実に見事な仕上がり。難しい曲をそうと感じさせないで弾くことは、大変な技巧を持っているからだろうと思う。今までのこの曲でのスアンダードと言えば、先ごろお亡くなりになったポリーニ盤だろうが、当時は難しい曲を鮮やかな技巧で弾いて、聴き手を唖然とさせていたと思う。当時のレビューも演奏の完璧性に焦点が当たっていたと思う。今回の演奏を聴くと、そのような段階を超えた演奏のように感じられる。今思えばポリーニ盤に感じられた剛直性がイム・ユンチャンには微塵も感じられない。フレーズの端々に感じられる神経の行き届いた丁寧な処理も清潔感をもたらす。個人的には煌びやかな技巧の曲もさることながら、抒情的な表現にこそ彼の特質があるように思う。また、技巧的な曲であっても、ダイナミックスの繊細な変化を通じて、しばしば単調になりがちな楽曲にも表現の豊かさが感じられることが多い。まあ、それだけ演奏に余裕があるということなのだろう。ニューヨーカー誌が言うように『驚異的な技巧と解釈の深さを兼ね備えた、世代を超えた一流のピアニストになること』を期待したい。話は変わるが、以前聴いたベアトリーチェ・ラナのベートーヴェンの演奏に感じた革新的な感覚を、今回の表面的には決して派手ではない演奏で再び感じた。ピアノの世界が新しい時代に突入していると実感する今日この頃だ。Yunchan Lim Chopin: Études, Opp. 10 & 25(DECCA 4870122)24bit 96kHz FlacChopin: Études (12), Op. 10Chopin: Études (12), Op. 25Yunchan Lim (p)Recorded 2023-12-20,Henry Wood Hall, London
2024年05月06日
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ピアノのミッシェル・カミロとギターのトマティートのデュオの新作が出た。ディストリビューターによると『スペイン・フォーエヴァー』(2016) から8年ぶりのようだ。筆者は彼らのデュオ・アルバムを昔から愛好していたので、忘れかけていた友人に思いもかけずに再開したような気分になった。両者とも相変わらずのテクニシャンぶりを発揮している。今回もラテンの名曲とジャズメンのオリジナルが主だが、最後に「アランフェス協奏曲」の全曲が演奏されているのが嬉しい。その「アランフェス協奏曲」だが、多分全曲を省略なしで演奏している。テンポはやや速めで、クラシックらしく格調高く演奏している。原曲の魅力を十分に伝えた編曲も優れているが、重量感も原曲では聴かれないものだった。控えめであるはアドリブも入っていている。トマティートのギター演奏は、メリハリが効いており、表情豊かで、クラシックのギタリストには見られない独自の魅力がある。第2楽章中間部での力強いカデンツァも見事だ。ポピュラー肌のミュージシャンがクラシックを演奏するような違和感がなく、楽しめる。ただ、音が切り詰められていて、他の曲のようなリラックスした気分はあまり感じられない。最初の名曲「アルフォンシーナと海」から聴き手をぐっと惹きつける。チューチョー・バルデスの「Mambo Influenciado」は切れ味抜群、アップテンポでぐいぐいと迫ってくる。メセニーの「Antonia」は原曲とほぼ同じテンポで端正に演奏されるが、中間部でギターのグリッサンド一閃、ギターとピアノが凄まじいアドリブを展開する。カミロの「Remembrance」はラテンの抒情が心に染み入る。マイルス・デイヴィスの名曲「Nardis」も彼らが演奏すると、ラテンの香り高い名品になってしまうところが面白い。カマロン・デ・ラ・イスラの「カマロン・デ・ラ・イスラ」は初めて聞いたがアップ・テンポの情熱的な曲で楽しめる。フラメンコ史上最高最高の歌手と言われるエル・カマロン・デ・ラ・イスラの「La Leyenda Del Tiempo」はアップ・テンポの熱狂的な演奏。原曲の熱とは比べられないのは、デュオの限界だろうか。アドリブの応酬が始まると、フェイドアウトしてしまうのが何とも悔しい。因みにトマティートはカマロンのバンドに長期間参加していて、『La Leyenda Del Tiempo』は彼らの最初のレコードとのこと。ということで、新鮮味こそないとはいえ、熟達したテクニックと情感あふれる表情で、大満足だった。特にトマティートのギターの魅力にすっかり引き込まれてしまった。彼の前には、カミロはちょっと分が悪かったようだ。Michel Camilo &Tomatito:Spain Forever Again(Decca 5878680)24bi8t 96kHz Flac1.Ariel Ramirez:Alfonsina y el Mar2.Chucho Valdés:Mambo Influenciado3.Pat Metheny:Antonia4.Michel Camilo:Remembrance5.Miles Davis:Nardis6.Ricardo Pachón Capitán, Federico García Lorca:La Leyenda Del Tiempo7.Joaquin Rodrigo:Aranjuez: 1. Allegro Con Spirito8.Joaquin Rodrigo:Aranjuez: 2. Adagio9.Joaquin Rodrigo:Aranjuez: 3. Allegro GentileMichel Camilo (piano)Tomatito (guitar)
2024年05月04日
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ロシアのピアニストのニコライ・ルガンスキーがリリースしたワーグナーの楽劇のトランスクリプション集を聴く。Spotifyで少し聴いて良かったので、丁度eclassicalから10ドルちょっとで配信されたので、速攻でダウンロードしてしまった。曲目は「ニーベルンクの指輪」からの名場面のハイライトと「パルシファル」の第一幕の場面転換の音楽、「トリスタンとイゾルデ」の「イゾルデの愛の死」というラインアップ。こういう企画はゲテモノ扱いされるものだ。おまけにワーグナーの複雑極まりないオペラのトランスクリプションなので、原曲に比べると、聴き劣りすること甚だしいと予測されるものだ。実際に聞いてみると、さすがにミニチュア感は感じられるものの、立派な音楽で、ゲテモノとは全く感じられない。何よりもルガンスキーの音楽に対する真摯な取り組みが感じられる。ブックレットには曲の解説と共に、ルガンスキー自身のワーグナー体験について書かれている。それによると、『18歳か19歳の時に海外に行った時に、僅かな所持金の中からセル・クリーブランド管の「ニーベルンクの指輪」のハイライトを当時出回り始めていたCDで購入したところからワーグナー体験が始まり、以来ワーグナーの魅力にどっぷりと嵌ってしまった。』とのこと。『ワーグナーのような創造力とあふれるエネルギーを持った他の芸術家を、歴史上私は知りません』と言っているほどで、ワーグナーに対する傾倒ぶりが半端でないのだろう。「ニーベルンクの指輪」からの最初の2曲はルイ・ブラッサン(1840 - 1884)というベルギー人のピアニストによる編曲で、「パルシファル」は指揮者のフェリックス・モットルの編曲による第1幕の場面転換の音楽とゾルタン・コチシュによる終幕の音楽をつなげたもの。「神々の黄昏」からの音楽は、すべてルガンスキーの編曲で、これが最も聴きごたえがあった。最初に聴いたセルのアルバムの影響があるのか、「神々の黄昏」の編曲はセルの演奏を彷彿とさせる音楽だ。「ラインの旅」でのルバートなどもオペラを彷彿とさせる演奏だ。「ジークフリートの葬送行進曲」は、ジークフリートの死という悲しみを、これほど切々と訴えかける演奏は、原曲でも出会ったことはない。テンポが遅く、スケールも巨大で重量感にも不足しない。エンディングも実に感動的だ。「パルシファル」は美しく宗教的な気分は出ているが、少し硬く、ダイナミックスが不足しているので、オペラを聴いている気分にはならない。どうも編曲に起因すると思われる。最後にリスト編曲による「イゾルデの愛の死」が演奏される。ルガンスキー:ピアノによるワーグナー名場面集(Harmonia Mundi HMM902393)24bit96kHz Flac1.『ラインの黄金』~ヴァルハラへの神々の入場(ブラッサン、ルガンスキー編)2.『ワルキューレ』~魔の炎の音楽(ブラッサン編)3.『神々の黄昏』~ブリュンヒルデとジークフリートの愛の二重唱(ルガンスキー編)4.『神々の黄昏』~ジークフリートのラインの旅(ルガンスキー編)5.『神々の黄昏』~ジークフリートの葬送行進曲(ルガンスキー編)6.『神々の黄昏』~ブリュンヒルデの告別の歌(ルガンスキー編)7. 『パルジファル』~場面転換の音楽と終幕(モットル、ルガンスキー、コチシュ編)8. 『トリスタンとイゾルデ』~イゾルデの愛の死(リスト編)ニコライ・ルガンスキー(ピアノ)録音 2023年9月,パドヴァ、慈愛同信会
2024年05月02日
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