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★ 『 ゴールデンカムイ 』 野田サトル( 2014 年~)
電子書籍にて、既刊 14 巻読了。アニメ1期( 2018 年)も視聴済み。
明治末期、日露戦争終結後の北海道で、アイヌの遺した金塊を追い求める男たちの争奪戦を描いた作品。
当時の実在の有名人や犯罪者、軍隊が入り乱れて展開される闘争や人間ドラマなど、複雑怪奇なストーリーだけでなく、北海道の狩猟技術やアイヌの風俗をふんだんに紹介されており、かなり内容の濃い作品だ。
この作品の感想を書くにあたって、作者の野田サトル氏の経歴を調べて驚いた。
23 歳で上京し 10 年ほどのアシスタント生活、その間の数えられる程度の読み切り作品、そして、約1年で打ち切られたという連載作品(『スピナラマダ!』 2011 ~ 12 )という、ハッキリ言ってパッとしない作品実績を経て、この『ゴールデンカムイ』の連載・大ヒットに至ったというのだが、そうと思えない、ベテラン臭に溢れた作風だからだ。
とにかく、まず、取材力が凄い。
特にアイヌの風俗、狩猟技術などの部分は、ちょっと文献をかじった位では、とても描ききれそうにない詳しさで、確実に、物語や登場人物にリアリティを持たせる大きな要因になっている。 性急な読み手の中には退屈に感じる人もいるかもしれないが、もしもその部分がなかったら、歴史的人物をコマに使った荒唐無稽な「冒険アクション」として、そこそこは面白かったかもしれないが、大ヒットまでしたとは到底思えない。
また、画の迫力が凄い。
正直、読み始めて暫くは、「ヘタではないし背景の描き込みも手抜きがないけど、よくある劇画調の絵」という程度の印象だったのだが、この人の作画は、特にアクションになると、人物の動作も構図も非常に工夫とセンスがあり、本当に魅せられる。 勿論、目を背けたくなるような残虐なシーンも多いが、それも含めて、作者が相当、アクションシーンを楽しんで描いているのが伝わってくる。
風俗紹介の「静」と、壮絶な殺し合いという「動」の、両極端な要素が、これほどまで拮抗した作品はなかなか見ないような気がする。
そして、ストーリーやアクションの魅力をさらに上回るのが、キャラクターとユーモアだ。
正直、極論すれば、殆どの男性キャラが、揃って「変態でサイコパス」と言っても過言ではない。 勿論、脱獄囚が相当数登場するので、その連中がおかしいのは仕方ないとしても、それ以外の主要キャラも、かなり偏執狂的で灰汁の強い人物ばかりだ。 主人公の杉元ですら、女性や子供に対しては優しく紳士的だが、敵と対峙すれば、まるで殺人鬼のように慈悲もない。
普通に描けば「胸糞が悪い」で終わってしまいそうな変質者や悪役ですら、どこかユーモラスで笑える。 そして、彼らが織りなす会話や行動は、常にちょっとしたギャグに溢れている。
本筋は かなりシリアスで、敵味方が入り乱れ、誰が本当の味方か、いつ裏切られるのか分からない緊張感がありながら、読むのが辛くならないのは、多分にギャグ描写のお陰だろう。 少なくとも私は、金塊の行方や闘争の勝敗よりも、人物の日常的なやり取りの面白さが読み続ける動機になっている。
<関連日記>
花沢健吾 『 アイアムアヒーロー 』…… これでもかと描かれる 人間の醜悪さ
幸村誠 『 ヴィンランド・サガ 』…… 「単純無垢」 が招く 戦争の残酷さ
岡本健太郎 『 山賊ダイアリー リアル猟師奮闘記 』…… 今どきの 「狩猟男子」 に ギャップ萌え
ヒラマツ・ミノル 『 アサギロ ~浅葱狼~ 』…… 新撰組ファンでもなんでもないが、人物描写に引きつけられる
三浦建太郎 『 ベルセルク 』 ・・・ 「バトル漫画」 の一言では片付けられないメッセージ性
大須賀めぐみ 『 VANILLA FICTION 』 ・・・ 「尤もらしい設定」 など無くても良い場合もある
ゴールデンカムイ(1) (ヤングジャンプコミックス) [ 野田サトル ]
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