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本書は、尹東柱の『自筆詩稿全集』に接した多胡吉郎氏が、その読後の抑えがたい感動から筆をとったものだ。要因には、東柱の「限りある生」の自覚と詩的使命感への熱い共鳴があった。
1943年夏、思想犯として逮捕・投獄され、獄中死にいたるまでの、尹東柱の生涯を-つまりは彼の思想を、詳細かつ執拗(しつよう)なデータ(ノート類や原稿下書きに及ぶ)の精確な確認作業によって検証し、真摯(しんし)に再生したのが本書である。
尹東柱と親交があった、自称「半韓」詩人の上本正夫への接触から獄死の真相にいたるまで、筆は細部へも柔軟にのびる。著者の告白する、頻繁な電話や図書館通い、また元(もと)稿との入念な対比などの努力と成果は、文章の随所に感知されよう。それらなくして、例えばオリジナル稿にふと記された落書きめいた一語(病院)から「mortal」な生の自覚や使命を読みとり、獄死の深い意味を掴(つか)み取る技(わざ)も、ありえなかった。ふんだんに収録された写真も、じつに興味深い。
今年は、声東柱の生誕百年である。長い年月を費やした多胡氏の研究に、そして東柱詩の世界に、注目してほしい。
(評者 嶋岡晨=詩人)
多胡吉郎著「生命の詩人・尹東柱」(影書房・2052円)
たご・きちろう 1956年生まれ。作家。著書『吾輩はロンドンである』など。
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