フリーページ

2017年04月26日
XML
テーマ: 本日の1冊(3711)
カテゴリ: 読書
伊藤隆著「歴史と私-史料と歩んだ歴史家の回想」(中公新書)は、素人にも読みやすく、大変面白い本です。伊藤隆氏は、東京大学名誉教授で歴史学者、自らの人生を振り返ったもので、興味深いエピソードが満載です。「まえがき」には、元号が平成になって間もない頃、いきなり宮内庁から電話があって、陛下がお話を伺いたいと仰ってますが、ご都合はいかがですか、と言われ、半信半疑で赤坂御所へ行ってみると、門衛は「どうぞ」と通してくれて、一人で3~4分歩いて御所までいくと、玄関に侍従が立って待っていた。部屋に通され、天皇と二人だけで清酒と軽いつまみを頂いて、日本の近代史について、1時間半ほど話し合った。今思い出しても夢のような気がする、などと書いているので、「なんだ、そんなことを自慢したい人なのか」と思いきや、本論に入ると、なかなかこれが、自分でも知ってるつもりの戦後史が「そうか、そういうことだったのか」と思わされる記述が次々と出てきます。



 戦後間もなく東大に入った伊藤氏は共産党の党員として活動しますが、歴史学を学ぶうちに、当時のマルクス主義者たちが主張していた発展段階説と階級闘争史観に拘っていると、どうも説明がつかない事態が生じるという疑問を抱えたため、共産党が武装闘争路線を転換した六全協を機会に共産党を離党した、という経歴の持ち主です。あるとき、中央公論の社長の発案で、司馬遼太郎を紹介するから、対談してもらって、それを記事にしたいとの申し出があり、対談したところ、司馬遼太郎は持論の「明治の日本は輝いていた。昭和に入ってからは最悪だった」を繰り返し言うものだから、伊藤氏のほうも「スイッチが入ってしまい」司馬の言うことを、一々根拠を上げて反論し、昭和の敗戦は明治以来の路線がもたらしたものだ、と説明したところ、司馬はかなりのショックを受けた様子で沈黙してしまい、それっきり対談は終わってしまった。事態に驚いた中央公論の社長は「伊藤さん、申し訳ないが、司馬さんは当社にとって貴重は財産だから、今回の対談記事はすぐに発表するわけにはいかない。当分の間、私に預からせてほしい」と言ってきたので了承したところ、その対談記事の発表は司馬遼太郎の死後になった、ということです。
 また、伊藤氏は中央公論が企画した歴史叢書の執筆にも参加しており、「革新」や「共産主義」が近代日本にどのような影響を及ぼしたか、という点に触れて、平成3年のソ連解体によってロシア型の革命が失敗したこと、日本共産党も平成12年には党大会で規約前文を改訂し、「前衛政党」「社会主義革命」という文言を削除したことなどに言及しています。
 伊藤氏の歴史学研究では、歴史に名を残した著名人でまだ生存中の人々に直接インタビューしているので、その体験から語られるエピソードが面白い。戦前の軍国主義と国家神道の理論的支柱となった平泉澄は、戦後福井県の白山神社の宮司になり、伊藤氏は研究室の助手を連れてインタビューに出かけると、平泉氏は相変わらずの権威主義で「私が指導したころの日本はだね、・・・」というような話し方をするので辟易したとか、インタビューの途中で「日本人というものは、このようでなければならない」と言って、いきなり本物の日本刀をさやから抜き出して見せる、するとそばにいた助手が「先生、ちょっとそのまま」とか言ってカメラを構える、すると平泉先生もますます図に乗ってポーズを取ったりするので「私はすっかり呆れてしまった」などと書いてます。そんな調子でインタビューを終えると、奥様が「どうもお疲れ様でした。お茶でもどうぞ」と言ってくれたのでご馳走になると「うちの主人はプロレスが好きで」と言われて、伊藤氏も驚いて「先生、プロレスのどこがそんなにいいんですか」と尋ねると、「隠忍に隠忍を重ねて、最後にパッと相手を倒す、これは日本精神に通じる」と、真面目な顔で言われて、こっちは苦笑して帰るしかなかったとのことです。
 この後、岸信介、竹下登等の総理大臣経験者へのインタビューのことも書いているので、どんなエピソードが飛び出すか、楽しみです。伊藤隆氏は、「新しい歴史教科書をつくる会」の理事をしていたこともある人ですから、当ブログのコメンテーター諸君の中にも知ってる人はいると思います。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2017年04月27日 20時00分21秒


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

キーワードサーチ

▼キーワード検索

プロフィール

佐原

佐原

コメント新着

捨てハン @ 潰れそうな新聞なら東京、朝日、毎日が挙がるかなぁ >全国紙は世論のありかを明らかにし、国…

© Rakuten Group, Inc.
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: