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大江 このくだりを読んでて、思わず膝を叩きました。 オーパ! そうだ 「オーパ!」 の、あの文体なのです。
ヨーロッパの詩の歴史を見ていると、 マラルメ にしても ヴァレリー にしても、観察と分析の合体というように思います。
開高さん は例えば湯麺はおいしくて、炒麺はダメだという。「これが何故なのか、これから日をかけて観察と分析にふけりたいと思っている。」
開高さん は観察と分析ということをしようとしていた。今どきの人には少ないですよ。それがプラスの面。
それから、反対意見もあるでしょうけど、 開高さん は、小説の物語を作る才能がなかった人じゃないかと思う。
古井
際立ってあった人とは思えません。
大江
全然ないとはもちろん言いませんが、 観察の力、分析の力、文章をカラフルに書く力に比べると、嘘の物語をつくる能力において優れているとは言えなかった 。
それが、彼が一生、小説が書けない書けないと言っていた唯一の理由なんです。ぼくは、それが不思議。話してみると、いつも面白い話をどんどんする人なのに。
古井
気前よく出していくところが、結局、物語をつくるのを妨げたんじゃないかしら。
抑えながら抑えながら運んでいくということはなさらなかった人で、気性的にそれを潔しと思われなかったのでしょう。
甘い海。迷える海。大陸の地中海。漂い歩く沼。原住民や探検家や科学者たちはそれぞれの眼からさまざまな定義と名を与え、日本人移民はただひとこと「大江(たいこう)」と呼び習わした。 1989年 、思えば早すぎる生涯を閉じた 開高健 。 58歳 でしたた。今の学生さんたちは、この作家について、名前すら知らないかもしれません。
どの命名もこの河の性格の一片を正確無比にとらえて必要条件をみたしはしたけれど完全というには遠かった。おそらく今後も―いつまでかはわからないが―この河はダムや橋を拒んだように言葉を拒みつづけることだろうと思う。
ライオンという言葉ができるまでは、それは、爪と牙を持った、素早い、不安な悪霊であったが、いつからともなく、ライオンと命名されてからは、それはやっぱり爪と牙を 持った 、素早くて、おそろしい、しかし、ただの四足獣となってしまったのである。
必要にして完全な条件を満たした定義がアマゾンに与えられて不安が人間から消え、ただの大きな河となってしまうのはいつのことだろうか。
その条件はダム、橋、堤防、土手などのうちの、何だろうか。私にはわからない。しかし、いま、この無窮の展開からうける不安には歓びがひそんでいる。完璧におしひしがれて無化されたのに私は愉しい。
ナーダにしてトーダ。何もなくてすべてがあると歌うあの二つ恋歌はこの河の上でこそふさわしい のかも知れない。絶妙の暗合に感じさせられる。 (開高健「オーパ!」集英社文庫)
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