まいかのあーだこーだ

まいかのあーだこーだ

2024.02.08
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カテゴリ: ドラマレビュー!
わたしは知らなかったのですが、

2010年に、
いわゆる「やわらかい生活裁判」ってのがあって、
そこでは、
《原作者の完全勝訴/脚本家の完全敗訴》
…との司法判断が下されてるのね。
https://ja.wikipedia.org/wiki/絲山秋子#映画脚本を巡る訴訟

このときは、
原作の二次使用の許諾を取ったのが、
映画制作会社や脚本家でなく、出版社 (文芸春秋) だった、
…というテクニカルな面での失敗もあるのだけど、

やはり最大の判決理由は、
原作者の「著作権/著作者人格権」を重視したことだと思う。


ちなみに、この裁判は、
シナリオの雑誌掲載をめぐる争いだったのだけれど、
理屈のうえでいえば、
映画公開の中止さえも可能にするような判例だと思う。

つまり、原作者の一存さえあれば、
あらゆるメディアミックスを中止に追い込める、
…ってことではないかしら?



そこで気になるのが、
現在の東宝ミュージカル「ジョジョ」のことです。

一部では、あの騒動も、
「もしや原作者とのトラブルでは?」
なんて噂されてますが、…どうなんでしょうね。

実際のところは分からないけど、
あくまで理屈のうえでいえば、
原作者の一存で公演を中止させることは可能だと思う。



芦原妃名子だって、法的な観点からいえば、
自分の一存でドラマをやめさせることは出来たはず。
でも、小学館との信頼関係を優先させたのでしょう。

出版社とのあいだで、
二次使用や代理人にかんする契約をすることが、
一概に悪いとも言いきれませんが、
あくまで著作権や著作者人格権は原作者にあるのだから、
代理人に縛られる必要はなかったはずなのよね。

出版社は、
最終的には企業のロジックで動くだろうし、
そういう出版社を信頼しすぎると、
結果として原作者自身が苦しむことになると思う。



まあ、セクシー田中さんの問題でいえば、

表向きは味方のフリをしながら、
実際は二枚舌で原作者の権利を搾取していた、
出版社&テレビ局が悪いんだろうし、
それを慢性化させた業界全体の責任でもあろうけど、

ぶっちゃけていえば、
メディアミックスをめぐる対立というのは、
すぐれて権利上の争いなのであって、
誰が正義で誰が悪か…みたいな話ではないと思います。

今回は、
原作者の死という結果から見てるがゆえに、
どこかに犯人がいるかのごとく考えがちだけど、
ほんとうはそうではない。

この争いでは、
二次使用をする側が負けることもありうるし、
そちら側に被害者が出ることだって想定せねばならない。



もし原作者の一存で、
映画やドラマや演劇を中止させることが可能だとすれば、
それはメディアミックス産業にとって恐怖です。

原作者の多くは、
あくまで忠実な二次使用を望むかもしれませんが、
それが市場の評価に帰結するとは限らないし、

そもそも、
映画にしろ、ドラマにしろ、演劇にしろ、
「完全に忠実な二次創作」などありえないのだから。

いったい何をもって「忠実」と判断するのか。

たとえば東宝の「ジョジョ」はミュージカルですが、
原作漫画に忠実なミュージカルなんて本質的に不可能!
物語やキャラのみならず、
衣装や舞台セット、音楽や歌など、
原作漫画の世界観を壊しかねない要素は枚挙に暇がない。



相沢友子の脚本もそうだったかもしれないけど、

たとえ制作側が「それなりに忠実」なつもりでも、
原作者から見れば「ぜんぜん忠実じゃない」って判断になったり、
たとえ制作側が「最大限に忠実」なつもりでも、
原作者から見れば「まだ足りない」って判断になるかもしれない。

そういう終わりのない 「無限忠実地獄」 に翻弄されかねない。

まして、
出版社が二枚舌を使って仲介していたなら、
その齟齬は永遠に埋めようがありません。

かといって、
細かい条件までを事前に確認しようとすれば、
それはそれで、とてつもなく膨大な作業になるはずです。



従来のメディアミックスの世界で、
その合意がうやむやにされてきたのは、
ある意味で必然的なのだと思う。
うやむやにして進めるしかなかったのでしょう。

結論をいえば、
「改変OK」の原作でなければメディアミックスは不可能。
さもなくば、
「最低限ここだけは譲れない」
みたいな限定的な項目だけを列挙してもらって、
それ以外は「改変OK」と容認してもらうしかありません。

これは、二次使用の際に、
「リスペクトする気持ちがあるかどうか」
なんぞという生易しい抽象論ではありません。
そんな精神主義などクソほどの意味もありません。



何をもって「忠実」とみなすかは、
おそらく原作者の主観によってそれぞれであり、
それを客観的に判断したり規定したりはできないのです。

世間の漫画ヲタは、
「原作ファンが納得することがいちばん大事!」
などと都合よく考えてるらしいけど、
そんな話は二の次三の次のどうでもいいことであって、

法的な意味の最重要事項は、
やっぱり「原作者自身が納得するかどうか」になる。
そして、それは、
原作者によって重視するポイントが違っていて、

内容面での納得かもしれないし、
権限面での納得かもしれないし、
待遇面での納得かもしれません。

まあ、原作者といえども、
映像や演劇のプロじゃないのだし、
二次創作へ介入するにしても能力的な限界があるから、

最後はやっぱり、
「金銭的な待遇」で決着するしかないんじゃないかしら?
その意味でいうと、
もしかしたら今回の東宝ミュージカルは、
原作者による事実上の《ストライキ》の可能性もあります。



たとえば映画会社は、
Youtubeの「ファスト映画」を権利侵害だと糾弾してきたけど、
原作者から見れば、
待遇面で折り合わない映画会社の二次創作は、
ファスト映画と大差のない権利侵害ってことになるはずです。

なお、「ジョジョ」は集英社の作品ですが、
先の「やわらかい生活裁判」の場合と同じように、
二次使用の許諾を取ったのが集英社なのか東宝なのか、
そこらへんも重要なポイントになるのかもしれません。

つまり、
仲介をする出版社が許諾をとるのではなく、
制作会社が直接原作者から許諾を取らなければ、
つねに中止に追い込まれる危険性を避けられないのでは?



もともと「ジョジョ」の荒木飛呂彦は、
メディアミックスに寛容なイメージがあるのだけど、
本当のところはどうなんでしょうね。

NHKドラマの「岸辺露伴」などは、
原作ファンも納得の出来だと言われてるけど、
あのドラマだって、
かならずしも原作に忠実なわけではありません。

とくに飯豊まりえの演じた泉京香のキャラは、
かなりドラマオリジナルの要素が強い。

あのドラマの人気は、
泉京香のキャラによるところも大きいけれど、
案外、原作者にしてみれば、
そこが「最大の不満ポイント」だった…
なんてことだって、ありえなくはないのです。



わたしは、
ドラマ版の「岸辺露伴」も、
ドラマ版の「セクシー田中さん」も、
十分に楽しんでいたわけですが、

三次元の住人 (ドラマファン) と二次元の住人 (漫画ヲタ) とでは、
まったく見え方が違ってる可能性があり、

原作ファンと原作者自身のあいだでさえ、
ぜんぜん見え方が違ってる可能性があるのです。

原作者が納得しても、
原作ファンには大不評ってこともありえるし、
その逆も十分にあり得るってこと。



そういえば、
漫画ヲタクどもは、
TBSによる「砂時計」のドラマ化を評価してたらしいけど、
文春の記事によると、じつは芦原妃名子は、
あの映像化にさえ苦慮してたらしいじゃないですか。

原作者と原作ファンの見解が一致するなんてのは幻想です。
それは原作者と出版社の利害が一致しないのと同じ。
求めるところはそれぞれに違っている。

漫画ヲタクの人たちは、
「原作に忠実に作るのが正義!」みたいに簡単に言うけど、
《二次創作の忠実性》という概念は、
きわめて主観的、かつ曖昧、かつ多様だと考えるべきです。



メディアミックス産業の未来に暗雲が立ち込めている。
二次元世界と三次元世界は、いよいよ全面戦争に入るかも。

池田理代子の「ベルばら」などは、
漫画と宝塚歌劇がどちらも大ヒットして、
メディアミックスの先駆的な成功例になった。

萩尾望都は、
宝塚ファンだったにもかかわらず、
自作の舞台化にはずっと消極的でしたが、
30年余りの交渉を経て「ポーの一族」が宝塚歌劇になった際は、
「感動で言葉になりません」と話してたから、
これも最終的には成功裏に終わってる。

漫画協会理事長の里中満智子も、
「二次創作は原作とはまた別の世界」と話してて、
わりとメディアミックスには寛容なようです。

今回の「ジョジョ」は、
宝塚と同系列の東宝ミュージカル。
東宝は舞台「千と千尋」も成功させましたが…

もしかしたら今回の「ジョジョ」ミュージカルは、
過去に例がないほどの大きな躓きになってしまうかもしれない。


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最終更新日  2024.02.09 07:09:48


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