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2009.08.21
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筒井康隆『悪と異端者』
~中公文庫、1998年~

 筒井康隆さんのエッセイ集です。いくつか印象に残ったエッセイについてメモしておきます。

 文芸家協会が永山則夫氏の入会を拒否したことに対する批判と、それにより筒井さんご自身も同会を退会された経緯や思いを綴った「異端の排除は個性の排除」「おれは逃げた」「文学者と常識」という一連のエッセイが、まず興味深いです。組織の保身、というのはあるでしょうが、しかし筒井さんの発言からは、文芸家たちにそれは許されない、というニュアンスが感じられます。自分だってまかり間違えば人を殺すかもしれないという想像力が欠如した人々について、別のエッセイでも筒井さんは書かれておられますし、また、いまからいえばもう65年も前になりますが、あの戦争に関与した作家はみな同会を退会すべきではないかといったご指摘など、深い問題提起になっています。

「コッカにカッコよさはいらない」というエッセイも、頷きながら読みました。日本は国家の威信を身につけようとふるまっているが、この国はまだ文化的にそんなことをいえる水準にはない、といいます。もちろん経済的には発展しているのでしょうが…。興味深い部分を、文字色を反転して引用しておきます。
経済繁栄のおこぼれにあずかった筈の小市民までが国家の名誉や誇りを叫ぶのではなく、それら小市民のひとりひとりが、二十一世紀までのあと十年間に、たとえば国際会議に出て、秀逸なジョークまじりのスピーチひとつもこなせ、パーティで芸術や歴史を語れる程度のセンスを身につけるべきだろう。国家の名誉や誇りはあとからついてくる筈だ。文化的教養のない『経済大国』などあり得ない。単なる『ゼニの国』だ
 …この文章は1991年に発表されていますが、はたして日本はここでいう『経済大国』になれているでしょうか。そして私自身、文化的センスもなく、勉強不足を痛感しています。

 三島由紀夫賞選評など、筒井さんが他の作家の作品について論じている部、その他読書体験に関するエッセイを集めた部などでは、筒井さんの言葉を読みながらとても勉強になると同時に、ここでもやはり自分の勉強不足を痛感します。ハイデガーをじっくり読み、自分なりに分かりやすい表現を模索する状況について記した「誰にもわかるハイデガー」では、勉強への意気込みが刺激されます(…にもかかわらず、最近西洋史の勉強が滞っています…)。

「ワープロについて」は、職場の休憩時間に読みながら、笑いがこらえられず大変でした。ワープロのとんでもない変換について書いているのですが、どれも覚えがあって楽しかったです。

 筒井さんの作品を読むのはなんだか久々ですが、安心して楽しめました。

(2009/08/19読了)





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Last updated  2009.08.21 20:38:14
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のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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