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海の中で降る「雨」マウイ島での滞在が長かったので、普段なら行けないようなポイントでもダイビングをした。マウイ島から少し離れたモロカイ島東端の岬の先に浮かぶタートル・ロックという場所だ。当時滞在していたマウイ島カパルアのコンドミニアムからも見える特徴あるペアの岩で、タートル(亀)という名前の通り、丸みのある亀の甲羅のような岩と、その先に亀の頭のように見える岩が水面に突き出ている。マウイ島からボートで一時間近くかかるが、比較的波が穏やかで、かつ潮流の条件が整えば何週間かに一度、潜りに行くこともある。2000年1月3日、ちょうどタートル・ロックに行く条件がうまくそろったようだ。やや波があったが、ザトウクジラがところどころで顔を出す海を、「広がる水平線」号に乗って、一路モロカイ島へと向かった。タートル・ロックは近くで見ると、かなり大きな岩であった。荒波に長年削られながらも、威風堂々とした態で眼前にそびえ立っていた。最初のポイントに潜ってみると、海中は魚の天国のようなところだ。チョウチョウウオやハタタテなど小さな魚や、バラクーダなどが泳ぎ、ロブスターが3匹岩陰に隠れていた。遠くの方でクジラの鳴く声が聞こえる。その後ボートの上で50分休み、タートル・ロックの別の場所へ移動して潜った。この二本目のダイビングが圧巻であった。最初は、ヨスジフエダイの群れや、岩場にたたずんでいるオトヒメエビなどを観察していたのだが、ある岩場を越えたときにガイドが上を指差した。そこには、岸壁に沿って無数のミレットシードバタフライフィッシュが乱舞していたのだ。ミレットシードとはミレット(アワやキビ)の種のこと。その種のような黒い斑点が縦に並んでいるので、このように名づけられた。ハワイ固有のチョウチョウウオだ。このポイントは、その名も「フィッシュ・レイン」と呼ばれている。チョウチョウウオやハタタテが、まるで雨のように“降る”からだ。いつの間にか、私たちはチョウチョウウオたちの群れの中にいた。どこを見ても、魚ばかり。無数の星の中を宇宙遊泳でもしているような気持ちになる。ミレットシードに混じって、チョウチョウウオ科のチョウハンも泳いでいる。英語名ではラクーン・バタフライフィッシュ。目の周りがラクーン(アライグマ)のように黒くてかわいい。ここは魚種が豊富で、キンチャクダイやスズメダイの仲間も多く観察できた。大物こそ見ることはできなかったが、小さい魚の宝庫のような、印象深いダイビングスポットだった。
2005.10.15
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クジラ2(カヤックダイビング)さすがに、ダイビング中に海中で巨大なクジラに出会ったことはない。ただ、マウイ島のそばにある有名なダイビングポイントである三日月型のモロキニ島でのダイビングが終わった直後、船上で休んでいるときに五〇メートルほど離れたところを悠然と泳ぐザトウクジラを見たことはある。もう5分ほど長くダイビングしていたら、海中で目撃できたかもしれないのに、残念であった。マウイ島カパルア湾では、一風変わったダイビングも経験した。カヤックダイビングだ。波のない静かな日にしか、実施されない。1999年12月31日。その日はガイドを含めて3人であった。一人乗りカヤックにダイビングに必要な機材をセットして、ガイドについて海に漕ぎ出す。カヤックはその日が初めてであったので、ついて行くのに結構苦労した(漕ぎ方は一応、教えてくれる)。小さな湾を抜け、そのまま海岸線に沿って北上。穏やかな大海原をカヤックで進む。やがて別の小さな入り江につくと、そこにカヤックを係留して、座ったままタンクを背負い込む。フィンやマスクを装着し、レギュレーターを加えて準備完了。カヤックの座席の部分でお尻を支点にクルッと90度回転し、そのままカヤックから海中に、バックロール(ダイビングで背中から入水する方法)で滑り込むように飛び込む。その日は、波は静かだったか、海中は少しにごっていた。すぐにハナヒゲウツボに遭遇。海亀も四匹出会った。やや遠くだったがマダラトビエイも通り過ぎていった。そのときだ、クジラの声が水中に響いた。ザトウクジラだ。声のする方向を見たが、透明度がよくないので遠くは見えない。三人でしばらく、沖の方を見つめたが、声の主の姿を見ることはできなかった。既にダイビングを始めて45分ほど経過していた。私たちはダイビングを切り上げ、カヤックが係留してある場所に引き返した。カヤックへの戻り方は、それほど難しくない。まず水中で、タンクのついたBCD(ベスト状の機材)を取り外し、カヤックに載せてくくりつける。次にカヤックに手を掛け、フィンで思いっきりキックしながら浮上し、腹ばいの格好でカヤックの座席の部分に乗り上げる。ここでお尻が座席のところにくるように体を転がして仰向けになり、再びお尻を支点にしてクルッと90度回転して、元の状態に戻る。後はマスクとフィンをはずして、カヤックにくくりつければ、それでおしまい。そして、カヤックでカパルア湾に向かって大海原を漕いでいるときだった。60~70メートルほど離れた海面にザトウクジラが現われた。なんという近さ。さきほど聞いた声の主であろうか。今度は、海を伝わってクジラの息吹が聞こえてきそうだった。大きな船の上や陸上から見ているのとは明らかに異なる親近感。大自然の中で同じ海に浮かぶ生命としての一体感。私が最もクジラに近づいたと思える瞬間であった。
2005.10.12
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クジラ(1)海でクジラを最初に見たのは、米国ボストンで暮らしていた1997年5月、ホエール・ウォッチングのツアーに参加したときだった。ボストン港から高速艇で約一時間半、コッド岬の沖にザトウクジラやセミクジラが集まる世界でも有数のポイント(ステルワーゲンバンク)があるのだ。周囲の深海から湧き上がる栄養分に富んだ深海水がプランクトンを発生させ、そのプランクトンを追って群泳性の小魚が集まる。ザトウクジラやセミクジラにとっては格好の採餌場となっている。ボストンの5月はまだまだ寒い。海上だとなおさらだ。冷たい風が吹きすさぶ中、甲板に上がって海を見つめた。そのとき、甲板に出ていた観光客の一団から歓声が上がった。その人たちが見ている方向を見ると、巨大なザトウクジラの尻尾(尾ビレ)が海中に没するところであった。すると、別の観光客の一団からも歓声が上がる。そちらの方向では、ザトウクジラがコブ状の背びれを海面に現していた。それからはもう、あちらこちらでクジラが海面から姿を現しては、やがて尾ビレを見せながら海中に潜っていくシーンが繰り広げられた。全部で20頭ぐらいいただろうか。重複してカウントしている可能性があるので、個体が何頭いたかはわからない。もっとも、この海域のクジラを研究している海洋生物学者であれば、個体数を正確に言い当てることができただろう。固体を識別する場合、彼らは尾ビレに着目する。尾ビレ裏側の黒と白の模様は、人間の指紋のように、一頭一頭それぞれ異なる。ロッキングチェアーの模様があるため「ロッカー」と名づけられたクジラなど、名前を持った人気者もいる。私はその後、1999年から2001年にかけて、ハワイ諸島マウイ島で何度もザトウクジラを見た。12月ごろから3月ごろまでの間、繁殖と子育てのため、この太平洋の真ん中にあるハワイ諸島に大挙してやってくるのだ。その数は、北太平洋に生息するザトウクジラの3分の2に当たる4000頭ほどであるとみられている。ハワイ諸島では、とくにザトウクジラが集中するマウイ島、モロカイ島、ラナイ島に囲まれた海域は、ザトウクジラのための海洋サンクチュアリに指定されている。この海域ではいかなる方法でも、こちら側からクジラの100ヤード(約90メートル)以内への接近が禁じられている(ただし、向こうからこちらにやってくる場合は、このかぎりではない)。マウイ島でこの時期、ダイビングをすると、ボートでポイントに行くまでにクジラに遭遇しないで目的地に到達するのが難しいほどだ。ボートはクジラを避けながら航行しなければない。当時、私が滞在していたマウイ島のコンドミニアムは二階建てで、二階にベッドルームがあり、モロカイ島や海が一望できた。そのベッドルームのベッドからも、ザトウクジラが潮を吹いて浮かび上がり、泳ぎ去るのを見たことがある。双眼鏡なしでも見える、海岸から100メートルも離れていない距離であった。マウイ島ではそれほど、クジラが身近に出現するのだ。(続く)
2005.10.11
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イルカ船の上からイルカを見たことは何度もあるが、ダイビング中にイルカに遭遇するケースはなかなかない。1999年11月、ハワイ諸島・ラナイ島付近でダイビングしているときに、イルカの鳴き声を水中で聞いたのが最初のチャンスだった。しかし、皆で周りを探したが、声はすれども姿は見えなかった。それから1年半後の2001年4月。モルジブ・バア環礁にある「ムサフシ・ドロップオフ」でダイビング中、初めて海中でイルカを目撃した。小さな島の壁に沿って50分ほど潜り、水深5メートルの海中で安全停止(減圧症の予防のため、浮上前に水深5メートル位のところで3~5分停止し、体内に溶け込んだ窒素を排出してからエキジットすること)をしているときだった。何気に沖の方を見ると、ちょうど私たちと同じ水深のところに巨大な物体が浮かんでいるのが視界に入ってきた。イルカだ。見た瞬間、結構大きく見えたので、最初は小型のクジラかと思ったほどだった。全部で5頭、私たちを横目で見て、くねくねと泳ぎながら沖の彼方へ消えた。ちょっと距離があったので顔の形はよくわからなかったが、私にはコビレゴンドウに見えた。だがガイドは、ハシナガイルカではないかと言っていた。ハシナガにしてはちょっと大きいなという感じがした。次にイルカを海中で見たのは、2002年12月のタヒチ・ツアモツ諸島のランギロアだ。ランギロアのダイビングは豪快で、パスを流れる強烈な潮の流れに乗ってジェットコースターのようにドリフトする。海中で流れに乗る際は、ガイドから離れたところにいると別の流れに乗ってあらぬ方角へ流されてしまうから、ガイドから半径5メートル以内の場所に集まらなくてはならない。ガイドの合図で、皆がいっせいにパスの流れに身を投じるわけだ。流れに身を任せたら、もうどうすることもできない。じたばたしても流れには逆らえないので、ひたすら流される。しかも、かなりのスピードだ。イルカはその移動中に現われた。私が遠くを見ていると、後方からいきなり私の頭上1メートルぐらいのところを跳び越して前方にハンドウイルカが出現した。ハンドウイルカは、水族館や映画などでもっとも頻繁に親しまれてきたイルカである。さらに2頭のハンドウイルカが私の足元から前方に現われ、計3頭になった。このような激しい流れであっても、3頭はまったく意に介さないようであった。流されて遠ざかる私たちを尻目に、3頭はパスを自由自在に泳いでいた。その二日後、今度はパスのそばにある珊瑚の棚の上でダイビングをしていると、再び3頭のハンドウイルカが現われた。私たちのすぐそばまで来て、これ見よがしに水中を駆け巡る。スピンしながら垂直に上昇したり、猛スピードで回転してみせたりする。彼らのショータイムだ。明らかに私たちを意識して遊んでいるようだった。3頭は一通りの芸を私たちに見せると、そのまま猛スピードで泳ぎ去った。少しせわしないイルカたちであった。
2005.10.08
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マンタタヒチ(正式名:フランス領ポリネシア)には、環礁でできた118ほどの島々がある。ダイバーがよく訪れるのは、ソシエテ諸島のボラボラ、モーレア、ツアモツ諸島のランギロア、マニヒ、ティケハウなどだ。前回紹介したモーレアはサメだらけ。合計12本潜ったが、レモンシャークをはじめとするサメ以外に印象に残っているのは、ドクウツボやウミガメ、クマノミぐらい。マンタも時々現われるようだが、タヒチでマンタ狙いなら、これまではボラボラだった。だがボラボラでは、近年のホテル乱立で騒音が増えたせいか、あるいは潮の流れが変わってしまったせいか、ここ半年以上、必ずと言っていいほど現われたポイント(アナウ・リーフ)に、マンタが近寄らなくなってしまった(マンタポイントのそばにホテルが立て続けにできたせいではないかと言われている)。一年前までは、このポイントに潜れば10枚ぐらい見ることも可能だったが、今ではほとんど出なくなったので、現在はどのショップも行かなくなった。ボラボラは以前も、ホテル建設で流出した土砂でトオプアのそばのダイビングポイントを一つ失っている。ボラボラはいわば、タヒチ島のように一大観光地になろうとしているようだ。タヒチ観光局はこれでいいと思っているようだが、よき自然は失われ、私たちのようなリピーターも失うことになる。マニヒやランギロアでもマンタは見ることはできる。12月のマニヒでは一回潜ると1,2枚現われた。マニヒのダイビングの醍醐味は、「パス」といって環礁の中と外洋を結ぶ海の通路のようなところで流れに乗って泳いだり、海底を横切ったりして楽しむことだ。流れは時間によって外洋に向かって流れたり、環礁の中に向かって流れたりする。そのパスを、海底をはって横切るダイビングをやっているとき、全長1・5メートルぐらいの子供のマンタが私たちに向かってやってきた。とにかく流れがきついので、私たちは岩にへばりついて流されないようにするのがやっと。マンタは私のすぐそばにいたダイバーの頭上までやってきた。そのダイバーが手を伸ばせば届くような距離だ。明らかにそのマンタは、私たちに興味をもち私たちを観察していた。強い流れに四苦八苦している私たちを横目に、しばらくそのダイバーの上でホバリングをしていた(アナログの銀塩では写真を撮っているので、いつかデジタルに変換して公開します。私が使っていたのはニコノスV)。きっと、こんな流れぐらいで泳げなくなる私たちが哀れに思えたにちがいない。マンタは私たちを置き去りにして、私たちにとっては泳ぐのが不可能な強烈な流れに逆らって、悠々と泳ぎ去ったのだった。
2005.10.07
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レモンシャーク私のダイビング暦は122本。そのうち沖縄・与那国で6本潜った以外はすべて海外での体験だ。オーストラリアのケアンズから始まって、バリ島、サイパン、テニアンと潜り、カリブ海へ移ってケイマン、タークス&カイコウズ、コロンブス島、メキシコのカンクン、コズメルへと足を運んだ。そして1999年4月にフレンチポリネシアのタヒチ・モーレア島へ。潜って驚いたのは、サメがうようよいること。一回のダイビングで20~30匹程度のサメに出会う。そのほとんどがリーフシャークのブラックチップやホワイトチップで、グレーシャークなども見受けられた。これらのサメはせいぜい大きくても2メートルだが、タヒチの海では時々、その倍の4メートルはあるレモンシャークに出会うこともある。最初に遭遇したときは、かなりの衝撃を受けた。当時私はクラブメッドのダイビング(安いパッケージがあり、12本でなんと約1万3000円=普通なら2本分の料金に相当)を頻繁に利用していたが、バディダイブといってインストラクターなしの二人一組で勝手に潜るのが基本であった。その日は中国系アメリカ人のジムと一緒に潜った。潜行すると、かなり流れがきつい。ドリフトダイブではないので、最初は流れに逆らって進むのが基本だが、どんなに先に泳ごうとしても、戻されてしまう。初心者のダイバーたちは流されてしまうので、船のロープに捕まって、海中で鈴生りとなっている。私たちは仕方なく、海底の岩をつかみながら、流れが一瞬弱まるのを待ちながらほふく前進。ようやく数十メートル前に進んだときに、今来た船の方を振り向くと、そこには巨大な一匹のサメが流れなどものともせず、海底付近を悠々と泳いでいた。周りのリーフシャークが子供に見えてしまうような堂々とした風貌。まさにタヒチの海の王のようであった。やがてもう二匹のレモンシャークが加わって、私たちの周りをぐるぐると泳ぎはじめた。絶体絶命か! だが大丈夫。レモンシャークはそれほど凶暴なサメではない。最初はまっすぐに人間に向かって来ても、向こうの方から進路を変える。当時、妊娠したレモンシャークがいたが、「レオーネちゃん」と呼ばれていた。もちろん野生の動物だから、人間に慣れているわけではない。私たちの様子を見ながら、エサではないことがわかると、再び強烈な流れなど気にせずに、巨体をくねらせながら泳ぎ去っていった。
2005.10.05
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