2007年11月26日
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カテゴリ: ☆九死に一笑☆
※おことわり※
このお話は僕の創作です
決して実話ではありません


正夫は小学2年生
3人きょうだいの末っ子で、上2人は姉
そのせいか体格は貧弱で、はっきりいってまるで男らしくない子供だった

夏休みもあと10日で終わり
今日は全校登校日である

担任の女性教師(この人は非常に怖い人で、同級生はこの人を怒らせないことに全神経を使っていた)は言った

「もう読書感想文を書いた人は手を挙げて!」

同級生はパラパラと手を挙げた
正夫は…下を向いたままだった

「どや!手の上がってない者は本読んでないんか!」
正夫は、次にどんなお仕置きが待っているのかと身を固くして耳を澄ませた

ところが、女教師は静かにこう言った
「まあええ、あんたら、今日図書館から本を借りて帰って、しっかり書いてこいっ!」

正夫は、まだ書いていない同級生数人とともに図書館に入った
「小公女」「大きな1年生と小さな2年生」…
同級生は読みたい本を決めそれぞれ帰って行った

正夫はなかなか借りる本が決まらなかった
はっきり言って正夫はこれまで一冊の本を通して読んだことはなく、本とはどんなものか、またどう読んでいいのか分からなかったのだ

正夫は書棚から一冊を取りだし床の上に開いた
中はカラー写真と細かい文字がびっしり並んでいた
次のページを開く
そこには、宇宙がどうして出来たかが書かれている

また別のページには人間とサルは同じ先祖で途中で別れていった様子が絵入りで書かれている

おもろい!この本、おもろすぎる
正夫は迷わずその本を借りて帰ることにした

正夫の家は、小学校から歩いて1時間位もかかる山の頂上付近にあった
正夫は、その本を水着入れのバッグにしまい、水着は濡れたまま教室に放りっぱなしで、フーフー言いながら山を登った

本を入れたでかい巾着様のバッグのヒモは、容赦なく正夫の肩に食い込んだ

くっっっ、感想文書くってほんまに大変やなあ

朝一緒に登校した姉2人は、その様子をばかばかしく思ったのかさっさと先に帰ってしまった
正夫が家に帰ると同時に、激しい雷雨が始まった
もう10分も遅ければ正夫は雷に打たれて黒こげになるか、ずぶ濡れになるかどちらかだったろう

ふーーう、お前っていう子は…
正夫が持ち帰った本を見て母の美代子は深~いため息をついた

「ほんまに誰に似たんやら」
祖母の幸乃は
「お前の父さんはもうちっと賢かったぞ」
と、情けなさそうな表情で畑仕事に戻った

しかし、正夫はそんなことは とも思っていなかった

この本は、開いたところに自分の知らないことが書いてある
こんなすごい本は見たことがない(本当はどんな本も読んだことはないのだが…)

次に開いたページに「ディーゼルエンジン」について絵入りの細かな説明が書かれていた
正夫はそれに目が釘付けになった

というのは、この夏正夫は生まれて初めて海というものを見たのだが、その行き帰りに乗ったのがディーゼルカーという列車だったのだ

正夫はこれまで列車というのは電車か、それとも蒸気機関車か2つに1つしかないと思っていた
それが、この夏電線がなくても、煙を吐かなくても走るディーゼルカーというものを知ってしまった

あの中はどうなっているのだろう
正夫はそのページを読んだが何が書かれているのかおよそ見当がつかなかった

…あかん、僕は疲れてるんや

正夫は夕方まで昼寝をし、かごの中のカブトムシにエサをやってから再びその本に食らいついた
そんなことを3日くらい繰り返し、正夫は理解した

煙を吐かなくても、電線がなくても、列車は走るんや、それで何が悪いんや!おれは肩にヒモが食い込むくらい苦労をしてこの本を持って帰ったんや!本は分からんけどおれは誰にも負けへん

正夫はその気持ちをそっくりそのまま感想文にした

二学期が始まった
何しろ読んだ本のことがまるっきり理解できていない正夫は感想文を出すのが怖かった
あの女教師がどんな剣幕で怒鳴り散らすかは容易に想像することが出来た

始業式の翌日、先生は言った
「正夫、あんたクラス代表で全校集会で発表してもらうで」

しもた!おれが悪かったんや!ろくに勉強もせんとあんな本見てええ加減な感想文かいて、きっと先生はおれに罰を当てたんや!

しかし、正夫も男である
先生に自分がひるんでいることを悟らせたくない

全校集会がやって来た
もう開き直って読むしかない

しかし、これはいじめなのだ、自分が真面目に取り組まなかった代償に読まされるんだ
正夫は懸命に自分の書いた感想文を読んだ

すると、校長先生や他の先生が初めは爆笑していたにもかかわらず、だんだん正夫の話に聞き入っているのがわかった

「発表します、読書感想文本校代表は…」



「松島正夫くん」



「題名は… 『百か事てんを読んで』


「もう、お母ちゃん、私今までこんな恥ずかしい思いをしたことはなかったわ」
姉は母に泣いて訴えた

何しろその感想文には、自宅は学校から1時間かけて上った山の頂にあること、小学2年まで海を見たことがなかったこと、感想文を書くためになんと百科事典を半日がかりで家に持ち帰ったことが書かれていたのだから…

それから正夫は毎日のようにあちこちの学校へ感想文を読みに出かけることになった


それから早、40年の歳月が過ぎた
焼酎のお湯割りを片手にブログを書きながら正夫は思う

オレってあの頃となんにも変わってないなあ
明日は、どうやって仲間の受けを狙うか!

想像してはふふーんと、にやける正夫であった





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最終更新日  2007年11月27日 06時20分50秒
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