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6月15日の日本老年学会では死の臨床的問題についてシンポジウムが設けられ討議されました。私も出席し刺激されてきました。高血圧になると臓器合併症が進行し生命予後がわるくなります。その進行を抑止することが大事な訳です。しかしヒトは死が避けられません。本邦においては死についての教育が十分ではないようです。ドイツなどではDeath Educationが行われ、小学校の頃から死について語る授業があることも聞いたことがあります。死は生き物であれば受容せざるを得ないものです。英国の聖書には”In the midst of life, we are already dead”〔生のさなかにあって我既に死したり〕という有名な一節があります。生きる過程そのものが死に行く過程であるということを言いえているように思います。死についての議論は家庭、学校、社会、医療においてもっと自覚し意識してなされるべきと思います。ヒトは癌、感染症、事故以外は、メタボリック症候群を基盤にした動脈硬化性病変による臓器不全により死に至るように思われます。死についての議論がなされる疾病基盤はすでに日本にも十分あるわけです。
2005/06/16
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肥満を基盤にしたメタボリック症候群の疾患概念が確立しようとしている。内臓の大型脂肪細胞からのアディポサイトカインの生成異常が、糖尿病、高血圧および高脂血症の原因となるとの考えである。これれらの根底にはインスリン抵抗性が共通した基盤として存在している。肥満の原因としてはカロリーの摂取過剰があるが、同時に嗜好添加物としての食塩の摂取も過剰になっている可能性が指摘できる。腎機能低下は高血圧と関連があるが、この更なる低下にはインスリン抵抗性が増悪因子として相関していることが非糖尿病高血圧患者においていて指摘されている。またインスリン抵抗性の存在する2型糖尿病においては、食塩摂取が腎障害の指標であるアルブミン尿の増加と血圧上昇に関係しており、インスリン抵抗性が食塩感受性や腎血行動態(糸球体血圧)に影響を与えている。腎障害が軽度~中程度ではインスリン抵抗性はBMI、中性脂肪値、血中アデイポネクチン値、年齢と相関しているが腎機能とは相関が無いことが示されている。またこの対象で心血管イベントが過去に存在する患者においては、インスリン抵抗性が大型脂肪細胞由来のアディポサイトカインのアディポネクチンの血中レベルの低下と相関している。インスリン抵抗性は腎障害の早期から存在し、とりわけメタボリック症候群に見られる低アデイポネクチン血症が腎障害時の心血管病変に独立した因子として関与している。アデイポネクチンが腎機能調節にいかに関係が深いか今後の検討が必要である。メタボリック症候群の疾患概念が確立しつつあり、これを構成する各コンポーネントの複合が腎機能障害の増悪因子になっていることが知られている。高血圧の発症・維持には腎臓での食塩代謝代謝が大きく関係しているが、メタボリック症候群に見られる肥満とそれに関与した分子がこれにいかに関係するか今後の研究に期待される。臨床的にはメタボリック症候群を理解し、早期に血圧を含めた異常を改善してゆく指導が重要である。
2005/06/02
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糸球体前血管抵抗調節は高血圧の発症や維持に深く関係するが、これらについて酸化ストレスを介した機構が明らかになりつつある。すなわち、酸化ストレス生成は反応性活性酸素群(Reactive Oxygen Speices, ROS)の生成をもたらし、なかでもスーパーオキシド(O2-)は一酸化窒素(NO)を非活性化する。糸球体前血管抵抗調節に関係する輸入細動脈およびマクラデンサ細胞は酸化ストレス(O2-生成)に関するNADPHオキシダーゼのすべてのコンポーネントを有している。一方、マクラデンサ細胞にはタイプ1型の一酸化窒素合成酵素(NOS-I)が発現しており、また輸入細動脈には内皮型NOS(eNOS)が発現している。マクラデンサ細胞においてNOSはNaトランスポーター(Na-K-2Cl共輸送体)によって活性化されNOの生成を介して輸入細動脈の拡張反応を媒介しているが、酸化ストレス(O2-生成)によってNOが分解されこの拡張反応が障害される。また、マクラデンサ細胞のNaトランスポーター刺激によってATPおよびその類縁産物のアデノシン生成が刺激され、これらが輸入細動脈の収縮性反応をもたらしている。このようにNaトランスポーター機能とNO生成によってTGFは調節されているが、それにさらに影響をもたらす因子として酸化ストレスが位置づけられている。輸入細動脈の筋原性調節にも内皮機能を介した調節においてNO、アデノシン、O2-生成の相互作用が関与するものと考えられる。 高血圧の発症には糸球体前血管抵抗調節異常が根底にあると思われる。実際に前述した分子の遺伝子ノックアウトマウスによる研究においてそれらは明らかになっている。高血圧の遺伝子異常素因については広く知られているところであるが、尿細管ー糸球体フィードバックないし糸球体前血管抵抗調節に関する遺伝子発現異常が環境要因(食塩摂取、肥満)と複合して高血圧の発症・維持に関係している可能性が考えられよう。以上は本日私が学問的総説を書いた一節ですが、大変難解であると思われます。この論文が終わらなければ時間が取れないのです。あしからず。
2005/05/31
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メタボリック症候群における腹囲の基準は何を表しているかについて簡単に解説しましょう。内臓肥満細胞は皮下脂肪細胞とは異なり内分泌細胞として炎症性のサイトカイン(炎症性ホルモンでアディポサイトカインと呼ばれる)の分泌が盛んで、これが多くあると動脈硬化性病変が進行します。腹囲の基準(男性85cm以上;女性90cm以上)は病的内臓肥満である断面内臓脂肪量100cmxcmを目安として設定されています。この腹囲以上あればアディポサイトカインの分泌が病的になり、さらに血圧や血糖の高値や、脂肪代謝の危険因子も加味されて動脈硬化に陥りやすくなります。
2005/05/26
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いわゆる生活習慣病である高血圧、糖尿病、肥満、高脂血症など複数の症状があると、心筋梗塞や脳卒中などの恐ろしい病気を起こす動脈硬化症への進展の危険性が非常に高いことがわかっています。この状態は「メタボリック症候群」とよばれています。メタボリック症候群は、肥満度や血圧、血糖など個々の検査データはそれほど悪くないものの、内臓脂肪型肥満傾向、血糖値、血圧、中性脂肪またはコレステロールなど生活習慣病と深く関わっているデータが複数にわたって注意を要する方は心筋梗塞や狭心症などの心臓疾患リスクが健康な人の2倍になるという報告があります。日本動脈硬化学会、日本糖尿病学会など8学会がまとめたメタボリック症候群の診断基準は、内臓脂肪が蓄積した結果、皮下脂肪の蓄積に比べ、糖尿病や高脂血症などの病気とのかかわりが強く、心筋梗塞や脳梗塞のリスクが2倍近く高まることがわかってきました。脂肪には、皮下脂肪と内臓脂肪の2種類があります。内臓脂肪がたまると血圧、血糖、中性脂肪が高くなるといわれています。それを示すのがウエストの幅です。内臓脂肪型肥満が疑われるウエスト85cm以上の男性、ウエスト90cm以上の女性が対象で 1、空腹時、血糖が110以上 2、血圧が最大130以上または最小値85以上 3、中性脂肪150以上またはHDLコレステロール(善玉コレステロール)が40未満 のうち、2つ以上該当する場合、メタボリックシンドローム(代謝症候群)に該当するとされています。メタボリック症候群はその該当する項目が増えるごとに心血管障害が起きやすいと報告されています。アメリカのデータでは項目の増加が腎障害の危険因子と成っていることが示されております。腎臓は健康寿命を保つ重要臓器ですので、早期からのメタボリック症候群の治療介入が必要なのではないでしょうか?そのためにも、この疾患概念を意識し自己管理が必要と思います。
2005/05/25
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先週末、大学の同窓会があって特別講演の建築家・安藤忠雄氏「可能性を探る」を聞きました。一時間ほどの講演でしたが、興味深く最後まで飽きることなく拝聴しました。氏の言いたいことは(私の判断するところによれば)“よりよき次世代”を作るために何ができるかを個人がよく考えるということだろうと思いました。そのためには、ヒトが感性を高め、想像力を豊かにできる環境を整備することが重要です。安藤氏は建築を通して行ってきたその“可能性を探す”作業を話されました。緑豊かな生命の躍動感を感じる街づくり、古いもの(文化)を現代環境に生かす生かし方、多様で多面的なものの見方など。医学においても同じことが言えると思います。想像力豊かな、しなやかな感性を持った学生の選抜、そして医学部および研修病院での、将来を見据えた医師の育成計画が大事でしょう。高血圧の臨床について言えば、高血圧疾患を血圧という数値でのみ診断したり治療するのではなく、患者個人の事情を想像し、患者とともに喜びながら高血圧の個別の臨床を実現したいものだと思います。
2005/05/24
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アルファ2受容体アゴニスト:交感神経末端にあるアルファ2受容体を刺激することで、神経末端での分泌アドレナリンの再吸収が促進され神経刺激が抑制されることにより血管拡張がもたらされます。この受容体を活性化することでこの薬物は作用を発揮します。中枢性にも働き作用します。多剤で降圧効果が出ない場合、使用すると効果がある場合があります。副作用として口渇感、傾眠、立ちくらみなどみられます。傾眠効果があり就寝前に投与される場合が多いと思います。中止すると逆に急速な血圧上昇を来たすことがあります。アルファメチル・ドーパ:これも中枢性降圧薬です。やはり副作用として口渇感、傾眠、立ちくらみなどみられ、降圧効果は多剤に比して十分ではありません。妊娠時高血圧には比較的安全性があり使用されることが多い薬剤です。ヒドララジン:古典的な血管拡張薬です。妊娠時高血圧には比較的安全に使用されます。これらのお薬は古典的な降圧薬で、より効果がある新薬に取って代わられています。副作用が多く、降圧効果が一般的でないのが短所です。しかし、アルファメチルドーパやヒドララジンは妊娠時の降圧薬としては必要性のあるお薬となっています。
2005/05/19
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アルファ受容体(タイプ1型)は血管平滑筋などの交感神経末端にあるアドレナリン受容体で神経末端から分泌されるアドレナリンによって刺激され血管収縮作用がもたらされます。この受容体を阻害するのがアルファ・タイプ1受容体で血管拡張作用により降圧効果が発揮されます。患者さんによって効果が良く出ることがありますが、他の薬剤に比し降圧効果が弱いようです。早朝高血圧には交感神経系活性が関係しているため、この降圧薬が治療に使用されることがあります。就寝前に長時間作動型のこのタイプの薬剤を服用することがあるのは早朝高血圧のコントロールを期待しています。このお薬は脂肪代謝を多少良くしたり、前立腺肥大に対する治療にも用いられることがあり、脂質代謝・前立腺肥大症を合併する患者さんには良い適応でしょう。副作用は、起立性低血圧で、立ちくらみを誘発することがあります。高齢者や糖尿病患者などの神経反射が低下した患者さんには慎重に副作用出現を聴取して使用することが大事です。
2005/05/18
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ベータ遮断薬の降圧作用はいくつか考えられています。心拍出量の抑制機構、腎臓からのレニン分泌の抑制、中枢交感神経の抑制作用による降圧などがそれです。脂溶性や水溶性か、代謝経路が腎臓か肝臓か、内因性交感神経活性を有するかどうかなど考慮して使用します。最近では、抗酸化作用を有するものもあります。適応は、狭心症、心筋梗塞後の高血圧患者には進められます。また、若年者で頻脈を伴う高血圧の場合著効する場合があります。心臓作用の抑制があるので、心不全には使いにくいと以前は考えられていましたが、最近の大規模臨床研究では心不全改善作用が報告されています(カルベジロール、メトプロロールといったベータ遮断薬)。禁忌として喘息患者への使用です。喘息は気管支のベータ遮断状態で惹起されますのでベータ遮断薬で喘息は悪化します。喘息にかぎらず、慢性呼吸器疾患で呼吸機能が落ちている場合も使用がはばかられます。閉塞性動脈硬化症の患者では末梢血管を収縮させ虚血をさらに悪化させる可能性があります。心臓の不整脈(房室ブロック)でも禁忌です。ほかに特徴的副作用として悪夢があります。また、筋肉作用として筋肉を融解することもあります。服用中に筋肉痛などあれば医師に教えるべきでしょう。ベータ遮断薬を褐色細胞腫の患者さんに使用すると、著明な高血圧を来たすことが知られていて医師の間では要注意になっています。ベータ遮断薬は以前かなり需要があった降圧薬ですが、現在の使用頻度は多くはありません。より副作用の少ない優れた降圧薬(アンジオテンシン受容体阻害薬やカルシウム拮抗薬)が登場しました。また、降圧薬は一生服用するのが原則ですがベータ遮断薬をかなり高齢まで服用し続けるのが可能か疑問です。高血圧には糖尿病も多く合併しますが、ベータ遮断薬はインスリン分泌を低下させる作用についても知られ糖尿病を悪化させる可能性があり好ましくありません。
2005/05/17
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週末に、二次性高血圧の症例シュミレーションを作製しました。症例と、その疾患名について記載してあります。症例1)39歳女性、会社員、この4-5年前までは高血圧を指摘されたことは無いが、3-2年前から高血圧を指摘(BP:150/102mmHg)。今年の検診でも血圧188/112mmHgと高かった。症状はほとんど無いが、時に倦怠感がみられる。二次検診でもやはり同じレベルの高血圧をみとめ、医師から腹部血管雑音も聴取されるといわれた。また、軽度の蛋白尿と血尿も指摘され、やや血中カリウム値が低下しているといわれた。疾患名:腎血管性高血圧疑い(腎動脈狭窄症)症例2)39歳女性、会社員、この4-5年前までは高血圧を指摘されたことは無いが、3-2年前から高血圧を指摘(BP:150/102mmHg)。今年の検診でも血圧188/112mmHgと高かった。症状はほとんど無いが、時に頭痛、倦怠感がみられる。また、時折脱力発作もある。最近、尿回数も増えてきたように感じる。二次検診にて同レベルの高血圧をみとめた。血中カリウム値が低下しているといわれ、ホルモン系を含めた精査が必要とわれた。かつて腹部エコー検査にて右腎臓の上部に腫瘍性病変の疑いがあると言われたことがある。疾患名:原発性アルドステロン症(副腎腫瘍による)疑い症例3)39歳女性、会社員、この4-5年前までは高血圧を指摘されたことは無いが、3-2年前から高血圧を指摘(BP:150/102mmHg)。今年の検診でも血圧160/102mmHgと高かった。時に倦怠感がみられる。最近、ここ3年前暗い前から顔が赤みがかってることや円くなってきたことニキビが多いと家族から指摘される。肥満もみられるが、四肢の皮下脂肪はそれほど太っていない。肩が張っているともいわれる。検診では、尿に糖が出ているとも指摘された。4年前には腎結石の既往がある。二次検診にて、高血圧、糖尿病、肥満を確認され、また低カリウム血症傾向あり、ホルモン系を含めた精査が必要といわれた。疾患名:クッシング症候群(副腎腫瘍による)疑い症例4)65歳女性、主婦、10年前から徐々に血圧が上昇してくるようになって、5年前から降圧薬が処方されている。その頃から、動悸、顔面紅潮、頭痛発作を自覚するようになった。このときたまたま測定した血圧は220/140mmHg(脈拍108/分)であった。また、便秘も最近みられる。排便後、意識消失発作が見られたこともあるいう。降圧薬投与にても高血圧は改善せず専門家へ相談するようにいわれた。疾患名:褐色細胞腫(副腎髄質腫瘍)疑い症例5)55歳女性、主婦、20年前会社検診にて軽度蛋白尿と血尿を指摘された。ほかに血圧を含め異状は無かった。その後、例年の検診にて同様に尿異状を指摘されていたが、放置していた。ここ十年前に軽度高血圧(138/88mmHg)も指摘されるようになった。この時点でせ減塩治療などを実施、またその後も血圧コントロールが十分でなく降圧薬を服用するようになったが、血尿所見は続いている。 疾患名:腎性高血圧(IgA腎症)疑い症例6)65歳女性、主婦、50歳ころから血圧が徐々に上昇し55歳ごろから降圧薬を服用するようになった。55歳ごろに、更年期障害と思われる不定愁訴(だるさ、頭痛など)があり友人の勧めで売薬の漢方薬を服用している。最近、脱力発作もみられるようになった。降圧薬を服用するも高血圧治療は不良である。かかりつけの医師からは電解質検査では蛋白尿、血尿はないが、血中カリウム値が3.0mmolといわれた。漢方薬服用については医師には相談していない。疾患名:グリチルリチン酸服用による高血圧疑い
2005/05/16
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これまで3種類の主要な利尿薬について解説しましたが、利尿薬は副作用があるため若年者には使用しにくいのが実際です。サイアザイド利尿薬は脂肪代謝への影響があり高脂血症を起こしたり、尿酸値も上昇します。利尿作用以外のメリットとしては尿カルシウム再吸収を促進し体内へのカルシウムを増やすため骨へのカルシウム補給には好ましいと思います。これらのことを考えると御高齢の方には、好ましいと思われます。しかし、低カリウム血症の副作用もありますのでよく検査をしながらの使用がいいと思います。ループ利尿薬は効き目が強く、正常腎機能の方では服用後10分後には直ちに尿意を催すくらいに即効性です。副作用は頻尿、多尿で脱水をきたすこともあります。このお薬が使用されるのは心不全が継続する場合や、腎不全が合併してサイアザイド利尿薬が効かない場合です。心不全、腎不全が合併した場合には長期的にも使用されます。痩せ薬として使用すると体液量が減少するためその分見事に痩せたように思われるかもしれませんが、脱水になっている可能性があり、また血液濃度が増し血栓形成傾向が見られるようになり危険です。ループ利尿薬が標的とするNaCl関連分子が内耳にもあり、それを阻害すると内耳機能が障害を受け難聴をきたすことがあります。尿カルシウム排泄が増加し、腎結石傾向もみられます。いずれ、この利尿薬は心不全、腎不全の合併症がある場合に使用されるべき利尿薬です。スピロノラクトンは性ホルモン類似物でもあるので男性には乳房異常(女性乳房化、乳房痛)が生じます。陰萎も起こります。女性では乳腺が刺激され乳汁分泌が起きることもあります。この利尿薬は作用機序をよく理解して使用すべきです。よく留意して使用すればたいへん有益なお薬です。このお薬は副作用や薬理作用に注意が必要なことから、私は、広く利尿薬として一般に使用される状況には無いと思っています。
2005/05/13
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アルドステロンは腎皮質部集合尿細管に作用してNaClの再吸収を促す副腎ホルモンです。この作用をブロックするとNaClが再吸収されず利尿効果が見られます。スピロノラクトンという一般名(商品名:アルダクトン)で呼ばれるお薬がこれです。副作用が多少あり、男性ではその女性ホルモン類似作用によって女性化乳房や乳房痛がみられることがありあます(結構あります)。また高カリウム血症も注意が必要です。最近の研究では、心不全に対する改善効果や腎障害抑制効果も報告されています。これは利尿作用による降圧効果に由来するだけでなく、アルドステロンの直接作用(心・血管収縮、増殖刺激)をブロックすることも関係しているようです。この利尿薬の欠点は効果の発現がゆっくりなことと中止しても効果が長く持続することでしょう。また、医師にとってはレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系について精査せず、この薬理効果を知悉せずに使用した場合に、たまたまあるかもしれないが見逃してはならないアルドステロン症をマスクしてしまうことがあるため要注意です。
2005/05/12
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ループ利尿薬は腎臓の尿細管のヘンレのループに作用するためこのような呼び名で言われています。ヘンレのループという尿細管にあるNaClトランスポーターを阻害する薬物です。このトランスポーターは先の曲尿細管にあるサイアザイド感受性のトランスポーターとは異なり、カリウムや重炭酸も輸送することが可能なトランスポーターでNa-K-2Clトランスポーターといわれています。ループ利尿薬のフロセミド(ラシックス)はこの活性を阻害しナトリウム利尿をもたらします。ループ尿細管分画は腎臓のNaCl再吸収の20%を担っているためフロセミドは結構利尿作用が強いといえます。また、尿濃縮にもかかわる部分で、再吸収されたNaClがその濃縮力エネルギーの源になっていますが、これも阻害されるため尿濃縮作用も低下し、希釈尿がでます。フロセミドはアルブミンと結合して存在し、近位尿細管で分泌されるため低蛋白症では常用量では効きが低下します。腎障害(尿細管障害)が進行した場合も有効性は低下します。利尿効果は迅速で、経口服用にて直ぐに希釈尿が生成され尿意がもたらされます。高血圧治療においては急性期心不全合併症の場合、腎障害がある場合に第一に使用される場合がありますが、それ以外ではサイアザイド利尿薬が使用されます。ループ利尿薬は即効性があるため、体液減少の目的で心不全においてより使用されます。また、急性期高カルシウム血症の治療においても輸液(生理食塩水)とともに使用されます。副作用は、電解質異常(Na、K、Ca、Mgにたいしてなど様々)、脱水、急性腎不全、難聴などが問題となります。痩せ薬として誤用されることがあります。体内の水が減少するので一見体重が減少しますが、脱水が起きているだけで体調不全を来たすだけですので間違わないようにしてください。電解質異常(低カリウム血症)もきたし危険な場合もあります。
2005/05/11
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高血圧治療薬として古くから使用されているのが利尿薬です。利尿薬には作用機構の違いからいくつかのタイプに分けられています。サイアザイド系利尿薬は利尿効果としてはマイルドで高血圧の初期治療として以前よく用いられました。現在も、第一選択薬のひとつではあります。他剤との併用も大変効果的です。この薬剤は腎臓の曲尿細管という場所にあるNaClトランスポーター(輸送体)の阻害薬として薬理作用を持ちます。そのNaClが再吸収されない分さらに遠位部にもたらされ、最終的には尿中に排泄されます。体内のNaClが減った分体液貯留が軽減され、血圧を規定する心拍出量が低下し血圧が降下します。このNaClトランスポーターが抑制されるとCa再吸収が進み、またMg分泌が進むことも知られています。これで、この利尿薬を服用すると低Ca尿、低Mg血症が見られることがあります。再吸収されたCaは骨の生成に利用されるので骨そしょう症の方には有利です。また、副作用として低カリウム血症や低Na血症も惹起しうるので時々電解質検査はしたほうがいいでしょう。中等度以上の腎障害では利尿作用を発揮できないので使用されません。ほかの副作用としては、脂肪代謝への悪影響があり、コレステロールや中性脂肪が増加することがあります。高齢者高血圧においては骨そしょう症傾向もあり、また食塩感受性高血圧の要素もあって利尿薬が有効な場合がおおく見られます。
2005/05/10
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この薬剤は日本では約20年前頃発売になりました。画期的な薬剤で、高血圧治療薬や診断薬として使われてゆくなかで確固とした地位を築いてきました。ここ20年の間で最も治療に使用され、また高血圧の病態解明に役立ったお薬です。アンジオテンシン変換酵素(angiotensin converting enzyme, ACE)を阻害する薬理作用があり、この酵素の役割であるアンジオテンシン(AngI)(不活性型)からAng II(活性型)への変換を阻害します。AngIIはこのブログでも今までもよく登場してきた昇圧ホルモンです。ACEIの阻害によってこの昇圧ホルモン生成が低下することで血圧降下作用をもたらします。また、ACEはこの田働きと同時にブラジキニン(BK)という降圧ホルモンを分解する活性も有しておりACEI阻害薬によってBKの分解が抑制され降圧効果が増強されます。BKはまたプロスタグランジンという降圧ホルモンも生成刺激しますのでACEIの効果は大変優れたものとしてこの降圧薬は君臨してきたといえます。各社が競争的に発売し、今では最も種類の多い降圧薬になっています。ACEIが人間の生命研究に共してきた役割はあまりにも大きく、この薬物の研究によって多くの臨床家・研究者が育ちました。まさに人類の巨大な遺産です。しかしながら、ACEIには副作用としての空咳が約30%に見られることや、長期間使用で降圧降下が減弱するケースがあることが問題となってきました。またAngIIの作用を抑制する方法としては、このACE活性を抑制することも一方ですがAngIIの作用を受容体レベルで阻害する降圧薬(アンジオテンシン受容体阻害薬、ARB)の開発・発売が展開しました。このARBには副作用が少なく降圧効果がより確実と評価されます。このような状況から、このアンジオテンシンIIをめぐる薬物としてはARBのほうがACEIより優位となり、現在では降圧薬の第一選択薬としてはARBが有望視されています。ACEIによる空咳は医師が聴取するまで看過される場合もあります。風邪でもないのに咳き込むような場合は副作用を疑ってください。ある老年呼吸器科の先生はむしろ寝たきりの老人で高血圧の患者には進められるともいっています。咳で痰排泄が促進されるたり、肺機能が活性化する可能性があるといいます。空咳の発生にはACEIによるBK生成が関係していると考えられています。BKが咳神経反射を刺激するとこが知られています。同じアンジオテンシンIIに対する降圧薬ですがACEIとARBは作用機構が異なるため併用がすすめられる場合があります。また減塩や利尿薬併用による相乗効果が期待されます。腎障害とりわけ糖尿病性腎障害には優れた効果が期待されます。高血圧が認められない場合も腎障害抑制のため使用されます。禁忌は妊娠時、授乳期高血圧です。また高カリウム血症には慎重投与が必要です。
2005/05/06
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Ca拮抗薬は当初冠動脈拡張作用をもとに狭心症薬として開発されたが、末梢血管拡張作用もあることが知られ降圧作用が明らかにされ降圧薬として使用されるようになりました。特に、本邦において諸外国に先駆けて降圧薬として確立した薬剤です。降圧効果が確実ではありますが、短時間作動型のCa拮抗薬(ニフェジピンカプセル)ですとかえって急激な降圧がみられることがあり交感神経の反射を誘発して冠動脈収縮によって虚血性心疾患をもたらす可能性があり、一時期使用がはばかれたことがありました。しかし、長時間作動型のCa拮抗薬は重篤な副作用は無いことから、こちらのタイプのCa拮抗薬がもっぱら使用されています。どちらかというと高齢者高血圧の第一選択薬としてもちいる傾向があります。副作用としては、顔面紅潮、頭痛、動悸、上下肢の浮腫、便秘、歯肉増殖があります。
2005/05/02
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降圧薬にはQ55に示したように種々の薬剤がありますが、その中でも第一選択薬としてこのアンジオテンシン受容体阻害薬(Angiotensin Receptor Blocker, ARB)は位置づけられます。アンジオテンシンIIはこのブログでも何回か取り上げた蛋白ホルモンで強力な血管収縮作用を有する昇圧ホルモンです(Q20-24)。また、血圧を上昇させるばかりでなく、血管内皮や平滑筋障害をもたらし動脈硬化性病変を増長させる作用があります。さらに、心筋に対して肥大作用も有しています。高血圧においてはこのアンジオテンシンIIがより完全に抑制されるべきですが実際はそうではないため悪影響をもたらしています。ARBは副作用が少なく腎障害抑制、心不全抑制、脳卒中抑制など臓器障害抑制効果が最近十分に報告されている降圧薬で、長い期間飲むお薬として、またより若い高血圧患者さんに勧められます。糖尿病を合併した患者さんにはさらにお勧めです。副作用には胎児・新生児奇形があり(腎臓の発達不全)、妊娠時・授乳期の患者には禁忌です。高カリウム血症の患者さんにも、これを増悪する可能性あり慎重に投与します。腎動脈狭窄症で両側の機能的有意狭窄を有する患者さんでは、腎機能が急速に悪化しますので、この際も禁忌です。
2005/04/28
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降圧薬の投与は単剤から開始するのが原則です。低容量から開始するのが原則ですが、治療時の血圧、臓器障害の程度で個別に判断するようにしています。長時間作動型の一日一回のタイプの降圧薬が多くなっています。降圧はゆっくり、2-3ヶ月かけて目標血圧値へ持っていくように考慮します。それまでは、2週間ないし4週間に一回の受診が望まれます。高齢者で140/90mmHg以下、非高齢者で130/85mmHg以下に到達しないときは降圧薬の増量か、多剤の併用を行います。この場合でも、生活習慣の是正指導は重要です。降圧薬の組み合わせでお互いの作用を増強する場合もあります。たとえば、アンジオテンシン受容体拮抗薬と利尿薬がそれに相当します。また、逆に副作用が増す場合もあります。カルシウム拮抗薬のジルチアゼムは徐脈を惹起しますがこれにさらにベータ遮断薬を併用するとその傾向は増強します。薬物代謝を考慮する場合もあります。ジギタリス投与の患者にカルシウム拮抗薬(ニフェジピン)を投与するとジギタリスの血中濃度が高くなる場合があります。胃潰瘍に使われるH2ブロッカーのシメチジン、ラニチジンはニフェジピンの分解を遅らせ血中濃度を高くする可能性があります。この場合は副作用として過降圧による低血圧が相当します。グレープフルーツジュースにもニフェジピンの分解を抑制する成分があり、同様に過降圧が見られる可能性があります。しかし、通常は多量の飲用でないと起こらないことなのでそれほど大きな問題とは思われません。痛み止めとして処方される非ステロイド性抗炎症薬はアンジオテンシン変換酵素阻害薬や利尿薬、ベータ遮断薬の降圧効果を減弱することがあるので注意が必要です。
2005/04/27
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以前に太平洋戦争末期のアメリカ大統領ルーズベルトは悪性高血圧であったことを述べました。当時は降圧薬といっても有効な薬品がなく治療に大変難渋したように思われます。以下は、ここ50年以内に発売された降圧薬です。β遮断薬が降圧薬として使用されるようになって悪性高血圧はコントロールがし易くなり、Ca拮抗薬の登場によってさらに高血圧の治療がスピーデイにできるようになりました。1.末梢性交感神経抑制薬 レセルピン 1954年2.血管拡張薬 アプレゾリン 1954年3.サイアザイド系利尿薬 ダイクロトライド 1958年4.交感神経末端遮断薬 イスメリン 1960年5.中枢性交感神経抑制薬 アルドメット 1962年6.K保持性利尿薬 アルダクトンA 1963年7.ループ系利尿薬 ラシックス 1965年8.β遮断薬 インデラル 1966年9.Ca拮抗薬 ヘルベッサー 1974年 Ca拮抗薬 アダラート 1975年 Ca拮抗薬 ノルバスク 1994年 Ca拮抗薬 カルブロック 2003年10.α遮断薬 ミニプレス 1981年11.ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬 カプトリル 1982年 ACE阻害薬 レニベース 1986年12.AII(アンジオテンシンII)受容体拮抗薬 ニューロタン 1998年 AII受容体拮抗薬 ブロプレス 1999年 AII受容体拮抗薬 ディオバン 2000年これらの効果はいずれも血圧を下げることによるのは申すまでもありません。しかし、中にはACE阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬のようなお薬は降圧効果のみでない効果があるとの報告もあります。高血圧の薬は高血圧の原因を治す薬ではなく、血圧コントロールをして合併症を抑制するのが目的です。一旦高血圧になると進行性で、治ることは無いため降圧薬は継続して飲むのが原則です。しかし、生活習慣が改善されれば降圧薬の減量は可能です。また、副作用はどのような薬にもあるので注意しなくてはなりません。一口で高血圧といっても、個々の高血圧患者さんの特徴はあるので、それをよく考えた個別治療が重要です。
2005/04/26
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室温20度以上でお湯が40度以下の入浴は昇圧作用がなく安全といわれています。むしろこのような場合一旦血圧が低下傾向になり、その後長く風呂に入っていると高くなってきます。お勧めは、38-40度くらいのお湯に15-20分くらいの入浴がいいように思います。あまり熱いお湯はストレスの原因になりますので避けたほうがいいようです。高温サウナ-冷水浴も同様にストレスになるようであれば避けたいものです。低温サウナ(60度、15分入浴、30分の毛布休憩、連日)は最近の研究では血管内皮作用を改善し心不全を良くするとの報告もあります。血圧に対する検討は十分ではありませんが、良い印象です。寒冷にて血圧が上昇することは示されています。冬には血圧が高くなる傾向があります。冬場の心血管死は暖房や防寒の不完全な場合に多くなります。冬場にはトイレや風呂場も暖房をするように心がけてください。性活動は興奮時に血圧が高くなりますが、一時的ですので問題は無いように思われますがこの分野は研究が十分でなく適切な指導ができるほどデータがないように思われます。
2005/04/25
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喫煙それ自体で血圧を上昇させる効果が急性には見られます。しかし、慢性的に高血圧を来たすかは不明です。喫煙が高血圧にとって悪影響をもたらす理由は、動脈硬化発症の危険性が相乗的に増すからです。動脈硬化は酸化ストレスが起因となって生じる炎症の最終形ですが、高血圧は血管への物理的張力刺激にて、また喫煙はニコチンや低酸素刺激にて酸化ストレスが生じます。タバコを吸うと心臓の冠動脈も収縮し心筋梗塞の危険性も増します。最近入院した患者で、53歳の男性はタバコを60-80本/日吸っていました。50歳で脳梗塞で片麻痺になり、動脈硬化性腎動脈狭窄(90%)あり腎血管性高血圧が発症していました。肥満なく、高コレステロール血症もありませんでした。これからの心・血管系の予後が危惧されます。タバコは癌発症の最大原因にもなり、悪性の文明病です。私も若かりし頃10年間喫煙したことがあります。無垢な子供が生まれたのと、白衣ポケットにタバコを入れておくのが面倒なくらい忙しくなったため中止しました。現在は、禁煙医師連盟の会員になって禁煙活動をサポートしています。
2005/04/22
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飲酒が血圧を高くすることは知られています。慢性的に飲酒している方は飲む習慣の無い方より10歳の加齢に相当する血圧値を示すとの報告もあります。飲酒は、男子で脳卒中とくに脳出血の危険因子となります。アルコールの単回投与は一時的に血圧は低下します。しかし、毎日の晩酌など長期にわたる飲酒の場合は、明らかに血圧を上昇させることがいろいろな研究機関の調査で、はっきりわかっています。 そして摂取は血圧値を低下させます。アルコールの1日あたりの限界量は、日本酒で1合程度、ビ-ル大瓶1本、焼酎0.5合、ワインはグラス2杯、ウイスキーはシングル2杯を目安にしてください。アルコールは適量であれば、心疾患の予防効果もありますので体にとって害のあるものではありません。ですが適量を超えると血圧が下がりにくくなります。ぜひ適量以内の飲酒をお薦めします。 アルコール飲酒はまた、おつまみによる食塩やカロリー摂取を増加させることになりますにで、それも要注意です。
2005/04/20
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高血圧に対する運動量療法としては有酸素運動である軽度の動的は等張性運動(早歩き、ランニング、水中歩行)がよい。有酸素等張運動としては水泳、エアロビックスなどもあるがこれれは場合によっては負担増(無酸素運動)になってしまうのでゆったりと自分の身体に合わせて実施する。軽度の運動とは最大酸素摂取量の50%くらいの運動である。毎日一日30分程度の運動が目安である。このような運動を実施すると10週間で50%の患者が収縮期で20mmHg、拡張期で10mmHgの降圧効果があるとの報告があり、平均降圧は11/6mmHgであるという。ただし、運動療法の対象者は中等度の合併症患者です。心不全、脳卒中、腎不全があればむしろ危険な場合があり、事前に合併症のチェック、医師からのアドバイスが必要である。高齢でも軽運動は降圧効果が期待されるので制限すべきではないが、心血管系の合併症の有無を評価してからはじめるべきであろう。
2005/04/19
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肥満はBMI(Body Mass Index)にて定量評価されます。BMI=(体重kg)/{(身長m)の二乗}であらわされ、これが25以上であれば肥満と定義されています。肥満が高血圧の危険因子になっていることは広くしられています。また、高血圧発症の原因にもなっている可能性がしられています。以前にもメタボリック症候群についてこのブログで解説しましたが(Q26)、脂肪細胞がコレステロールを貯めて肥満するとアデイポカインという脂肪細胞由来の炎症性ホルモンが分泌され、高血圧の基となる昇圧ホルモンが分泌されます。これだけで動脈硬化や高血圧の原因になることが実証されています。肥満はメタボリック症候群の大きな誘因です。減量効果は4.5kgの減少で有意な血圧低下が報告されています。糖尿病の合併なども考慮すると4-5kgの減量はかなり効果が大きい(糖尿病も改善する)と思います。減量は、人それぞれの方法で時間をかけて行うべきですが、食事(カロリー)制限と規則的な食事摂取が基本です。運動で痩せることはかなりの運動負荷をする必要があり、食事療法も同時に維持する必要があります。サプリの使用については患者さんの好みや自己責任にて付け加えられてもいいように思います。学会治療ガイドラインにはサプリについては具体的に記載されていません。実証データが不足していると思います。
2005/04/18
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コレステロール摂取は最近の報告ではアメリカ人より多いといわれています。アメリカの平均的コレステロール摂取量はおおよそ300mg/日ですが、日本人では男性で446mg/日、女性で359 mg/日と示されています。日本人とくに男性がいかに節制していないかがわかります。戦後、動物性脂肪と動物性蛋白質の摂取が著明に増加し、炭水化物摂取はやや低下しているといいます。卵などの高コレステロール食はひかえ、低脂肪乳製品を補うことが勧められています。高血圧存在下での高脂血症は動脈硬化の相乗危険因子になりますので十分な注意が必要です。本来の、日本食に立ち返り、減塩に勤めることが大切でしょう。また、学童期からの脂肪摂取制限の指導も必要です。飽食の時代の中、いかにサバイバルできるかはいかに質素な食生活に耐えるかが重要です。
2005/04/15
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昨夜のNHK番組「ためして、ガッテン!」(http://www.nhk.or.jp/gatten/)をご覧の方は、この番組の内容が、昨日今日のこのブログの話や、これまで解説してきた私の高血圧に対するコンセプトと同じことがわかります。製塩技術の開発される以前の原始的人間は菜食中心でカリウムが多くナトリウムが少ない食事を取っていたことが示されています。このような原始的人間には高血圧発症は少なかったものと思われます。カリウムには腎臓において高血圧発症の原因になるナトリウムの摂取を抑制する作用があり、カリウムを多く摂取すると降圧が見られることが示されています。カリウムが多く含まれる食物は野菜・果物などでこれらの摂取が進められます。アメリカでの研究で標準的食事(カリウム1700mg/日、ナトリウム3000mg/日)とカリウムの多い食事(カリウム4700mg/日、ナトリウム3000mg/日)の中等度高血圧患者での摂取効果の研究で、血圧が収縮期で約10mmHg、拡張期で5mmHg低下したことが報告されています。日本人での平均摂取カリウムは約1900mg/日、ナトリウムは約4500mg/日といわれています。腎障害とくに糖尿病性腎症の患者さんでは、高血圧があるからといってカリウムの摂取は必ずしも進められません。高カリウム血症を来たしやすく、進行すると致死的不整脈を来たします。この場合は、カリウムを多く摂るよりナトリウムの厳格な制限がいいのです。果物はカロリーも多いため注意が必要です。野菜とバランスよく摂取するようにしたいものです。カリウム製剤もあることはありますが、降圧薬としては用いられません。消化管に対する副作用があります(ひどい場合は消化管穿孔)。
2005/04/14
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世界的な疫学データからも減塩をすると収縮期血圧が減少することが示されている。この効果はNaClで3g/day以下で顕著です。人間の生理機構としてはNaClで3g/day以下に適応するようにセットされているためこれ以下ではNaCl調節異状をきたさずNaCl代謝を行うことができ血圧調節(体液調節)がうまくいくのでしょう。しかし、現在の日本をはじめとする国ではこれはほとんど不可能です。1976年では日本において一日NaCl摂取量は13.7gでこれ以降減少していき1986年には11.7gまで低下しましたが、その後また増加し(ファーストフードの隆盛)、1994年には13.2gまで増加しています。その後、減塩の啓蒙が進んだためか2002年には11.4gになっているといいます。減塩は重要ですが、長い間の食塩文化を急に変えるわけにもいかず、現実的には6gを目安に減塩指導を行っています。現在の食品栄養表示ではNaClのg数表示ではなくNa表示となっています(mg/100gあるいはmg/100ml)ので注意が必要です。NaClに換算するためには:NaCl相当量(g)=Na(mg)x2.54/100であらわされます。尿中のNaを測定することで大まかな食塩摂取量を概算することができ利用されます。特に食塩感受性を示す病態はあると思われます(家族性発症の見られる場合や動脈硬化がある場合)。しかし、このような患者群のみに減塩するのではなく、社会全体で一律に減塩を目指すことが高血圧発症予防も含め重要なことです。
2005/04/13
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本態性高血圧は原因が不明な高血圧ですので根本治療はありません。生活習慣の是正によって高血圧発症は抑制される可能性があります。いろいろな生活習慣是正によっても高血圧が発症し、持続的に高血圧が見られるような場合には薬を飲んで血圧が正常化したからといって高血圧が治るわけではありません。高血圧の治療は、高血圧によってもたらされる血管・臓器合併症(動脈硬化、脳卒中、心不全、心筋梗塞、腎不全)の抑制が目的です。高血圧治療の対象は140/90mmHg以上ですが、糖尿病や腎疾患が合併する場合は130/80mmHg以上でも治療の対象になります。高齢者では140/90mmHg以上であれば治療の対象になります。治療目標は高齢者140/90mmHg、若年・中年者では130/85mmHg、糖尿病・腎障害患者では130/80mmHg以下です。これはあくまでも医師が外来血圧を基にして目指す目標値です。これらの値以下に毎回必ずコントロールしないと致死率が増すということではありません。あくまで目安です。治療法は生活習慣是正と薬物療法ですが、血圧のレベルや合併症の程度によってその選択が決まります。多くの患者さんでは生活習慣是正のみでは目標降圧レベルまでに達しないことが多く薬物療法が考慮されます。生活習慣の是正とは食塩摂取制限、野菜・果物の積極的摂取、コレステロール・飽和脂肪酸の摂取制限、適正体重の維持、アルコール摂取量の制限、運動、禁煙です。生活習慣の是正を行っても140/90mmHg以下にならない場合は降圧薬を投与することになります。高血圧緊急症は直ちに降圧薬を必要とする場合です。降圧薬は各種あります。カルシウム拮抗薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、利尿薬、ベータ受容体遮断薬、アルファ受容体遮断薬、中枢性交感神経抑制薬がそれらです。どの薬を使っても血圧は下がりますが、個体差はあります。また、合併症の存在によっては優先的に用いられてよい降圧薬もあります(たとえば糖尿病性腎症を合併した高血圧にはアンジオテンシン受容体拮抗薬が第一選択)。生活習慣の是正は重要です。そして降圧薬投与も必要になる場合が多いわけです。しかし、あくまでもこれは患者さんが気持ちよく人生をエンジョイしていただくためのものです。患者さんが不愉快になるような治療では意義が少ないといえるでしょう。患者さんもある程度は勉強していただき、納得のいく治療を医師との相互理解・協力のもとに実施してゆくのが大事です。治療を選ぶのは医師ではなく、医療費を支払う患者さんです。医師は専門的知識を駆使して患者さんの高血圧治療・管理に対しアドバイスしているのです。高血圧患者は未治療も含めて3千万人いるとも言われています。社会的背景、家族的背景、生活習慣などや病態を考えると、私は高血圧患者はこれら3千万通りの個別の治療があると思って「治療」に望のぞんでいます。
2005/04/12
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高血圧治療は原因によりますが、90%はいわゆる生活習慣病の一つとして発現してくるタイプの本態性高血圧です。残りの10%は原因がわかっているもので、たとえば副腎腫瘍からの昇圧ホルモン分泌によるものであれば腫瘍摘出術により高血圧治療をします。遺伝子異状による高血圧は原因がわかっても根本治療はできませんので、原因に基づいた高血圧病態(食塩感受性など)を考慮した薬物治療になります。本態性高血圧の治療については高血圧の重症度分類に基づいた生活習慣の是正が原則です。それでも困難な場合に薬物治療の適応になります。これからのグログ日記において、日本高血圧学会がまとめた「高血圧治療ガイドライン」について解説していきたいと思います。
2005/04/11
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珍しい遺伝子異状による高血圧疾患ですが、生体調節系の面白さがわかります。生体にはACTH(脳下垂体より分泌)-コルチゾール(副腎より分泌)系というホルモン系がありACTHによりコルチゾールというホルモンが副腎から11ベータ水酸化酵素により合成分泌されます。11ベータ水酸化酵素遺伝子にはACTHに刺激される発現調節部位があります。コルチゾールには様々な作用があり、糖合成、脂肪合成、組織修復、異状免疫反応抑制作用などです。また、腎臓ではNaClの再吸収を行っています。ACTHの分泌はコルチゾールが増加すれば抑制され負の調節を受けています。このコルチゾール産生が過剰になれば腎でのNaCl再吸収が増加し高血圧が生じます。クッシング症候群という疾患がありますが、腫瘍からACTHの過剰分泌(脳下垂体腫瘍)ないしコルチゾールの過剰分泌(副腎腫瘍)に生じる高血圧性複合疾患です。NaCl再吸収にもっとも重要なホルモンがアルドステロンですが、このステロイドは副腎のアルドステロン合成酵素から生成されます。また、コルチゾールは11ベータ水酸化酵素によって生成されます。この二つの酵素の遺伝子構造はかなり近似しており、これが原因で遺伝子改変(同類遺伝子リコンビネーション)が起こり遺伝子のACTHに反応する11ベータ水酸化酵素遺伝子部分とアルドステロン合成酵素の酵素活性部分がくっ付いた遺伝子ができます。もともとのそれぞれの酵素はそのまま存在します。このようなことが起こると、ACTHによってコルチゾールのみならずアルドステロンも生成されることになりますので、ステロイド作用が強い個体が生まれることになります。そのため、食塩感受性高血圧が生じます。この場合、アルドステロン合成は、過剰な半分がACTH依存性であるためACTHを抑制すると正常のアルドステロン値に戻り血圧や電解質異常は補正されます。そしてこのACTHを抑制するために外因性にコルチゾール作用を持つステロイドを投与するわけです。ステロイド反応性アルドステロン症とは、このようにステロイド(コルチゾール、糖質コルチコイド)を投与しACTHを抑制することでアルドステロン症が改善する遺伝子疾患です。専門家でも一生のうち遭遇する機会の少ない疾患ですが、知識としては興味深い疾患です。私は個発例一例と別の一家系についてこの疾患と思われる例を経験しています。しかし、遺伝子解析まで及ばず遺伝子上は確定には至っていません。
2005/04/07
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AMEとは日本語では「一見してミネラルコルチコイド過剰を呈する疾患」とでも訳すべき疾患です。しかし、生体内(血中)ミネラルコルチコイドは高くなくむしろよく調べられるミネラルコルチコイドのアルドステロンは低値である場合が多い。あたかも、ミネラコルトコイドを服用しているかのような病態です。血圧が高く、低カリウム血症を呈し、それに見合った頭痛、倦怠感、脱力発作はぼがみられます。この異常は、最近の研究で原因が明らかにされています。腎尿細管ではコルチゾールという糖質コルチコイドの分解が行われています。コルチゾールがコルチゾンという不活性ステロイドに代謝されます。この分解代謝を行っているのが11ベータ脱水酸化酵素というものです。この酵素の遺伝子異常で、酵素活性が阻害され、コルチゾールが分解されないまま腎臓の中で尿細管に留まり、コルチゾールの部分作用としてのミネラルコルチコイド作用をもたらします。そのため、あたかもアルドステロン(ミネラルコルチコイド)が作用しているかのような病態が起きるのです。常染色体劣性遺伝ですので、遺伝子異常が二つの対立遺伝子の両方にないと遺伝的には発病しません。しかし、一つの異常のみ有している方は、生まれつきコルチゾールが多めに成っているかたで、さらに11ベータ脱水酸化酵素阻害作用薬が投与されるとこのAMEと同じ病態が生じます(偽性アルドステロン症)。11ベータ脱水酸化酵素阻害作用薬とは、グリチルリチン酸を含んだ薬物で、漢方薬の甘草、肝障害治療薬のグリチロン、以前よく市販されていた仁丹、胃薬の一部の薬などがあります。AMEの治療は減塩、アルドステロン拮抗薬の投与、降圧薬投与になります。
2005/04/06
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先天性高血圧疾患に副腎性器症候群という疾患があります。これは、ステロイドホルモンの合成酵素遺伝子の異常で起こる疾患です。性ホルモンも副腎ステロイドホルモンも同じ経路で生成されるため、その経路の一つの酵素に異常があればホルモンバランスが崩れます。11ベータ水酸化酵素というステロイド合成酵素がありますが、この遺伝子異常で起こる臨床症状は幼年からの高血圧、低カリウム血性アルカローシス、女性の男性化(多毛、男性様顔貌、陰核肥大、色素沈着、無月経)、男子の早い性徴発現です、このステロイド合成酵素異常で男性ホルモンが多く作られ、またミネラルコルチコイド(食塩再吸収促進ステロイドホルモン、この場合はコルチコステロン、DOCというステロイドホルモン)も多く合成されるようになりこのようなことが起こります。また、17アルファ水酸化酵素遺伝子の異常では男性の女性化と同時に高血圧、低カリウム血症が生じます。この場合は男性ホルモンが合成されず、ミネラルコルチコイドのアルドステロンが過剰に合成されます。いずれの疾患も思春期のころの性徴の異常がきっかけで発見されることがあります。また若年性高血圧がきっかけになることもあります。性の異常はなかなか治療な難しいと思いますが、高血圧は減塩やステロイド拮抗薬などによって治療されます。また、糖質コルチコイド・ステロイドホルモンの投与も有効です(ACTHという脳下垂体ホルモンを抑制して原因の硬質ステロイドホルモンの分泌を抑制させます)。私の経験した症例は11ベータ水酸化酵素異常と思われる患者さんです。企業の陸上の選手で転勤があって受診してきました。高血圧、低カリウム血症があり、顔が男性様で、無月経とのことでした。陸上の選手としてはかなりの様で、筋肉が発達していたように思います。11ベータ水酸化酵素異常の可能性を考え婦人科に相談し確定しました。
2005/04/05
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かなり稀ではありますが遺伝子のはっきりした変異により高血圧が生じることがしられています(遺伝性高血圧)。リドル症候群、副腎性器症候群、ステロイド反応性アルドステロン症、AME、ゴードン症候群などがそれで、いずれも腎臓でのNaCl再吸収亢進によってもたらされる病態です。リドル症候群は腎臓でのNaCl再吸収の最終調節部位である皮質部集合尿細管にあるNaClチャネル遺伝子異常により、このチャネルが恒に活性化された状態になる異常です。若年にもかかわらず著明な高血圧が持続します。このチャネルが活性化されNaが再吸収されると同時にカリウム分泌が惹起されるため低カリウム血症も合併します。常染色体優性遺伝で家系内に多発します。食塩感受性高血圧症の極端な場合と考えていいように思います。治療は減塩です。あるいはこの異常チャネルを抑制する薬物治療としてのトリアムテレンという薬剤の投与ですが、この薬剤は副作用が強く現在は利用される場合がほとんどありません。臓器障害が進行しない時期に発見し、専門家による適切な降圧治療が必要です。
2005/04/04
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腎生検とは腎臓の組織を摂って染色して調べる検査法です。X線下において太めの針で腎組織を抜き取る方法や、超音波ガイド下に抜き取ってくる方法あるいは開腹手術にて腎組織を一部摂って来る方法などがあります。腎臓の組織を摂ってきて顕微鏡下に形態を観察し腎障害の部位や程度を判定します。また、免疫系の染色によって免疫因子の関与についても検討します。場合によっては、電子顕微鏡によって微細な障害を評価したりします。腎生検は糸球体腎炎ないし間質性腎炎を診断するための検査です。あるいは、腎臓の障害の原因がどうしても不明の場合、適応になることがあります。末期腎不全になってからでは遅く、腎機能が比較的良い時期に実施されます。腎機能の指標で血中クレアチニン値がありますが、これが2.0以下のレベルで実施されるのが通常です。出血の副作用がありますので患者さんが了解の上でメリットのある場合に実施します。高血圧や糖尿病でも腎障害を来たしますがこれのみでは腎生検の適応にはなりません。腎炎(悪性腎硬化症)の合併がある場合に実施されます。腎炎の場合は治療法としてステロイド剤の適応があり、その適応決定のためにも生検が必要になります。
2005/04/01
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今日は尿細管―糸球体フィードバック機構という、マニアックな話になりますが重要な腎機能調節機構について話ます。腎糸球体と尿細管は一部で解剖学的に隣接しています。この間にマクラデンサ細胞という特殊細胞があります。“腎臓の頭脳”と呼ばれている細胞です。尿細管からの情報(尿細管の中の食塩濃度)を感知して糸球体の血流量を調節しています。すなわち、尿細管の中のNaCl濃度が増加するとそれを感知して(Naトランスポーターがそれを担当する)、糸球体細動脈に指令(何らかのメデイエイター物質)をだしこれを拡張させ糸球体への血液流量を増加させる。また、逆に尿細管のNaCl濃度が高くなると糸球体への血液流量を減少させる。この機能によって、尿細管のNaClが少ないときは糸球体からのNaCl濾過量を増加させ、十分量のNaCl排泄を保とうとするのです。一方、尿細管内のNaClが多いときは、糸球体からのNaCl濾過量を減少させてNaClを体内に保持しようとするわけです。この機能(マクラデンサ機構)があるため、体内のNaClは腎臓のレベルで程よく保てるように調節されているわけです。食塩感受性高血圧ではこのマクラデンサによる尿細管―糸球体フィードバック機構が破綻していて起きることが提唱されています。すなわち、高血圧ではマクラデンサ細胞のNaCl感知力が異常をおこして(過敏になって)NaClを保持する方向に亢進しているため、食塩感受性高血圧が惹起するというものです。このマクラデンサによる尿細管―糸球体フィードバック亢進にはアンジオテンシンIIやトロンボキサンというホルモンによっても生じます。
2005/03/31
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聞きなれない言葉かもしれませんが糸球体高血圧という概念があります。腎臓は腎動脈が細くなって糸球体という血液濾過器官を形成しています。汗腺も似たような機構を形成しています。この糸球体の存在によって原尿が生成され、電解質やアミノ酸、糖代謝がその後の尿細管で行われます。高血圧をはじめとする生活習慣病が持続すると腎障害を来たすわけですが、その病巣となるのが糸球体です。糸球体に入ってくる血液の量は変化しますが一定の上限があります。その制限を越えて過剰量の血液が流入すると糸球体は緊満した状態となって物理的圧力(内圧)が増加します。これが糸球体高血圧という状態です。この物理的圧力が長く続くと糸球体は炎症を惹起して、その結果として瘢痕性に硬化していくわけです(良性腎硬化症)。動脈硬化などがない場合、糸球体へ入る動脈(輸入細動脈)が糸球体への血流量を自動的に調節して、糸球体に圧負荷がかかり過ぎないように調節します(輸入細動脈自動調節)。しかし、動脈硬化や糖尿病性血管病変など内皮障害があったり血管の肥厚性変化があるとこの自動調節能が働かなくなり、糸球体に入る血流量が多くなり圧負荷が増加し、糸球体高血圧の原因になります。このような影響によって良性腎硬化症は時間をかけて起こります。一方、免疫系の異常でおこる糸球体腎炎においても糸球体高血圧の関与が示唆されます。糸球体腎炎に犯された糸球体は急速に硬化して機能しなくなりますが、生体において腎機能として必要な血液濾過を行う必要があります。そのため残存した糸球体がその濾過の役割をすべて担わなくてはなくなり、糸球体一個一個にかかる血液濾過負荷が増加します。この場合にも糸球体高血圧が惹起します。この糸球体高血圧を是正すれば腎障害の進行が抑制される可能性があります。高血圧治療がその一つとなります。血圧を下げて、糸球体への圧負荷を低下させることが重要です。また、糸球体からの血液流出を促進して糸球体血流量を低下させることによっても是正されると思われます。糸球体からの血液流出を調節するのが輸出細動脈ですが、この動脈の収縮はアンジオテンシンIIという血管収縮ホルモンで大きく影響を受けています。このアンジオテンシンIIの作用を低下させれば糸球体からの血液流出が進み糸球体高血圧が是正されます。この意味からもアンジオテンシンII抑制を考慮した高血圧治療が有効なわけです。腎障害を伴う高血圧治療には、アンジオテンシンII抑制につながるアンジオテンシン受容体阻害薬やアンジオテンシン変換酵素阻害薬が積極的適応となる由縁です。
2005/03/30
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腎臓はいろいろなタイプの組織によって構成されています。血管、糸球体、尿細管、間質です。高血圧においては、血管、糸球体から炎症性病変が進行します。高血圧の病悩期間、血圧コントロールに応じてその進行程度が影響されます。進行がゆっくりで、末期腎不全・透析まで進行することはそれほど多くありません(糖尿病などの合併症が無ければ)。通常の高血圧で見られるのはこのタイプの腎障害で良性腎硬化症と呼びます。治療は、減塩や降圧薬治療です。一方、免疫学的異常によって糸球体に免疫反応が起きて糸球体障害が進行性に起きて末期腎不全・透析まで進行する腎障害は悪性腎硬化症とよばれます。急速進行性糸球体腎炎と呼ばれている糸球体疾患がその典型的な疾患です。腎組織をとって調べると糸球体周囲に特徴的組織異常(半月体形成)がみられることが多いです。悪性高血圧を来たす疾患でもあります。尿検査で、蛋白尿、血尿、多彩な円柱(尿成分、細胞の集塊)も観察され、著明な高血圧を呈します。原因が明らかなものもあり、結節性動脈炎、SLE、ウェイゲナー肉芽腫、紫斑性腎炎などがあります。腎臓の組織をとって顕微鏡で観察し(腎生検)、糸球体障害の程度や半月体を確認し、多くはステロイド薬を使用する強力な治療が実施されます。非常に良くなるものもありますので、早期の発見が重要です。
2005/03/28
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尿中電解質検査も重要な高血圧検査の一つです。腎障害が無いなら、原則として経口摂取したNaClはすべて尿中に排泄されます。したがって、尿中ナトリウムを測定すれば(一日蓄尿すれば一番いいわけですが)摂取したNaClの量が評価されます。患者さんが減塩しているといっても主観的ですが、尿ナトリウムの測定によりどのくらいのNaClを摂っているのかおおよその評価ができてしまいます。ほかに、カリウムの測定も実施します。カリウム喪失性の内分泌性高血圧があり、その発見につながります。尿中カリウムは尿ナトリウムと関係があり、腎臓の最終尿はナトリウムとカリウムの交換系により微調節されています。すなわち、ナトリウム依存性にカリウムの分泌が行われていて、普通はナトリウム摂取が多いため尿カリウム/ナトリウムは0.3以下になっています(一日蓄尿でないと明確に評価はできませんが)。この比が0.3以上ですと、尿のカリウム分泌が多く尿細管での何らかのカリウム分泌異常が示唆されます。尿陰イオンの塩素(Cl)も測定され、体内の陰イオンの状態の指標になります。尿カルシウムの測定はカルシウム代謝異常のスクリーニングに有用です。一緒に尿リンも測定し評価します。カルシウム代謝は主要調節は骨によってなされていますが、腎臓でもカルシウム代謝調節が行われていているのです。低血圧~正常血圧がみられるある先天性脱水性疾患(ギテルマン症候群)では尿カルシウムが非常に低下しています。降圧薬のサイアザイド系利尿薬を服用すると尿カルシウム排泄が低下します。
2005/03/24
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尿検査では蛋白やアルブミンだけではなく糖や赤血球、白血球、カルシウム、電解質、剥離上皮などが測定されます。糖は糖尿病の診断のきっかけになります。腎臓の原尿(糸球体からの濾過尿)には糖が含まれていますが尿細管で再吸収されるので、最終尿に出ることは正常の場合はありません。糖尿病では原尿中の糖濾過量が多いので尿糖陽性の原因になるのはもちろんです。腎性糖尿という場合もあります。これは腎臓の尿細管の異常で原尿中の糖が再吸収されずに最終尿に糖が検出される場合です。腎性尿糖の場合は糖以外にアミノ酸尿なども合併します。妊娠時にも見られることが知られています。糖尿病でもないのに糖尿やアミノ酸尿が持続する場合は精査が必要でしょう。しかし、尿糖は多くは糖尿病、あるいはその前駆状態の耐糖能障害で一過性に見られる場合が多いと思います。赤血球も検査されます。赤血球成分のヘモグロビンを検出します。尿潜血が陽性とか表現します。また実際、赤血球が顕微鏡的に一視野何個あるかで定量します。尿潜血検査で陽性所見が多いのは尿路感染症で尿路粘膜病変があり微小出血病変部位から由来します(女性のほうが多い)。男性では前立腺肥大症で前立腺炎症部からの赤血球が由来することがあります。腎臓結石症では結石が粘膜を傷害し出血の原因になります。糸球体腎炎においても血尿は大事な所見です。尿潜血と蛋白尿を特徴とする腎炎にIgA腎症があります。膀胱炎、腎盂腎炎などでも見られます。また、持続する血尿では一回は細胞診をして尿路系の悪性疾患(癌)を念頭に検査しておいたほうがいいように思います。白血球が検出される場合は尿路感染症が考えられます。解剖学的な理由から、女性においてより頻度多く見られます。頻尿があり、尿白血球がある場合はこれを疑います。長く持続し、発熱が見られれば抗生物質投与が必要になることもあります。下部尿道のみに限局した細菌感染であれば問題ありませんが、膀胱炎、そして腎盂腎炎に上行性に感染が広がらないようにすることが大事で、脱水を避けるようにします。水分を多めに取って細菌を流しだすことがいいようです。
2005/03/23
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蛋白尿は腎障害の有用な指標です。原因が糸球体腎炎であればこれが原因で蛋白尿が生じます。また、高血圧が原因で腎糸球体に硬化性病変が生じれば蛋白尿がその結果として生じます。蛋白とはかなり大きな分子で、蛋白が糸球体から持続的に出ればかなり障害があると考えられますが、それ以前のレベルで腎障害を予測することが必要です。その指標が、蛋白よりも分子量が少ないアルブミンの定量です。典型的には糖尿病性腎症において有用な指標となっています。末期糖尿病性腎症は15-20年という糖尿病歴を経過して起きるものですが、明らかな蛋白尿が生じる前に、この微量アルブミン尿時期があります。この時期に、厳格な糖尿病性腎症治療をすれば明らかな蛋白尿を生じ腎障害が抑制される可能性があります。厳格な糖尿病性腎症治療とは厳格な血糖治療・管理と厳格な血圧管理です。糖尿病を合併し蛋白尿がある場合においては130/80mmHg以下が降圧目標となっています。ある欧米の報告では尿蛋白が1g/日以上の患者では血圧を125/75mmHg以下を目標としています。糖尿病だけではなく、高血圧においても微量アルブミン尿は心血管イベントの指標となることが報告され、糖尿病が合併しなくても微量アルブミン尿の存在は予後に影響するといわれています。この微量アルブミン尿を測定し、治療の強弱の目安にすることは、高血圧・糖尿病にとって非常に有益だと思います。本邦では高血圧のみの病名では微量アルブミン測定は保健でカバーされませんので、高血圧の臨床をしているものとしては残念に思っています。微量アルブミン尿を伴った腎障害の薬物治療の基本は、レニン・アンジオテンシン系の阻害薬であるアンジオテンシン受容体阻害薬(ないしアンジオテンシン変換酵素阻害薬)であると言い切っていいと思います。この薬物を中心にして、厳格な降圧や生活習慣の是正を行うことが有益です。
2005/03/22
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これまで高血圧について分類・区別せず話をしてきました。一般に高血圧というのはその90%以上が本態性高血圧に分類され、原因がこれといって確定しない高血圧です。本来的には原因が無いわけではなく、実際はあるのでしょうがそれが多様で一つに絞れない発症機転があると思われます。メタボリック症候群(ブログQ26,27に記載)として発症する場合などがそれに相違します。また食塩感受性、加齢、遺伝的背景、肥満などが相乗的に高血圧発症因子となっているものと思います。原因がはっきりしないため治療は考えられるあらゆる危険因子を減じることです。一方、二次性高血圧と呼ばれる高血圧分類は原因がはっきりしていて生じる高血圧のことです。副腎腫瘍から昇圧ホルモン(アルドステロンなど)がでて起きる高血圧(原発性アルドステロン症Q5;クッシング症候群Q6;褐色細胞腫Q4)、機能的腎動脈狭窄による高血圧(腎血管性高血圧Q25)、薬物による高血圧(Q8)などがそれに相当します。最も多いのは腎性高血圧というもので腎実質細胞が傷害されて生じる高血圧です。糸球体腎炎、腎間質性腎炎、糖尿病性腎炎などが先行してあって、高血圧が生じるのがこれです。二次性高血圧の50%以上は腎性高血圧であるとの記載もあります。この腎性高血圧の発見のきっかけになるのが尿蛋白の存在です(Q13)。
2005/03/18
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昨日、アスピリンは非ステロイド性抗炎薬(NSAIDs)の一つで多量の長期服用は腎機能を損なうことがあることを注意しました。しかし、一方で循環器領域で心筋梗塞予防のためアスピリンの長期服用が勧められています。しかしこの場合は少量であることが重要です。この少量ということがなぜ重要かというと、血管でのプロスタグランジン(PG)バランスを考慮してのことなのです。血管では血小板凝集抑制・抗血栓性のPGであるPGIが作られ、また血小板ではトロンボキサンというPGが生成され血栓生成性に働くことが知られています。このPGを作る鍵を担っているのがシクロオキシゲナーゼで、この阻害薬がアスピリンです。血管でのPGIとトロンボキサン生成の比率がPGI側に傾くようにできれば血栓性障害が抑制されることになります。「少量のアスピリン」がこれを現実のものとする治療なのです。よく血液を「サラサラ」にするといいますが、アスピリンはこのサラサラ状態を作り出しています。そして実際、少量アスピリン投与で心臓の冠動脈疾患である心筋梗塞の予防効果があることが世界的規模での研究で証明されています。魚油のエイコサペンタエン酸(EPA)を服用することも血管壁PGバランスを良くして心筋梗塞を予防する効果が期待できるものと思われます。高血圧を伴っている患者さんには動脈硬化も多く、また脳の梗塞性病変もみられるため少量アスピリンの服用もなされます。アスピリンには血液を固まらないようにする効果を期待していますので、逆に出血傾向が見られることが副作用であります。手術(歯科手術も)の際には1週間は術前に投与を中止します。これを怠り大出血した例が報告されていますので注意です。市販薬のバッファリンはアスピリンですので一般の方も注意が必要です。
2005/03/17
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魚油には動脈硬化を抑制するプロスタグランジン(PG)の生成機構が働くと昨日解説しました。ここでプロスタグランジン(PG)について少し触れさせていただきます。PGは細胞膜成分のアラキドン酸を基質として各種組織の細胞で特異的に生成される局所ホルモンです。腎臓の細胞ではPGE、血管内皮細胞ではPGI、血小板ではトロンボキサンと呼ばれるPGがあります。アラキドン酸からこれらPGを作るためにはいくつかのキー・ステップがあります。その一つがシクロオキシゲナーゼによるPG中間代謝産物の合成です。PGの生理作用はそれぞれの組織細胞表面にある特異的受容体を介しています。PGEの腎作用はNa利尿です。PGEが多く作られれば塩がより抜けることになります。トロンボキサンは血小板に働き血小板を凝集させ血栓形成を促します。PGIは逆に血小板凝集を抑制したり、血管を弛緩させたりして血管を保護する作用があります。腎臓のPGEを考えて見ますと、これを増加させる治療は長期的には降圧効果が期待されます。薬物としてはアンジオテンシン変換酵素阻害薬などが代表的薬物です。魚油EPA(エイコサペンタエン酸)もその類の作用が期待できるでしょう。逆に、PGEの生成を阻害する薬物は腎臓の機能を傷害する可能性があります。特に既に腎障害がある場合はPGEが腎機能の保持に重要といわれていますのでこのPGE生成の抑制は急速な腎不全をもたらす可能性があります。また、降圧薬の作用を低下させる場合もあります。その薬物が、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs,Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs)です。これはPG合成に大事だといったシクロオキシゲナーゼの阻害薬です。PGには炎症性PGや痛覚に関係するPGがあって、NSAIDsでこれらを抑制すると炎症やそれに伴う痛みが軽減しますが、腎臓のPGE生成も抑制され腎機能に障害を与えます。腎臓の悪い患者さんにNSAIDsを多量に長期投与するのは禁止されていると考えていいでしょう。このような場合は短期的に投与するのがいいでしょう。NSAIDsには降圧薬の効果を低下させることもありますが、それは腎臓のPGE生成を抑制しNaClが排泄されない分体液が体内に貯留し血圧を高めるからと思われます。脱水のときなどにもNSAIDsの使用は急激な腎不全を誘発するときがあり注意が必要です。私は、15年位前アルコール中毒で脱水を起こした患者が、近医から頭痛薬としてもらっていたジクロフェナックというNSAIDsで急性腎不全を来たした症例を経験しています。NSAIDsの投与中止により幸い腎機能は回復しましたが、発見が遅れると危険だったかもしれません。私ども腎臓・高血圧を専門にしているものはNSAIDsの投与については適応を慎重に検討し、むしろ神経質に投与を制限しています。バッファリンという「頭痛薬」がありますが、これにはアスピリンというNSAIDsが含まれていますので注意が必要です。
2005/03/16
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魚油を多く摂っている種族であるエスキモー人には比較的心血管障害が少ないとわれています。本日はこの理由について解説します。脂肪はもちろん脂肪細胞の中に脂肪滴として蓄積される脂肪(コレステロール)もあります。一方、細胞の膜を構成しているのも脂肪で、脂肪酸膜からできています。この細胞膜を構成しているのが飽和脂肪酸や不飽和脂肪酸といわれているものです。この膜は単なる壁としてあるだけではなく、細胞はこの脂肪酸を基質として利用して種々の生理活性物質を生成しています。そのうちの一つがプロスタグランジン(PGと略)と呼ばれる脂肪酸です。PGは細胞によって様々な種類があります。腎臓で生成されるPGEと呼ばれるPGや血管ではPGIと呼ばれるPG,また血小板ではトロンボキサンと呼ばれるPGが合成されています。PGEは腎臓の尿を調節する尿細管に働いてNaClの再吸収を抑制してNaの排泄を促します。PGIは血管を弛緩させたり、血小板凝集を抑制します。トロンボキサンは血小板凝集を刺激します。こういったPGの基になるのが脂肪酸です。そして腎障害や動脈硬化ではPGEの生成低下、PGIの生成低下あるいはトロンボキサンの生成亢進があると言われています。このPGのバランスを魚油に含まれた不飽和脂肪酸(EPA、エイコサペンタエン酸)が変え(PGE生成刺激、PGI生成刺激、トロンボキサン生成抑制)、腎・血管組織障害を抑制すると考えられます。またEPAには血中中性脂肪酸値も低下させる作用が知られています。健康食品にもEPAカプセルが市販されています。EPAカプセルは医薬品としても高脂血症治療薬として適応があります。EPAには直接的降圧作用は知られていませんが、腎障害を抑制し血管をしなやかに守る作用があるようで、特に中性脂肪の高い方には勧めてもいいと思っています。
2005/03/15
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高血圧の発症基盤には食塩の過剰摂取とそれに見合わないレニン・アンジオテンシン系の不完全な抑制があると私は思っていますが、この中に糖尿病発症の原因がすでに潜んでいます。すなわち食塩の過剰摂取は食塩のみの摂取過剰を意味せず、カロリーも同時に多く摂取している可能性があります。またカロリーのみ摂取するのは困難で食べれば食べるほど食塩の摂取も多くなります。たとえばフライドチキンのたぐい。その過剰なカロリーが肝臓での糖代謝や脂肪細胞の肥満をもたらし糖尿病発症をうながします。食べ物とはカロリープラス塩なのです。また、最近の研究ではレニン・アンジジオテンシン系の主要ホルモンのアンジオテンシンIIが脂肪細胞や糖代謝細胞に働いて糖の代謝障害を来たす可能性についても報告されています。一般の状態ではこのようなことは起きないでしょうが、糖尿病状態があるような場合にはアンジオテンシンIIの糖代謝への影響も無視できません。高血圧を伴った糖尿病患者へのアンジオテンシン受容体拮抗薬の投与によって、数は少ないですが糖尿病の新規発症が抑制されたという報告もあります。また、アンジオテンシン受容体阻害薬が脂肪代謝異常の原因になる脂肪細胞分化を抑制することも報告されています。アンジオテンシン受容体拮抗薬は本来降圧薬ですが、糖尿病や脂肪代謝疾患について最近検討がなされ有益な成果が報告されています。このように、高血圧と糖尿病は発症と治療の点でオーバーラップする疾患です。
2005/03/14
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ニガリは最近注目されたミネラルであることは良くご存知でしょう。ニガリとはマグネシウム塩で、豆乳を固まらせ豆腐をつくるときなどに使用されますネ。コンビなどでニガリ液が売っていますね。歯磨き粉もマグネシウムです。ダイエットのためにも有効であるといわれていますが、高血圧の分野でも降圧作用が知られています。高血圧患者で尿マグネシウム排泄が少ない者は、マグネシウム投与で降圧効果が報告されているのです。腸管でのNaClの吸収や、腎臓でのNaClの再吸収を抑制することが降圧作用をもたらしているようです。マグネシウムは「カマ」といわれる下剤としても便秘治療に用いられていますが、このミネラルは腸での栄養素やNaClなどの吸収を抑制しているようです。そのため、ダイエットにも効果があるように思われます。マグネシウムは取りすぎれば下痢をおこす可能性があると思いますが、そこまでならない程度の摂取は問題ありません。マグネシウムの低下は筋の硬直などの症状がでますが(よっぽどでないとこの症状は出ません)、高マグネシウム血症では特に症状はでません。妊産婦さんの子癇発作でマグネシウム投与の効果があるといわれています。他のミネラルとしてはカルシウムにも降圧作用があるといわれています。この場合、あくまでも硬水として経口摂取される場合です。カリウムも降圧作用がしめされています。野菜、果物などの摂取が降圧作用をもたらします。カリウムにも腎臓でのNaCl再吸収を抑制させ利尿をもたらし、また交感神経活性も抑制させ降圧させるようです。マグネシウムは熱の影響など受けません。炊飯や味噌汁に入れたり、ニガリをふりかけていろんなものを食べる習慣は高血圧治療にも好ましいでしょう。
2005/03/11
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レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系については数日前に話しました。レニンというホルモンは腎臓から分泌され、この系を通して食塩を保持する系として働いています。食塩が不足している場合にはこの系が働いて食塩を腎臓から再吸収して不足分を補うことができます。しかし、逆に多い場合はレニン分泌の抑制が不十分にしかかからず食塩が過剰な状態となって高血圧発症のもととなります。高血圧の状態でレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の抑制が不十分であれば血管作用のあるアンジオテンシンIIも抑制されておらず血管作用をもたらします。メタボリック症候群では血管内皮細胞の酸化ストレスが動脈硬化の引き金になることをいいました。このアンジオテンシンIIも血管内皮細胞に作用して酸化ストレスを引き起こすことが知られています。このように、食塩を過剰摂取すると高血圧になりますが、さらに分泌抑制不十分なレニン・アンジオテンシン系によって動脈硬化が進行することになります。糖尿病、肥満、高脂血症、喫煙などの場合においても、レニン・アンジオテンシン系の刺激(存在)が血管酸化ストレスを増悪させ動脈硬化を進行させます。レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系は食塩過剰文明ではむしろ無用な存在になっています。血管障害を抑制するために、早期からのレニン・アンジオテンシン系抑制薬(アンジオテンシン受容体阻害薬やアンジオテンシン変換酵素阻害薬)が有効と思われます。この抑制薬は高血圧への保険適応のみならず、糖尿病性腎症や心不全にも適応があるくらい心・血管・腎障害には有効なお薬です。
2005/03/10
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メタボリック(代謝)症候群とは世界的にも通用する用語です(Metabolic syndrome)。マルチプルリスクファクター(多危険因子)症候群とも呼ばれます。この症候群は最終的に動脈硬化を来たし、各種臓器不全をきたすものを包括しています。すなわちメタボリック症候群のなかには、高血圧、糖尿病、肥満、高脂血症、高尿酸血症、喫煙などが含まれます。食塩代謝の異常として発症する高血圧、糖代謝異常による糖尿病、脂肪細胞や肝臓での脂肪代謝異常としての高脂血症、アミノ酸代謝異常としての高尿酸血症、また喫煙による酸化物の生成が問題です。動脈硬化は血管を内張りしている内皮細胞の障害がきっかけで生じます。その障害に共通しているのが酸化ストレスという刺激です。これが血管内皮細胞で起きると、血管の炎症が始まります。高血圧による物理的圧力、糖尿病による高血糖や異常糖代謝産物による刺激、高脂肪血症による異常脂肪代謝産物の刺激、喫煙による酸化物の刺激によって血管内皮細胞は障害を受け、傷んだりあるいは剥がれてきます。皮膚を引っかいたようなことが起こることをイメージしてください。血管内皮細胞は、血液に面し、血流を滑らかに臓器に送り込むことが役割の一つですが、これが破綻して血液は滞りますとこの場所に血栓ができたりして血流を滞らせます。また、障害を修復させようと血液成分の白血球が遊走してきて、修復のための物質を分泌します。これによって炎症は修復されながら血管障害は進行します。白血球は血管内にさらに入り込み、さらにこの細胞は脂肪滴を溜め込みます。また、血小板が凝集したりして障害血管での動脈硬化巣の形成が進みます。このようにして動脈硬化が進行します。メタボリック症候群は動脈硬化という共通した血管障害を来たす疾患群を包括的にとらえ、総合的に治療戦略を立てようとするものです。高血圧には肥満、糖尿病などの合併は良く見られます。高血圧は血圧を指標に治療しますが、これのみにとらわれず、肥満・糖尿病の合併にも十分留意したり、予防を心がける必要があります。メタボリック症候群は嗜好物飽食文明を作り上げた人間の業病といった感があります。ヒトのサバイバルの試練です。
2005/03/09
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3) 腎動脈狭窄症で最も多い原因は動脈硬化によるものです。動脈硬化は高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満、喫煙などが相乗効果を及ぼし血管が炎症性変化をきたし、狭窄性病変が進行する疾患です。動脈硬化が心臓の冠動脈に起きれば心筋梗塞、脳血管におきれば脳梗塞を来たします。大血管(胸部、腹部)に起きると動脈瘤などの原因にもなります。腎動脈においても狭窄性病変が起こり、腎の虚血性変化として腎組織の障害やレニンという昇圧ホルモンが腎臓から分泌されます。腎機能は悪化し、高血圧が難治性となってゆくことになります。動脈硬化性変化ですので加齢とともに生じます。心臓、脳血管障害を伴う場合が多いようです。最近の高齢化に伴い、この腎動脈狭窄症多く見られるようになっています。以前なら、これが発見されずに腎機能不全となり透析になっていた例もあると思います。最近は、MRIやCTによる血管検査によってこれが発見されやすくなりました。治療は、血管カテーテルによる拡張術とステントと呼ばれる血管内拡張保持器具(非金属)の装着で、放射線科専門医師に実施していただきます。最近の症例としては76歳の女性患者さんがおりました。高血圧が持続し難治性とのことで紹介された患者さんでした。高血圧の精査中に左腎動脈狭窄症(80%狭窄)が発見されました。血圧は降圧薬にて何とかコントロールされましたが、約一年の経過観察で腎機能の軽度悪化がみられたため血管カテーテルによる血管拡張術を進めました。76歳という年齢もあり、拡張術の適応が議論あるところですが、ほかの血管系など大きな異常は無く術後の合併症も回避できるのではないかとの判断もあり拡張術を実施していただきました。拡張術はうまくいききれいに広がりました。腎機能は劇的には改善しませんが、長期的には腎保護効果が期待されます。この患者さんは発見が遅く、腎障害(腎硬化症)が進行してから治療に踏み切ったわけですが、もっと早く(10年早く)発見できていれば予後はさらにいいでしょう。動脈硬化は知らず知らずのうちに進行し、非可逆的な疾患です。「ヒトは血管とともに老いる」という言葉がありますが至言です。特に動脈硬化は、栄養豊富で清潔、医療資源のアクセスの良い文明の中での主要死亡原因である脳卒中、心筋梗塞、腎不全などの疾患基盤となります。
2005/03/08
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2)腎血管性高血圧の原因のもう一つは、大動脈炎症候群による腎動脈狭窄症です。この大動脈炎症候群は日本人の医師が当初報告して概念形成されていった疾患です。眼科医の高安という先生が大動脈炎症候群で見られる眼底変化(花冠状動脈新生)を伴い、脈の欠如する血管疾患として報告し別名「高安病」(「脈なし病」)とも言われます。血管の炎症で活動期には、発熱、血管痛を伴います。若い女性に多く発症します(私は女性患者以外経験がありません)。好発部位は頚部血管、鎖骨下動脈などです。心臓弁を巻き込むこともあります。この炎症が腎動脈にも及ぶこともあり炎症後の瘢痕性変化で狭窄が引き起こるのです。頚部動脈、鎖骨下動脈、大動脈弁の炎症後にも瘢痕性変化がみられ、頚動脈狭窄症、脈なし病、大動脈弁閉鎖不全症の原因になります。発見は若い女性に原因不明の発熱、血管痛がみられ、高血圧も合併される場合疑います。急性期にはステロイド投与にて炎症を安定化させます。急性期が過ぎ炎症後の瘢痕が安定しても高血圧が著明で腎機能の低下も懸念される場合、腎動脈狭窄部位の開放術(カテーテル術や血行再建手術)が適応になります。私も何人か外来で患者を診ています。1)28歳の女性で妊娠時発症し(高血圧、発熱、血管痛が頚部、鎖骨下動脈にあり)、その後血行再建術を実施した例。2)27歳発症の女性で頚部動脈、鎖骨下動脈に病変あり、大動脈弁閉鎖不全があり現在も心不全、高血圧にて外来通院中。3)30歳ごろ発症した女性で先の女性患者と同じ経過。4)30歳代に発症した女性で、現在68歳、頚部、鎖骨下動脈に病変あり。緑内障にて半盲目状態。5)75歳の女性で、おそらく40歳代に発症、両側腎動脈狭窄あり、高血圧と軽度腎不全にて経過中。6)30歳代に発病し、頚部動脈、鎖骨下動脈狭窄あり。クローン病(免疫性腸疾患)の合併もあり手術、人口肛門設置。などなど、この病気は後遺症(合併症)が多いのです。ステロイド剤についてもほぼ一生のみ続けることになると思います。そのための合併症(骨そ症、糖尿病)も頻発します。本疾患は厚労省特定疾患になっている疾患で国が治療費など世話をしてくれます(年一回調査書提出が必要です)。
2005/03/07
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