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自閉症17歳の居場所 個性奏でるピアノ 各地で演奏=神戸支局・五十嵐朋子
旋律に合わせて上体が揺れる。
指の動きが穏やかになると、その表情に笑みが浮かんだ。
全身で音楽を味わっているように見える。
各地のコンサートで活躍する高校生ピアニスト、
末近功也(こうや)さん(17)=神戸市西区。
自閉症や知的障害があるが、音大生が挑戦するような難曲を弾きこなす。
言葉で表現することは苦手でも、
演奏からはピアノを愛するひたむきな気持ちが伝わってきた。
昨年9月、岡山県倉敷市であった「風の音コンサート」。
障害のある人たちによるステージの最後に、末近さんが登場した。
背筋を伸ばして一礼し、深く息を吸ってショパン作曲の「英雄ポロネーズ」を弾き始める。
圧倒的な技量に会場が息をのむ。
弾き終わり、一礼する様子は、自信に満ちていた。
障害のあるピアニスト仲間とともに、月2、3回程度、
各地のコンサートに出向いている。
末近さんは兵庫県立阪神昆陽特別支援学校(伊丹市)の3年生。
2歳で自閉症と診断され、知的障害は中度という。
2歳10カ月から神戸市の療育施設に通い、
年長から一般の幼稚園に入園。
小学校、中学校では支援学級で学んだ。
現在は職業科で就職を目指して実習などに励んでいる。
音楽は、生まれたときから常に身近にあった。
母百合子さん(50)はピアノ講師。姉紗菜さん(21)もピアノを習い、
家には自動演奏機能のついたピアノがあった。
幼い末近さんは、好きな曲のテープを繰り返し聞いては喜んでいた。
だが、ピアノを習うまでには時間が必要だった。
障害の特性で、じっとしていられない。
5歳で話すより先に筆談ができるようになるなど言葉が遅く、
会話や人の指示を受けることが苦手だった。
両手の指を1、2本ずつ使って、耳で覚えた童謡などを弾く程度だった。
小学2年の時、転機が訪れた。
学校でもらった簡単な音楽教材で音符を覚え、
家の楽譜が一気に読めるようになったのだ。
ピアノを弾く百合子さんの脇に立ち、楽譜をめくるようになった。
ショパンの「スケルツォ第2番」を百合子さんが弾き始めると、
隣で一緒にメロディーを奏で、うまくいくと跳びはねた。
落ち着きが出始めた小3から、本格的なレッスンを受けるようになった。
正しい指遣いを教わると、ぐんぐん上達した。
発表会で楽しそうに弾く姿を見て、
父良浩さん(50)と百合子さんはプロを目指す学生が競う
「県学生ピアノコンクール」に小4から出場させた。
特別支援学校からの出場はただ一人。
高2の昨年、初めて銅賞を受賞した。
「自分に自信を持って生きられるように」。
両親がずっと心を配ってきたことだ。
小さい頃は多動で、
「いつ爆発するか分からない爆弾を抱えているような感じだった」
と百合子さんは振り返る。
障害の特性でこだわりが強く、見通しの立たないことが苦手。
食事や風呂の時間が遅れるとパニックになることもあった。
聴覚も敏感で、
嫌いな人混みのざわめきやデパートの館内放送の電子音で、
動けなくなったこともあった。
一方、得意なことには集中力を発揮した。
小2で2桁のかけ算が好きになり、
99×99から11×11までの式と答えを書き連ねて覚えた。
小5で世界地図をきれいに色分けして描いた。
中学生時代は楽譜を写すことに熱中した。
英語も得意で、2年前には英検3級に合格。
パソコン検定にも複数合格した。
今、百合子さんは「いろいろな人が支えてくれた」と思い返す。
小学生の頃、末近さんが帰り道で動けなくなっていると、同じ学校の子が電話をくれた。
紗菜さんの友人は、障害を理解し一緒に遊んでくれた。
末近さんのピアノへの取り組みには特徴がある。
練習は1日約1時間半と多くない。
最初から最後まで弾き通したいというこだわりがあるため、
指の運びの難しい部分だけというやり方はしない。
それでも、たいていの曲は1週間から10日もすれば弾けるという。
暗譜も早く、演奏に10分以上かかるような長い曲でも、
弾けるようになった頃には覚えている。
両親は「もともと素早い動作が得意で、足も速い。
時間の感覚が私たちとは違うのかもしれない」と不思議がる。
新曲に取りかかる前、
徹底的にCDで曲を聞き込んでピアノに向かうスタイルで、
強く曲をイメージしているようだ。
「国際障害者ピアノフェスティバル」(2013年)などに参加し、
ダウン症、自閉症、聴覚障害など、障害のあるピアニストたちとの交流が始まった。
今年3月には米国でも演奏した。
今、ピアノは末近さんにとって、社会とのつながりを作る「居場所」になっている。
良浩さんは
「苦手なことが多いことは本人も分かっているが、
演奏で拍手をもらうことが自信につながっている」
と話す。
数年前、末近さんが練習中に涙を流したことがあった。
コンクール直前、完璧の出来で1曲を弾き終えた瞬間だった。
言葉では表現できない「うまくなりたい」という思いがあふれたのか。
自分なりに葛藤や失敗を乗り越えながら、
真剣にピアノと向き合っている証しだった。
今、年間20ステージ以上をこなす。
その姿はひたむきだ。ピアノへの思いを直接聞いてみたかったが、
会話が苦手な末近さんは、私が話しかけても答えてくれない。
そこで、得意な英語で聞いてみた。
「ピアノを弾いている時、幸せですか」。
末近さんは首を何度も縦に振った。
今月、障害者差別解消法が施行された。
障害がある人たちが暮らしやすい社会をつくるため、
差別解消に努めるよう求めている。
障害は「ハンディキャップ」と言われる。
しかし、少なくとも末近さんの障害は
得意と苦手の差がはっきりしている」という個性だと実感した。
演奏から感動をもらうかわりに、
その個性を少しでも理解することが「お返し」になるのではないか。そんな思いを強くした。
■ことば
生まれつきの脳の機能障害で、発達障害の一種。コミュニケーションが難しい▽言葉が遅い▽パターン化した行動を好む−−といった特徴がある。症状は多様で、皮膚感覚や聴覚などが敏感なこともある。軽い人も含めて「自閉症スペクトラム」と呼ばれ、約100人に1人が当てはまるとされる。
[毎日新聞 http://mainichi.jp/classic/articles/20160427/ddf/012/040/011000c ]
自分の居場所ができると、それだけで安心できて、
更にまたパワーアップするのでしょうね。
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